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認めたくないきもち
《40》
しおりを挟む皇輝は無言で歩き続ける。緋縁も何も言えず、どうしらいいか分からず、皇輝の腕の中で小さくなっている。
(あれ…これって…どこに向かってんの?)
被害者のはずの緋縁は皇輝に聞いていいかどうか迷ってしまう。
(俺の部屋…だよな?保健室?こういう時ってどう声かけたらいいんだ…ドラマとかちゃんと再現しろよ…参考になんないじゃん……あ~…気持ち悪っ……早く風呂入りたい…)
関係ないことを考えて気を紛らわそうしたが、緋縁は襲われた時のことを思い出して気分が悪くなってしまった。その変化に気付いた皇輝は
「気分が悪いのか?待ってろ、もう着く」
そう言って、エレベーターから降りた階は8階。なんの疑問もなく自分の部屋に連れてきていた。
「え、ここって…」
「俺の部屋」
(なんか……前にも聞いたことあるような…)
部屋に入ってベッドに寝かせようとする皇輝に焦った緋縁は
「風呂、風呂入りたい。俺汚いから」
一瞬、顔を歪める皇輝。その顔を見てしまった緋縁は居た堪れない気持ちになる。
「俺が入れる」
「え?は?無理」
そっと降ろす皇輝。緋縁はいつもの癖で痛めている足を着けてしまった。
「痛っ!」
そのまま崩れるようにしゃがみ込んでしまった。
「怪我してるのか!?」
皇輝も緋縁の前にしゃがみ込み、目線を合わせる。
「あ、ちょっと捻っちゃって…」
「緋縁の話は聞けない、風呂に入れながらほかも見る。これは譲れない」
「や、やだよ…」
「俺は…その殴られてる顔を見てるだけでっ…」
緋縁は唇を噛み締め、視線をさまよわせる。物理的にも汚れているが、今は皇輝に見られたくないと思っていた。嫌なのだ。
「とにかくダメだ。一瞬でも俺の前から見えなくなるのは許さない」
「コウ……」
切なげな声を出す緋縁。これ以上は聞かないとばかりに、淡々と服を脱がせ抱き上げて浴室へと入る。8階の個室の生徒たちの部屋風呂は浴槽も付いていた。
(あそこからこの部屋まで抱いて運んで…また抱き上げるって…どんだけの腕力だよ…)
皇輝の心配している雰囲気にのまれて、言う通りにしてしまった。気まずさを心の中で愚痴に変える。
浴槽の縁に座らせられてざっとシャワーを浴びる。お互い会話も無く皇輝は緋縁の髪の毛をわしゃわしゃと洗う。頭からお湯で流されるとなにか別のものも一緒に流れていくような気になる。ボディソープを手に取り泡立たせて手で直接洗っていく。
「え、手で?」
「直接俺の手で洗って、確かめてく」
皇輝の熱い掌で身体中洗われる。つまり撫で回されている。
「ちょ、ちょっとさ…あの…」
「黙ってされてろ、問いただしたいのを我慢してるんだ。せめて、触って上書きくらいさせろっ」
「……じゃあ……顔、洗いたいです」
ピクン
皇輝の眉毛が上がる。
「どぅいぅことだ?」
「いや…いや……あ……」
(怖い……これ怒られてるの?)
シャワーで温まってきた浴室、緋縁の体も温まってきた。足首がズクンズクンと痛みを主張してくる。
「あし…痛いから…あがりたい」
「風呂上がったら、それだけは聞くからな」
ザーー
何とか顔は自分で洗い、全体的にもう一度ざっと流す。今まで皇輝は服を着たままで緋縁を洗っていたので抱き上げられるのを断る。それでも聞く耳を持たない皇輝は少し強めに抱き上げる。
(制服、濡れるじゃん…)
タオルで拭いて大きめのバスタオルでぐるっと緋縁を巻いてまたしても抱き上げソファーまで運ぶ。歩かせる気がないようだ。皇輝は浴室で緋縁の体を全体的にチェックして、目立った怪我が無いことを確かめていた。
「冷やすもの取ってくる」
冷蔵庫に向かいながらYシャツとインナーのTシャツを脱ぎ捨てる。氷をビニール袋に入れた物を2つ手に持って来る。足首に直接当ててタオルで巻いたものを頬へ付ける。
「腫れないといいけど」
「いや、あの……服を…俺…ちょっと……キツイ」
ボソボソと要求を言う。
「あぁ服か、いつものだな」
「え?いつもの?」
当たり前のように呟いた皇輝が寝室に消えていった。8階の1人部屋に初めて入った緋縁はリビングと寝室と2部屋もある事に舌を巻く。程なくしてスウェットとTシャツの部屋着に着替えた皇輝が手に緋縁用の服を持って戻ってきた。見覚えのある服だった。
「俺の部屋で緋縁が着ると言ったらこれだろ?」
この状況下でも変わらずこれを緋縁に着せようとするこの男、ブレルこと無く真っ直ぐ見つめてくる。皇輝の強い気持ちに触れたようで、少し悔しくて恥ずかしくて困惑しながら軽く睨みつける。俺のものだろ?と言われているようで、反抗心が生まれる。
「足首の、冷たすぎるよ…こっちもタオル間にしてほしい……これ、あの…前も着たやつ?」
「絶対戻ってくると思ってたからな」
雰囲気を和らげて着させようとしてくる。
「だから、自分でっ」
「怪我人は大人しくしてろ」
優しい手つきで服を着させられてしまった。その後も飲み物を持ってきたり、髪を拭いたりと甲斐甲斐しく世話をやいてくる。
(そうだった、コウってすげぇ看病してくるんだった…思い出した…)
ある程度落ち着いて来て皇輝が緋縁の足首を自分の膝に乗せて隣に座ってきた。じっと顔を見つめながら口を開く。
「俺がもっと注意してれば、未然に防げた…俺のせいだ、ごめん」
(ごめんって謝った!)
「俺だって…皆に言われてた…気を付けろって…里葉さんに、相談した方が良いって…言われてた…」
緋縁の手をぎゅっと握りながら皇輝は続ける。
「緋縁に再開して、思ってたよりずっと浮かれてたんだ…顔を見るだけで、こうやって触れるだけで、浮き足立ってた…周りに目がいってなかった」
また熱烈に伝えてくる。いつも皇輝の言葉はストレートだ。そう言われる度に緋縁は言葉が出てこなくなってしまう。揺れる瞳で皇輝を見つめる。
「すぐ…来てくれた……。怖かったけど…痛かったけど…助けてくれた……コウが来たら、大丈夫だって、思った…」
「緋縁…」
つたない言葉で緋縁も皇輝に伝える。
里葉の言葉が頭をかすめる。
(本音……今なのかもしれない)
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