[完結]兄弟で飛ばされました

猫谷 一禾

文字の大きさ
14 / 80
光の先の世界

14

しおりを挟む
トントントン

ドアがノックされた。いつもの軽いノック音ではなく、少し重めの音だ。

(誰だ?)

音がしてからいつまでたってもドアが開かない。

「…………はい?」

仕方なく望は返事をしてみた。

バタン!

勢いよくドアが開けられ怖い表情の男が立っていた。

「っおぅっわ……ビビった……あれ?」

その男は望の見知った人だった。

(あー…この人、ここまで運んでくれた人……)

ツカツカツカっと大股で望の近くまで来てジッと顔を見られる。そして口を開きかけ、一息のむ。

「あーー……へへへ………」

望は苦笑いをして気まず気に視線を床にそらした。
入ってきた雰囲気からして何やら怒っているようだ。それを敏感に察知した望は怒られるかと思った。

(ヤベー親切にしてくれた人でも最近の俺の態度が悪いって注意しに来たのか?世話してくれてるメイドさんに顔すら向けてないからな……食事も残しまくってるし………でも怒られても何言ってるか分かんねぇから関係ないしぃ………)

もはや開き直りの心境の望。

ガシッ!

いきなり両肩を結構な力で掴まれた。そしてグイッと顔を近づけられて何か喋られた。

「□□▲▷▷●□□」

一言、発してからまたジィッと見つめられる。

「………………だから……わかんねぇって……」

すると男の顔が見る見る険しくなってグッと肩を掴まれている指に力が入った。

「痛っ」

望が痛がる素振りを見せるとハッとした男はすぐに手を退かした。

(なになになに……怖いんですけど……)

言葉で怒られなくても、雰囲気で恐怖を感じられることを望は失念していた。

ポン

頭に手を置かれ、サッと踵を返すと男は部屋を出て行ってしまった。

「へ?」

あっという間の出来事にポカーンとする望。

「え?何??」

とりあえず、怒られなかった事にホッとする望だった。




 ┉  ┉ + ┉  ┉ + ┉  ┉ + ┉  ┉ 



俺の名前はアウロン・カリー、王城務めの騎士だ。数日前に、魔術使い達が儀式の間にて使い様を召喚した。数百年に一度黒く濁った魔の力が世界に蔓延し浄化の力を持つ使い様を召喚する必要が出て来た為だった。
俺は不測の事態に備えてその儀式の間に待機していた。召喚された使い様は言い伝え通りの輝くような方だった。魂が共鳴するものが召喚されると聞いていた通りに使い様はすぐに使命を自覚されていた。
王城、街中、いや国中が使い様召喚に歓喜していた。
その翌日、俺は街の警備にあたっていたが何やら騒がしく、いつもより慎重に見回っていた。そして彼と出会ったのだ。攻撃的に見せかけて不安そうな顔をした、使い様と同じ服装をした彼に。
しかし使い様と違い言葉が通じなく驚いた。格好は正に同じなのに。俺は何とか彼を王城に連れて行きたかった。召喚された使い様も弟が心配だと言っていたから。まぁ元の世界で怪我をしていないかどうか、と言っていたんだが。彼をみた瞬間、ピンと来たんだ。
さらに驚いたことは明るいところで見た彼がボロボロだった事だ。俺は訳もわからず怒りが込み上げ何としても守らなければと感じた。
抱き上げた彼は軽くまた驚いたが、腕にしっくりきた。彼の足の裏の怪我を理由に必要以上に抱いてしまった。
とにかく彼は一生懸命だった。謙虚であって俺に伝えようと、兄である使い様と喧嘩をしている姿でさえ一生懸命だった。必死な雰囲気が可愛らしいと思ってしまったのだ。

彼と早く話したい。言葉を交わしたい。

そう願って国境近くの遠征に5日ばかり出て帰ってみればまだ彼は言葉が話せなかった。しかも、王城の中で不穏な噂を聞いた。彼が悪く言われているのだ。我儘放題、ぞんざいな態度、メイドに辛く当たる。偉そうにふんぞり返っている、とそんな訳無いだろうに。俺としたことが言葉を交わせると期待をして、そして誠の噂なのか確かめる為に、彼の部屋に尋ねるだけで軽く緊張してしまった。

ノックの音に返ってきた返事は期待していた返事ではなかった。

思わず魔術使いや王城の者に怒りを覚えて彼の華奢な肩を強く掴んでしまった。彼は儚気な雰囲気で困ったように笑ったのだ。

そして今俺は、怒りのオーラを身にまとい魔術使い達の元に向かっている。最初の話では2、3日で話せるという話では無かったのか。言葉が分からずどれだけ心細い想いをした事か。敬うべく使い様の弟君であるのだぞ!?


バターーン!!


「ヒタム・ユー!!居るかぁ!?」

「ひぃっっ!!」

アウロン・カリーは怒れるまま魔術使い達の部屋に推し入った。いつも使い様である樹にくっ付いている魔術使いの一人ヒタム・ユーを名指しで呼びながら部屋をギョロリと見回した。

「あ、あぁ……あの~……何か御用で…」

「お前っ!!望様に何故ループをかけないっ!」

「ひょぇ!望…様?あぁ…邪魔者の方の……いや、何でもない…そんな事言っていない。それにっわ、わわわ私の担当では…」

「じゃあ誰だっ!何故こんなことになっている!いや、そんな事どうでもいい。お前なら出来るな?今すぐ望様の元に行ってループをかけて言葉が分かるようにするのだ」

「え、えぇー?私がですかぁ?見習いの仕事なのに…」

「貴様……使い様より言付けられているだろう?弟君なんだぞ?何考えてるんだ?何故、ご不便をかける!?」

「だ、だから私の仕事では…」

「いい、とにかく行くぞ!」

そう言葉を切るとアウロン・カリーはヒタム・ユーを引っ張って望の部屋まで鼻息荒く連れて行った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

王子に彼女を奪われましたが、俺は異世界で竜人に愛されるみたいです?

キノア9g
BL
高校生カップル、突然の異世界召喚――…でも待っていたのは、まさかの「おまけ」扱い!? 平凡な高校生・日当悠真は、人生初の彼女・美咲とともに、ある日いきなり異世界へと召喚される。 しかし「聖女」として歓迎されたのは美咲だけで、悠真はただの「付属品」扱い。あっさりと王宮を追い出されてしまう。 「君、私のコレクションにならないかい?」 そんな声をかけてきたのは、妙にキザで掴みどころのない男――竜人・セレスティンだった。 勢いに巻き込まれるまま、悠真は彼に連れられ、竜人の国へと旅立つことになる。 「コレクション」。その奇妙な言葉の裏にあったのは、セレスティンの不器用で、けれどまっすぐな想い。 触れるたび、悠真の中で何かが静かに、確かに変わり始めていく。 裏切られ、置き去りにされた少年が、異世界で見つける――本当の居場所と、愛のかたち。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...