不良グループの元総長に懐かれた

音成さん

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不良グループの元総長に懐かれた01

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どうしてこんなことになった。


「ん……っ、……ふ、……っぁ」

ベッドに背中を預けた椎名の、投げ出すように開かれた長い脚の間に挟まるように位置取って、彼の性的興奮を赤裸々に晒す雄の証を扱きたてる。

握る佐奈田の手が上下する度、濡れた音が立つのと共に、黒目がちの猫目を情欲にとろとろに蕩かせた椎名の薄い唇から、甘い吐息混じりの喘ぎが漏れる。



どうしてこうなったかって、そんなのはーー






元々、佐奈田の耳にも椎名の噂は届いていた。

椎名時臣。
同じ学部。同学年。
ここら辺では有名な不良グループの、元総長。

時々、見かけた。
あまり見ていてガンくれているとか思われたら嫌だったので、チラチラと、盗み見るように。恐る恐る。怖いもの見たさもあったと思う。でも、何より、佐奈田が目を奪われたのは。

椎名時臣という男が、とても綺麗な人だったからだ。






初めて言葉を交わしたのは、寝坊して始業前ぎりぎりに滑り込んだ講義室でだった。空いている席に慌てて座って、慌ただしく筆記用具を取り出して、落ち着いてからようやく気づいたのだ。隣に座っているのが、噂の元総長だということに。

途端に、鼓動が駆け足になった。
緊張、していたのだと思う。
焦ってもいた。
様子をうかがうように横目で盗み見た椎名の横顔は、隣に座る佐奈田にはなんの興味もなさそうに、まっすぐ前を向いていた。

近くで見ても、恐ろしいまでに美しい男だった。

教授がやって来て、講義が始まっても、佐奈田は隣に座る男を意識していた。だから、彼が消しゴムを落とした時も、すぐに拾うことができた。

「これ、」
「ん、ありがと」

小声で、佐奈田にだけ聞こえるように。薄く微笑んで。黒目がちの猫目が、はじめて佐奈田をとらえる。それは一瞬で、すぐさま講義に戻っていったけれど。その瞬間が、忘れられなくて。消しゴムを渡す時に触れ合った指先から、爆発的に熱が広がって。

緊張ではなく、胸が、高鳴った。

惚れっぽくて、嫌になる。
いや、元々、惹かれてはいたのかもしれない。
彼を、綺麗な人だと思った時から。






佐奈田日和はゲイである。
男でありながら、同性である男が好きなのだ。
自分がマイノリティであることは、中学生活も半ばを過ぎる頃には察していた。
でも、そんな自分の性的指向を、周りの人間がどう思うかなんてことまでには、高校生になっても考えが及ばない子どもだったのだ。

「気持ち悪い」

仲の良い友人だと思っていた。彼に対し、恋愛感情を持っていたわけじゃない。ただ、もう、一人で自分のマイノリティを抱えこむことが苦しくなっていて、自分は男が恋愛対象の男ーーゲイである、と打ち明けただけなのだ。

仲の良い友人だと思っていた男は、おぞましいものを見る目で佐奈田の柔い心を斬り捨てた。

翌日には、学校中に佐奈田の性的指向が知れ渡る結果となっていた。

そこからは、思い出したくもない。
佐奈田の高校生活は、辛く苦しいものになった。
3年間、なんとか耐えきって。そして、県外にある、今のこの大学に逃げるよう進学してきたのだ。


いじめられっ子だった佐奈田にとって、不良グループの元総長だという椎名時臣は、あまりに遠い存在だった。






それがどうして佐奈田が椎名に手淫を施すような関係になっているのかというと。


椎名が総長時代にモメていた不良グループの新参者どもが度胸試しとばかりに椎名を襲撃してきたらしいのだが、彼は難なく返り討ちにした。その現場に、たまたま佐奈田が居合わせてしまったのである。のされて呻く不良共の中で一人だけ立つ椎名と目が合って、ぎらぎらと鋭く光る瞳のままにっこり微笑まれたら、その場から動けなかった。さらさらの前髪を掻き上げる手の甲から出血しているのを見咎めて、このまま放ってなんておけなくて。怪我の手当を口実に、一人暮らしをしているアパートへ連れ込んだ。

「……大丈夫?」
「んー……なんか……」
「痛い?」
「痛くはないんだけど、」

手当している間も、椎名がずっと居心地悪そうにしているのには気づいていた。もじもじ動いて、吐く息には、なんだか熱がこもっている。
他にも怪我をしているのではと身体を注意深く見分して、そして、椎名の股間を押し上げる熱を見つけてしまった。

「あー……それ。喧嘩した後、たまになんの」

息を呑んだ佐奈田に、椎名はなんてことないように言った。

「喧嘩すんの、久々だったから。たぶん、よけい、興奮してる」

ごくり。
佐奈田の喉が、ゆっくり見せつけるように鳴った。
久々の喧嘩に高揚した男の身体が、わかりやすく興奮しているのか。

「ト……トイレ! 使う?」
「トイレ? べつに尿意はないけど」
「いや、そうじゃなくて。それ、」
「これ?」

テントを張る股間を指差すと、椎名は視線を自身の下半身に落とす。

「ヌいて来たら」
「ぬく?」
「ヌく。ーーえ、ヌくって、言わない? 一回、しゃ……射精したら、楽になるんじゃ……」
「しゃせー……?」
「うん、射精。え、知らない? なんて、こと、はは、あるわけ、」

椎名は小首を傾げていた。
背筋をぞわっと何かしらが駆け上がる。

「え、わからない? ほんとに? 自分で、その、触ったり、しないの?」
「何を? ーーえ、ちんこ? なんで?」
「なんでって……」

知らぬふりをしているのだと思いたかった。
そうやって、佐奈田をからかっているのだと。
でも、黒目がちの猫目は、心底不思議そうに、無垢な赤子のような色を乗せて、佐奈田をまっすぐ見つめているのだった。






椎名は、夢精をしたことは何度かあるようだった。つまり、精通はしている。しかし、自らの意思で射精するまで自身を慰めた経験は、なんとこの歳になっても一度もないというのだ。

同じ年頃の男として驚くほど、椎名は性的に無知だった。



「は、ぁ……っ、ん、……っ」

久々の喧嘩に高揚しておさまらない興奮に、どうしていいかわからなくなっている無知な男を、『この男のため。椎名くんのため。これは彼を楽にするため』と自分に言い訳しながら言いくるめて、その身体に触れるチャンスを得た。

ズボンを寛げて、黒のボクサーパンツから昂ぶった椎名の熱を引き出す。太く、たくましく、それでいて綺麗な色をしていた。

「……ん、……ん、ん」
「気持ちい?」
「……うん」

握って、上下に扱く。他人の勃起したものなんて、初めて触る。正しい触り方なんて知らない。わからない。自分のやり方で、この無知で綺麗な男を、気持ちよくする。そのことに、たまらなく興奮した。

「ぁ、音、が……」
「うん、エッチな音がするね」

濡れた肉棒が、先端の孔から溢れて止まらない粘液を佐奈田の手でぐちゅぐちゅ上下に塗り広げられる度、卑猥な音を立てる。

「男って、さ、」
「うん、」

手のひらを筒のようにして、激しく動かす。手の中の欲望の塊が、ぐんぐん膨れて解放の時を待っている。

「世の中の男って、みんな、こんなこと、してんの……?」

はふはふ熱い吐息を漏らしながら、眉間にしわが寄るほど固く目をつぶって、椎名は呟くように問うた。

「佐奈田も……?」

初めて名前を呼ばれたことに、名前を知っていてくれたのだということに驚いて、思わず、ぎゅっと強く握っていた。その瞬間、手の中で情欲が弾ける。咄嗟にかざした左手を濡らす白濁を見て、佐奈田は、ごくりと大きな音を立てて唾を飲みこんだ。

イかせたんだ。射精させた。
この、綺麗な男を。
椎名時臣を、佐奈田の手で。

顔をあげる。
薄く開いた潤んだ瞳。赤らんだほお。半開きの唇。投げ出された手脚。寛げられたズボン。目に入る、椎名の全てが佐奈田には性的に映った。

「すごい気持ちよかった……」

放心した様子だった椎名の目に、徐々に自我が戻ってくる。
ぱちぱち瞬いて、にっと笑った。

「佐奈田ってもしかして、むっつりってやつ?」




これが、きっかけだった。


不良グループの元総長に懐かれた。


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