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番外編
唯一と彗の物語 7
しおりを挟む梅雨の時期には少ないカラリと晴れた日、いつものようにお昼を一緒に食べている時に唯一は彗に切り出した。
「今日の夜、街に行きますか?」
「え~?ゆいちゃんが行くならもちろん行くよ」
「じゃあ、あの…ちょっと話出来ますか?」
「え………うん、もちろんだよ~」
何気ない会話だったが、彗は敏感に察知していた。今日の唯一は少し緊張していると。いつもつれなく、固い態度だが今日はちょっと違う。
(何これ……どっち?期待していいの?ダメな方?どっちだ……)
少し日が長引き始め帰宅の途に着いている人たちの頭上は赤く染まっている。赤々とした空は唯一の内面を体現しているようだ。その空をじっと見つめた後、唯一はバーに向かった。店に入ると彗は既に来ていた。
「来たね、ここだよ~」
努めて明るく手を振る彗はいつものようにソファー席に座っていた。唯一は軽く頷くとそこに行き隣に座った。これから自分が話す内容に緊張する。膝の上に置いている手はきつく握り拳をつくっていた。
「……どうしたの?大丈夫?」
「はい、大丈夫…です。あの……」
周りの音が気になる。
「あの……確か…ここって、個室が1個だけあったような気がするんですけど……」
「うん、あるよ。行く?空いてると思う」
「あ、お願い出来ますか?」
エスコートするように唯一の背中に軽く手を当てる彗。唯一に分からないようにしていたが、掌がじんわりと湿っていた。完全な個室というよりは他の席から少し離れて壁に3方向囲まれカーテンで閉められた、半個室の場所だ。それでも周りの喧騒は遮られた。
(まずい、これ、逆にもっと緊張するかも。だって僕の呼吸とか心臓の音とか聞かれないかな……)
壁をぐるりと見回した唯一が軽く深呼吸をする。彗は、唯一が落ち着かない様子でいると分かっていたが、あえて触れないでいた。彗も緊張していたからだ。
「話、あるんだったよね……聞いてもいいかな?」
「……は、い……あの……」
(どうしよう、今さら遅いってことないかな)
「前に、七海先輩が言ってたこと。なんですけど」
「俺?何言ってた?」
彗は誤解したく無かった。ちゃんとした言葉で聞きたかった。
「えーと……付き合うって……話です」
「っ…………うん」
(やっっぱり!!そうだよね、そうだと思ってたよ……なんだよこれ……バクバクするじゃん…)
「七海先輩、もしかしたら……この先、僕にガッカリするかもしれないんですけど、あの僕も……付き合いたいなって……思って……七海先輩と…」
「…………………………」
「あの?えーと七海先輩?」
(え?あれ?なんか……反応無いんだけど…)
「な、七海…先輩?」
「…………っやっば……」
彗の顔が見る見る赤くなってくる。
「どうしよ……」
「え……」
(あ、ダメだった……?)
「想像、以上に……嬉しい……」
「え?え…………あ…」
「ゆいちゃん!」
「はい」
両手をぎゅうっ握りこまれる。
「俺、めちゃくちゃ嬉しい!ヤバい、どうしよ…」
「は、はい」
「大事にするから、本当、大事にするから」
「はい…………」
「よろしくね?」
「う、は、はい…」
ぱっと手を離し、今度は両肩に手を置いて。
「ごめん、これは我慢できない」
ちゅっ
可愛らしいバードキスを一つ。
「可愛い。すげぇ可愛い」
「は、恥ずかしいんですけど…」
「他の誰も見ちゃダメだよ」
「…………僕のこと、こんなに想ってくれる人って…七海先輩以外にいないと思います」
「あ、それ。それだけ違う。彗だって」
「へ?まだ言ってたんですか?そんなこと?」
(えぇぇ~~~!!そんなことぉ?!)
「俺の夢だったのに…この可愛い口から彗って呼ばれるの……付き合ったら言ってもらおうと思ってたのに…」
「~~っ……す、す…い先輩」
「だあっヤバい!これヤバい!可愛すぎだっ」
「大袈裟ですよ……」
「違う!もぅいい加減自覚してくんないと俺心配で禿げるって!ゆいちは可愛いゆいちは可愛いゆいちは可愛い…分かった!?」
「暗示にでもかけようとしてますか?……もぅ分かりました。でも……いつも彗先輩と一緒にいるから大丈夫ですよね?」
「っ!!…………くそ~……ゆいちゃん……やっぱり小悪魔でしょ…」
めでたく2人は正式に付き合いだした。どうにも彗が振り回されていた。ゆっくりとした歩みだったが2人が同じ向きを向いていたので着実に愛を深めていった。彗は後に思った、皇輝はとんでもない男だと。初日で好きになった相手を抱けてしまうとは信じられない。本当に唯一のスマホを壊して良かったと心から思っていた。
が、実は彗は知らない。唯一はそのスマホの件だけはどうしても許せないでいることを
何わともあれ、幸せな時間を共有する2人だった。
[完]
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