【完結】浮気や愛人が許される世界に転生。皆が私に期待する

天冨 七緒

文字の大きさ
11 / 63

婚約者

しおりを挟む
 本気のかくれんぼ終了。
 勝者に賞金を分配、手元に残った金貨は六枚。
 その金貨を手に町に出た。
 この世界に来て町に出るのは初めて。
 三人を発見できなかったことは忘れ、町の雰囲気を楽しむ事にした。
 町の入り口までは馬車で移動し、人通りが多くなる前に降車。 

「あの店は何? 」

「皮製品の店です」

「あの店は? 」

「外国製品を取り扱っている店です」

 その後も疑問に思う度に質問を続ける。
 
「あのポスターは? 」

「今話題の演目です」

「それって、どんな話? 」

「恋愛ものですね。身分違いの二人が困難を乗り越える話です」

「……観たいかも」

「観に行きますか? 」

「行くっ」

 初めての劇場の雰囲気に興奮しながら演目を楽しむ。
 人知れぬ二人の想いに同調していつの間にが二人を応援していた。
 途中、二人を引き裂くような困難が立ちはだかるも二人は二人でいることを選ぶ。
 それでも避けられぬ選択を迫られ追い詰められていく。
 運命は簡単に二人を幸せにはさせてくれないらしい。
 その頃には完全に物語にのめり込み、手を握りしめながら二人を応援していた。
 そして物語の最後は……

「はぁ……あんな終わりだったとは……」

「予想外の展開でしたね」

「うん……ん? 」

「どうしました? 」

「あの人……」

「あっ……アンダーソン伯爵令息ですね」

「だよね、隣にいるのは……」

「……エヴァリーン・マルティネス伯爵令嬢です」

 公爵家の使用人のマキシー。
 貴族の顔と名前は一通り把握している。

「二人の関係って……」

「どう……でしょう……」

 マキシーの反応は誤魔化しているが、誰が見ても二人は親密に見える。
 腕を組み、互いの顔の距離が近すぎる。
 そして、観たこともないアンダーソンの蕩けきった表情。

「恋人でしょう」

「あっ……」
 
 私が断定すると、マキシーは気まずい表情。
 
「もしかして……知ってた? 」

 マキシーを試しているわけではないが、そうなってしまった。
 彼女は瞬きを繰り返すも、返事はない。
 その反応は肯定しているも同然なのに……
 私を気遣ってくれているのだろう。

「いつからなのか分かる? 」

「……お嬢様と……婚約する前から親しい知り合いだったようです。関係が始まったのは……婚約後かと……」

 確かに、私達が婚約したのは子供の頃。
 その時から付き合っていたのではなく、淡い恋心だったのかもしれない。
 もしかしたら、お互いの気持ちに気付いていなかった可能性も……

「そんな相手がいる男性と婚約? どうして私はそんな人を選んだのかしら? 」

 親しい相手がいると知りながら奪ったのか、知らずに婚約してしまったのか……

「顔です」

 沈黙していたのに、その答えには即答するマキシー。
 顔……
 確かに彼は人の好みはあるだろうが、悪くないと思う。
 だけど今の私からすれば、彼よりキングズリー先生の方が顔も好みだし妖艶で大人の魅力を持っていて素敵に見える。
 幼い私は彼の顔だけを見て婚約者に望んでしまったのか……
 顔は……大事ですよね。

「そう……なんだぁ……」

 マキシーの言葉に、彼の顔を思い出すも『信じられない』という気持ちが隠しきれなかった。

「お嬢様は覚えていらっしゃらないと思いますが、あの頃のアンダーソン伯爵令息は本当に美しかったんです。髪も金色に近く、まるで天使ではないかと言われておりました……」

 熱弁するマキシーだが、失礼な事を言っているのに気が付いているのだろうか?
 マキシーはのアンダーソン伯爵令息と断定している。
 昔は可愛かったが、成長した今は……
 幼い頃は髪も繊細で明るい色だったのが、成長するにつれて黒くなることってありますよね……
 今の彼の髪色は誰がどう見ても茶色い。
 私の方が輝く金髪で美しいと言えるし、連れていた令嬢は柔らかいピンク色で彼女の方が目を惹いていた。

「そっか……私は……彼に恋人がいる事を知らなかったの? 」

「お嬢様は、そういう些細な事を詮索する方ではありませんでした」

 些細……
 それは彼の心に興味がなかったのか、自分に自信があったのか、爵位を考え彼がそんな行動に出ることは出来ないと思っていたのか……
 理由がどうであれ、この婚約が不幸せであることは間違いない。
 二人を目撃しなかったことにして、私は静かにその場を離れる。 
しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

行き倒れていた人達を助けたら、8年前にわたしを追い出した元家族でした

柚木ゆず
恋愛
 行き倒れていた3人の男女を介抱したら、その人達は8年前にわたしをお屋敷から追い出した実父と継母と腹違いの妹でした。  お父様達は貴族なのに3人だけで行動していて、しかも当時の面影がなくなるほどに全員が老けてやつれていたんです。わたしが追い出されてから今日までの間に、なにがあったのでしょうか……? ※体調の影響で一時的に感想欄を閉じております。

婚約者と家族に裏切られたので小さな反撃をしたら、大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 コストール子爵令嬢マドゥレーヌ。彼女はある日、実父、継母、腹違いの妹、そして婚約者に裏切られ、コストール家を追放されることとなってしまいました。  ですがその際にマドゥレーヌが咄嗟に口にした『ある言葉』によって、マドゥレーヌが去ったあとのコストール家では大変なことが起きるのでした――。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果

柚木ゆず
恋愛
※4月27日、本編完結いたしました。明日28日より、番外編を投稿させていただきます。  姉マリエットの宝物を奪うことを悦びにしている、妹のミレーヌ。2人の両親はミレーヌを溺愛しているため咎められることはなく、マリエットはいつもそんなミレーヌに怯えていました。  ですが、ある日。とある出来事によってマリエットがミレーヌに宝物を全てあげると決めたことにより、2人の人生は大きく変わってゆくのでした。

婚約者が妹と婚約したいと言い出しましたが、わたしに妹はいないのですが?

柚木ゆず
恋愛
婚約者であるアスユト子爵家の嫡男マティウス様が、わたしとの関係を解消して妹のルナと婚約をしたいと言い出しました。 わたしには、妹なんていないのに。  

処理中です...