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3 再会と寂しい涙

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『フローラ、ほら、取ってきたぞ』

 クロ様がオランの実を咥えてやってきた。オランの実は酸味のある小ぶりな実で、食欲がない今、ちょうど良い食べ物だ。
 レオがいなくなって三ヶ月。フローラは妊娠初期症状ともいえる気持ち悪さに耐える日々を送っていた。

 クロ様は、魔女がどのようにして血を繋いできたか知っている。フローラが最近体調不良であることに気付いたらしく、何も聞かずに、妊婦が好みそうなものを取ってきてくれるのだった。

「クロ様……ありがとう」
『今は休むことも大切だぞ。薪割りは魔法でしておいてやるから、寝ておけ』
「……はい。クロ様ありがとう」

 そういえば、母も妊娠中はクロ様にお世話になったのだと言っていた。フローラはその話を聞いて、妊娠していた時にはもう、父親は母の側に居なかったのだと悟った。

 母は祖母に比べて夢見がちな人だった。

 よく「貴女のお父様は素敵な人間でね」と、父親のことをうっとり思い出すことが多かった。子供を作るだけ作って妊娠中の母を放っておくなんて、『素敵な人間』ではないんじゃないかと子供ながらに思っていた。

 しかし、母はいつも「可愛いフローラをあの人にも見せたい」だとか「お父様と同じ赤い瞳でフローラが羨ましい」だとか、恋する乙女のような発言ばかりしていた。
 母は死ぬ間際も、病に倒れながらフローラにこう言った。

「貴女を一人にしてしまってごめんなさいね。貴女にもいつか、お父様みたいな素敵な人間が現れるはずよ。その縁を大切にしてね。幸せになって」

 その言葉に何も答えらず、少しだけ曖昧に微笑むことしかできなかった。

(お母様、私も、出会ってしまいました)

 フローラは今になって、母の気持ちが分かる気がした。いつかお腹の子が生まれたら、自分が心から望んだ子どもなのだと言い聞かせてあげたい。一人で何人分もの愛情を注いであげたい。彼がどんなに素晴らしい人か教えてあげたい。

(もう二度と会えないけれど)

 でも子に言い聞かせることで、彼との思い出が色褪せずに大切に守れるような気がしていた。

 だけど、彼の名を子どもに教えてはいけないかもしれない。きっとレオは貴族だ。それもかなり高貴な身分に違いない。後継問題に巻き込まれてもいけない。レオの子どもだとバレないように気をつけて育てなければ。

「レオ……」

 子どもが産まれたら、もうその名を口にしてはいけないから。だから今、音にしておくのだ。そう自分に言い聞かせて、クロ様がいない時は、「レオ」と口に出していた。
 たった数日間の、たった一晩の関係だけれど、愛しく思う。会いたいと思う。その気持ちに蓋をしながら。
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