クソに終わりクソに始まった世界でクソスキルを得た俺が正統派スキル持ちをトイレ送りにします(仮)

hane

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プロローグ

クソに終わりクソに始まる

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 ——これはクソだ。

 茶色と黒の混色。所々に毛あり。側面は少し乾き始めて白くなっている。きっと犬の糞だ。小型犬にしては太い気がする。中型犬くらいか。柴犬かな? あーこの辺りを散歩しているならいつも俺に向かってよく吠えるスピッツかもしれない。

 まあこれをひり出した犯人が誰であろうとどうでもいい。とにかくクソだ。糞だ。shitだ。

 あとは……アスファルトから生える雑草、綿毛を揺らすタンポポ。野次馬の靴。俺を轢いた車のミラー片。錆びた鉄の側溝(ON THE 犬の糞)、そこを流れ落ちていく俺の血——現在何リットル目よ?

 今思えば、なぜあんなに急いでいたのか。長い人生でたかが三年間の高校生活。一限目に遅れたくらいで死ぬわけじゃあるまいし。まあこれから死ぬみたいだけど。
 あーあんなフルで走るんじゃなかった。普通に歩いてれば、落ちてる猫の糞を躱しきれずに足を捻って車道に飛び出す——なんてことはなかったのに。改めて整理してみたが、悲しき死因だこと。

 しかし最後の光景に供えられたものが犬の糞とは。きっと成仏出来ねえな、俺。せめて人糞に……そっちの方が嫌か。

 ん? 微かに犬の鳴き声がする。やけに遠いが——と思ったら歩道に白い毛の塊が。
 驚いたが声は出ねえし、俺の身体のリアクション機能も既にあの世へ行っているらしい。ついでに聴力も絶賛昇天準備中。

 そろそろ視覚まで手を振り始めたが、丸出しになった犬の肛門は見える。

 この毛色、目の前で干からびようとしているクソの犯人はこのスピッツで正解だったようだ。
 そんなことどうでもいいが、今君は何をしようとしている? 側溝の上の糞を新鮮なものに取り替えるおつもりで?
 そんなお気遣い……ああ、やめろやめろ踏ん張るな。ああ! 出てる! 出てきてる!

 ——ああ、クソ。

 流れ落ちる俺の血の上に新鮮なクソが落ちた。
 ついで俺の意識も、側溝を流れ落ちる血と共に落ちていく。ああ視覚が死んだ。

 死の間際まで残る感覚は聴覚と聞いたことがあるが、それはマジらしい。暗闇のなか、近くにいるはずの犬が遠くで吠えている。

 ワンワン。俺にゃ犬語は分からない。

 ワンワン。最後に新鮮なクソをありがとう。クソ食らえ。

 ワンワン。ワンワン。ワンワン……————ああ、消えていく。


 俺の人生とクソまみれの朝が終わる。


◆◆◆◆◆◆


 ——ワンワン!! ワンワン!!

 は?

 超うるさいんですけど。

 名も知らぬスピッツよ、そんなに俺に何かを伝えたいのか? ……というより、何故聴覚が完全復活してる? 何か瞼の裏も眩しい。目が開けられる? 体勢は変わってないみたいだけど痛みもない。

 あの血の量、消えていく感覚。俺は確実に死んだはずだ。夢なんかじゃない。

 ははーん。さてはこれが死後の世界というやつですか。流れるように突入するんだな。まあとりあえず目を開こう。

「あ……」

 ——これはクソだ。

 茶色と黒の混色。毛はなし。湯気でも出そうなくらい艶々新鮮なやつ。推定二十センチ。ご立派。
 雑草だらけの石畳の上に鎮座するそいつは、鼻がひん曲がりそうな程の臭気を放ち俺の意識を覚醒させる。

「クッッセェ!」

 飛び起きた。飛び起きることができた。俺、生きてる。死んだけど生きてる。矛盾するが生きてるもんはしょうがない。
 学園の制服も事故る前のまま! 目も鼻も口も髪もある! 空気が吸える! 風が臭い!

「生きてる喜びを確かめているところ悪いが——」

「ッ……はい?」

 鼻の穴全開なの見られてた⁉︎——しかし見渡しても渋い声の主はいない。あるのは雑草と石畳と岩で作ったトーテムポールのようなものが八本くらい俺を囲うように建っているだけだ。なんだこの空間。

 あと、俺の後ろに犬がいた。

 あのスピッツではない。柴犬とブルドックを足して割ったような、なんともブサイクなあまり見たことのない犬種だ。ミックスだろう。お前だなこの悪臭の犯人は。

「よおワン公」

 しゃがんで顔をムギュッとやる。触り心地は柴犬。顔の造りはほぼブルドック。大人しく触られているが、不機嫌そうな目は何か言いたげな表情に見える。
 わしゃわしゃ撫でているとバフッっと声を出したので手を離す。

「なんだよ? 撫で方にご不満か?」
「そうだな。次は腹でも撫でてもらおうか、

 ブル柴はそう渋い声で喋り、不遜な表情のまま俺に腹を見せるのであった。

 ——俺を転生者君と呼んで。

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花雨
2021.10.13 花雨

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