【完結】全ては王子の手のひらの上

天冨 七緒

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本題

レオナルド・ヴァン・ガランディオール

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 私は温室が荒らされた翌日から噂を確かめるべく、目撃者の平民のメイリーが一人となった時に探りをいれる為に近付くと相手の方から距離を詰めてきた。
 貴族令嬢とは違い表情豊かで、会話中よく手が動く。
 柔らかくしなやかな手の動きは女性らしさが強調され、つい視線で追ってしまう。

「レオナルド王子っ」

 入学し一時は利用するために頻繁に会話をする仲ではあったが、ファーストネームを呼んで良いと許可をした覚えはない。
 貴族令嬢では考えられないことだが、平民はファミリーネームを持たないのでファーストネームを呼ぶのに相手の許可が必要ということの意味を理解していないのかもしれない。
 貴族のファーストネームや愛称を呼べるのは家族や婚約者や親しい友人のみだ。
 平民の彼女にとっては誰かを呼ぶ時は、ファーストネームを呼ぶしかない環境で育った。
 現に彼女の名前もメイリーとファーストネームだけ。
 呼ぶとしたら「メイリー」としか呼べない。必要以上に親しくするつもりはないが、メイリーとしか呼べないので、勘違いされぬよう私は彼女を極力「君」と呼んでいる。
 
 ふと疑問に思った。彼女は以前からこんなに遠慮がなかっただろうか?

「最近、私の婚約者と何かあったと噂で聞いたんだが本当か?」

「大丈夫です…その…私がファルビアンクス様を怒らせてしまっただけなので…」

 私の名前を呼んだ時は満面の笑みだったのに、ファルビアンクスの話題になった瞬間彼女は表情を一変し、目には涙を浮かべている。

「…噂は本当なのか?」

「…それは…」

 私の質問に応えず口元に手をやり視線を逸らした。
 彼女の反応では噂を肯定しているように取れるが、ハッキリと言葉にしたわけではない。

「私に隠す必要はないし、令嬢に対して怯える必要もない。本当の事を教えてくれ」

 平民の彼女が王族の私にウソを吐く事はないだろう。
 ファルビアンクスを陥れる計画だったとしても、公爵令嬢にあらぬ疑いを掛ければどうなるかぐらい子供でも分かる。
 私は、彼女がなんて説明するのか待った。

「噂は…私も正確には分かりませんが…本当ではないと…思います」

「ハンカチを届けたら払い除けられ暴言を吐かれた、と聞いたが間違いなのか?」

「違うんです。あの方が落としたハンカチを…平民の私が触れてしまった事で…気分を害してしまったんだと思います」

 今の令嬢なら、ハンカチを拾ってくれた人間に怒るような人柄とは思えない。
 それともあの令嬢の体に入り込むような人間だ、私の知らない令嬢の裏の顔があるのかもしれない。
 令嬢を疑いたくないが、完全に信じるのも…
 それと、もうひとつの可能性も忘れてはいけないのが、目の前の彼女が私に嘘を吐いているということも…

「…令嬢のハンカチを拾っただけでか?」

「…はぃ」

「他には、私物の破損があったと聞く」

「…違うんです。偶然です。私の私物が壊れた時に偶然あの方が傍にいただけで…」

 …偶然傍にいた…

「なら、令嬢は関係ないんだな?」

「…っ…」

 私が断言して尋ねると、彼女は視線を逸らすだけで何も応えない。

「転んだとも聞いたが?」

「それは…きっと…私の不注意で…あの方が私の傍に居たのは…たまたま…だと…」

 彼女は明言こそしていないが、どの説明を聞く限り令嬢が彼女に対して何か仕掛けているように取れる。
 本人は気付いているのかいないのか。
 それとも敢えて気付かないようにしているのか。
 何か起こる時は令嬢が偶然傍にいると言っている。
 そう「偶然」を強調している。
 令嬢を犯人にしたくないのか、犯人だと断言した後の事を考え曖昧にしているのか…
 たが、本当に彼女の前方不注意だったりで転んだ時に偶然令嬢がいたという可能性もなくはない。
 本人が気付いていないだけで、普段から注意力散漫で物を壊してしまったり転ぶことも日常的にあると言うことも…
 ただ、気になるのは話す時に彼女は胸の前で手を重ね、震える仕草をしている。
 まるで何かに怯えているように…
 これてはまるで…

「花が荒らされた前日、温室から出てくる令嬢の姿を目撃したというのは本当か?」

「はい、見ました」

「それは何時だ?」

「えっと…放課後?だったと思います」

「…放課後か…」

 昼休みと応えてくれたら犯人が令嬢ではないと断言できたんだが、放課後では犯行時のアリバイがない。
 私は気付いていないが、令嬢が犯人ではない証拠を探すようになっていた。

「何故温室から出てくる令嬢を目撃したんだ?君は放課後よく温室に行くのか?」

「…はぃ。その…こっそり花のお世話をしていました…」

 …花の…世話?

「…一人で…世話をしているのか?」

 温室の花の管理は教師のリルコットの許可必要なのは、多くの生徒が知っている。
 リルコットの婚約者の座を狙う令嬢以外もだが、学園に三年も通っていて知らないという生徒は温室に興味の無い人間だけだろう。

「はい。あの子達は私が大切に育てた花だったんです」

 花を荒らされ悲しむ姿や、自称自分が育てた大切な花の事を「あの子達」という姿に嫌悪が芽生えたが、私は温室の花を荒らした犯人が令嬢ではないと確信する。
 彼女はただ令嬢を陥れたいだけで嘘を吐いたのか、それとも犯人は自分だが令嬢に罪を擦り付けたのか。
 それでも私は自分でも気が付かぬうちに笑みが溢れていた。
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