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11.刹那の接触
しおりを挟む「これ、俺らがハッテン場行くのおもしろがって、白井がわざと噂流した可能性はないか」
「めっちゃある」
「そうなんですか? じゃあ無駄足ってこと?」
「いや、白井なら必ず近くで見てる」
「白井は深夜の公園じゃ目立つはずなんだけどねえ? 真っ白だし。どこにいるんだか」
他の『はざまの住人』と目が合った黒井が顔をしかめる。しかしすぐさま情報収集と言い置いて、そちらへ足を向けた。
「大丈夫ですかね?」
「黒井は強いから大丈夫。ほら、私達も情報収集しよう」
蘭太と都築はくっついて歩きながら、『はざまの住人』に焦点を絞って聞き込みをした。しかし、ここ数日の目撃情報はあがらない。
「ちょっと休憩しーー」
「なあ、あんた、白井って奴捜してるんだって?」
「何か知ってるの」
歩き疲れて一旦組んでいた腕を解いたところで、新顔の『はざまの住人』が話しかけに来た。食いついた都築の肩を抱き、何やら距離が近い。近過ぎる。
「都築さ、」
「ちょっとちょっと、そこの。兄ちゃん」
なんだかモヤモヤして引き剥がそうとした蘭太に、別の『はざまの住人』が声をかけてくる。茶髪の若い男だ。
「なんか捜してる奴いるんだろ? 連れがその話詳しく聞きたいっつってんだけどさ、ちょっとこっち来てくんね?」
「え、あ、」
「いいだろ? そっちの兄ちゃん、取り込み中みたいだし」
都築と新顔はやたら近距離で話し込んでいる。近い。近過ぎる。モヤモヤして、イライラする。怒ってる? 蘭太は自分の感情が理解できない。でも、今、都築と顔を合わせたら、八つ当たりをしそうだった。だからだ。そう、だから。もうひとつ言い訳を用意するなら、手分けして情報収集した方が、効率がいいから。だから、ちょこっと、都築のそばを離れる。声をかけてから行かないのは、都築が他の男との会話に夢中になっている間に蘭太がいなくなっていることに、ちょっぴり焦ればいいと思ったから。
そんなことを考えてしまうくらいには苛立っていて、そして、これまで無事だったからと、危機感が薄れてしまっていた。
だから、これは、蘭太の責任なのだ。
「どこまで行くんですか」
「こっちこっち」
茶髪は木々の間をどんどん奥へ進んでいく。都築達はもう、見えない。人の気配が、全くない。
「ここらでいいな」
「えーーひゃっ!?」
足を止めたと思ったら、突然押し倒された。仰向けになった腰に跨った茶髪が、蘭太の手首を押さえつけてくる。
「な、なに、」
「一回くらい現世の人間も食ってみたかったんだよな」
「『はざまの住人』って人間食べるの!?」
「しー。うるさいよ、兄ちゃん」
「んんっ」
大きな手のひらで口元を覆われる。
「ん! んんっ!」
「肌の感触は俺らとそんなに変わんねえなあ」
「んんーっ!」
「おいおい、暴れんなよ。気持ちよくしてやっからよ」
身体を撫で回されながら、抵抗虚しく着衣を乱されていく。
馬鹿だった馬鹿だった馬鹿だった!
都築に声をかければよかったのだ。
そばを離れてはいけなかった。
一時の感情で行動するから、こんなことになる。
両腕は自由だ。なのに、どんなに足掻いてもまるで歯が立たない。
どうしてなんでなんでなんで!
声を出せないように塞いでいる手をどけようと、手首を力いっぱい掴む。引っ張っても、爪を立てても、殴っても、びくともしない。もがいてもがいて、ふと、視線をあげた時。目が、合った。身体が硬直する。抵抗が止んだことに気づいた茶髪も、蘭太の胸に寄せていた顔をあげた。
「あんだ? おまえ」
「やあ」
襲われている蘭太を頭上から見下ろしていたのは、全身真っ白スタイルの白の化身ーークリスマスにショッピングモールでぶつかった、あの美青年だった。
「んん!」
縋るような目をしていたと思う。助けを期待した。でも、たった今までただ黙って見ていただけの男が、急に救いの手を差し伸べてくれるなんて、そんな甘いこと、あるわけがなかったのだ。
「ああ、ボクのことは気にしなくていいよ。続けて」
そう言った彼は、観察するような冷たい目で蘭太を見下ろした。
「まざるか?」
「ううん。ボクは見てるだけでいい」
「そうかいーーぐふぁ……っ!」
茶髪が横に吹っ飛んだ。何かがものすごいスピードで衝突したのだと、数秒遅れて気がついた。
「蘭太」
横たわったまま固まっているところへ助け起こしてくれた人に名前を呼ばれて、ようやく、それが黒井であったことに気づいた。くろいさん。唇だけで呼ぶ。声は出ない。
「白井……」
黒井が、白の化身を睨めつけて、唸るように呼んだ。
「黒井」
応えるように黒井の名を呼んだ美青年を見上げて、蘭太は頭で理解するより先に「シライ……」と声もなく呟いた。
シライ。白井。そうか、この男が、白井。
都築利音を呪った『はざまの住人』。
ずっと行方を追ってきた男。
「蘭太くん!」
白井と黒井が睨み合うこの場に、都築が到着する。
「蘭太くん、ああ……! 大丈夫、なわけない、よね…………蘭太くん……蘭太くん……」
やっと見つけのに。ようやく姿を現したのに。都築は、白井には見向きもしなかった。一目散に蘭太のそばへ来て、汚れるのも構わず地面に膝をつき、乱暴されかけた身体を誰の目にも触れさすまいというように抱きしめて、乱れた着衣を直してくれる。さらにその上から、自身の上着を着せて蘭太を覆い隠す。再び、きつく抱きしめられた。
「都築さん……」
「蘭太くん、ごめん……ごめん……!」
「都築さん……苦しい……」
「ごめん」
謝っておきながら、都築の腕はさらに強く蘭太を締め上げる。
「ずいぶん必死だね、都築利音」
嘲笑うような声音だった。
白井の目に暗い炎がともる。
「そんなにようやく見つけた飯炊きが大事か」
吐き捨てるような言い方だった。
「大事に決まってるだろ」
蘭太がこれまで聞いたことのない、静かな怒りを孕んだ語勢で、都築が噛みつく。
「きみは本当にご飯が好きだね」
「ご飯は関係ない。私は蘭太くん自身が好きで、大事なんだ」
白井の表情が消えた。反射的にしがみついた蘭太を、都築はしかと抱き寄せる。
「ご飯より? ボクより? そんな、つまらない凡人が?」
「その言い方は腹立つ。蘭太くんはつまらない凡人なんかじゃない。おまえよりよっぽど魅力ある人間だよ。少なくとも私にとってはね」
「そう……」
消えたーーと、思った瞬間には、すぐ目の前で黒井と白井が腕と脚を交えている。押し合ったと思ったら互いに背後へ飛び退って、再び衝突する。そのうち、蘭太の目では追いきれなくなった。
「都築さん、ごめんなさい……」
早々に『はざまの住人』同士の戦闘を把握するのを諦めて、蘭太は都築にもたれかかった。
「声をかけず、そばを離れて、ごめんなさい」
「……心配した」
「うん……」
「焦ったよ。きみがいないことに気づいた時」
そうなれば、いいと思ってしまったんだ。
「ごめんね、都築さん」
「うん」
「ごめんなさい」
「いいよ。もう、いいよ」
ずざあぁぁああっと音を立てて、地を滑った黒井の背中が木の根元にぶつかって止まる。白井は距離を取って別の木の太い枝に下り立った。そこから、都築を見下ろして声を張る。
「奪いに来るよ、都築利音。きみの大事なものは、全て」
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