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07.一瞬の邂逅
しおりを挟む「クリスマス、空いてる?」
ーーと、聞かれたので。恋人いない歴イコール年齢の寂しい独り身である蘭太は、イヴの夕方から都築の居住スペースにお邪魔して、ケーキ作りに奮闘したのだった。
「ケーキなんて子どもの頃以来だ……!」
男ばかり三人でクリスマスディナーをいただき、食後のデザートに切り分けたケーキを貪り食いながら、都築は毎度のごとく泣いている。ディナーが始まる前の、作っている段階ですでに泣いていたので、タオルが一枚びしゃびしゃになった。イケメンフェイスは鼻先まで赤くなっている。
「つづきしゃん……けえき、まだありまるけろ……」
「酔ってるねえ、蘭太くん」
「俺のペースに合わせて飲むからだ」
蘭太はふわふわと心地よい気分で、都築の皿に残っていたケーキを取り分ける。まっすぐ置いたはずが、倒れてしまった。それがなんだか無性におかしくて、腹を抱えて笑う。
「あーあー、蘭太くん。何がそんなにおかしいんだい」
「つづきしゃんが、つづきしゃん……ぷっ!」
「楽しそうでいいねえ」
「くろいしゃん、くろいしゃん!」
「なんだ」
「それ、らに飲んでるんれすか?」
「こら、だめだ。おまえはもう飲むな。こら。利音!」
「はいはい。蘭太くん、こっちおいで」
ソファで淡々とグラスを傾ける黒井が何を飲んでいるのか気になって膝へ懐けば、両脇に手を入れた都築にずるずると引き剥がされる。そのまま抱えあげられ、蘭太は不安定感が気になって目の前の頭を抱え込むようにして抱きしめた。
「蘭太くん、今日は泊まっていくといいよ」
都築が一歩進むたびに足先が揺れる。そっと柔らかな感触の上に下ろされて、気持ち良さに目蓋が自然と下りていった。
「いつもありがとう」
頭を、優しく撫でられたような気がした。
「うわっ、イケメン」
起きたら、びっくりするほど整った顔面が目の前にあって、思わず声を張っていた。蘭太の大声で目が覚めたのか、長い睫毛に縁取られた目蓋がぴくっと反応し、ゆっくりと開く。数度瞬いて、穏やかに細められた。
「おはよう」
「わ。寝起きもイケメン……」
何がどうしてこうなったのかはわからないが、蘭太は都築のベッドで彼と一緒に眠っていたようだった。黒井もまじえてクリスマスディナーを楽しみ、ケーキを食い、酒を飲んだのは覚えているが、一体いつ就寝したのかは記憶にない。寝ている都築のベッドに勝手にお邪魔していたとしたら申し訳ないな……と、イケメンフェイスを見つめていると、都築が蘭太の髪をおもむろに撫でつけた。
「私ね、クリスマスも誕生日も正月も、大嫌いだったんだ」
突然の告白だった。
「だって、私にはケーキもおせちも特別な日のご馳走も、ううん、なんでもない日の、普通の食事だって、ずっと、ずうっと、苦痛だったんだ。きみに出会うまで、私にとって食べるという行為は、自分に無理を強いて栄養を摂取する、ただ生きるための作業だった。蘭太くん、ありがとう。私のために毎日ご飯を作ってくれて。私と出会ってくれて。きみが私と同じこの時代に生きていることを、きみと、きみのご両親に、深く、深く、感謝している。生まれてきてくれてありがとう」
何故突然都築がそんなことを言い出したのかわからないし、寝起きのこのタイミングだったのかもわからないが、でも、なんか、蘭太は泣きそうだった。なんせ、今日はクリスマス。でも、蘭太にとっては、それだけじゃない。
「都築さん、たぶん、偶然……うん、すごい、偶然なんですけど。僕……今日、誕生日なんですよね」
「え、嘘」
あらやだとばかりに都築は両手を揃えて口元を覆う。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
クリスマス効果でごった返すショッピングモール内を、すでにクリスマスプレゼントを交換しているのに誕生日プレゼントも贈るのだと言って聞かない都築を先頭に、黒井と並んで歩く。黒井は周りから視えていないので正面から避けることなく流れてくる人の群れをうまいこと躱しつつ、ついでに人波に呑まれそうになっている蘭太の動線も確保してくれる。
「何が欲しい? あ、あのマフラーとかどう?」
これもクリスマス効果なのか、都築は朝からテンションが高い。プレゼントをもらえるのは蘭太なのに、贈る側の都築の方が嬉しそうだ。
「黒井、ちょっと。一緒に選んで!」
人混みを縫って、都築が黒井を引っ張っていく。足取りは軽やかだ。追いかけようとした蘭太は、向かいから歩いてきていた誰かとぶつかってしまった。
「あ、ごめん。大丈夫?」
「こちらこそ、すみません」
咄嗟に下げた頭をあげた先にいたのは、この世のものとは思えない、儚げな美青年だった。髪も肌も服も、靴まで、全身真っ白だ。彼はにこっと人懐っこい笑みを浮かべると、「怪我はない?」と首を傾げた。
「大丈夫です。あなたは?」
「ボクも平気。人が多くてやんなっちゃうね」
「はは、そうですね」
「じゃ。お互い気をつけようね」
「はい。すみませんでした」
美青年は、片手を軽くあげて歩き去っていく。その真っ白な背中を見送って、蘭太はマフラーを吟味する都築達のもとへと小走りに駆け寄った。
それだけの、一瞬の、邂逅。
不注意でぶつかってしまったと思っている白の化身のような美しい青年が、都築が長年捜し求めてきた白井そのモノであることを、この時の蘭太はまだ、知らない。
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