この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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さらされた素顔

《31》

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 そして、緋縁にとっては運命の次の日。変わったのは髪型とメガネを掛けていないことだけだ。大したことないと自分に言い聞かせるが、登校中、周りからの視線が気になる。確実にいつもより見られている気がする。自然とうつむき加減になる緋縁だった。

(そんなに見なくてよくない?なんか、恥ずいっ)

教室に着いて少しほっとする。今日もこの後外では毎朝恒例のあの行事が行われるのだろうか、と窓の外が気になった。

(森先輩、今日もキツくあたられちゃうのかな…)

「おはよう多咲くん、ちゃんと居た」
「おはよ、来るよ、俺真面目だもん」

(もんって…狙ってやってないんだよな、これで)

井上が声をかけた時、教室の空気が動いた気がした。クラスメイトがそれとなく緋縁のことを見ていたのだ。

「おはよー!聞いたぁ?なんか1年の階がザワついてる。すっげぇ可愛い子がいたんだってー」

と、佐藤がかなりの声量で言いながら教室に入って来た。

「ぅわっ!多咲のことかよ!髪切ったんだ~……
いや~一回しか見たことなかったけど、やっぱ可愛いな」

緋縁は肘を机につき、頭を抱えて項垂れる。

「だから、俺なんて大したことないってば。もぅ俺恥ずかしくて顔上げて歩けないよ~」
「おい井上、これ本気で言ってんのか?」
「多咲くん自己評価低いから…」
「誰かちゃんと教えた方が良いんじゃないのか?」
「頑ななんだよね~何故か…」

(あの生徒会長も引っかけてるってのに)

「あのさ、多咲って中学共学だろ?しかもその顔晒しまくってたんだろ…どうだったの?」
「どうって…普通だけど?」
「モテたのかって聞いてんの!」
「えぇ……そんな、驚くほどモテてないよ。普通だって、普通」
「いや、お前の考える普通と俺の考える普通は違うはず。何せ俺達は中学から男子校だからなっ」

なぜか威張って主張する佐藤。

「本当に…告白とか…2・3人だって…」
「男子からは?共学でもこんだけ可愛かったら男子だってほっとかないでしょ~」
「……同じ学校の人からは…男子は、1人だけ。後は女子からだよ……」

ボソボソと答えにくそうに言う緋縁に井上の目がキラリと光る。

「多咲くん、その言い方は怪しいよ」
「え"俺の話はもぅよくない?」
「多咲……もう全部吐いちまいなっ」
「なんだよそのノリ…言うよ、言えばいいんだろ!違う学校の奴と大学生と知らないおっさんだよ!これでいい!?」
「ほぇ~すげぇな…流石というか」
「うるさいなっ俺の理想とは違うんだからカウントに入らないんだよ!」

(なんで男に告られた事、こんなに追求されなきゃいけないんだよ)

「多咲くん、外でそれなら…ここの学校じゃ比じゃないと思う」
「俺も俺も~」
「真面目に気を付けな」

またしても、怖い忠告を受ける緋縁だった。


 昼休み、教室の入口に普段見かけない人がいた。

「多咲ーお客さん」

声のほうを見やると緋縁は驚いた。予想外の人が立っていたのだ。パタパタとその人の前まで急いでいく。

「森先輩、どうしたんですか?」
「……初めましてぇ、僕ぅ森里葉っていいますぅ。えっと~多咲緋縁くんに、お話があって来たんだけどぉ、良いかな?」
「あ、はい」

(そうだった、面識ない事にするんだ)

「こっち、来てくれるぅ?」

比較的人が少ない場所に移動して、里葉がおもむろに話し出す。先程までのニコニコ顔ではなくなっている。

「多咲くん、何目立ってんの?」
「え、なんでって…それは…」
「僕めんどくさいことヤダって言ったよね…」
「すいません…」

悪い事をしていないが条件反射のように謝ってしまう。

「今日僕が君のところに来たのは、親衛隊としてだよ。注意してこいって言われてさ…」
「えっ注意……」

(まさか、昨日の生徒会室のことバレた!?)

「いきなりイメチェンして、生徒会の皆様の気を引くつもりじゃないのかキーって」

淡々と話す里葉、喋り方と内容が合っていない。

「え、森先輩?」
「はぁ……僕は使いパシリ。伝言言って来いってあのヒステリーが……もぉ……ほんと、めんどくさい……あぁ嫌になってくる……」
「あ、あの先輩……」
「どーしても同類の匂いがして気が緩むんだよ多咲くんは……君、このままいけば確実に制裁対象だよ。隊長、お祭り騒ぎだよ」
「あの、先輩って親衛隊ですよね…なんで」
「あぁ…もういいか。僕のこれはね、カモフラージュだから…。だから、あの集団に入ってるの。僕なりの処世術だよ。僕非力だからさ…嫌な目にあいたくないの。知ってる?生徒会の人達が嫌いなタイプ」
「是非とも聞かせてください」
「えぇ~どぅしよっかなぁ~……ってタイプ」
「先輩、切り替えが凄い……プロですね」
「僕のこれは5年目に入るからね」

ほんの少し自慢げに言う里葉。

「でもさ、最近親衛隊の中でもちょっと居心地悪くなっちゃってさ…対策を考えてるところ…って僕のことはいいから、多咲くんだよ。何か対策取らないと嫌な目に合うよ。隊長、鼻息荒かったもん」
「ヤダな……俺、どうしよう」
「キスマークの人は?とりあえず付き合っちゃえばいいじゃん。生徒会に興味ありませーんって態度に出せばいいじゃん」

(出来たらそうしたい!)

「それが…どうしても出来ないんです」
「ふーん、代役たてれば?君くらいならホイホイ誰でも付いてくるでしょ」
「いや……そういうのはちょっと……」

(それしたら…コウが黙ってなさそうだし…)

「うーん…はっきりしないね。まぁいいんだけどさ、僕は注意したし。でもね多咲くん、そんなに甘っちょろい考えだと痛い目に合うよ、本当に。きゃっきゃっ言ってる子達を束ねてる人って想像以上に狡猾だから……僕が言えるのはここまでだよ。いい方法が見つかるといいね」
「あり…が…とう…ございます」
「だいぶ、サービスしたよ僕。それじゃあ」

1人残された緋縁は心細さを感じていた。自分を取り巻く環境がジワリジワリと変化している。何かが迫っている、そう予感させた。
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