この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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心の平和はおとずれるのか

《21》

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 学園前からバスに乗って街まで出る。土・日は外出者も多くいるため学園から街までのシャトルバスが本数多く出ていた。緋縁は大きめのバックを背負って学園から離れない限り警戒を怠らないように前髪を下ろし、メガネをして、フードを被ってうつむき加減でバスに揺られていた。

 街に出てまずは軽く買い物をするべくふらつく、そして夕方になる頃に商業施設のトイレで服を変える。万が一、唯一に会った時にすぐに分かるように黒いパーカーにキャップを被って前髪が落ちてこないようにする。その上から更にフードを被る。今日はアイツに会わないだろうが周りを警戒しながら唯一とよく遊んでいたゲームセンター、ジムに向かう。

(新しいゲームが増えてる)

入口から入るとすぐに独特の雰囲気に包まれた店内にあの頃を思い出す。

(あーこれイチが好きなキャラだ)

その時

「ヨリ?」
「!?」

後ろから声をかけられた。自分のことを<ヨリ>と呼ぶのは1人しかいない。振り向くとそこには

「イチ!」
「ヨリ~~」

唯一が半泣きで抱きついてきた。

「本物?本物のヨリ??」
「俺だってば」
「よかった~~生きてた~」

顔を覗き込み体をぺたぺた触って確認してくる唯一に緋縁は苦笑いが込み上げてくる。

「イチだって全然連絡取れなくなっちゃってさ、俺だって心配してたんだよ?」
「あぁそっかーごめんねぇ僕データが全部飛んじゃって…なんか初期化されちゃってさ…ヨリにはここで会えるから良いかって軽く考えてたらぜっんぜん会えないんだもん~」
「ごめんごめん。ちょっとね…受験勉強に本腰入れたりさ…後、体調崩してたりね…」
「え!?大丈夫なの?」

ぎょっとした顔をして改めて頭のてっぺんから足元までジロジロと見てくる唯一。

「もぅ大丈夫だよ。相変わらず心配性だねイチは」
「何言ってんの!当たり前でしょ!!」

思っていたより強めに叱られた緋縁はびっくりしてしまった。

「イチ…」
「ヨリ!僕がここまで心配してるの、なんか心当たりあるでしょ!!」
「え"」
「ヨリを見かけなくなってから、僕の所に誰が来たと思ってるの?分かるでしょ!!」

緋縁は言葉に詰まってしまった。心当たりはありすぎる程ある。

「黒龍の総長」

ギックゥ!!

「直々に、僕の前に現れたんだけど…」

ジトーっと冷たい目で見られてしまう。

「サキを知ってるだろ、今すぐ出せってすごい剣幕で言われたんだけど僕…生きた心地しなかったよ」
「え!そんなに!?…アイツゥ~~」

大切な友達になんて事をしてくれるんだとギリギリと歯を食いしばり顔を歪ませる緋縁。

「アイツ?アイツって呼べるほどの知り合いなの?どういうこと!?」
「へ?……え?……そんなこと言った?俺……」

真剣な眼差しに射貫かれ怖々誤魔化してしまう。

「ヨリ、僕にだって噂は回ってくるし、この界隈でどれだけサキが探されてたと思ってるの?」

(ひぇぇ~~マジかよ…半端なくない?)

「で、イチは大丈夫だったの?コウに会って」
「コウ?呼び捨て!?」
「あ、いやいや……いや…えとー」
「はぁ…ガードってチームいるでしょ?そこの人達が助けてくれたの。だから大丈夫だった」
「あ、そっかぁ良かった…」
「全然良くない、大丈夫じゃないよ…ガードの総長僕の高校の生徒会長だったんだから…」
「え、えぇ!?イチのところも!?」
「は?僕のところもって…なに?……え?ヨリの行ってる学校にも誰かいるの?」
「あ"……」
「ヨリ、そろそろ観念して全部話そうか」

唯一がにっこりと冷たい微笑みで迫ってくる。この半年で緋縁も少しは身長が伸びたが、それは唯一も同じだった。目線が若干近くなり迫力がましたようだ。唯一は静かに怒るので怖い。

「イチ、取り敢えず落ち着こうか…」
「僕は落ち着いてるよ。僕にはヨリに何があったか聞く権利があると思う。あの黒龍の総長様、コウさんに脅されたんだからねっ」
「ぅわー……は、はいぃ~」

唯一も緋縁と同様に幼く見えるが、しっかりとしたところがあった。緋縁は唯一に勝てたためしが無いのだった。

「えとー…まず…俺が行ってる高校って武通学園っていって、あー…そこの生徒会長ってのが…あの、黒龍の総長だったりして…」
「はぁ?え、なに?黒龍の総長とそんなに親しいの?いつの間に!?」
「あ、いやいや違う、違うのか?いや違う。親しくは無い。これはそう、本当に!だってまだ見つかってないし!」

唯一の顔がドンドン怪しげに目をすぼめて見詰めてくる。先を話せと視線で訴えてくる。

「ん~と…半年前に、ちょっと接触があってね。黒龍の総長と…んで……なんて言ったら良いか…」
「惚れられたんでしょ」

ズバッと確信を付いてきた。

「何でわかるの!?」
「わかるに決まってるじゃん…て言うかさぁ…」
「え、なに?俺まだあんまり話してないけど…」
「じれったい!コウさんはヨリが恋人だって言ってたけど!!本当なの?」
「ぎゃあ!!うわっうわっいや~~……」

緋縁は遂に出てきた単語に我慢が出来ずに両手で頭を抱えてしゃがみこんでしまった。

「情報知ってて黙ってた僕も悪いけど、いきなり黒龍の総長に俺の恋人のサキを出せって迫られた僕の身にもなってよね」
「そんなこと言ってたの?アイツ…」

緋縁の隣にしゃがみこんで諭すように話す唯一。弱々しい小さな声が緋縁からポツポツと聞こえてきた。更に緋縁の顔を見ようと覗き込んだ唯一は目を見開いた。緋縁の顔は真っ赤だった。

「ヨリ…本当に恋人になったんだ…」
「違うっ!違うんだよ~違くないけど違うのぉ」
「さっぱり分からないんだけど…ちゃんと説明して、聞いてあげるから」
「イチ~~俺イチの助言ちゃんと聞けばよかった」
「うん、だから言ってたでしょ?それで?」
「うぅ……コウに家に連れてかれて…付き合えって言われてさ…それで…なんやかんやと…付き合ってる事になった?みたいな……」
「家に行ったの!?うわーそれダメじゃん…付き合うのOKしたんでしょ?何でそんなこんがらがった話になってんの?」
「ちゃんと断ったんだよ俺は、でもさ…なんて言うか…無理やりというか…脅された?みたいな…とにかく断れない状況になって、どうしようって…コウは付き合ってるつもりだし、本当にどうしようって…だからアイツの家から逃げたって話で」
「ふーん…なんか…黒龍の総長っぽい話だね。身の回りで本当にそんな事起きるんだね…」
「イチ……」

唯一の冷静な言葉に何と説明すべきか悩んでいた緋縁は肩透かしをくらった気分だった。
いくら仲の良い唯一にも体の関係があったとは言えないし言いたくなかった。
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