この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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番外編

唯一と彗の物語 4

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 春、ついに来てしまった入学式。あれからコソコソゲームセンターに遊びに行っても高確率で彗と会った。緋縁とは全く会えずにいるのにだ。彗は会えば何かと絡んできた。懲りもせず、付き合おうだの可愛いだの入学して来るのが楽しみだのと。

「ゆいちゃん!おはよ~制服似合ってるねぇ」

(ほら来た、また来た、僕のこと歯の浮くようなこと並べ立てて……煽ててるようで自分勝手するんだ)

「おはようございます。七海先輩」
「今日も安定のつれなさだね」

受験からこの入学式までの間に、街に出ればそこに彗がいた。ゲームセンターに行けば貢物を貰う。やれ、これが似合うだのスマホを壊したお詫びだの、見ていたら唯一を思い出して気付いたら買っていたから受け取れだの……毎回毎回理由をまくし立てられて、押し付けられる。断っても断っても、逆にお礼をすれば倍返しが帰ってくる。いっそ嫌がらせかと言うほどの貢物だ。しかもタチが悪いのは、手下を連れてきて後方から、総長のものを受け取れないのかコノヤロー的な視線が攻撃してくる。貢物の押しつけ以外の何物でもない。

(あれって自己満足だよね…)

邪険にし切れないでいた。結果、家から出る回数が自然と減って行った。しかし、今日からは学校で毎日のように顔を合わせなければいけない。先輩で、生徒会長で、と大手を振って立場を使ってきそうである。

「入学式で挨拶するから見てて、俺ゆいちゃんに向けて言うからね」
「1年全員に向けて言ってください…それでは、頑張ってください」

ぺこりとお辞儀をしてつれなく校舎に入っていく。

「ん~あのつれない感じ…クセになってきたかも」

どこまでも楽しそうな彗であった。


 唯一は楽観視していたのかもしれない。1学年上の先輩と顔を合わす機会なんてそうそう無いと、そう高を括っていた。

「なんで……こんな状況に……」

高校で初めてのお昼時間、気付けば目の前には彗がいた。

「え、七海先輩…僕に友達作らせない気ですか?」
「ふふん…それもいいかもなぁ…なんてね、ゆいちゃんを生徒会に勧誘するって口実ランチだよ」

(なんか、なんだろ…全体的に嘘くさい……)

「やだなぁその疑いの眼差し。ゆいちゃんっぽい」
「なんですか、僕っぽいって……あの……聞いてもいいですか?」
「なになに?ついに俺に興味出てきた?」
「いえ、そうでは無いです。ここは生徒会室ですよね?他の先輩たちは…いらっしゃらないんですか?」
「普通、お昼ここで食べる人なんていないよ~」

あははーと軽く言う。

「は?では僕は何故ここに……」
「そんなの…決まってるじゃないか~口説いてんだよ?分かってるくせに」



ダン!!!

唯一はコップを手荒くテーブルに置いた。ここは少し奥まったところにあるバー。そこにはガードとハクというチームの若者がたむろしている事が多かった。唯一は彗に一度連れてこられてから、時々1人でも通っていた。最近は緋縁と連絡すら取れず、街でも会えずにいたのでここで知り合った人と話をして気晴らしをしていた。

「って言ったんです。アイツ!殴ってやりたかったですよ!」
「随分、気に入られてるんだね…」
「本当なのかな……おちょくってるだけじゃないのかと…思うんですけど…」
「ナナミがそんなに長い間絡んでくるなんて……初耳だよ」

いつも僕の相手をしてくれるのはハクというチームの副総長をやってるオータさんと影のあるミステリアスな雰囲気の里葉さんだ。穏やかな2人に話すと気分が落ち着く。

「僕……また友達出来なくなりそうです…中学の時も気の合う人がいなくって……余り仲良く出来なかったんです……だから、高校こそって思ってたのにな…七海先輩、絡んでくるんだもんなぁ」
「そうだね~……最初の頃は楽しそうだったんだけどね……最近はちょっと…焦ってる感じがするけどね、俺の見たところ」
「うそ!いっつも余裕しゃくしゃくって顔が腹立つのに……」

ぬっと伸びてきた腕に後ろから抱きしめられた。ソファー席に座っていたから背もたれにぎゅっと挟まれる。

「本当につれないなぁ……可愛い頬っぺつついちゃうよ?」
「辞めてください……」
「連絡貰って急いで来たんだよ~今日は来ないかと思ってたんだけどね。また会えて嬉しいよゆいちゃん!」
「七海先輩…………どうぞ、ごゆっくりしてください。では僕はこれで帰ります。失礼します」
「待って待って、送ってくってば」

彗は慌てて追いかけて行った。

「流石、双黒の1人。ガードの総長振り回してる」
「去年の今頃に、ここら辺で聞いてた話…女の子と遊んでる話……聞いてるから。ちょっとくらい振り回されれば良いよ」
「サトはそーゆーとこ、潔癖だよね…」
「人をもて遊べるって、自分に自信が無いと出来ないよね……だから潔癖っていうかさ……僕には縁のない話だし考えらんないだけ」
「それを潔癖って言わない?」

楽しそうに言うオータ。

「好きに言って下さい…あそこの総長……えーと」
「ナナミ」
「そう、ナナミ。ナナミは僕みたいのに言わせれば、ちょっとはバチが当たればいいと思う。本命に翻弄されてしまえって感じ」
「ふふっ因果応報だね。じゃ俺は一途だから大丈夫かな」
「ふ、ふーん」

意味深な会話がなされている頃、夜の道を歩く2人

「あのー…もし本当にいつも言ってることが本気なら…ちょっと重たいので、僕はやめた方がいいと思います」
「ゆいちゃんの気持ちが聞きたいなぁ」
「えぇ…態度で分かりませんか?お付き合いするつもりはありません」
「なんでダメなんだろ……明確な理由ってある?」

(あれ?今断ったよね……)

「俺のこと嫌い?」
「嫌い……ではないですが……」

肩に手が置かれたかと思ったら、唇にふにっと柔らかく湿った温かさを感じた。彗の顔が異様に近くにある。目を見開いて見つめてしまう。

「どう?嫌じゃない?」
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