[完結]兄弟で飛ばされました

猫谷 一禾

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光の先の世界

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「誠に申し訳ございません!!」

聖職者統括ミラー・ガウが床に手をつかんばかりの勢いで謝罪をしてきた。それに慌てたのは周りの聖職者や樹だった。

「お耳を汚してしまい…本来なら、本日ばかり特別処置にてここも人が入れないようにするべきでした…配慮が足りず申し訳ありません」

「辞めてくださいっ頭を上げてくださいガウ殿」

「あぁ…使い様にガウ殿と呼ばれる日が来ようとは……やはり我が人生に一遍の悔いなし」

樹は頭を抱えたくなった。この世界の人の使い様に対する崇拝心は想像以上であった。王城でも既に肌で感じる事はあったが、城外ではその比ではなかった。

(まるで神にでもなった気にさせられる)

「ミラー・ガウ様、樹様を案内して頂けますか?」

「はい、ささ…此方へ」

(優雅に案内したい所だったが、とんだ邪魔だてがあったわい…使い様と下々の奴らとでは格が違うんじゃ!存在意義が違うんじゃ!ワシとてようやっと言葉を交わせたと言うに…忌々しい)

聖職者統括のトップに君臨するミラー・ガウは使い様信者の中でも盲信する者だった。そして人に対して順列をハッキリと感じる者だったのだ。聖職者という立場上表面には出さないが、差別主義者である。

(望……許してくれ…)

どうにも出来ない状況に歯がゆい思いばかり募っていく樹の心、一見穏やかそうなその表情にも時折影がさす。

(樹様…どうか、心を穏やかに…憂いを帯びたお顔も麗しいですが、あんなじゃじゃ馬な弟何ぞに気を取られないで下さい。何故、召喚されたのか…まったく…)

何故なのか聞きたいのは望の方であろうが、確実に望の存在が良くない方へと傾いてきていた。



 ┉  ┉ + ┉  ┉ + ┉  ┉ + ┉  ┉ 



その頃、望は海老が食べれない為に空腹のままで拗ねていた。

(これ、どうしろと?高級食材目の前にして食べれませんよーって?身振り手振りだけで伝えろと?そもそもアレルギーとか理解してもらえんの?ただ嫌いなだけで、我儘な奴だって認識されるだけじゃねえのか?あーーヤダヤダ……早く言葉が通じるようにしてくれよ~……この世界の奴等の勝手で俺はここにいるんだろう?マジで勘弁してくれよな~)

出された食事にほぼ手をつけないまま枕を抱えてベッドに転がっていた。わざと食事の方へ背を向けてゴロリとしている。

コンコンコン

ドアがノックされ、一拍置いた後開けられた。お辞儀をして入って来たのは食事を運んで来たメイドだった。

(うわ…来た………)

恐る恐るドアの方を見てメイドの表情を盗み見る。メイドは食事の前まで来て固まっている。望の方を見て口を開きかけ、また止まる。そのままジーッと望を見て食事を見て、を繰り返す。

(はいはい、言わんとする事はわかってますよ)

望はため息を吐いて手を振った。それを見たメイドは一瞬眉をしかめお辞儀をして片付けていった。

「はぁーーこんだけで神経使うんだけど……」

メイドが出て行ってから望は盛大にため息をつき文句を言う。

「んだよ……言葉も文化も何もかも違うのにどう伝えんだよ……兄ちゃんのせいで海老祭りなんだからどうにかしてよ…」

望の中に不満が沸々と溜まっていく。

(そもそも、俺はこれからどうなる訳?やる事ないし、何すりゃいいの?ツンケンしたメイドと友好を培うってか?いやいや無理だろ。つーか俺にやる気がないし。なんで俺からへーコラしなきゃならんのじゃ!何はともあれ事故って俺を巻き込んでんだから気遣えよ……いや……してるか……)

望はベッドに寝転んだままグルリと部屋を見回した。

(あーこれって結構な高待遇…?だよな……取り敢えず衣食住の心配は無いわけだし……でもさぁ…メンタルケア的な事もあっていいんじゃね?……まさかそれが海老とかいわねぇよな?)

「勘弁しろよ~」

訳のわからない世界に来て、怖い顔で追いかけられ捕まり、孤独と恐怖を覚えさらに今は空腹がプラスされている。イライラするなと言う方が無理だろう。

(俺って……このまま役立たずな存在で爺さんになるまでここにいんのかな?兄ちゃんはキラキラしてて、俺は………兄ちゃんも恥ずかしいとか思っちゃったりしちゃったりすんのかな?)

どんどん思考が悲しい気分に引っ張られてくる。

(この部屋から出れねぇし、怖いし、マジで爺さんになるまで飼い殺しってか、籠の中の鳥?状態なんかな?あーーー駄目だ…腹減ってるとロクな事考えね~)

しかし、やる事が圧倒的に無いのだ。自分の思考の海にハマってしまっても仕方ないのかもしれない。言葉の壁は望にとって大きな壁だった。ましてや、わからない言葉で怒鳴りながら追いかけられた事はちょっとしたトラウマになっている。

(コミュニケーションって大事なんだろうけどさ…なんで被害者の俺が頑張んなきゃいけなんだよ……もっとこうさぁ…手厚く?してくれても良いんじゃね?…………あぁ……俺は何様だ…… 一介の高校生でしかねぇだろ!自分!)

「この世界にあてられてるぞ……俺……」

うつ伏せで枕に顔を押し付ける。

「兄ちゃん……いつ戻ってくんの?」

ポツリと呟いた寂しげな独り言は、静かなだだっ広い部屋に沈む。望が如何いかに孤独を嘆こうが、寂しさに瞳を震わせようが、状況は変わらなかった。事務的に食事を運ばれては下げられる。食事のメニューは変わり食べられるものも増えたが、嫌味かと言うほど望が苦手とする食材が多かった。食事を見てはガックリと肩をおとす望。

「俺めっちゃ嫌われてんじゃん……何でだよ…」

薄々、望も感じていた。どうやら自分は歓迎されていないんじゃなかろうか、と。望も態度も褒められたものではないが、メイドの態度は相変わらず冷たいし、怖い。何より2、3日で言葉がわかるようになると言う話はどうしたのか。望がこの部屋に来てからは既に5日が過ぎていた。
その間、なんと望はほとんど放っておかれたままだった。
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