短編集

天冨 七緒

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強制力という運命なら、私は邪魔をしない

強制力という運命なら、私は邪魔をしない 三

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 婚約者として、初めての対面をしている。
 王子はゲーム通り、この婚約に前向きではない様子。
 王族と言う立場で見られ、近寄ってくれる令嬢達に辟易。
 ゲームでのクリスティンもその一人だった。
 公爵令嬢という立場で他を蹴散らし一際目立つ存在。
 現実ではそんな事をしていない。
 それでも私の事を、王族との婚約を狙う貴族令嬢として見ているに違いない。
 そんな二人なので、互いに名乗ると会話がない。
 あからさまに不機嫌な態度を取られると、こちらも距離を縮めようとは思わない。
 どうせ、この婚約は破棄となるのだから。

「では、次は来月。問題ないか?」

「はい」

 ほとんど話さない婚約者の対面は終わり、定期的に行われる婚約者との面談予定を確認し見送る。
 どんなに不満があったとして、私達の婚約を最終的に判断したのは王。
 異議を唱えることは出来ない。

「……はぁ、終わった」

 義務的に王子を見送る。

「……あの方と婚約したのですね」

「ひゃっ」

 いつの間にかカールハイツが横に。
 最近では遭遇する事が減っていたので、油断していた。

「お嬢様?」

「えっえぇ……ところで、貴方の恰好は何かしら?」

 今のカールハイツは使用人の恰好ではない。

「旦那様に許可を頂き、お嬢様の護衛が出来るよう訓練しています」

 以前、私が安易に『護衛騎士の方が~』と口にしてしまった事で護衛騎士を目指すようになったのだろうか?
 それで本当に護衛騎士を目指したりするもの?
 もしかして、私が呟いたのを『命令』と受け取ったのだろうか?

「護衛騎士なんて、やりたくなければしなくていいのよ」

「お嬢様は、俺が護衛騎士になる事はお嫌ですか?」

「えっ? そういうわけではなく、私の言葉で嫌々訓練しているのなら無理にする必要はないのよ……」

「……護衛騎士は俺の意志です」

「……そう」

 カールハイツとの会話を打ち切りその場を一度は立ち去ろうと歩き出すも、足を止めた。
 私が王子との婚約が決定した時期に、カールハイツは主人公と出会っていたはず。
 私のワガママで、人気のお菓子が食べたいから買ってきてと指示を……

「あっ……」

 お使いに出させてない。
 なら、カールハイツは主人公と出会ってない?
 恐る恐る振り向くと、私を睨みつけるようカールハイツが立っている。
 尋ねようと思ったが、その姿に言葉を飲み込んだ。
 強制力があるのなら、私でなくてもきっと誰かが街に行く用事を与えたはず。
 きっと、二人は出会っているに違いない。
 そこで私が主人公の存在に気が付いたとカールハイツに知られたとなれば、面倒な方向に物語が進むのではないかと脳裏を過る。

「お嬢様?」

「……なんでもないわ」

 何も聞かず立ち去った。

「本日の護衛を担当します、カールハイツです」

 彼は能力が認められ、本当に護衛騎士となった。
 あの時『騎士に~』と言わなければ、一緒に行動する事は無かったのに……
 主人公の攻略対象者達とは接点なく距離を置きたいのに、王子は真面目に婚約者との定期訪問に訪れる。
 ゲームでは理由を付けて三度に一度しか来なかったはずなのに。
 私が追いかけないので、避ける必要がないと判断したのかもしれない。
 幼馴染のサンフォードは、私を通して王子と親密になりたいのか我が家への訪問が多くなり情報収集をしていく。
 そして従者のカールハイツは、私の護衛騎士となり移動の際は彼が常に傍にいる。
 それだけじゃない、王子やサンフォードが訪れるとカールハイツも同席する。
 攻略対象が三人いる空間は居心地が悪い。
 これでも行動には細心の注意をはらっているというのに。
 こんな生活を数年。
 
「クリスティン。来週には学園に入学だな」

 父は私に興味はない。
 あるのは、王子の婚約者である娘だけ。

「はい」

「お前の事だ、心配はしていない」

 ゲームが始まろうとしている。
 入学式に王子は主人公と出会いを果たし、親密になっていくのを目撃。 
 私は嫉妬しカールハイツに指示して嫌がらせをはじめ、サンフォードに証拠を握られてしまう。
 そして卒業パーティーで断罪される……

「始まるのか……」

 未来を知っているので、私は主人公の邪魔をしない。
 攻略対象者とも変に親密にもなっていない。

「皆さん、入学おめでとう」

 私は入学式を迎えている。
 学園長の挨拶を聞きながら、今日主人公が王子と出会いを果たすのかと考えていた。 
 二人に関わりたくないので、出会いを見に行くこともしない。
 私はゲームの展開を邪魔せず、追放・後妻エンドを向かえない。
 主人公が攻略対象の三人と関係を持ったとしても、私は咎めたりはしない。
 ハーレムだろうと築けばいい。

「クリスティン様、男爵令嬢がフィリベール王子と親しくしているようなのですよ」

 私の為なのか、私を悪者にして彼女を排除しようとしているのかわからないが令嬢達は私に主人公の様子を伝えてくる。
 
「そう、学園は多くの者との交流を深める場だからいいのではなくて?」

 私が期待する返答をしないと彼女達は引き攣ったような笑みを見せ退散する。
 その後、私に進言してきた彼女達は王子に付きまとうようになっていた。

「クリスティン。最近令嬢達に何か言ったのか?」

 王子が私のところまでやって来た。
 学園に入学してから婚約者の月に一度のお茶会はなくなったので、彼と会うのは久しぶり。

「私が……ですか?」

「婚約者であるクリスティンには許可を得たと言って、令嬢達に付きまとわれている」

「どうしてそうなったのか分かりませんが、思い当たる事なら一つ」

「何だ?」

「令嬢達から王子の交友関係について確認を求められたので、学園では身分関係なく交流を取るべき……のような発言を致しました」

「どうしてそのように?」

「確か……『特定の女性と王子が親密だとかで忠告すべきでは? 』と問われたので、そう答えました」

「婚約者であれば、他の令嬢を牽制するべきじゃないのか?」

 王子は令嬢に付きまとわれ、自身の想い人との時間を奪われている腹いせを私にしているのだろう。

「他の令嬢を牽制となると、王子が親しくしている女性にも忠告しなければなりません」

「彼女は友人だ」

 主人公との時間を割かれるのが嫌で、他の令嬢は婚約者である私が『排除せよ』という事か……

「私は王子が誰と親密になろうと構いませんが、他の者からすると彼女は良くてどうして自分は許可されないのか不満に感じるかと……」

「私が彼女と親しくしても君は構わないのか?」

「はい」

 ここで、私は二人の邪魔をするつもりは無いと宣言。

「……そうか。なら、私は彼女と距離を置く」

「そこまでする必要はないかと」

 そうなると、私が主人公との仲を引き裂いたように見えないだろうか?

「誤解を受けないためだ。あの従者……いや、なんでもない」

 誤解で彼女を傷付けたくないってことね……
 従者とは、カールハイツの事だろうか?
 フィリベールは控えたのだから、私も従者だが平民との接触を控えろといいたかったのだろう。
 それは私も望んでいる。
 数日後、王子の周辺に女子生徒の姿はなくなった。

「カールハイツ、今後は私に付き従う必要は無いわ」

「それは……」

「学園では、貴方も普通の生徒のように振舞いなさい」

 私から離れ、主人公との時間を与えた。
 学園が休みの日にも、カールハイツではなく別の護衛騎士を指名。
 私はカールハイツと距離を置くようにした。

「クリスティン様ですよね?」

 私を呼び止めた人物は、今まで一切接点のない主人公だった。

「私がクリスティンよ。失礼ですが、貴方は?」

「私の事、知りませんか?」

「申し訳ないけど、わからないわ」

「……そうですか。私の名前はティルザ・アマースト。カールから聞きました。突然仕事から外されたと」

「カール? カールハイツの事かしら?」

 もう、主人公はカールと呼んでいるのか。

「そうです」

「彼にも学園では普通の生徒のようにしてほしかったからよ」

「学園だけでなく、護衛騎士を外されたと。それって、私が関係していますよね? 私と親しいから。それだけじゃない、フィルにもおかしなことを言ったでしょ。彼、最近私と距離を置くようになったわ」

 フィル? 
 もう、王子も攻略済みだったの?
 早い。

「貴方の話をしたことは一度も無いわ」

「嘘よ。私が二人と仲がいいのか気に入らなくて嫌がらせしたに決まっているわ。私はそんな嫌がらせに屈しないわ」

 私としては、嫌がらせに繋がるような事はしていないんだけど……
 この世界ではどうしても、そう繋がってしまうのね。

「アマースト」

 慌てた様子でカールハイツが登場。

「カール」

「何している? 」

「私、カールの為に……」

 カールハイツは私を確認しつつ彼女の肩を抱く。

「お嬢様。彼女はただの友人です」

「……そう」

 カールハイツは言い訳するように私に告げる。
 平民にオモチャを奪われたゲームの私であれば、主人公に怒りを向けただろう。
 今の私は二人に興味がないよう、何も告げず背を向け立ち去る。

「待ってください。どうして俺を仕事から外したんですか?」

「私は婚約したの。護衛騎士とはいえ、勘違いされないための配置換えよ。仕事は他にもあるでしょ」

「婚約して何年も経つのに、急にどうして」

「学園では多くの目があるからよ」

「違いますよね。私がカールと仲がいいのが許せないんでしょ」

 私とカールハイツの会話に主人公が割って入る。

「許せなければ、学園に通わせず屋敷に縛り着けておけばいいのではなくて?」

「私に見せつけたいのよ、カールは自分の物だと」

「では、カールハイツ。貴方を解雇するわ」

「「えっ」」

 私の提案に二人は驚く。

「ま……待ってください。どうしてですか?」

「当然です。貴方にとって何気ない会話かもしれないけど、公爵家の内情を簡単に話すような人間は信用できないわ」

 私からの信用などいらないだろう。
 彼は、私よりも主人公と一緒にいたいだろうし。

「私への嫌がらせは、私にすればいいじゃない。カールを解雇だなんて卑怯よ」

「この措置は嫌がらせでもなんでもないわ。カール。貴方は使用人として仕える屋敷の情報を安易に漏らした。これは正当な解雇理由よ」

「そんな……」

 再びカールハイツに解雇通告をする。
 私は二人を置き去りにした。
 後方で『私の屋敷に来て』と会話が聞こえたので、カールハイツは愛しい主人公の元へ向かうだろう。
 彼の今後を私が心配する必要は無い。
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