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婚約者
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本気のかくれんぼ終了。
勝者に賞金を分配、手元に残った金貨は六枚。
その金貨を手に町に出た。
この世界に来て町に出るのは初めて。
三人を発見できなかったことは忘れ、町の雰囲気を楽しむ事にした。
町の入り口までは馬車で移動し、人通りが多くなる前に降車。
「あの店は何? 」
「皮製品の店です」
「あの店は? 」
「外国製品を取り扱っている店です」
その後も疑問に思う度に質問を続ける。
「あのポスターは? 」
「今話題の演目です」
「それって、どんな話? 」
「恋愛ものですね。身分違いの二人が困難を乗り越える話です」
「……観たいかも」
「観に行きますか? 」
「行くっ」
初めての劇場の雰囲気に興奮しながら演目を楽しむ。
人知れぬ二人の想いに同調していつの間にが二人を応援していた。
途中、二人を引き裂くような困難が立ちはだかるも二人は二人でいることを選ぶ。
それでも避けられぬ選択を迫られ追い詰められていく。
運命は簡単に二人を幸せにはさせてくれないらしい。
その頃には完全に物語にのめり込み、手を握りしめながら二人を応援していた。
そして物語の最後は……
「はぁ……あんな終わりだったとは……」
「予想外の展開でしたね」
「うん……ん? 」
「どうしました? 」
「あの人……」
「あっ……アンダーソン伯爵令息ですね」
「だよね、隣にいるのは……」
「……エヴァリーン・マルティネス伯爵令嬢です」
公爵家の使用人のマキシー。
貴族の顔と名前は一通り把握している。
「二人の関係って……」
「どう……でしょう……」
マキシーの反応は誤魔化しているが、誰が見ても二人は親密に見える。
腕を組み、互いの顔の距離が近すぎる。
そして、観たこともないアンダーソンの蕩けきった表情。
「恋人でしょう」
「あっ……」
私が断定すると、マキシーは気まずい表情。
「もしかして……知ってた? 」
マキシーを試しているわけではないが、そうなってしまった。
彼女は瞬きを繰り返すも、返事はない。
その反応は肯定しているも同然なのに……
私を気遣ってくれているのだろう。
「いつからなのか分かる? 」
「……お嬢様と……婚約する前から親しい知り合いだったようです。関係が始まったのは……婚約後かと……」
確かに、私達が婚約したのは子供の頃。
その時から付き合っていたのではなく、淡い恋心だったのかもしれない。
もしかしたら、お互いの気持ちに気付いていなかった可能性も……
「そんな相手がいる男性と婚約? どうして私はそんな人を選んだのかしら? 」
親しい相手がいると知りながら奪ったのか、知らずに婚約してしまったのか……
「顔です」
沈黙していたのに、その答えには即答するマキシー。
顔……
確かに彼は人の好みはあるだろうが、悪くないと思う。
だけど今の私からすれば、彼よりキングズリー先生の方が顔も好みだし妖艶で大人の魅力を持っていて素敵に見える。
幼い私は彼の顔だけを見て婚約者に望んでしまったのか……
顔は……大事ですよね。
「そう……なんだぁ……」
マキシーの言葉に、彼の顔を思い出すも『信じられない』という気持ちが隠しきれなかった。
「お嬢様は覚えていらっしゃらないと思いますが、あの頃のアンダーソン伯爵令息は本当に美しかったんです。髪も金色に近く、まるで天使ではないかと言われておりました……」
熱弁するマキシーだが、失礼な事を言っているのに気が付いているのだろうか?
マキシーはあの頃のアンダーソン伯爵令息と断定している。
昔は可愛かったが、成長した今は……
幼い頃は髪も繊細で明るい色だったのが、成長するにつれて黒くなることってありますよね……
今の彼の髪色は誰がどう見ても茶色い。
私の方が輝く金髪で美しいと言えるし、連れていた令嬢は柔らかいピンク色で彼女の方が目を惹いていた。
「そっか……私は……彼に恋人がいる事を知らなかったの? 」
「お嬢様は、そういう些細な事を詮索する方ではありませんでした」
些細……
それは彼の心に興味がなかったのか、自分に自信があったのか、爵位を考え彼がそんな行動に出ることは出来ないと思っていたのか……
理由がどうであれ、この婚約が不幸せであることは間違いない。
二人を目撃しなかったことにして、私は静かにその場を離れる。
勝者に賞金を分配、手元に残った金貨は六枚。
その金貨を手に町に出た。
この世界に来て町に出るのは初めて。
三人を発見できなかったことは忘れ、町の雰囲気を楽しむ事にした。
町の入り口までは馬車で移動し、人通りが多くなる前に降車。
「あの店は何? 」
「皮製品の店です」
「あの店は? 」
「外国製品を取り扱っている店です」
その後も疑問に思う度に質問を続ける。
「あのポスターは? 」
「今話題の演目です」
「それって、どんな話? 」
「恋愛ものですね。身分違いの二人が困難を乗り越える話です」
「……観たいかも」
「観に行きますか? 」
「行くっ」
初めての劇場の雰囲気に興奮しながら演目を楽しむ。
人知れぬ二人の想いに同調していつの間にが二人を応援していた。
途中、二人を引き裂くような困難が立ちはだかるも二人は二人でいることを選ぶ。
それでも避けられぬ選択を迫られ追い詰められていく。
運命は簡単に二人を幸せにはさせてくれないらしい。
その頃には完全に物語にのめり込み、手を握りしめながら二人を応援していた。
そして物語の最後は……
「はぁ……あんな終わりだったとは……」
「予想外の展開でしたね」
「うん……ん? 」
「どうしました? 」
「あの人……」
「あっ……アンダーソン伯爵令息ですね」
「だよね、隣にいるのは……」
「……エヴァリーン・マルティネス伯爵令嬢です」
公爵家の使用人のマキシー。
貴族の顔と名前は一通り把握している。
「二人の関係って……」
「どう……でしょう……」
マキシーの反応は誤魔化しているが、誰が見ても二人は親密に見える。
腕を組み、互いの顔の距離が近すぎる。
そして、観たこともないアンダーソンの蕩けきった表情。
「恋人でしょう」
「あっ……」
私が断定すると、マキシーは気まずい表情。
「もしかして……知ってた? 」
マキシーを試しているわけではないが、そうなってしまった。
彼女は瞬きを繰り返すも、返事はない。
その反応は肯定しているも同然なのに……
私を気遣ってくれているのだろう。
「いつからなのか分かる? 」
「……お嬢様と……婚約する前から親しい知り合いだったようです。関係が始まったのは……婚約後かと……」
確かに、私達が婚約したのは子供の頃。
その時から付き合っていたのではなく、淡い恋心だったのかもしれない。
もしかしたら、お互いの気持ちに気付いていなかった可能性も……
「そんな相手がいる男性と婚約? どうして私はそんな人を選んだのかしら? 」
親しい相手がいると知りながら奪ったのか、知らずに婚約してしまったのか……
「顔です」
沈黙していたのに、その答えには即答するマキシー。
顔……
確かに彼は人の好みはあるだろうが、悪くないと思う。
だけど今の私からすれば、彼よりキングズリー先生の方が顔も好みだし妖艶で大人の魅力を持っていて素敵に見える。
幼い私は彼の顔だけを見て婚約者に望んでしまったのか……
顔は……大事ですよね。
「そう……なんだぁ……」
マキシーの言葉に、彼の顔を思い出すも『信じられない』という気持ちが隠しきれなかった。
「お嬢様は覚えていらっしゃらないと思いますが、あの頃のアンダーソン伯爵令息は本当に美しかったんです。髪も金色に近く、まるで天使ではないかと言われておりました……」
熱弁するマキシーだが、失礼な事を言っているのに気が付いているのだろうか?
マキシーはあの頃のアンダーソン伯爵令息と断定している。
昔は可愛かったが、成長した今は……
幼い頃は髪も繊細で明るい色だったのが、成長するにつれて黒くなることってありますよね……
今の彼の髪色は誰がどう見ても茶色い。
私の方が輝く金髪で美しいと言えるし、連れていた令嬢は柔らかいピンク色で彼女の方が目を惹いていた。
「そっか……私は……彼に恋人がいる事を知らなかったの? 」
「お嬢様は、そういう些細な事を詮索する方ではありませんでした」
些細……
それは彼の心に興味がなかったのか、自分に自信があったのか、爵位を考え彼がそんな行動に出ることは出来ないと思っていたのか……
理由がどうであれ、この婚約が不幸せであることは間違いない。
二人を目撃しなかったことにして、私は静かにその場を離れる。
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