この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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新たな出会いと再会

《30》

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 皇輝は呆気にとられた。その隙に言いたいことを言い切った緋縁は生徒会室を後にして寮へと帰って行った。気分はどうにでもなれ、だった。

「緋縁が怒ってた……」
「怒ってたな、じゃ続きをやろうか。今日までにここまで終わらせたい」
「アイツら……緋縁に何言いやがった…」

緋縁に初めてキッパリと断られた。先程までの脈ありな反応から考えるとおかしい、と皇輝は自分の行動を棚に上げて怒りを全身から漂わせて3人の元に向かう。後ろでは、貴一がため息混じりで見送るしかなくなっていた。

「お前ら……」

広い生徒会室の端から端にやって来た皇輝が3人に声をかけた途端に

「会長!違います!俺のせいじゃありません!」

修次が顔の前で手を必死に振っている。こちらの3人は緋縁の行動を目で追っていた。流石に不味い怒りを伴っている皇輝を見た将が気を紛らわせようとする。

「ひよちゃん見た?可愛かったでしょ~前髪をちょっと流して、すこーしだけアシンメトリーにして、魅惑の瞳を強調させてみました~」
「将、黙れ」
「はい、すみません。黙ります」

(やばぁ…ガチのヤツだ…)

将はすごすごと後退した。

「修次、緋縁に何言った」
「何も、何も言ってません!」
「だから言ったじゃん…ペラペラ喋って良いのかって…ちょっとは後先考えなよ」
「や、ややや弥菜さんっっっ!!」
「……修次、一度こっから窓の外に落ちてみるか?助かったら許してやるよ」
「死にます!確実に死にますぅ~」
「まったく……コウも自業自得でしょ、こういう事はいつかバレるんだから……バレたくないんだったら完璧にやんなよ…詰めが甘かったね」

皇輝の黒い怒りが全身から出ているようなこの雰囲気に対峙出来るのは、実は弥菜くらいだった。一見、儚げな美人だが腹の座り具合は黒龍でも1・2を争うほどの人物だった。

「っち……うるせぇ」

弥菜に正論を言われてしまい苦虫を噛み潰したような顔になる。事、緋縁に関すれば余裕がなく焦りが出てしまう皇輝で、惚れた弱みだった。

「俺は、緋縁くんのショックのほうが大きいと思うけどなぁ会長さん。緋縁くん可哀想ー」
「喧嘩売ってんのか!?」
「事実じゃん、当たり散らさないでよ。緋縁くんは俺も気に入ってるんだから傷付けないでよ」
「はいはい、弥菜も皇輝もそこまで。ここは学校だって忘れんな。皇輝、ちょっと頭冷やしてこい」

ガァン!!

近くにあった椅子を力任せに蹴飛ばした皇輝は生徒会室を後にした。

「ガキ……」

弥菜の呟きに貴一が反応する。

「弥菜も皇輝に突っかかり過ぎだ、荒れさせてどうするんだ」
「貴一は甘いんだよ。王様じゃないんだから顔色ばっか見てらんないし、俺」
「どっちもどっちだと思います…」

修次が将にコソコソ言っている。

「修次、俺が窓から降りる手伝いしようか?」
「だからバカだっつってんの…」

にっこりと極上の笑顔で修次に近づく弥菜に口を手で押えて必死で首を振る修次だった。



 寮に帰る道、緋縁は先程までのカッカッした気持ちが幾分か落ち着いてきた。

(そうだ…昼休みに行く途中で帰って来ちゃったんだ…荷物とか教室に置きっぱなしだ…井上くんと佐藤くんにもなんにも言わないで帰って来ちゃった…心配してくれてるかな…どうしよ…連絡した方がいいかな…)

寮に差し掛かるかという場所でポケットからスマホを取り出し、数少ない連絡先から2人に先に帰ると連絡する。そして、そのまま部屋に帰る。
部屋に入り無造作に制服を脱ぎ、洗面所に行き悔し紛れに頭を蛇口の下に突っ込み思い切り水を出す。人のことをなんだと思っているのか、まるで彼の所有物か何かのように扱われた気がした。思い出したら、またムカムカと怒りがこみ上げてきた。

(くそー…イチが怒ってたの分かる気がする。勝手なんだ彼奴ら、人の話全然聞かない!結局自分の思い通りにしないと気が済まないんだ!)

水を止めて髪からボタボタと雫が垂れてくるのをそのままに、洗面台に手をつきキツく握りしめる。

(アイツが、あーゆー事すんなら抵抗してやる!)

ぎゅっと唇を噛み締めて目の前の鏡を見つめる。水に濡れた髪が顔に張り付いている。タオルを取って無造作にガシガシと拭く。髪を切られて目の前が明るくなった事でさえ腹が立つ。

(あ、メガネ…踏まれちゃったんだ…)

明日の登校が不安になる緋縁だった。



 ジージージー

午後、部屋の呼出音がなる。
ガチャリと開ければ井上がいた。手には緋縁の荷物を持っている。

「体調大丈夫?荷物持ってきた」
「ありがとう……」

緋縁は考えたが、体調が悪くて先に帰ると送ってしまった手前、このイメチェンした姿をどう説明したらいいか分からなかったので、いつものようにフードを被っていた。

「佐藤も心配してた。あいつ部活があるから」
「うん、そうだよね。わざわざごめん。あ…折角だし、部屋入る?」

緋縁は終始うつむき加減でいた。荷物を井上から受け取り、そのまま帰すのも気が引けた。本当は自分は元気なのだ。

「多咲くん…無理しなくていいよ…でも、もしかして何かあったの?」
「え"?」
「なんか……様子が変、いつもと違う」

(そうだった、井上くんって洞察力があるんだった、言い訳何にも考えてない…どうしよ…)

具合の悪いふりでもしていれば良かったと後悔していた。しかし、それだと明日学校で顔を合わすのが気まずくなる。

「あ~……えとー…なんて言ったら…」

(こうなったら…もうヤケだ!)

パサッとフードを取って、恐る恐る井上の様子を伺う。いつもクールな井上だが、今はびっくりした表情をしていた。

「これ…あーと…髪が切れちゃって…ちょっと…整えてて……教室はー…戻りずらいなぁって」

ほんの少し前までは普通にこの短さだった。しかし、あの前髪の長さで最初から知り合った井上にバッチリ顔を晒すのは恥ずかしかった。
緋縁は自分の頭を指さし気まずげに恥じらいながら、うつむき加減の上目使いでたどたどしく説明していた。

「ちょっ……と…た、多咲……それは…破壊力が」

井上は焦ってキョロキョロと周り見て

「ごめん部屋入ってもいい?」
「うん、どうぞ」

緋縁は困り顔で今だに上目使いだった。その様子を見て井上は片手で顔を覆って項垂れた。

「井上くん?」
「多咲ってさ、何者?」
「は!?え、なに?」
「なんかさ、色々引っかかるんだよね。普通じゃないって言うか…すんなり納得できないんだよ」
「って言われても……」

(確かに……説明できないことあるしなぁ)

「あ、先に言っとくけど俺はノーマルだから」
「お、おぉ」
「……ちょっと待って、その髪、校内で切ったんだよね。誰かに虐められたとか…」
「違うっそれは無い…ん~事故みたいな…」
「そっか…良かった……良くない。誰に整えて貰ったの?そんなに綺麗にカット出来るって、まさか」
「え?あ……と、それは~」
「将、生徒会の鮫島将とか言わないよね?あのバカに変な事されてないよね?」

井上が珍しく身を乗り出してきいてきた。

「どうして知って…知り合いなの?」
「やっぱり…多咲くんって生徒会と何か関係あるんでしょ。俺は単純に将とは親戚、はとこだよ」
「あ、だからいつも…」
「!そうか、分かった。生徒会よりも、黒龍とだ。黒龍と関係あるんだ!」
「!?……井上くん……黒龍、知ってるの?」
「俺、口が堅いから。鮫島家が本家で井上家は分家だから、余計なことは言わないようにしてんの」
「い、色々あるんだね……」
「生徒会、探り入れたかと思ったら避けまくってたもんね、なんかあると思ってた。で、その感じだと将に変なことされて無さそうだけど…何でって聞いていい?」
「いや、何で……なんで…なんで?」

何からどう言えば良いのだろうか、困ってしまう。

「じゃ、誰避けてたの?これなら言えるでしょ」
「え~……あ~……会長、かな?」
「多咲くん……何やったの……あんな人に目付けられちゃって……」
「俺もよく分かんない」

ガックリ項垂れる緋縁。

「君の高校生活は前途多難だね」 
「明日学校行かなきゃダメ!?」

わぁっと顔を両手で覆う。

「助けられることは助けるけど、もう手遅れじゃないのかな…」
「俺はインフルエンザになりました。一週間くらい休みマス」
「現実逃避しても駄目だよ。元気そうだし明日学校で待ってるね」

そう言って井上は部屋を出ていった。

「井上くんってドライだ…」

緋縁はしょんぼりとフードを被った。
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