上 下
15 / 80
光の先の世界

15

しおりを挟む
 騎士、アウロン・カリーは魔術使いヒタム・ユーを望の部屋の前まで腕をずっと掴んだまま引っ張って来た。

「い、痛いです…痛いですってアウロンさん!」

「うるさい、黙れ、口を開くな」

(ひぇ~麗しの騎士様、アウロン・カリーが物凄く怒ってらっしゃるよ~。こんな姿見たこと無いよ~何で私なんだ……見習いがさっさとやらないから…くそー)

トントントン

ドアをノックし、今度は望の返事を待たずしてドアを開けた。ズカズカズカと部屋の中まで入っていく二人。そして驚いている望の前にヒタム・ユーを突き出し、顎をしゃくって早くやれと態度で示した騎士アウロン・カリー。
彼は巷で麗しの騎士様と呼ばれる美丈夫で、騎士の実力も認められる憧れの存在だった。いつも凛とした姿の彼が、今は怒れる騎士として魔術使いの前にいた。

(やっぱ…なんかめっちゃ怒ってない?この人)

状況がよく分かっていない望は二人の顔をキョロキョロと見てソワソワ、ハラハラする。

「×+×+×+×+×+×+×+」

ヒタム・ユーが何かブツブツと唱えると望の足元が光輝いてきた。望を中心に円形の輪が見え、文字が浮かび上がってきた。

(魔法陣!あ、ループ?とか言ったっけ?)

いっそう強く輝いた後、光の輪が上にあがり望の頭の上まで行くと輝きが弱くなりそのまま消えてしまった。

「すげ……………」

光の輪につられるように視線を上にあげていた望は思わず呟いて、光が消えると二人に視線を移した。

「の、望様!!言葉が!」

「ひょえ!?」

いきなり両手を掴まれて眼前に綺麗な顔の男がいた。キラキラとした表情で嬉しそうに望の顔を見つめてくる。
望の認識としては、この男は自分をここまで運んでくれた親切な人だ。

「え………いや………あの……」

(何でこの人こんなに感動して俺の手掴んでんの?キラキラ過ぎだろ…)

「今までご不便をお掛けして申し訳なかった。さぞ心細く大変な想いをしていましたでしょう」

不意に望はグッと込み上げてくるものがあり、目頭が熱くなった。キュッと唇を噛んで瞳から何かが流れそうになるのを耐える。

「望様……俺が側に居ればこんな想いはさせなかったのに……誰がこのような仕打ちをしたかキッチリ調べます」

(何か……やけに視線が熱い……)

望は言葉が分かることの安堵と優しい言葉に心が揺さぶられて感情のコントラールが難しかった。この5日間、確かに辛かった、寂しかった、訳もなく怖かった。不安を振り払いたいのに気分は落ちるばかり、強烈な孤独の中にいる気分で何度歯を食いしばったことか。
微かに震える肩と俯いてしまった姿を見て、ヒタム・ユーはバツの悪い思いをしていた。

「やっと、言葉が交わせますね望様。俺は…ぅんん……私は、ここ王城に在籍しています騎士、アウロン・カリーと申します。街中でお会いした者です。覚えていますでしょうか?ここまでお運びした……」

「お、お、覚えています!大丈夫。アウロン……様?えーとその節は大変お世話になりまして…」

「どうか気軽にアウロンとお呼びください望様」

「いや、えと…あの……その望様って……」

「はい、使い様の弟君でいらっしゃいますよね?当然でしょう」

「いやいや、本当、ちょっと……勘弁して下さい」

どう見ても望より年上のアウロン・カリーに恭しく様付けで呼ばれるのは居心地が悪すぎる。なにせ望は一介の高校生、しかもつい先程までは冷待遇を受けていた身。さらに自分は何にもないただの弟である。

「あのーーそろそろ私は…退室しても……」

「ちょっと待て、望様に何か言う事は無いのか?魔術使いヒタム・ユー」

「え?なにか?言う事??……私が?」

「そうだ、取り敢えず魔術使いとして謝罪をするべきだろう?言付けられていたことを実行できていなかったんだ、当然だ。職務怠慢ではないか」

「え?えぇー私が、ですかぁ?」

「はぁ?何言っているんだ?ここに魔術使いはお前しかいないではないか、ヒタム・ユー」

(え?え?え?何この人、何かむっちゃ怖いじゃん。しかもずっと手握ってるし…いつ離すの?これ?つか謝罪?職務怠慢?え……俺、意地悪されてたってこと?)

「だから、使い様の弟の言葉のループの担当は、本来なら見習いなんですよ…何で私が……さっきのはアウロンさんが私を無理矢理ここに連れて来たから…担当じゃないのにやったんですよ…アウロンさん怖いんですもん……」

(うーわ……この人空気読めない人だ。アウロンって人めっちゃ怒ってんじゃん…よく言えんな…)

「誰が担当とかは望様には関係無いだろう……見習いがチャント仕事してるかどうか把握もしていないのか?貴様ら魔術使い供は!」

「ひっ!………怖い怖い……アウロンさん怖い」

(こここ、こんなアウロンさん知らない~~)

「あ、あの…何かパワハラ見せられてるみたいで居た堪れないので、あの…大丈夫です。あの……確かにちょっとわざとじゃないかなーとか感じてたんすけど…えと……今、言葉分かったので…本当……謝罪とかされても逆にどうしようって感じだし…いいです。大丈夫です」

すっかり涙が引っ込んだ望はこの空気に耐えられなくなり言葉を発した。

(と、いうか……手を離して欲しい…)

「望様……やはり優しい方だ……」

(え?今の優しい?俺の言ったこと?優しかった??いや、遠回しに迷惑だから辞めてって事なんだけど…あれ?言葉通じるようになったんだよね?)

「なぜ王城で望様がこの様な目に合っているのか…」

(噂の出所を確かめねば……)

「えーと、話がつきましたか?ではこれで私は失礼させていただきますね…」

コソコソと部屋を出て行こうとするヒタム・ユーにアウロンがギラリと睨みつけながら言った。

「貴様ら魔術使い供とは後でキッチリ話をつけるからな、望様の寛大なお心に感謝する事だな…それから使い様にも報告がいくと思っていろ。責任の所在を明らかにするからなっ」

「ぎょえ!?」

(お、おっかね~……ん?使い様って兄ちゃんだよね……え?虐められてたって報告されんの?え?ヤダ、ヤダヤダ……恥ずかしいじゃん、小学生じゃ無いんだから辞めてーー)
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,057pt お気に入り:13

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:688pt お気に入り:305

俺を裏切り大切な人を奪った勇者達に復讐するため、俺は魔王の力を取り戻す

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:5,212pt お気に入り:91

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,810pt お気に入り:4,186

エンゲージ~Barter.2~

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

処理中です...