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緊張のまいにち
《19》
しおりを挟むかつてないほどの速さでフードを被り直し、ヘアバンドを外し首に掛ける。そのままぎゅうっとヘアバンドを握りしめ、もう片手はパーカーの裾を握りしめていた。肩に入った力が抜けない、逃げたい気持ちに逆らうように足が動かない。緋縁は生徒会長その人が近付くまで手を握りしめ俯いて息を潜める事しか出来なかった。
「エレベーター前だっつったろ」
「仕事してたんだよ」
「あ?」
緋縁は弥菜の後ろに隠れるようにして立っていたので視線に入らなかった。
会長の声がより近くで聞こえて緊張が全身に走る。
「彼に注意してたの」
なんと弥菜が体をずらして緋縁を見えるようにしてしまった。緋縁が猫だったら全身の毛が逆立っていただろう。
「…そぅ…ふぅん…随分時間掛けて優しいんだな」
「俺はいつでもこの子の様な子には優しくしてるけどね、ねぇ?緋縁くん?」
「!?……やっ…俺なんて…」
ボソボソとしか喋れない、顎が胸元にまで着いてしまいそうに小さく丸くなってしまう。
「あんま、そうは見えないけど…要らぬ注意とかしてたのか?」
「チッチッチッ…まだまだだねコウも」
「会長だろ」
「はいはい、会長様」
仲間うちでは弥菜の綺麗なもの好きは有名な事だったので、容易く想像できた。そんなことより、緋縁にとっては弥菜が発した<コウ>という単語が頭の中でグルグル回っていた。
(コウだ、コウだ、間違いじゃないんだ…)
あの部屋から逃げてきてから初めてこんな近くにコウの存在を感じていた。どこかで、実感が足りていなかった緋縁は肌がピリピリするような感覚を体験していた。
(部屋、自分の部屋に帰らなきゃ…)
「で?結局何だって?何かやらかしてたの?」
「あぁ違う違う、危ないよって注意してたの。こんな子1人で居たら襲われかねないからね。特に外部の子ってわかってない時にわーってヤラれちゃう事あるでしょ?」
「外部……こいつは外部生なのか?」
「うん、そう、えっとーたさ「あの!充分、分かりました。今度から気をつけます。失礼しますっ」
弥菜に被せるように言い切った自分を褒めたい。何としても目の前で名前を呼ばれたくない一心だった。万が一顔を見せろなんて言われたら終わる。必死でパソコンを引っ掴み丸くなった姿勢のまま、更にお辞儀をして脱兎のごとく逃げた緋縁。
「あ、逃げた」
「逃げたな…見事に……名前、何だって?」
「えと、1年A組、多咲緋縁くん外部生でA組って優秀だね~おまけに綺麗な顔してるし」
「たさき、ひより…たさき……へぇ~」
「なに?何かキモい」
「いや、偶然の確率って運命っていうのか?」
「…はぁあ?…頭、何か湧いたぁ?ちょっと離れてくれない」
弥菜は皇輝を手でしっしっと払っている。皇輝は逃げて行った緋縁の後ろ姿をじっと見ていた。この一週間、1年の行動範囲ばかり見回りに参加していた。そんなめんどくさい事は今まで言い訳を並べ立ててやらなかったが、今回に限って率先して見回っていた。そのお陰で手がかりが掴めたかもしれない、満足気で渋い顔の弥菜を見る。
(ヤバいヤバいヤバい!ヤバかった、近かった、マズかった…怖かった~)
階段を駆け上がり
走って自分の部屋、312号室に飛び込んで鍵を閉めた。
(グッジョブ俺。良くやった…見られなかった)
はぁっとひと息ついて個室に入る。完全に油断していた自分が悪い。慣れとは怖いものだ、大丈夫なんかじゃなかった。この階でも2年は来ることがあるのだ。絶対なんて無い、あの声を近くで聞いて一瞬にしてあの時に戻ったと錯覚してしまいそうだった。
(やっぱり、必要最低限の行動じゃないと安全じゃないんだ。……びっくりした。……完全に不意打ちだったよ~…)
緋縁は自分の甘さに唇を噛み締めた。
エレベーターに乗り込む2人、訝しげに生徒会長を見上げる儚げな美人、書記の弥菜。
「…ねぇ、最近会長の行動変じゃない?」
「そうか?」
「何か…怪しい。自覚ある?」
エレベーターの箱の中、完全に密室状態で弥菜が校内の姿では無く、夜の雰囲気を出す。
「最近までずっと荒れてた総長サンがちょっと大人しくなったと思ったら、今度は機嫌が良くなるんだ?どういう風の吹き回しなわけ?」
「お前、俺に興味なんて無いんだろ?ほっとけ」
「そうしたいけどさぁ…俺も幹部なんてやってるもんでね~色んな噂やら訴えやら聞こえてくるんですよねー」
いつもの弥菜の嫌味っぽい言い方だ。
「ねぇコウ、さっきの子気になってたでしょ。なんかあるの?」
「…………」
「もぅ無言って答えだよ。そっかー…彼がねぇ」
「なんだよ、俺は何も言ってない」
「はいはい、随分とご執心だったからねぇ総長サンは。まぁ…訳わかんなかったけど、彼なら納得」
「だから、俺は何も言ってない」
「うんうん、分かった分かった」
「っち…やな奴」
「いいの?逃げてっちゃったけど」
「まだ確認してない」
「余裕じゃーん」
「ゆっくりやるんだよ、じっくりと」
「うへっ…緋縁くん、ご愁傷さま~」
緋縁の知らぬ所で次々と会話が進んで確証がされていく、所詮同じ敷地に居てバレないはずがない。
皇輝と緋縁は濃密な一週間を共に過ごしたが、その実彼ら自身の内面をよく知るまでは至っていなかった。緋縁の想像以上に皇輝という人物は優秀で頭の切れる男だったのだ。しかも一度狙った獲物は絶対に捕らえるのだった。
(サキ、待ってろ…確実に行くから…ヒヨリ…か)
唇の端だけ上げて悠然と微笑む皇輝。
「うわっ…悪い顔してる…」
「ヤナ、まだ本人だと俺は確認してない。わかってるな?」
「はいはい、でもコウの野生の勘って凄まじいものがあるからね~」
弥菜はいつもの様に気だるげに笑うのであった。
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