この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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認めたくないきもち

《37》

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 食堂に着くと食欲を刺激する良い匂いがしてきた。いつものレイアウトが様変わりし、椅子は全て端に数を減らして並べられており、料理が乗ったテーブルは均等に少し離れて並んでいた。裕福な家庭の子供と言えども男子高校、お腹を満たす量は相当だ。小洒落た料理ももちろん並んでいるが、揚げ物・炭水化物の占める量が大半だった。全校生徒が一同に集まり食事をする光景は、パーティーとは名ばかりの熱気あるものだった。

「おぉ!素晴らしいラインナップだな。ガツガツ食べられそうだぁ」
「俺、デザート系食べたい…」

緋縁はいつもなら別料金のデザート類が並んでいることにいち早く気がついた。食欲があまり無かったので、食べられそうなデザートをなくなる前に取りに行きたかった。

「ちょっと待って、これだけ取ったら甘い物の所行こうか。多咲っていつも少食だよなぁ」
「佐藤は部活やって体使ってるから根本的な量が違うんだよ」
「佐藤くんはいつもカレー食べてるよね」
「この匂いがなぁ誘われるんだよ~」

佐藤と井上が食事系をある程度取るとデザートが並んでいるテーブルに行く。緋縁の目がキラキラしてくる。甘い物には目がないのだ。

「チョコ、チョコいっぱい。どれからにしよう~」

その様子を微笑ましく見守る同級生2人。
デザート類の乗ったテーブルは入口から入って少しした端にあった。緋縁がワクワクとチョコケーキを取ろうとした時、奥から大きな音が聞こえた。ガチャンと割れる音の後に『わー』とか『きゃー』と叫び声。そしてどよめきがあり騒然としている。食堂にいる人々の注目を浴びていた。

『すみませーん、大丈夫でーす』

大したことでは無かったと分かり、ザワザワと元の雰囲気に戻っていく。

「なんだったんだ?」
「さぁ?…あれ?多咲くんは?」
「え?あれ?いない…どこ行った?」

井上と佐藤がキョロキョロと周りを見回す。つい先程まで2人の横に居たはずだ。しかし、この一瞬で忽然と消えてしまった。離れるにしても、姿が見えるはずだ。なのに、緋縁は文字通り消えてしまった。

「ちょっと…変じゃない?」
「えぇー…マジどこ行った?なんか怖いわっ」
「俺、少し探してくるよ」

井上がそう言うと、佐藤も続く。

「いやいや、俺も行くって。変だよ」

井上は嫌な胸騒ぎがした。緋縁は注目を浴びるようになっていたし、この間は親衛隊が尋ねてきた。念の為、はとこにメールを打つことにした。

時を同じくして里葉も騒ぎに気を取られていた。そして何となく緋縁の方へと視線を向けると居なくなっていたのだ。クラスメイトと一緒にいればある程度安全だと思っていた。

(緋縁くんがいない!ちょっと目を離した隙にっ)

一緒にいた親衛隊の仲間に尋ねてみる。

「ねぇ、隊長ってどこにいるのぉ?」
「え?さぁ…そういえば見ないね…でも生徒会の皆様がここに来るのって、もう少しあとだから…そこに合わせてるのかも」
「あー……うん、そうだねぇ」

(そうかな……あれ?あの2人の様子が……)

緋縁と一緒にいた井上と佐藤の様子が変だった。キョロキョロした後、その場を足早に離れる、焦っているように見えた。

(違う、隊長は……。始まってるんだ…こんなチヤホヤされる状況でここに居ないなんておかしい……知らせなきゃ)

「あ、僕ちょっとあっちの方に行ってくるねぇ」

一言断りを入れて里葉も当たりを見回しながらその場を離れ、通話ボタンを押す。

「もしもし、彼がいなくなっちゃった…うんそう。食堂で騒ぎがあって…その隙に。彼の友達の様子も変なんだ…うん。要注意の場所、探してほしいんだけど、うん……僕はちょっと人と会ってくる…うん」

ぷつっと通話を終え嫌な予感が大きくなる。通話していたスマホを1度見てギュッと握りしめる。そして心を決めた強い視線で前を向き、足を進める。小走りからどんどんスピードが上がって腕を振って走っていた。目的の場所までたどり着き、胸に手を当てて一息つく。少し緊張した面持ちでドアに手をかける。一瞬の躊躇の後、思い切ってドアを開けた。

(あ、ノック忘れた…)

「びっくりしたぁ…あら?誰?」

ドアの近くにいた修次が過剰な反応をする。中から貴一も怪訝な顔で聞いてくる。ここは生徒会室。

「何の用だ?」
「あ…突然すみません…あの…会長は…」
「あっれぇ~君、確か親衛隊にいなかったぁ?」

横から将が入ってくる。

「悪いが、今忙しい。分かるだろ?又にしてくれないか?」

出て行けと言われているようなものだった。里葉は生徒会室の中をチラリと様子見する。奥には弥菜と皇輝の姿もあった。ぐっと握り拳を握って足元を見たあと顔を上げる。

「あの、急ぎのお話があります」
「あーごめぇん…もうすぐ行かないといけないんだよねぇ?副会長も、そう言ってるでしょ?」
「緋縁くんが!」

ピクリと反応する皇輝。

「緋縁がどうした……」

ギロリと睨まれる。

「あの、お話聞いてると思うんですが、緋縁くんがいなくなりました」
「は?いなくなった?」

その時、里葉の後ろから廊下をバタバタと走ってきて、焦った声が上から降ってきた。

「将、調べてくれないか!?」
「あ~?ここ来るなんて珍しいね…」
「そんなことはどうでもいい。友達が、消えた。不味いかも知れないんだ、メールしただろ!?」
「ちょっと忙しかったんだよ」
「おい!」

井上と将の言い合いに皇輝が割って入る。

「そこのお前、緋縁がどうした?」
「だから、騒ぎの最中にいなくなっちゃったんです。緋縁くんから聞いてませんか?」
「……何の話だ?」

佐藤がオロオロしている。井上が生徒会室に行くと聞き驚いていたが、今の状況に付いていけない。緋縁の事を会長が知っている事も頭を捻るばかりだ。

「あ、親衛隊の人だ」

里葉を見て口から漏れ出た。

「え?親衛隊の人も多咲探してるの?どゆこと?」

皇輝はイラついてて里葉と井上は焦っている、佐藤は混乱しているし生徒会のメンバーは迷惑そうにしている。場が混沌としている中、弥菜が口を開いた。

「ちょっと、ひっ迫した状況の様だけど、緋縁くんに良くないことが起きてるの?」
「はい、親衛隊の隊長が…緋縁くんを制裁しようとしてます。親衛隊の中でも情報が何も無いんです…それなのに、緋縁くんが消えちゃったんです!」
「消えたって?」
「食堂で、横にいたと思ったのに振り向いたらいなくなってたんです。本当に忽然と!」

里葉と井上が次々と説明する。ガッと里葉の肩が掴まれる。

「緋縁が……制裁されるだと?」
「痛っ……は…い…」
「コウ、離しなっ」
「気を付けるように言ってたんですけど……」
「くそっ」

バッと肩を離しガツンッと壁を叩く。
里葉が肩を押さえながら皇輝をじっと見つめて

「風紀はもう動いてます」

と伝えた…
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