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さらされた素顔
《33》
しおりを挟む生徒会室を後にした匠は、どうにも消化不良な気分でスッキリしなかった。
(あ、明日の朝のこと聞きに、もう一度会いに行っちゃおう~とっ)
生徒会室では、弥菜が嫌なそうな顔をしていた。
「思い出し笑いって…想像ついてやだ…」
「ふっ…ほっとけ」
「は~あ~どーでも良いけど、仕事してよ」
「あ、今日はまだ緋縁に会ってないな…」
「だめだ…戦力外だ…」
「会長の頭の中はひよちゃんでいっっぱいだから」
生徒会室の前で呆然と立ち止まる匠。中の会話が聞こえてしまった。
(ひより?ひより?!……誰…誰だそいつ!)
般若のような顔に変わり急いで親衛隊の部屋に戻る。戻る途中でどこかに電話をかける。
「もしもし?僕だけど、あれ、やると思う。いつでも大丈夫なようにしてて」
ぷつっとあっという間に切ってしまう。そして勢い込んで親衛隊の部屋のドアを開ける。バシンッと大きな音に中の隊員がびっくりして、一斉に見る。
「名簿見せて!」
「は、はい…」
「あの~森が帰ってきました。例の1年の…」
「後にしてよ!」
「すいません…」
バサバサっと名簿を見ていく。
(ひよりひより…何年?誰?…どこの誰!?)
「注意おつかれ。ねぇ森、あの1年、名前なんて言ったっけ?」
「えぇ~…えーと…多咲、緋縁だったかなぁ?」
ピクリ
「え?今、なんて言った?」
匠の手が止まり、ゆっくり里葉を見やる。その顔が見るものを酷く怖がらせる無表情だった。
「言って、な、ま、え!なんて言った!?」
「あ…多咲くん…です」
「違う!!下の名前!」
「緋縁…」
「ひより…ひよりっ…たさき、ひより……アイツが、あの1年が…」
「た、隊長?」
「許さない、僕のコウキ様に……許さない!」
ギッ!と隊員を睨みつけて、いつもより数倍低い声を出す。
「あの1年、たさきひよりを…制裁する!!」
ざわっと隊員に動揺が広がる。
「た、た…隊長…あの…大義名分は…」
「そんなの、なんとでもしてよ!とにかく、痛めつける!酷くしてやる……この学校から追い出してやらなきゃ気が済まないっ!!」
(多咲くん……)
里葉は内心の焦る気持ちを隠すのに精一杯だった。
(あの人に、伝えなきゃ……)
復讐の鬼と化した匠は、隊員たちの見る目に気が付く余裕が無かった。呆れるものもいれば、流石に狼狽えるもの、じっと唇を噛み締めているもの。そこには忠誠を感じさせる隊員はいなかった。
(確実に、確実に後悔させてやる)
ドロドロとした感情が渦巻く親衛隊の教室だった。
放課後、1年A組の教室。いつもの如く鈴井のいい加減なホームルームが終わり、緋縁はまたしても声をかけられていた。
「多咲、ちょっと手伝ってくれないか?」
「え"…俺ですか?」
「はいはい、これ持って。じゃ行くぞ」
「井上くん佐藤くん、また明日ね…あ、待って下さい先生っ」
「お、おぉまたなぁ~」
「鈴井先生、やけに多咲くんに声かけるね…」
「あれじゃね?美め麗しい方がいいんじゃね?」
「…………」
納得のいかない顔の井上と対照的に佐藤は能天気に部活に向かって行った。
「先生、職員室までですか?」
「いや、今日は数学準備室まで頼む」
「……先生。これ、俺が持たなくても良いんじゃないでしょうか…先生…ひょっとして…」
「多咲、先生はな、長い物には巻かれろってやつなんだわ。悪いな」
スーっとドアを開けて中に入るように背を押される。まったくこの学校の教師はどうなっているんだと、顔を歪める緋縁。病院のドアのように抵抗なく開いて、軽く力を入れると自動で閉まるドアでさえ腹が立ってくる。
「先生っ!」
急いで後ろを振り返るが、ドアが閉まりかけ中からは声をかけられる。
「緋縁」
案の定だ、どこぞの生徒会長が権力を振りかざしたらしい。
「はぁ……なんですか?」
緋縁は疲れた、と言わんばかりの雰囲気で声の人物へとおざなりに振り向く。
「色んな表情を見せてくれるんだな」
(この人、頭お花畑なの?)
「俺、うんざりしてるって分かりませんか?」
「そんな顔も可愛いな」
「だめだ…どうしよう……どうしたらいいんだ」
少しずつ近づいてくる皇輝。
「どんなお前でもいい。何聞いたか知らんが、俺の気持ちに変わりはない。本当は分かってるだろ?」
「……凄い自信ですね……あんなにハッキリ断ったのに…どうしてそんなに強気でいられるか不思議ですよ…」
「緋縁、怒ってるのは分かってる。でも俺の事、そこまで嫌じゃないだろ?」
嫌だ、こんなやり方する男、嫌だ…
緋縁の心は叫んでいた。
しかし面と向かうと声に出せなくなってしまう。
(なんで俺はっ)
悔しげに睨みつける緋縁。
「俺に落とされかけてるだろ」
「勝手なこと…言わないでください」
「緋縁、触りたい」
ストレートなもの言いに心臓をぎゅっと握られたみたいな強い衝撃を感じる。
「緋縁……」
さっきよりもっと近くに聞こえる。
「会長のやり方、俺嫌いです」
「俺は?俺のことは嫌いじゃ無いはずだ、むしろ好きになってるな」
両方の二の腕がぎゅっと握りしめられる。
正面から見つめられて、背の違いで上を向くはめになる。皇輝の体温を感じると顔に熱が集まるのが分かる。すっと視線を外したのを合図のように乱暴にキスをされる。皇顔の片手は緋縁の後頭部を押さえて逃げられないようにされている。
「んっ……ふっ……んっ……はぁ」
唇が離れ、瞳を覗き込まれる。うっすらと開けた目と目が合う。暑い、そう感じたと同時に深くキスされる。熱い熱い舌が絡み合い
「ぁっ……うっ……んん…はぁはぁ」
ぐいっと力いっぱい皇輝の胸を押してキスから逃れる。足を踏ん張らなければ膝が震えそうだった。
手の甲で一度唇を拭く。
「俺は、俺は認めないっ」
大きな声でそう言ってドアを開け、廊下に飛び出す。そのまま走って階段を降りて行く緋縁。残された皇輝は初めての胸の痛みを感じていた。出ていく瞬間、泣きそうな顔をした緋縁を見て罪悪感と後悔が胸を突いたのだ。
(俺は……緋縁を追い詰めてるのか……)
自問自答、初めての本気の愛に苦しめられている皇輝であった。
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