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認めたくないきもち
《38》
しおりを挟む「んん"ん"……」
緋縁は足首を押さえた、触るとぼやっと熱があるように熱かった。
(あの倒された時だ…捻ったぁ……)
どこか倉庫のような場所で倒れていた緋縁はゆっくりとした動きで口元のガムテープを外す。
「いた……ごほっ……」
打ち付けた肩や尻が痛む。先程お腹を蹴られた、蹴られた瞬間は息を飲む痛さと重さがありぐぐっとお腹に手を当てて丸まった体勢になった。今はズキズキと痛む。床に手を付き上半身を起こす。周りを見ても何処か分からない。教室の半分ほどの広さで両壁には天井まである棚がありダンボールや荷物が所狭しと置かれている。奥の壁には窓があるが、明り取りと換気のためだけの窓のようで広く開けられなくなっていた。倉庫というより、教材室のようで閉じられたドアには、この部屋に突き飛ばされて入れられた時に鍵をかける音がした。完全に閉じ込められてしまった。
(マジかよ……本気過ぎだろ……)
あの食堂の騒動の時、何かが割れる音と同時に、いきなり手を下から引っ張られた緋縁はバランスを崩して床に手を着いた。そして体勢を立て直す前に横から押され、不安定な床の上に転がされてしまった。あっと思った時には準備していたのだろう、ガムテープで口を塞がれた。余りに突然の事で頭と体がついていけないうちに床が動いた。テーブルの下を横切って人のいない壁側通路にスライドした。何が起きているか全く把握が出来ないうちに更にプラスチックの青い大きな入れ物を上から被された。視界いっぱい青色になる。音もくぐもって聞こえパニックになる。
「よし、行くぞ」
そう聞こえた後、ガラガラと動き出した。緋縁は台車の上に転がされたのだ。食べ物の並んでいるテーブルの下に台車を用意していて緋縁を乗せて食堂からあっという間に運ばれてしまったのだ。
(な、何が起きてるんだ!?絶対ヤバい!)
自分の上に被されているものを退かそうと手で押すがビクともしない。上から押さえつけられているようだ。ドンドン違う場所に移動している事だけは分かる。足で蹴ろうと力を入れたら鋭い痛みが走った。しゃがみ込んで押された時に踏ん張ろうとして変に捻ってしまった。
(暴れるしかない)
食器などを入れる大きなプラスチックケースが緋縁をスッポリ覆い被さっていた。いくら緋縁が小柄と言えども中で自由に動けるほどスペースは無い。足は痛いし口のガムテープは取れない。暴れられない。
「んんっんんんーーー!」
声を力の限り出しても既に遅く、食堂からは遠ざかってしまっている。
(騒ぎがなければ気づいて貰えたのに…騒ぎが…)
緋縁はザッと頭が冷えた。
(全部っ…全部だ!)
どこかに止まった途端、明るくなる。プラスチックケースが退かされた。乱暴に立ち上がらせられて、突き飛ばされる。そして近付いた人に倒れたままの状態でお腹を蹴られた。
「ん"ん"っ……」
「ちっと待ってろ、すぐ来る」
そして今に至る。食堂からここまでほんの数分の出来事だった。
上半身を起こして座り込む。お腹をさすって何とか立ち上がろうとするがあちこちが痛む。
(ヤバい、これマジでヤバい。どうしよう)
ブレザーのポケットからスマホを出して連絡を取ろうとした時ドアが開いた。
「あ、スマホ取とっいてっていったじゃん!」
生徒会の朝の恒例行事の時、里葉を怒鳴っていた人がいた。今は鋭い眼差しを緋縁に向けている。近付いてバッとスマホを取り上げる。
「早く連れ出そうとして…そこまで余裕がなかったんだよ~匠ちゃーん」
「ふんっま、いいけどね結果的に」
そしてニヤリと緋縁を見て
「初めまして?害虫がっ!」
目を見開き驚愕する緋縁。ドアが開いてから固まって動けないでいた。匠の後から大柄な生徒が3人、入ってきた。どうみても運動部、それも屈強な男が作り上げられる部活だ。緋縁は見上げて頭が真っ白になってしまった。
「僕は生徒会親衛隊、隊長の匠。コウキ様のお相手だよ、ただの遊ばれた子」
何も言葉が出てこない。
「見つかるといけないし、さっさっとやって。一発は殴ってよ、血は見ないと気分上がんない」
「分かった分かった、この子可愛いから顔はこのままが良いんだけどなぁ」
(なんの話しをしているんだ?リンチだろ?)
「あれ?分かってないの?今からされること~」
楽しそうに匠が言う。
「可愛い子ちゃん、今から俺たちと楽しもうな」
「…………?」
一人一人の顔を忙しなく見る。自然と呼吸が荒くなる。大柄な3人から距離をとるように後にずり下がる。足に力が入ってしまい、顔を歪める。
「めっちゃ可愛いじゃん、怯えてるよ」
「たまんねぇ」
(なに?なにすんの?)
大きく一歩近づき、肩を押されて呆気なく床に倒される。真上から覗き込まれて、いつかの皇輝との事がチラつく。
(コイツらの言い方、まんま悪い奴の口調じゃん)
こんな時だからか、場違いな事が頭に浮かぶ。
ピロン
機械音がした方を見ると匠がカメラを向けていた。
「良い感じで汚れさせてよ」
「はい、じゃあ始めまーす」
ブチブチッとYシャツとブレザーのボタンが飛び散る。インナーをたくし上げられて素肌が晒される。一瞬の出来事だ。
「殴ってって」
「はいはい」
ガツッと目の前に火花が飛んだ、ガンガンと痛みが襲ってくる。逃げなければと分かっている。しかし、痛みと恐怖で体が強ばってしまい、思うように暴れられない。ましてや、顔を殴られるなんて初めての経験だ。緋縁は喧嘩に慣れていなかった。前にガードの喧嘩に巻き込まれた時も偶然、無傷だったにすぎなかった。
「うぉっ綺麗な肌~乳首もかっわいい」
「舐めてい?舐めてい?」
サワサワと脇腹、胸、腹をゴツイ手が這い回る。
(気持ち悪いっ)
1人の顔が胸に近ずき、ベロリと舐められる。
「ひっ!」
「声出してね、俺声聞きたい」
(こんなの聞いてない!やるって、こっち!?)
「やだ、やだやだ!」
「いいねぇ~気分上がる」
舐められて我慢の限界が突破した緋縁は痛さを忘れて暴れだした。
「あ、てめ」
「大人しくしてろよっ俺まず手ぇ押さえてるから」
「OKOK、俺足ね」
手と足を押さえ込まれて身動きが取れなくなる。ガシッと髪を容赦無く掴まれる。男の膝が緋縁のお腹の上に乗り、体重をかけてくる。
「ぐっ…」
蹴られた痛さも和らいでいないのに緋縁よりも倍はありそうな体重の男の膝が、腹にくい込んでくる。息も吸えないし、何より恐怖以外の何ものでもない。掴まれた髪も痛い。弱々しく睨むしか出来なくなる緋縁。
「調子乗るなよ、ここはノーマークの場所だ。誰も助けに来ない、諦めて大人しくヤラれろ」
顔を近づけてゆったりと喋られる。3人がかりで押さえられ、怖いし悔しい。散々皆に注意しろと言われてきた。でもあの状況で連れ去られるとは想像がつかない。綿密に練られた計画だろう。最後に残っているプライドでこいつらの前では泣きたくなかった。
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