5 / 6
雪降る夜に
しおりを挟む
真冬の夜は静かだ。
シンはむくりと起き上がる。
今晩は冷え込みがひどかった。
外では雪が降っているかもしれない。
こんな夜でも、数日前まではほとんど暖を取る手段もないままシンは外で暮らしていた。
ベッドの端にかけられたハシゴをそっと音を立てずに降りる。
二段ベッドの下を覗くと、部屋の借り主であるアロウが眠っていた。
ベッドの端に腰掛ける。
アロウは完全に寝こけていて、起きる気配もない。
かすかな呼吸の音だけが無音の夜に響いていた。
アロウは、本気でシンの面倒を見る気らしい。
それが今日明日のことなのか、10日のことなのか、あるいは数カ月先までのことなのかはわからない。
シンのこれまでの常識では、それが1日、2日のことであれ、ただで他人の世話をするというのはありえない。
なにかしらの見返り――裏通りの人間のようななんらかの欲に満ちたもの――を求められるのかと警戒して過ごしていたが、今のところそんな様子はなかった。
(――こいつホントに男か?)
ちょっと失礼なことを考えつつ、シンは困惑していた。
髪を整えたり、体を拭いたりされたので身構えても、本当に部屋に持ち込む汚れが気になっただけのようだった。
アロウの提案を真に受けるほど、シンはお人好しではない。
人に生活を預けるなんて馬鹿のすることだ。
部屋を見回すと、金になりそうなものはいくらかある。
アロウの財布の場所だって知っている。
持ち出せば当分の生活費にはなるだろう。
だけど…ふとアロウを振り返る。
無防備な寝顔を晒して眠っている若い男。
妙に達観したような変なやつだった。
ここ数日見ていてどんな振る舞いをするかはなんとなくわかってきた。
たぶん、シンが盗みを働いて逃げてもアロウは怒らない。
「そうか」と言って苦笑いするのがせいぜいだろう。
それはつまり、アロウの予想の範囲内ということだ。
「よくいる路上生活の人間の一人」と一括りにされるということでもある。
それはなんだか、ひどく癪だった。
「ぎゃふんと言わせてやりたい……」
アロウがずっと面倒をみてくれるなんてこれっぽっちも信じていない。
金目のものを盗って逃げたっていい。
でもアロウ相手ならいつだってできる。
だから、何かこいつがびっくりするようなことをしてから。
「それまでは、おとなしく付き合ってやるよ」
ふふん、と笑ってシンは布団に潜りこんだ。
翌朝。
「うわあああっ!!」
部屋にアロウの悲鳴が響き渡った。
「うるっさいなあ…何?」
寝ぼけ眼をこすりつつシンは布団から顔を出す。
「なんで人の布団に入ってるんだ、馬鹿!!」
「わあ、真っ赤になっちゃって。かーわいいー」
「ふざけんなっ叩き出すぞ!……あっ裸足で降りるな寒いだろ!」
怒っているくせにすかさず靴を差し出すアロウにシンは吹き出した。
「あんたって本当……おもしろいな!」
「はあ!?」
「さあ、今日も一日勝負だよ!」
シンは窓に近づきカーテンを開ける。
一面の銀世界が、陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
シンはむくりと起き上がる。
今晩は冷え込みがひどかった。
外では雪が降っているかもしれない。
こんな夜でも、数日前まではほとんど暖を取る手段もないままシンは外で暮らしていた。
ベッドの端にかけられたハシゴをそっと音を立てずに降りる。
二段ベッドの下を覗くと、部屋の借り主であるアロウが眠っていた。
ベッドの端に腰掛ける。
アロウは完全に寝こけていて、起きる気配もない。
かすかな呼吸の音だけが無音の夜に響いていた。
アロウは、本気でシンの面倒を見る気らしい。
それが今日明日のことなのか、10日のことなのか、あるいは数カ月先までのことなのかはわからない。
シンのこれまでの常識では、それが1日、2日のことであれ、ただで他人の世話をするというのはありえない。
なにかしらの見返り――裏通りの人間のようななんらかの欲に満ちたもの――を求められるのかと警戒して過ごしていたが、今のところそんな様子はなかった。
(――こいつホントに男か?)
ちょっと失礼なことを考えつつ、シンは困惑していた。
髪を整えたり、体を拭いたりされたので身構えても、本当に部屋に持ち込む汚れが気になっただけのようだった。
アロウの提案を真に受けるほど、シンはお人好しではない。
人に生活を預けるなんて馬鹿のすることだ。
部屋を見回すと、金になりそうなものはいくらかある。
アロウの財布の場所だって知っている。
持ち出せば当分の生活費にはなるだろう。
だけど…ふとアロウを振り返る。
無防備な寝顔を晒して眠っている若い男。
妙に達観したような変なやつだった。
ここ数日見ていてどんな振る舞いをするかはなんとなくわかってきた。
たぶん、シンが盗みを働いて逃げてもアロウは怒らない。
「そうか」と言って苦笑いするのがせいぜいだろう。
それはつまり、アロウの予想の範囲内ということだ。
「よくいる路上生活の人間の一人」と一括りにされるということでもある。
それはなんだか、ひどく癪だった。
「ぎゃふんと言わせてやりたい……」
アロウがずっと面倒をみてくれるなんてこれっぽっちも信じていない。
金目のものを盗って逃げたっていい。
でもアロウ相手ならいつだってできる。
だから、何かこいつがびっくりするようなことをしてから。
「それまでは、おとなしく付き合ってやるよ」
ふふん、と笑ってシンは布団に潜りこんだ。
翌朝。
「うわあああっ!!」
部屋にアロウの悲鳴が響き渡った。
「うるっさいなあ…何?」
寝ぼけ眼をこすりつつシンは布団から顔を出す。
「なんで人の布団に入ってるんだ、馬鹿!!」
「わあ、真っ赤になっちゃって。かーわいいー」
「ふざけんなっ叩き出すぞ!……あっ裸足で降りるな寒いだろ!」
怒っているくせにすかさず靴を差し出すアロウにシンは吹き出した。
「あんたって本当……おもしろいな!」
「はあ!?」
「さあ、今日も一日勝負だよ!」
シンは窓に近づきカーテンを開ける。
一面の銀世界が、陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
【アイテム分解】しかできないと追放された僕、実は物質の概念を書き換える最強スキルホルダーだった
黒崎隼人
ファンタジー
貴族の次男アッシュは、ゴミを素材に戻すだけのハズレスキル【アイテム分解】を授かり、家と国から追放される。しかし、そのスキルの本質は、物質や魔法、果ては世界の理すら書き換える神の力【概念再構築】だった!
辺境で出会った、心優しき元女騎士エルフや、好奇心旺盛な天才獣人少女。過去に傷を持つ彼女たちと共に、アッシュは忘れられた土地を理想の楽園へと創り変えていく。
一方、アッシュを追放した王国は謎の厄災に蝕まれ、滅亡の危機に瀕していた。彼を見捨てた幼馴染の聖女が助けを求めてきた時、アッシュが下す決断とは――。
追放から始まる、爽快な逆転建国ファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる