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1章 棄てられたテイマー
26話:報告 ~ダークエルフ・シーリアの受難~
しおりを挟む「――ということで、族長、キョータローという人族は非常に危険な存在ですが、村に滞在させる価値はあります」
カシウスによってゴブリンキングに囚われたところからここまでのことを、族長であるお父様に説明したけれど、どうしてこんなことになっているの……。
「シーリアよ、カシウスの件はのちほど取り調べる。して、その人族は本当に信用できるのか?」
「は、はい。我らダークエルフ族のみならず、獣人族の娘たちにも分け隔てなく食料を分け与え、自由な振る舞いを許すなどの、寛容な様子を見せていることからも、族長たちが不安視する人族の面影はないかと……」
どうしてこんなときに限って、各氏族の族長様たちがいるのよ……。
お父様一人に報告するのだって辛いのに、他の族長さんたちにすっごい睨まれちゃってるし、早くこの場から出て行きたいわね……。
「あのウンディーネ様が共に行動し、ヴリトラをも従魔にした人族です。ここで追い払ってしまうと、逆に我らの身に危険が及ぶかもしれません……」
ベルカがフォローしてくれたけど、それはフォローになってないんじゃないかしら……。
ここで無下に追いやって、キョータローの恨みを買っちゃうのは避けたいわよね。
「別に大将はそんな怖い人族じゃないぜ! オレだって気安く話しかけられるし、悪い人族じゃねーよ!」
ジェニスちゃんは気楽でいいわよね……。
こっちの気も知らずにあんなズカズカと失礼な態度で話すなんて、私たちは生きた心地がしなかったわ……。
「ウンディーネ様と天災のヴリトラを従魔にしたとはとても信じられん。見間違いではないのか?」
ヴェルン氏族のラウ族長……。
そう思うなら是非自分で見てきて欲しいものだわ。
私だって未だに信じられないもの。是非その目で確認して、私たちと同じ目に遭ってもらいたいものね。
「だがもし事実であるなら、憑き物退治に利用できるのでは?」
チャイル氏族のペペ族長はキョータローを利用するつもりなのね。
ノーム様を崇拝する一族だけあって、ウンディーネ様のことは考えていないようね……。
ペペ族長、彼は油断できないわ。彼のせいでキョータローやウンディーネ様を怒らせて、この村が無くなっちゃったらどう責任を取るつもりなのかしら。
「おい! 大将を危険なことに利用するつもりか!?」
「ジェニス!」
「放せよベルカ!」
「憑き物のゴブリンキングを倒したのだろう? ならばその男に戦ってもらうのが、我らダークエルフ族にとって一番良いのではないかね?」
キョータローならやってくれるかもしれない……けれど彼を利用するような真似は絶対に避けるべきよ。
キョータローがよくても、ウンディーネ様がそれを良しとするかは別なんだから、そんな危ない賭けはできないわ。
「お言葉ですがペペ族長様、ウンディーネ様はキョータロー様を利用することを、決して許しはしないでしょう。ですので彼を利用するというお考えは改めて頂けますよう、お願い申し上げます」
私もベルカから聞いてなかったら、憑き物退治に利用するのもアリだと思ってたけど、ウンディーネ様がそれを許さないなら、やるべきじゃない最悪の手だわ。
「ではどうやって憑き物に対抗するか、代案はあるのかね?」
「そ、それは……」
あるわけないじゃない、そんな話……!
でもだからってキョータローを利用すれば、この村がウンディーネ様の怒りを買って滅ぶかもしれないのよ……!
もうどうすればいいのよ……。
「……」
「……」
お父様は黙ってるだけだし、ラウ族長もこっちを見てるし、もう誰か助けて……。
「だったら大将に頭下げてお願いすればいいだろ!」
「ジェニスッ、でもそれは……!」
「なんだよシーリア、こっちから心を込めてお願いすれば、きっと大将なら聞いてくれるぜ! それにオレだって一緒に戦うつもりだからな! 族長たちみたいに一方的に利用するわけじゃないし、きっと一緒に戦ってくれるはずだぜ!」
純粋なジェニスちゃんの頭には困るわね。結局言ってることはペペ族長と同じなのに、気づいていないのかしら。
私たちがキョータローを利用しようとすれば、ウンディーネ様はきっと見抜いてくるはずよ。
やっぱり彼に戦わせようとするのは危険過ぎるわ……。
「ジェニスの言う通り、こちらか誠心誠意お願いすれば、キョータロー様は話を聞いてくれるかもしれません。しかしウンディーネ様はそれをお見抜きになられるでしょう」
ベルカが代弁してくれたけど、空気は重いままだわ。
「ふぅむ……シーリア、そのキョータローという男は村に滞在したいのだろう?」
「は、はい、族長」
あまりキョータローたちを待たせるのも心苦しいし、早く決めてくれないかしら……。
「であれば、滞在を認め、様子を伺っていこうではないか」
「おとうっ……族長、よろしいのですね?」
「まずは会って話しを聞き、キョータローという人族を見定めたい」
「横から失礼。この地にきてから人族とは関りを持たなくなったが、この地に来る前のことをお忘れではないか? それに、もし従魔の件が事実であれば、余計に危険な存在であろう。その点をどうお考えか?」
「ラウ族長、我が娘シーリアたちが、人柄は問題ないと判断をした人族ですぞ。それに異世界の人族だと言うではないか。この世界の人族とは違うのかもしれないだろうし、あのウンディーネ様がお認めになった人族だ。儂は是非会ってみたいと考えている」
「「……」」
良かった、お父様は好意的な感じだわ。だけどラウ族長とペペ族長は難色を示してるわね……。
私たちは知らないけれど、過去にダークエルフ族と人族は、人族に騙され大勢のダークエルフの命を失い、大きな争いになったと聞いたことがあったわ。そしてその根は未だ深く残っているらしいけれど……。
だから人族を憎むペペ族長は、人族であるキョータローを使い潰すようなことを言い出したのでしょうね。
過去に人族と争ったと言っても、キョータローはこの世界の人族じゃないのよ。だから憑き物の話だって彼には関係ない話……だけど、私もキョータローの力はできれば借りたいと思ってる。
でもウンディーネ様の後ろ盾がある以上、迂闊にお願いなんてできないし……。
私たちはウンディーネ様を崇めている一族。
だからウンディーネ様を利用したり、ましてや欺くなんて真似、絶対にできないわ。
「いつまでも彼を危険な森の外で待たせる訳にもいくまい。呼んできてくれるか」
「分かったぜ! オレが呼んでくる!!」
「ちょっとジェニス!」
まだ話も終わってないのにあの子は……。そんなに彼が気に入ったのかしら?
私とベルカは……無理ね。確かに彼に興味はあるけど、どうしても恐怖が勝ってしまうわ。
ウンディーネ様もそうだけど、グラットンスパイダー、アサルトヒポポタマス、クイーンノーブルビー、アルゲンタヴィス、そしてトドメに天災のヴリトラ……これだけの魔物を従魔にした存在が、ただの人族なわけがない。異世界人はみんなこうなのかしら……。
ペペ族長の人族を憎んでいる問題もあるし、頭が痛くなってきたわ……。
はぁ……お気楽で怖い物知らずなジェニスちゃんが羨ましいわ。
あっ、そういえば、アレは大丈夫なのかしら……?
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