星訪ねの旅人

ささがき

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プロローグ

第1話 大流星雨の夜

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 空が波打っていた。
 どんよりと垂れ込めた雲が、風の動きではなくうねうねと揺れて見える。
 あちらこちでとりどりの色で発光する様は、空が青いのが当たり前の感覚の大人であれば恐ろしいと感じるものだ。
 けれど、私の目にはそれはテーマパークのアトラクションのように、色美しく映ったのだ。
 届くわけもないのにその光に手を伸ばす。
 と、その手の先、ずっと遠くの雲の中で光がはじけた。
 赤色、黄色、青色、緑色ー…花火のようなその光が弾けるたびに空を覆う色は減り、雲も吹き散らされていく。
 残ったのは、深く青色夜の空と銀色に輝く月ー

 それはのちに大流星雨の夜と呼ばれた日だった。
 天文観測上の予測にないまま突如降り注ぐ流星が街を覆う暗雲を祓った夜。
 あの美しい光を、私は忘れない。
 あの光はなんだったのか、それを追って私の旅ははじまった。
 これは星魔法の魔術師を目指す10歳の私─ミラ・ストレイフォードの、最初の旅路の物語。



 青年は走っていた。
 銀の髪が、星のきらめきをまとって流れる。
 彼の翡翠のような瞳がとらえる空には、無数の「侵食体」が蠢いている。
 雲をずっと昏くして棘を生やしたようなその漆黒の塊は、空を喰い破り、そして地上を蝕む災厄だ。
 それに取りつかれた空は軋み、色を変え、歪んでいく。
 青年は空を撫でるように腕を振る。
 すると、風とともに七色の光が湧き上がり、矢のように指先の示す空へと走っていく。
 光の矢は侵食体を次々と撃ち抜き、光を散らして消えていく。
 それはまるで七色の花火が舞い散るような光景だった。
 しかし、侵食体の数は膨大で、数を増やし、青年が全てを打ち払う端からその勢力を増し、食指を遠くへと伸ばしていく。
「待て、そっちには…街が…!」
 空の端、地平線の辺りは明るく街の灯に照らされている。
 青年はさらに光の矢を撃ち上げるが、地平へと向かう侵食体に到達する前に弱まり吹き散らされてゆく。
「届かない…!」
 あの侵食体が届けば街そのものが消えるほどの災害になる。
 そして、あの災厄が見えているのは青年だけだった。
「遠すぎる!いや、ボクが…遠くへ…あの場所へ!」
 青年は空を抱くように腕を回し、その内に七色の星の光が収束していく。
 星の距離を繋ぐ、光の魔法だ。
「開け星の門ーあの街へ!」
 青年の腕に集った光が爆発的に光量を増し、地平線の街まで一気に奔る。
 反動の重力が青年の身体を押しつぶし、青年は痛みに顔をゆがめる。
 光が弾け、視界が真っ白に染まっていきー

 ごんっ。
「…いたい。」
 頰には床の冷たい感触。
 弾みで左耳に付けたピアスの青い石がカランと音を立てた。
 窓辺のカーテンは朝の光に白く染まり、窓の外からは鳥の声が響く。
 はね飛ばした布団がベッドからずり落ちている。
 何事もなく夜が明けた、平和な朝。
 青年は悪夢を見てベッドから転げ落ちていた。
「………夢、か…」
 ぐしゃぐしゃになった銀色の髪をかき上げながら部屋の中を見回すと、傍らのサイドテーブルの上で昨夜音量を絞って聞いていた魔導通信機がぼそぼそとした音でニュースを伝えていた。
『10時のニュースをお知らせします。大流星雨の夜から6年ーその原因は未だ不明となっています…』
 青年は手を伸ばし、通信機のボタンを押して音量を下げていく。
『アストロノア魔法学院では専門機関を設置し研究を続……』
 アナウンスの声が途絶えた部屋で、青年はベッドによじ登り再び横になる。
「寝直そ……」
 ぼふん、と枕に頭を沈める。青いピアスの石がころんと頬に落ちる。
 その時、通信機が着信を告げ振動しはじめた。
 青年は振動を無視してごろごろしているが、通信が止まる様子は一向にない。
「今日はおやすみでー」
 と、今度は玄関の方からガチャガチャと音がする。
 めんどくさそうに顔だけそちらに向ける青年。
 視線の先、扉の向こうでガチャンと玄関が開く音が響いて、低いが大音量の叫びが近づいてくる。
「リルっこの野郎!今日は玖時(9時)出発って言ったろうが!何時まで寝てんだコラー!!」
 ばんっ、と扉が開き長身の男が姿を現す。
「……直接来るなら通信機鳴らす意味ある?うるさいんだけど」
「来る前に起きろ!!」
 幼馴染兼仕事仲間の男は、鬼の形相で青年――リルの布団を引っ剥がした。
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