祓い屋都築とはざまの住人

音成さん

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09.正月休み

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いつも、休日前には都築のために食事を作り置きしていた。問題は正月休みである。蘭太は十二月三十日から一月六日まで休みをもらっていた。

「おせち料理なんて作れないもんなあ……」

料理素人に毛が生えた程度の腕前の蘭太には、おせち料理なんてとてもじゃないが作れるとは思えなかった。

「正月休みくらい、私のことは気にせず休みなよ」

キッチンに並んで夕食の後片付けをしていた都築が、蘭太の呟きを拾って苦笑する。

「食事ならなんとかなるさ。今までだって、なってきたんだから」
「でも、『今まで』と『今』は、違います」

皿を拭く手を止めて、自分より背の高い都築の顔を見上げる。

「都築さんはもう、僕が作るご飯を食べちゃいました。僕のご飯を知ってしまったんです。知らないことを我慢するのと、知っているのに我慢するのは、辛さが全然、全く、違います」

蘭太は都築ではないけれど。食べたいのに食べられない辛さは、わかる。食べられるものがあると知っているのに、食べたくないものを我慢して無理やり飲み込まなければならないのは、絶対に、辛い。

「俺もそう思う」

今回は片付け当番に当たらなかった黒井が、読書を中断して会話に入ってくる。

「甘えてもいいんじゃないか。蘭太の負担になるのが嫌なら、一日でも早く白井を見つけることだ」
「そうですよ、都築さん」
「でも、…………ん、」

おろおろと目を泳がせていた都築は、やがて蘭太の肩に懐くように顔を伏せた。水にさらされて冷えた指先が、縋るように蘭太の腕を掴む。

「私には蘭太くんが必要だ。どうしても、きみがいないと、辛い」

なんだか告白みたいだな、と思った。
都築が必要としているのは、蘭太のご飯なのに。

「……うん、大丈夫、都築さん。僕は料理が得意なわけじゃないけど、毎回おいしいうまいって、泣きながら食べてくれるあなたのためにご飯を作るのは、楽しいです」
「……ありがとう」

蘭太の腕を掴む手の力が、ぐっと強くなった。






元日は実家に泊まり、二日の昼に実家を出て、そこからの正月休みは都築の住居にお泊りした。

「祓い屋に就職なんて、ご両親はさぞあやしんだだろうねえ」
「だろうな」

あやしまれるのは慣れっこなのだろう。都築と黒井は軽くそう言った。
蘭太の両親は確かにあやしんでいた。息子の再就職先が祓い屋だと知って、少なからず不信感をあらわにした。でも、それ以上に、蘭太の仕事内容を聞いた時のリアクションはでかかった。

「僕の仕事内容がご飯作りだって知ったら、あやしむ気持ち以上に不安が勝ったみたいで。僕の料理の腕をしきりに心配してました」

なんせ、蘭太は実家ではほとんど自炊をしたことがない。両親が不安視するのも仕方のないことだった。

「こんなにおいしいのに?」

都築は心底びっくりしましたという顔でおにぎりをかじる。今回は塩むすびではなく、ちょっぴり豪華に具を入れてみた。

「ツナマヨ……! うまい……っ」
「僕の手料理をそんなに喜んで食べてくれるのは都築さんくらいですよ」
「ええ? うまいよねえ? 黒井」
「上達してる」
「ほんとですか? えへへ」

ーーと、喜びかけたが。


「いや、うまいとは言ってないな? ん? 黒井さん?」






順番に風呂に入って、三人ソファに並んでなんとなく点けたテレビを流し見て、日付が変わる前にそれぞれ就寝の準備に入った。

蘭太はなんか当然のように都築と同じベッドに入る。寒いからと言って抱き寄せられ、距離がめちゃくちゃ近い。

「な、なんですか……? ーーいたっ」

めっちゃ無言で凝視してくるじゃんと思っていたら、突然ほおを噛まれた。ほとんど力は入っていない、戯れるような甘噛みだったけれど、反射的に痛いと言ってしまった。

「あ、ごめん」
「いきなり何するんですか」

都築自身も、自分の行動に驚いているようだった。

「なんかね、なんか、蘭太くんが、おいしそうに見えて」
「僕は食べ物じゃないですよ」
「うん、そうだよね、そう、わかってる、けど、うん」

言い淀んで、考え込むように口を閉ざした都築は、しばらくしてから迷子のような声で吐露した。

「あんなにおいしいものを作れる蘭太くんだから、蘭太くん自身も、おいしそうに見えるのかなあ……?」

蘭太は自信なさげな都築の鼻先をかじった。

「ひ」
「仕返しです」

都築が自分の胸を押さえる。

「今のは駄目だよ蘭太くん……」
「都築さんだって噛んだじゃないですか」
「胸がきゅっとなったもん。死ぬかと思ったもん」
「え、やば……病気?」
「え……」

不安になった蘭太と都築はがっしりと手を繋いで寝室を飛び出した。眼鏡の装着も忘れない。

「黒井さん黒井さん!」
「黒井! やばい! 胸がきゅっとなった!」
「はあ?」

ソファをベッド代わりにして毛布をかぶっていた黒井は、迷惑そうに時計を見た。

「早く寝ろ」
「寝れないよ! 胸がきゅっとなったんだって!」
「僕が都築さんの鼻を噛んだばっかりに!」
「こう、胸が、締め付けられるというか。きゅって!」
「…………ああそう、寝たら治る寝たら治る」
「ほんとに!?」
「ほんとですか、黒井さん! 都築さん死んだらどうしよう……!」
「寝たら治る寝たら治る」
「蘭太くん……明日の朝起きて、万が一私が死んでたら……黒井を頼むよ」
「都築さん……そんな……!」
「いいからはよ寝ろ!!」

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