召喚物語 - 召喚魔法を極めた村人の成り上がり -

花京院 光

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第四章「騎士団編」

第百六十四「クリスタルの想い」

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〈クリスタル視点〉

 私達は今日も朝早く起きて復興の手伝いを始めた。最近は毎日朝から晩まで復興の手伝いをし、夜は仲間達と城で夕食を摂る。毎日が同じ事の繰り返しで、少しだけ退屈になってきたけれど、町は順調に活気を取り戻しつつあるわ。今日も私達は復興の手伝いを終えると城向かった……。

 師匠は最近別行動をしているみたい。本拠地についてやらなければならない事があるのかしら。それに、私が卒業してからエミリア様に魔法を教えているみたい。私も召喚魔法を訓練して、陛下から頂いた称号に見合う人間になりたい。師匠の様な偉大な召喚士に……。

 私達が城に向かって歩いていると、商業区で一人の少年が私の前に立ちはだかった。赤い髪が肩まで伸びていて、目は燃えるように赤い。年齢は私と同じ位かしら? 顔は師匠程ではないけれどかなり整っている。背中には剣を差していて、一見剣士の様な見た目をしているけど、どこか頼りない……。

「クリスタル……だよね! 俺はフランシス・アヴァロン! 以前俺は君に助けられた!」

 助けられた? 魔王軍との戦いの間に助けた市民かしら? あまりにも多くの人を助けたから、殆ど顔も覚えていない。魔物から市民を守るのに必死だったから……。

「こんにちはフランシス。何か用かしら?」

 私が返事をするとフランシスは急に跪いた。

「俺の妻になってくれないか!」

 頭がおかしいのかな……? 私はさっきまで名前も知らなかった人と結婚するつもりはないわ。

「大丈夫なの? 何かあったの?」

 一部始終を見ていた仲間達が近寄ってきた。ガーゴイルは露骨に警戒して剣を抜いた。ゲルストナーは涼しい表情を浮かべて楽しそうにやり取りを見ている。

「私はあなたの妻にはなりません!」
「そんな……どうして! 俺がこんなに君の事を好きなのに! 俺は君に助けらてからずっと君の事を想っていた。君は忘れているかもしれないけど、俺は君に命を助けられた……」
「私はあなたの事は知らないわよ。それに私は……」

 私は師匠を……。いいえ……サシャが好き。サシャは私の事をどう思っているかは分からないけど。

「もしかしてクリスタルは他に好きな人が居るのか? そいつさえ居なくなれば君は俺の物だ!」

 この人、やっぱり危険だわ。居なくなれば……か。だけどこの人がサシャに勝てる訳がないわ。

「勝手な事言わないでよ! 私が想っている人はあなたでは手の届かない人よ!」
「誰だって構わない! 誰なんだそいつは? 俺がそいつと勝負して、俺が勝ったら君は俺の物だ!」
「ええ、良いわよ! もし勝てたら何だってしてあげるわ! あなたでは絶対に勝てないんだからっ!」

 この人が私の師匠に勝てる訳がない。私の師匠はアルテミスの勇者、サシャ・ボリンガー。誰にも負けないんだから……。

「よし! 約束だからな! それじゃ、その男の所に案内してくれ!」
「全く。クリスタルも人が悪いな……まぁこういうのも楽しくて良いだろう。聖戦士の俺ですら絶対に戦いたくもない相手。この世界で最も偉大な冒険者とも知らずに喧嘩を売るとは……」

 ゲルストナーは楽しそうに笑って私の肩に手を置いた。

「本当に良いの……? クリスタルが想っている人は君が敵う様な相手じゃないの」

 アイリーンは心配そうに少年を見つめている。

「勿論良いとも! さぁ、今すぐ案内してくれ! 俺は君のためなら魔王だって勇者だって倒すぞ!」

 この人……本当に頭がおかしいんじゃないかな。魔王だってか……。本当に魔王と戦って生き延びたルナとクーデルカは面白そうに笑っている。それにしても師匠は今何処にいるんだろう。早く探し出してこの変な少年を追い払って貰わないと……。

「サシャを探してくるの」

 そう言ってアイリーンは師匠を探しに飛び出した。しばらく待っていると師匠の居場所を見つけたのか、急いで戻ってきた。

「居場所が分かったの」

 アイリーンから師匠の居場所を聞くと、商業区にある酒場だった。こんな時間からお酒……? 復興の手伝いもしないで……私の師匠は何をしているんだか。私達はアイリーンに案内されて師匠が居る酒場に向かった。酒場の扉を開けると、師匠とシルフとシャーロット、それからエイブラハムとクラウディアが楽しそうにお酒を飲んでいた。

「師匠!」

 私が酒場の入口で師匠を呼ぶと、師匠はゴブレットを持ったまま驚いて立ち上がった。

「クリスタル! 今日の復興の手伝いは終わったのかな? そろそろ帰ろうと思っていたんだよ」
「師匠! それどころじゃないんです!」

 私が師匠の手を握ると、鍛冶職人のエイブラハムは楽しそうに笑った。

「サシャ! あの少年がさっき話した奴だぞ!」
「というと……100ゴールドで剣を買った少年?」
「ああ、そうだ。もう見つけ出してしまうとはな……だが、この瞬間に立ち会えて嬉しいぞ! やっぱりお前さん達と居ると楽しめそうだわい」

 エイブラハムは大きな手でジョッキを持って美味しそうにエールを飲んだ。

「お前がクリスタルの想い人か! 誰だが知らないが、俺と勝負してもらおう!」

 頭のおかしい少年は師匠に対して剣を抜いた。酒場に居る他の冒険者達は特に驚きもせずに楽しそうにやり取りを見ている。

「え? 倒さなければならない男って俺なの? エイブラハム! どういう事?」
「ああ……その少年が言った男とはサシャの事さ」

 どうやらエイブラハムは少年と面識があるみたい。

「どうした! 怖くて剣も抜けないのか! お前も冒険者なら俺と勝負しろ! もし俺が勝ったらクリスタルを俺の妻にする!」
「なんだと! クリスタル、どういう事だい?」
「実は……」
 
 と言って私は頭のおかしい少年に絡まれた事を説明した。
 全てを説明すると、師匠は優しい表情を浮かべて私の頭を撫でてくれた。

「大丈夫だよ……クリスタル」

 師匠はこんな時でも落ち着いている。やっぱり私の師匠は凄い……。

「分かった。アルテミスの勇者、レベル120。ボリンガー騎士団、団長。サシャ・ボリンガーがお相手しよう!」

 サシャが名を名乗ると、酒場に居た冒険者達は歓声の声をあげた。

「やっちまえ! 勇者様!」
「お前が勇者様に勝てる訳ないだろう!」
「俺達市民を守ってくれた英雄に剣を向けるとは! 失礼なガキだな……!」

 頭のおかしい少年は、師匠が勇者だという事を知ると愕然とした表情を浮かべた。剣を持つ手が震えている……。さっきまでは『魔王でも勇者でも倒す』と言っていたのに……情けない男。私の師匠は本当に魔王を倒したのよ。

「良いだろう! 表に出ろ!」

 少年は強がって師匠を店の表に呼び出した……。
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