この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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番外編

唯一と彗の物語 5

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キスをされてしまった。まさか、本当に自分が手を出されてしまうとは、まったく予感すらしていなかった。

「ゆいちゃん、意外と隙だらけ……」
「な、な、なな…なにしてるんですか!」
「ちゅうだよ。嫌じゃなかったら付き合わない?」
「絶対やだ!」

ぴゅーっと走って逃げてしまった唯一。

(おかしいなぁ……なーんで…断るの?)

唯一は走りながら手の甲で唇を押さえた。

(キスされた、キスされた、キスされた!)

「何あの人、信じらんない…」

先程の感触を思い出す、顔に熱が集まるのが分かった。走るスピードを弛めて歩き出す。唯一は体力が無いのだ。心臓がドックンドックンと脈打っている、走ったせいだけではなさそうだ。

(一生縁がないと思ってたのに……)

両頬を自分で触って大きく息吸って吐き出す。

「ゆいちゃーん」
「わっえぇ!?何で追いかけてきちゃうんですか!こういう時、ほっといて下さい……僕逃げたのに」
「だって危ないじゃない…」

何とも言えない気持ちになる。とにかくどういう顔をしたら良いか分からない、恥ずかしくて俯いてしまう。

「もぅ……可愛い反応だなぁ」
「辞めてください……」

少しだけ顔を上げて彗の様子を覗き見る。

「あっ……やっ………ちょっと……ゆいちゃん」
「?」
「そんな顔はダメだよ……」

両頬に当てていた手の手首をガシッと掴まれ引き寄せられる。また一段と顔が近づき、お互いの鼻先が着きそうだ。

「俺以外に見せるなよ…」
「え……んっぅ」

赤く染めた困り顔で、上目遣いにそっと様子を窺う唯一は頭から食べてしまいたくなるほど可愛いかった。唯一の口内に熱い他人の舌が入り込んでいた。きつく掴まれた手首を動かそうと力を入れる。彗から離れようと頭を後ろに引く。

「っは……なんてことぉぅ……ん"っ……」

一度唇が離れて文句を言おうとしたら、再度手首を痛いくらいの力で引かれ、今度は逃げられないように後頭部に手を回された。空いた片手で彗を押して抵抗してみせる。

(長いっ!!)

「んぅっ……ふっ………んんん……」

自然と押す力が弱くなる。慣れないキスで息も絶え絶えになってくると彗の体を押していた手は服を握っていた。

「はぁはぁはぁ……うっ……はぁ……」

ふらつく唯一を彗は抱き込む。背の高い男の人に抱きしめられた経験なんて無い。温もりに包まれてドキマギする。生身の他人との接触は慣れていない。

「なんて、こと……すんだよ……」
「ゆいち……」

普段と違った雰囲気を纏った彗の声が聞こえる。身動ぎすると少し離してくれる。じっと顔を見つめてくる彗。知らない男の人に見つめられてるみたいだ。軽口が出てこない。困ってしまう、慣れていないのだ。

(ちょっと……怖い……)

そろりと一歩後ろに下がろうとする唯一を腕を握って静止する。びくっと体が反応してしまう。

「ゆいちゃん、分かった?そんな可愛い顔してたら…襲われちゃうよ、今みたいに……」
「っ!?」

かっと耳が熱くなり泣きそうになる。

(こんなの……やだ…リアルなんて……知らなくていいよっ)

腕を掴んでいた手をそのまま腕を撫でながら下げる。手を取られ繋がれてしまう。

「帰ろっか?」
「は……い………」

手を繋いで無言で歩く時間がやけに長く感じる。

(何にも言ってくんない…良いんだけどっ……)

耐えきれなくなった唯一が話そうとした時。

「ごめん、ゆいちゃん。もう家近い?」
「は、はい。すぐです」
「俺コンビニ行きたいんだよね。ここまでで大丈夫かな」
「大丈夫です。ありがとうございました」
「それじゃ、気をつけてね…」
「はい、さようなら!」

手を振って唯一を見送る。そして姿が見えなくなってから手で口を覆う。

「やべぇ……」

(もうちょっと一緒にいたら絶対帰せなくなった)

その場にしゃがみこみ、項垂れる。

「なんだよ……あれ………」

(マジ、超絶可愛いんだけど……どうしよう…)
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