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第四章「騎士団編」
第百三十三話「勇者の帰還」
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〈サシャ視点〉
王国まで長い道のりで、魔王の手下と思われる凶悪な幻獣が地上を歩いていたが、敵に気づかれる前に上空からメテオを落として駆逐した。敵の様子から察するに、魔王の命令でアルテミス大陸の侵略をしていたのだろう。魔王城を出発して十日が経った。遥か遠くの方に王国が見えてきた。
「サシャ! 王国が崩壊しているわ!」
急いでアルテミシアに向かうと、商業区と居住区の建物が六割以上も崩壊していた。アルテミシア区に関してはほとんど被害が無いようだ。王国内には魔王の軍勢は見当たらない。既に破壊された建物の復旧作業が始まっている。
ワイバーンでアルテミシアの上空を旋回していると、町の人が俺達を指差し、歓喜の声を上げた。アルテミシア防衛パーティーは無事に王国を守り抜いたらしい。いや、無事という表現は適切ではないだろうが、少なくとも占拠はされていない。町の状態は悲惨だが、生きている人間も多く、皆が力を合わせて復興のために動いている。
「サシャ、早速降りてみましょう」
「ああ。ワイバーン、この辺で降ろしてくれるかな」
俺はクーデルカに促されると、王国の正門前にワイバーンを降ろした。かつては立派だった正門も、今では見る影もない。正門の前ではクリスタルがアースウォールを使って修復作業を行っている。もうアースウォールもお手の物なのだな。俺が知らない間にクリスタルは立派な冒険者に育った様だ。クリスタルは俺達に気が付くと、大喜びで駆け寄ってきた。
「師匠!」
「クリスタル! 無事だったんだね」
俺がワイバーンから降りると、クリスタルは泣きながら俺の胸元に飛び込んできた。
「師匠……私、頑張りました! 師匠のために、王国のために!」
「そうか……クリスタル、よくやってくれた!」
「はい……会いたかったです、私の師匠……」
「俺も会いたかったよ、クリスタル」
クリスタルは俺の顔を見上げて嬉しそうにしている。俺はガントレットを外してクリスタルの涙を手で拭いた。久しぶりに見るクリスタルは少し大人っぽく見える。以前の少女の様な雰囲気は感じられず、頼れる召喚士といった風貌だ。きっと魔王軍との戦いで苦労したに違い無い。
それにしても、アースウォールで城壁を直すとは。クリスタルが作り上げた城壁はかなり丈夫そうに見える。クリスタルは俺との熱い抱擁を終えると、ルナ、シルフ、クーデルカ、それからワイバーンとの再会を喜んだ。
「クリスタル! こちらは俺の召喚獣のシャーロットだよ! 魔王との戦いで大いに活躍してくれた!」
俺がシャーロットを紹介すると、クリスタルはシャーロットにも抱きついた。
「あなたが師匠を守ってくれたのね、ありがとう……」
「あなたがサシャの弟子のクリスタルね。話は聞いているわ。これから仲良くしましょう」
正門の前で再開を喜んでいると、町の中からは数多くの市民や冒険者が出てきた。
「ボリンガー様だ! 勇者様が戻れらたぞ!」
「ボリンガー騎士団の団長様だ!」
「勇者様が町に帰還したぞ!」
そういえば俺は勇者なのか……。自分が勇者だという実感も無ければ自覚も無い。俺は魔王だと思っていた相手、勇者レオンハルトを倒しただけだ。何とも複雑な気分だが、少し落ち着いたら勇者レオンハルトの手記を読み解く事にしよう。
俺達の帰還を喜ぶアルテミシア市民の中からは、懐かしい顔ぶれが姿を現した。ゲルストナー、アイリーン、キング、ユニコーン、ヘルハウンド。それからクリスタルが召喚したサイクロプスとガーゴイル。ヘルハウンドは俺の姿を見つけるや否や、俺の胸に飛び込んできた。
「よしよし! 皆を守ってくれたか! ヘルハウンド!」
「バウッ!」
「良い子だな! よしよし!」
ヘルハウンドの頭を撫でると、嬉しそうに俺の顔を舐めた。
「サシャ!」
続いてアイリーンが泣きながら俺に抱きついてきた。
「アイリーン……苦労を掛けたね。会いたかった」
俺は久しぶりにアイリーンを抱きしめ、モフモフした猫耳を撫でた。久しぶりのアイリーンの体は暖かく、心地の良い魔力が体から放たれている。この魔力は正しい心を持つ者の魔力。魔王の禍々しい魔力とは正反対の雰囲気だ。
「会いたかったの。サシャの事を考えて頑張ったの、離さないの……」
「ありがとう。俺もいつもアイリーンの事を想ってたよ。無事で良かった……」
俺達の再会をゲルストナーとキングが嬉しそうに見守っている。俺はキングとゲルストナーの方に駆け寄った。
「ゲルストナー! キング!」
俺は二人と握手を交わした。キングの目には涙は浮かんでいないが、目の中の優しい青い炎は楽し気にユラユラ揺れている。これはキングが喜んでいる時の炎の揺れ方だ。
「サシャ……キングガンバッタ……」
キングは普段から多くは語らないが、頑張ったという事は死ぬほど頑張ったのだろう。きっと、アルテミシア防衛パーティーはキングの力に依存した戦い方をしていたに違いない。騎士団でも一二を争う強力な魔法の使い手。ヘルファイアとサンダーボルトを駆使してアルテミシアの市民を守ってくれたに違いない。キングを信頼してアルテミシアの防衛を任せたのは正解だったのだな。
「サシャ! よく戻った! 魔王を倒したのだな!」
「ああ……魔王は倒した。アルテミシアの様子を上空から見たよ。復興に取り掛かってるんだね。俺達も協力するよ!」
「サシャならそう言ってくれると思ったぞ! 実は国王陛下から王国の復興を依頼されているのだ。破壊された建物は魔術師ギルドの連中が修復し、魔王軍の残党は暗殺ギルドのメンバーが追跡している。町はもう回復に向かっていると言っても良いだろう」
「そうだったのか……ゲルストナー! 皆を守ってくれたありがとう! 流石、俺達の副団長だ!」
きっとアルテミシアの防衛でキングの次に苦労したのはゲルストナーだろう。戦闘経験の浅いメンバーを守りながら、的確な指示をし、仲間を誰一人死なせる事なく防衛を成し遂げた。それに、俺が居ない間に国王から復興の依頼をされる程の信頼を得ている。きっとゲルストナーは今回のアルテミシア防衛において英雄的な行動を取ったに違いない。
その場に居なくても容易く想像できる。キングやアイリーン、クリスタルやユニコーンに的確に指示をし、魔王軍と戦ったに違い無い。自ら仲間を守る盾となって……。旅の間も、敵が現れると率先して仲間の前に立ち、敵からの強力な攻撃も体を張って受け止める。彼はそんな男だ。俺はゲルストナーと肩を組んで王国に入国した。商業区に入ると、建物の半数以上は崩壊していたが、市民は復興に精を出している。
「サシャが勇者になった日から、魔王の手下はすぐに撤退した。知能の低い魔獣は魔王の死を知ってからもアルテミシアを襲い続けたが、結束の取れた俺達パーティーの敵ではなかった」
ゲルストナーは少し自慢げに教えてくれた。存分に自慢して良いだろう……。町を歩ていると、ゲルストナーやキングに手を振る市民が何人かいた。市民がゲルストナーに向ける視線は英雄そのものだ。ゲルストナーは市民からも信頼されている様だ。後でしっかりゲルストナーの活躍や仲間の活躍を市民から聞き出そう。
「サシャ、早速で悪いんだが、陛下に会ってもらえないだろうか。陛下はサシャが戻ったらすぐに会いたいと言っていたぞ。騎士団の全てのメンバーも一緒にだ」
「あぁ、分かったよ」
全てと言うと、ワイバーンも例外ではないだろう。俺はワイバーンにアルテミス城まで移動するように命令した。国王か……。俺は再開を喜ぶアイリーンとクリスタルに手を引かれてアルテミシア城に向かった。
王国まで長い道のりで、魔王の手下と思われる凶悪な幻獣が地上を歩いていたが、敵に気づかれる前に上空からメテオを落として駆逐した。敵の様子から察するに、魔王の命令でアルテミス大陸の侵略をしていたのだろう。魔王城を出発して十日が経った。遥か遠くの方に王国が見えてきた。
「サシャ! 王国が崩壊しているわ!」
急いでアルテミシアに向かうと、商業区と居住区の建物が六割以上も崩壊していた。アルテミシア区に関してはほとんど被害が無いようだ。王国内には魔王の軍勢は見当たらない。既に破壊された建物の復旧作業が始まっている。
ワイバーンでアルテミシアの上空を旋回していると、町の人が俺達を指差し、歓喜の声を上げた。アルテミシア防衛パーティーは無事に王国を守り抜いたらしい。いや、無事という表現は適切ではないだろうが、少なくとも占拠はされていない。町の状態は悲惨だが、生きている人間も多く、皆が力を合わせて復興のために動いている。
「サシャ、早速降りてみましょう」
「ああ。ワイバーン、この辺で降ろしてくれるかな」
俺はクーデルカに促されると、王国の正門前にワイバーンを降ろした。かつては立派だった正門も、今では見る影もない。正門の前ではクリスタルがアースウォールを使って修復作業を行っている。もうアースウォールもお手の物なのだな。俺が知らない間にクリスタルは立派な冒険者に育った様だ。クリスタルは俺達に気が付くと、大喜びで駆け寄ってきた。
「師匠!」
「クリスタル! 無事だったんだね」
俺がワイバーンから降りると、クリスタルは泣きながら俺の胸元に飛び込んできた。
「師匠……私、頑張りました! 師匠のために、王国のために!」
「そうか……クリスタル、よくやってくれた!」
「はい……会いたかったです、私の師匠……」
「俺も会いたかったよ、クリスタル」
クリスタルは俺の顔を見上げて嬉しそうにしている。俺はガントレットを外してクリスタルの涙を手で拭いた。久しぶりに見るクリスタルは少し大人っぽく見える。以前の少女の様な雰囲気は感じられず、頼れる召喚士といった風貌だ。きっと魔王軍との戦いで苦労したに違い無い。
それにしても、アースウォールで城壁を直すとは。クリスタルが作り上げた城壁はかなり丈夫そうに見える。クリスタルは俺との熱い抱擁を終えると、ルナ、シルフ、クーデルカ、それからワイバーンとの再会を喜んだ。
「クリスタル! こちらは俺の召喚獣のシャーロットだよ! 魔王との戦いで大いに活躍してくれた!」
俺がシャーロットを紹介すると、クリスタルはシャーロットにも抱きついた。
「あなたが師匠を守ってくれたのね、ありがとう……」
「あなたがサシャの弟子のクリスタルね。話は聞いているわ。これから仲良くしましょう」
正門の前で再開を喜んでいると、町の中からは数多くの市民や冒険者が出てきた。
「ボリンガー様だ! 勇者様が戻れらたぞ!」
「ボリンガー騎士団の団長様だ!」
「勇者様が町に帰還したぞ!」
そういえば俺は勇者なのか……。自分が勇者だという実感も無ければ自覚も無い。俺は魔王だと思っていた相手、勇者レオンハルトを倒しただけだ。何とも複雑な気分だが、少し落ち着いたら勇者レオンハルトの手記を読み解く事にしよう。
俺達の帰還を喜ぶアルテミシア市民の中からは、懐かしい顔ぶれが姿を現した。ゲルストナー、アイリーン、キング、ユニコーン、ヘルハウンド。それからクリスタルが召喚したサイクロプスとガーゴイル。ヘルハウンドは俺の姿を見つけるや否や、俺の胸に飛び込んできた。
「よしよし! 皆を守ってくれたか! ヘルハウンド!」
「バウッ!」
「良い子だな! よしよし!」
ヘルハウンドの頭を撫でると、嬉しそうに俺の顔を舐めた。
「サシャ!」
続いてアイリーンが泣きながら俺に抱きついてきた。
「アイリーン……苦労を掛けたね。会いたかった」
俺は久しぶりにアイリーンを抱きしめ、モフモフした猫耳を撫でた。久しぶりのアイリーンの体は暖かく、心地の良い魔力が体から放たれている。この魔力は正しい心を持つ者の魔力。魔王の禍々しい魔力とは正反対の雰囲気だ。
「会いたかったの。サシャの事を考えて頑張ったの、離さないの……」
「ありがとう。俺もいつもアイリーンの事を想ってたよ。無事で良かった……」
俺達の再会をゲルストナーとキングが嬉しそうに見守っている。俺はキングとゲルストナーの方に駆け寄った。
「ゲルストナー! キング!」
俺は二人と握手を交わした。キングの目には涙は浮かんでいないが、目の中の優しい青い炎は楽し気にユラユラ揺れている。これはキングが喜んでいる時の炎の揺れ方だ。
「サシャ……キングガンバッタ……」
キングは普段から多くは語らないが、頑張ったという事は死ぬほど頑張ったのだろう。きっと、アルテミシア防衛パーティーはキングの力に依存した戦い方をしていたに違いない。騎士団でも一二を争う強力な魔法の使い手。ヘルファイアとサンダーボルトを駆使してアルテミシアの市民を守ってくれたに違いない。キングを信頼してアルテミシアの防衛を任せたのは正解だったのだな。
「サシャ! よく戻った! 魔王を倒したのだな!」
「ああ……魔王は倒した。アルテミシアの様子を上空から見たよ。復興に取り掛かってるんだね。俺達も協力するよ!」
「サシャならそう言ってくれると思ったぞ! 実は国王陛下から王国の復興を依頼されているのだ。破壊された建物は魔術師ギルドの連中が修復し、魔王軍の残党は暗殺ギルドのメンバーが追跡している。町はもう回復に向かっていると言っても良いだろう」
「そうだったのか……ゲルストナー! 皆を守ってくれたありがとう! 流石、俺達の副団長だ!」
きっとアルテミシアの防衛でキングの次に苦労したのはゲルストナーだろう。戦闘経験の浅いメンバーを守りながら、的確な指示をし、仲間を誰一人死なせる事なく防衛を成し遂げた。それに、俺が居ない間に国王から復興の依頼をされる程の信頼を得ている。きっとゲルストナーは今回のアルテミシア防衛において英雄的な行動を取ったに違いない。
その場に居なくても容易く想像できる。キングやアイリーン、クリスタルやユニコーンに的確に指示をし、魔王軍と戦ったに違い無い。自ら仲間を守る盾となって……。旅の間も、敵が現れると率先して仲間の前に立ち、敵からの強力な攻撃も体を張って受け止める。彼はそんな男だ。俺はゲルストナーと肩を組んで王国に入国した。商業区に入ると、建物の半数以上は崩壊していたが、市民は復興に精を出している。
「サシャが勇者になった日から、魔王の手下はすぐに撤退した。知能の低い魔獣は魔王の死を知ってからもアルテミシアを襲い続けたが、結束の取れた俺達パーティーの敵ではなかった」
ゲルストナーは少し自慢げに教えてくれた。存分に自慢して良いだろう……。町を歩ていると、ゲルストナーやキングに手を振る市民が何人かいた。市民がゲルストナーに向ける視線は英雄そのものだ。ゲルストナーは市民からも信頼されている様だ。後でしっかりゲルストナーの活躍や仲間の活躍を市民から聞き出そう。
「サシャ、早速で悪いんだが、陛下に会ってもらえないだろうか。陛下はサシャが戻ったらすぐに会いたいと言っていたぞ。騎士団の全てのメンバーも一緒にだ」
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