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不穏な空気
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数週間が過ぎ、バイトにも慣れ始めた。
「シャーリン、次の休み俺と食事でもどう? 」
ここで働くようになって、男性に誘われる経験をしている。
食事に誘われたり、花をくれたりする。
最初の頃は誰かに誘われる経験なんてしたことがなかったので、交わし方を知らずマキシーや女店主に庇ってもらっていた。
最近は笑顔で断る技を覚えた。
「恋人いないんだろ? 」
働き出して数日、私を誘ってくれる人が数名現れた。
その中で、いくら断っても諦めない積極的な人物が目の前にいる彼。
「ここにはいませんね」
どこにもいないけど……
「なら、ずっとここにいたらいい」
彼はテオバルドと言い、自身の見た目が女性に人気なのを知っている。
この辺りでも有名なんだとか。
彼の良いところは、私を口説くが一定の距離を開け触れてこない事。
それに、過去に恋人はいたが今はフリーで浮気などは嫌うらしい。
以前の恋人が彼と付き合いながら、男爵令息とも関係があったそうで彼の方から別れを切り出したというのはこの辺りの人なら誰でも知っている事なんだとか。
彼に別れを告げられた女性は、泣いて縋りついているのを男爵令息に目撃され彼にも愛想を尽かされ二人に捨てられたそうだ。
一時は町全体がその話題で持ち切りだったと聞く。
私は女店主からその話を聞いた時、彼には同情? 好感が持てるとは思った。
「……一度くらいなら? 」
この時の私は軽い気持ちだった。
敢えて言うなら、領地でのひと夏の思い出くらいにと……
「おっいいの? やった」
「お嬢っ……駄目です」
私達の会話を聞いていたマキシーが慌てて断る。
「お姉さん、妹さんに無理やり手を出すつもりはありません。合意ならいいですよね? 」
「合意でもよくありませんっ」
テオバルドと言う人は私よりもマキシーとの掛け合いの方が楽しそうに見える。
こういう人って、案外マキシーと……
「んで、いつ休み? 」
「明後日……ですかね? 」
「分かった、明後日ね。何時にしよっか? 」
「お昼で」
「お昼にどこに迎えに行けばいい? 」
「ここで」
「家は教えられないって? わかった。明後日のお昼にここで。じゃぁっ」
彼の良いところは、しつこくないところ。
嫌だなって感じ取るとすぐに引いてくれる。
「……本当にいいんですか? 」
「いいんじゃないかな? 一度ご飯に行ったら諦めてくれるでしょ」
「お嬢様……一度行ってしまうと可能性を感じるものなんです」
「……そうなの? 」
「はい」
知らなかった。
「……どうしよう」
「知りません」
「マキシー」
怒ったマキシーはそれから口きいてくれなかった。
「……アイゼンハワー? 」
「ん? 」
聞き覚えぼある声に振り向く。
「やっぱり、お前か。何してるんだっ」
「先生? どうしてここに? 」
「私はここで新たな鉱石が発掘されたと聞き分析・検査に来た。それよりお前はここで何しているんだ? 」
鉱石?
キングズリーって、鉱石に興味あるんだ……
意外。
「えぇっと……社会勉強です」
「社会勉強? 」
分かりやすく疑われてる。
「こちらで、働かせていただいております」
「働いて……いるのか? 」
貴族が働いているというのは珍しく信じられないのだろう。
自身の家門の系列などではなく、全く関係のない平民の元でなんて尚更だ。
「はい」
「……公爵は許しているのか? 」
当然の質問だ。
「もちろん」
私は胸を張って答える。
「……休暇中だから何も言わないが、無茶はするなよ」
「はいっ」
まさか領地でキングズリーに会うとは思わなかった。
しかも私がバイトしているところに……
食事をしに来たお客なので接客するが、知り合いが来ると調子が狂う。
「……そういえば、先生はあの子と観劇に行ったのかな? 」
忘れたいことを思い出してしまった。
翌日もキングズリーに警戒していたが、裏を返すと来てくれるのではないかとほんの少し期待しながら働いていた。
「シャーリン」
……キングズリーの事を忘れさせてくれる相手が現れた。
「……いらっしゃいませ」
一呼吸置いて、お客を出迎える。
「俺の名前覚えてくれた? 」
「……ん」
覚えたくないが覚えてしまった。
それでも言いたくない。
「リアムだよ、リ・ア・ム」
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
さっさとこの男から離れたい。
「これっ、プレゼント」
「……花束……私にですか? 」
男は花束を真面々の笑みで差し出す。
「そっ、君に。プレゼント」
「お断りします」
「どうして? 君に似合う花を選んだんだ」
「この花の意味は? 」
「花言葉ってこと? 」
「違います。花束を貰って終わりならそれでいいです。それ以上はお断りです」
「今度一緒に観劇にでも行かない? 」
軽薄そうに誘う男。
慣れた仕草は誰にでもしているのだろうと見える。
今は私だが、来週には別の女性を口説いているに違いない。
「お断りです」
「なら、ご飯は? 」
「遠慮します」
「仕事、もうすぐ終わりだろう? 俺が送るよ」
「結構です、姉と一緒なので」
「女二人でも不安だろう? 」
「問題ありません、兄が一緒なので」
エイジャックスの友人が兄という設定なので、それに乗っかった。
「ずっと、お姉さんとお兄さんと一緒に暮らす事も出来ないだろう? 少しくらい俺との時間作ってよ。俺、結構いい男だよ? 」
リアムは確かに整った顔立ちをしている。
テオバルドとは違ったタイプの男性で、少し強引なところを見ると自身が女性に人気なのを知っている様子。
私の好みではないが。
御覧の通り彼はしつこく、こちらの許可なく手や肩に触れようとするのが気持ちわ……好感が持てない。
仕事中なので一人の客だけを接客しているわけにもいかず離れたいのに、手首を掴まれる。
「ちょっとリアム、仕事の邪魔するんじゃないよ」
私が男性にちょっかいを掛けられていると気が付いた女店主が助けてくれた。
「はぁい。花束はプレゼント受け取って。これじゃ飯食べられないし」
「……はい」
仕方なく花束を受け取り、店の片隅に飾った。
花束は捨てるのも可哀想だし屋敷に持って帰るのも嫌だったので、もう一度言うが仕方なく飾った。
「アイゼンハワー、毎回あんなのに絡まれているのか? 」
「ひゃっ……先生……いらっしゃいませ」
「あれに毎回絡まれるくらいなら辞めた方がいいんじゃないのか? 」
嫌な場面をキングズリーに目撃されてしまった。
「もう慣れたので、問題ありません」
「働くのを辞めたいとは思わないのか? 」
「自分で言い出した事なので」
「……責任感が強いのはいいが、意地になるなよ。危ないと思ったらすぐに助けを求めろ、いいな」
キングズリーは教師として生徒を心配だから声を掛けたに過ぎない。
勘違いしてはいけない。
「……はい」
私達の会話は聞こえなくても睨みつけるような視線を送る人物が一人。
私は自分の事でいっぱいで気が付いていなかった。
本日の一言日記。
初めてのバイト、秘密だったのに先生にバレました。
休暇中ですので報告はしていませんが規則違反じゃないですよね?
貴族はバイトして良いんですよね?
校則に貴族のバイトは禁止なんて項目ありませんもの。
「シャーリン、次の休み俺と食事でもどう? 」
ここで働くようになって、男性に誘われる経験をしている。
食事に誘われたり、花をくれたりする。
最初の頃は誰かに誘われる経験なんてしたことがなかったので、交わし方を知らずマキシーや女店主に庇ってもらっていた。
最近は笑顔で断る技を覚えた。
「恋人いないんだろ? 」
働き出して数日、私を誘ってくれる人が数名現れた。
その中で、いくら断っても諦めない積極的な人物が目の前にいる彼。
「ここにはいませんね」
どこにもいないけど……
「なら、ずっとここにいたらいい」
彼はテオバルドと言い、自身の見た目が女性に人気なのを知っている。
この辺りでも有名なんだとか。
彼の良いところは、私を口説くが一定の距離を開け触れてこない事。
それに、過去に恋人はいたが今はフリーで浮気などは嫌うらしい。
以前の恋人が彼と付き合いながら、男爵令息とも関係があったそうで彼の方から別れを切り出したというのはこの辺りの人なら誰でも知っている事なんだとか。
彼に別れを告げられた女性は、泣いて縋りついているのを男爵令息に目撃され彼にも愛想を尽かされ二人に捨てられたそうだ。
一時は町全体がその話題で持ち切りだったと聞く。
私は女店主からその話を聞いた時、彼には同情? 好感が持てるとは思った。
「……一度くらいなら? 」
この時の私は軽い気持ちだった。
敢えて言うなら、領地でのひと夏の思い出くらいにと……
「おっいいの? やった」
「お嬢っ……駄目です」
私達の会話を聞いていたマキシーが慌てて断る。
「お姉さん、妹さんに無理やり手を出すつもりはありません。合意ならいいですよね? 」
「合意でもよくありませんっ」
テオバルドと言う人は私よりもマキシーとの掛け合いの方が楽しそうに見える。
こういう人って、案外マキシーと……
「んで、いつ休み? 」
「明後日……ですかね? 」
「分かった、明後日ね。何時にしよっか? 」
「お昼で」
「お昼にどこに迎えに行けばいい? 」
「ここで」
「家は教えられないって? わかった。明後日のお昼にここで。じゃぁっ」
彼の良いところは、しつこくないところ。
嫌だなって感じ取るとすぐに引いてくれる。
「……本当にいいんですか? 」
「いいんじゃないかな? 一度ご飯に行ったら諦めてくれるでしょ」
「お嬢様……一度行ってしまうと可能性を感じるものなんです」
「……そうなの? 」
「はい」
知らなかった。
「……どうしよう」
「知りません」
「マキシー」
怒ったマキシーはそれから口きいてくれなかった。
「……アイゼンハワー? 」
「ん? 」
聞き覚えぼある声に振り向く。
「やっぱり、お前か。何してるんだっ」
「先生? どうしてここに? 」
「私はここで新たな鉱石が発掘されたと聞き分析・検査に来た。それよりお前はここで何しているんだ? 」
鉱石?
キングズリーって、鉱石に興味あるんだ……
意外。
「えぇっと……社会勉強です」
「社会勉強? 」
分かりやすく疑われてる。
「こちらで、働かせていただいております」
「働いて……いるのか? 」
貴族が働いているというのは珍しく信じられないのだろう。
自身の家門の系列などではなく、全く関係のない平民の元でなんて尚更だ。
「はい」
「……公爵は許しているのか? 」
当然の質問だ。
「もちろん」
私は胸を張って答える。
「……休暇中だから何も言わないが、無茶はするなよ」
「はいっ」
まさか領地でキングズリーに会うとは思わなかった。
しかも私がバイトしているところに……
食事をしに来たお客なので接客するが、知り合いが来ると調子が狂う。
「……そういえば、先生はあの子と観劇に行ったのかな? 」
忘れたいことを思い出してしまった。
翌日もキングズリーに警戒していたが、裏を返すと来てくれるのではないかとほんの少し期待しながら働いていた。
「シャーリン」
……キングズリーの事を忘れさせてくれる相手が現れた。
「……いらっしゃいませ」
一呼吸置いて、お客を出迎える。
「俺の名前覚えてくれた? 」
「……ん」
覚えたくないが覚えてしまった。
それでも言いたくない。
「リアムだよ、リ・ア・ム」
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びください」
さっさとこの男から離れたい。
「これっ、プレゼント」
「……花束……私にですか? 」
男は花束を真面々の笑みで差し出す。
「そっ、君に。プレゼント」
「お断りします」
「どうして? 君に似合う花を選んだんだ」
「この花の意味は? 」
「花言葉ってこと? 」
「違います。花束を貰って終わりならそれでいいです。それ以上はお断りです」
「今度一緒に観劇にでも行かない? 」
軽薄そうに誘う男。
慣れた仕草は誰にでもしているのだろうと見える。
今は私だが、来週には別の女性を口説いているに違いない。
「お断りです」
「なら、ご飯は? 」
「遠慮します」
「仕事、もうすぐ終わりだろう? 俺が送るよ」
「結構です、姉と一緒なので」
「女二人でも不安だろう? 」
「問題ありません、兄が一緒なので」
エイジャックスの友人が兄という設定なので、それに乗っかった。
「ずっと、お姉さんとお兄さんと一緒に暮らす事も出来ないだろう? 少しくらい俺との時間作ってよ。俺、結構いい男だよ? 」
リアムは確かに整った顔立ちをしている。
テオバルドとは違ったタイプの男性で、少し強引なところを見ると自身が女性に人気なのを知っている様子。
私の好みではないが。
御覧の通り彼はしつこく、こちらの許可なく手や肩に触れようとするのが気持ちわ……好感が持てない。
仕事中なので一人の客だけを接客しているわけにもいかず離れたいのに、手首を掴まれる。
「ちょっとリアム、仕事の邪魔するんじゃないよ」
私が男性にちょっかいを掛けられていると気が付いた女店主が助けてくれた。
「はぁい。花束はプレゼント受け取って。これじゃ飯食べられないし」
「……はい」
仕方なく花束を受け取り、店の片隅に飾った。
花束は捨てるのも可哀想だし屋敷に持って帰るのも嫌だったので、もう一度言うが仕方なく飾った。
「アイゼンハワー、毎回あんなのに絡まれているのか? 」
「ひゃっ……先生……いらっしゃいませ」
「あれに毎回絡まれるくらいなら辞めた方がいいんじゃないのか? 」
嫌な場面をキングズリーに目撃されてしまった。
「もう慣れたので、問題ありません」
「働くのを辞めたいとは思わないのか? 」
「自分で言い出した事なので」
「……責任感が強いのはいいが、意地になるなよ。危ないと思ったらすぐに助けを求めろ、いいな」
キングズリーは教師として生徒を心配だから声を掛けたに過ぎない。
勘違いしてはいけない。
「……はい」
私達の会話は聞こえなくても睨みつけるような視線を送る人物が一人。
私は自分の事でいっぱいで気が付いていなかった。
本日の一言日記。
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