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第一章「冒険者編」
第十話「決闘」
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受付に進むと、二十代後半ほど、赤髪を丁寧に結んだ女性が立っていた。冒険者登録の際に担当してくれた人だ。確か名前はブリギッテ・グラウスと言ったかな。
「おはようございます! 仲間も増えてパーティーも充実してきましたね!」
「おはようございます、グラウスさん。お陰様でパーティーとして満足に狩りを行える様になりました」
「本日はどの様なご用件でしょうか?」
「今日もスライム討伐のクエストを受けようと思うのですが」
「かしこまりました。それではギルドカードの提示をお願いします」
俺は小さな銀色のカードをグラウスさん渡すと、彼女はカウンターの上にある石版にギルドカードをかざした。これでスライムの討伐クエストの受注は完了した。あとはスライムを討伐すれば、ギルドカードには自動的に討伐数が表示されるので、クエストを終えてギルドに戻ってくれば良い。
「実は昨晩の事なのですが、廃村で体の大きな紫色のモンスターの生息が確認されました。私の予想では、魔獣クラスのレッサーミノタウロスだと思うのですが、基本的に人間を襲う事はないので、特に注意する必要は無いと思います」
「レッサーミノタウロスですか。ミノタウロスといえば幻獣クラスのモンスターですよね」
「はい。ミノタウロスは非常に獰猛で、赤い体毛に包まれた巨体のモンスターですが、レッサーミノタウロスは紫色の体毛に包まれています。まるで人間と牛の中間種の様な見た目をしているので、すぐに判別出来ると思います。レッサーミノタウロスは人間に害の無い雷属性のモンスターですが、人間から攻撃を仕掛ければ、容赦なく襲い掛かってきますので、決して挑発や攻撃等をしない様にお願いします」
「わかりました」
レッサーミノタウロスに関して十分に注意を受けてから、俺達はギルドを出てスライム討伐に向かう事にした。ギルドの入り口には二人の冒険者が立っており、俺達三人を服装を舐める様に見ている。片方は長身の男。鋼鉄製だろうか、丈夫そうな鎧を身に着けており、背中にはロングソードを背負っている。
もう片方は背の低い魔術師風の女性だ。手には美しい装飾が施された杖を持っており、いかにも高級そうなティアラを頭に乗せている。装備だけ見ても裕福な冒険者の様だが、俺の木刀とウッドシールドに目をやると、気味の悪い笑みを浮かべて俺を見た。
「おいおい、ユグドラシルはいつからスライム駆除業者を雇ったんだい?」
周囲から笑いが起こると、シャルロッテは露骨に機嫌を悪くし、長身の男を見上げた。ローラは男を無視して何度も新しい服を触り、楽しそうに微笑んでいる。やはり都会には雰囲気の悪い人間が居るのだな……。俺は好きでスライムを狩っている訳ではない。俺の実力で狩れるモンスターがスライムとスケルトンしか居ないからだ。
「それは木刀か? まぁスライムを狩るだけなら木刀で十分だろうな。せいぜいユグドラシルの品格を落とさない様に気をつけるんだな」
「そうよ、あんた達みたいな雑魚が所属して良いギルドじゃないんだからね」
女は長身の男の背後に隠れながら、シャルロッテを睨みつけ、罵声を浴びせた。シャルロッテは怒りを我慢出来なくなったのか、両手に風の魔力を溜めると、女が杖を構えた。
「やれるものならやってみなさいよ。人間ですら無いケットシー風情が」
「なんですって……? もう許さないわ」
シャルロッテが両手を女に向けた瞬間、女は瞬時に杖の先端から魔力を放出した。火属性の魔法だろうか、強烈な炎の塊が生まれると、俺は咄嗟にシャルロッテを抱きしめ、背中で魔法を受けた。
爆発的な炎が俺の背中を焼くと、耐え難い激痛に襲われた。気を抜くと意識を失ってしまいそうだ。瞬時にローラが回復魔法を唱えると、シャルロッテは大粒の涙を浮かべた。
「大丈夫かい? シャルロッテ……」
「ギルベルト……。背中が……」
「俺は大丈夫さ。これくらいの魔法では死なないよ。俺はシャルロッテとローラを守る冒険者だからな」
「馬鹿……。どうして私のために……!」
突然の出来事にギルド内は静まり返り、受付のグラウスさんが駆け付けてきた。それからグラウスさんは鬼の様な形相を浮かべ、女の頬を叩いた。女の体は軽々と吹き飛び、ギルドの壁に激突すると、長身の男が剣の柄に手を掛けた。
「もし剣を仲間に向けるなら、その時は俺が相手しよう」
「ほう。木刀で俺の相手が出来ると言うのか?」
「無論」
「面白い! 外に出ろ! 決着を付けてやる!」
男が吠えると女は慌てて立ち上がり、ギルドから出た。とんでもない事になって仕舞ったな。お互いの意思が激突した時、剣によって決闘をする事があると父から聞いた事がある。俺は木刀を使って、自分よりも明らかに高レベルの冒険者と剣を交えなければならないのだ。
ギルド内に居た冒険者達は楽しそうにギルドから出てくると、俺と長身の男を取り囲んだ。シャルロッテは涙を流しながらグラウスさんに決闘をやめる様にと言うと、グラウスさんは自分には決闘を止める権利はないと言った。
双方の合意の元に行われる決闘なのだから、誰も俺達の決闘を止める権利はない。田舎から出てきて、都会の裕福な冒険者に舐めれるのは御免だ。たとえ俺が弱かったとしても、因縁を付けてきた相手を許すつもりはない。勝負には負けるだろうが、それでも俺は男の顔面に強烈な木刀の一撃をお見舞いする事は出来るだろう。
男がゆっくりと剣を抜くと、銀色に輝く刃が朝日を浴びて光を反射した。とてもではないが、木刀で受けられるような剣ではない。たちまち俺の木刀は真っ二つに折れてしまうだろう。
ローラは不安げな表情を浮かべて俺の背後に立つと、俺は木刀とウッドシールドを握り締めた。
『ああ、ギルベルトとも今日でお別れか。もっと一緒に居たかったよ』
脳内にガチャの声が響くと、男がロングソードを両手で握り締め、一瞬で距離を詰めてきた。俺が防御の構えをする暇もなく、男の剣が俺の左肩を貫いた。全身に激痛が走り、体中から脂汗が流れ出した。まさか、俺はここで死ぬのだろうか?
瞬間、ローラの神聖な魔力が全身を包み込んだ。痛みは瞬く間に消え、肩の傷が一瞬で完治した。男がローラの強力な回復魔法に狼狽した瞬間、俺は左手に持ったウッドシールドで男の顔面を殴りつけた。男の歯が何本か宙を舞うと、男は口から血を流し、怒り狂ってロングソードを振り上げた。俺は男の剣を木刀で受けると、木刀は一瞬で切り裂かれ、男の剣が俺の右肩を捉えた。
焼ける様な痛みが肩から全身に回り、意識が朦朧としてきた。再びローラがヒールの魔法を唱えると、痛みは嘘の様に消え、活力が体内にみなぎった。俺は右手で男の剣を握り締め、左手に持ったウッドシールドで男の顔面を殴りつけた。
男の体が吹き飛ぶと、俺は肩から男の剣を抜いて右手で構えた。恐怖のあまり顔をひきつらせる男に対して剣を向けると、傍観していた女が俺に杖を向けた。流石にこの状況で女が攻撃魔法を使えば、今の俺では防ぎ切る事は出来ない……。ついに俺の命が終わる時が来たのか……。
「一体何をしておるのだ!」
聞き覚えのある高い声が響くと、群衆をかき分けて背の低い少女が現れた。金髪のツインテール、深紅色のドレスを着ており、背後には赤髪の執事が控えている。公爵家令嬢のヴェロニカ様だ。
「自分よりも低レベルの冒険者に剣を向けるとは、どういう事だ? フェスカよ」
「フロイデンベルグ様! これは正式な決闘です!」
「何が正式な決闘だ! 確かお前のレベルは30だったな。それで、この者のレベルはいくつだ?」
「マスターフロイデンベルグ。カーティス様のレベルは6です」
「ありがとう、ブリギッテ。それで、自分よりもレベルが24も離れた相手と決闘をしていたという訳か? どこからどう見ても駆け出しの冒険者だろうが! 装備を見て分からんのか! この者は私が目を掛けた冒険者なのだ! 何人たりともこの者を傷つける事は許さん!」
ヴェロニカ様が俺の前に立ち、無様に倒れる男に向かって叫ぶと、俺は少女の背中が大きく見えた。まるで父に守られている様な安心感だ。これが貴族の威風なのだろうか。俺は男の剣を投げ捨てると、男は怯えながら深々と頭を下げて消えた……。
「おはようございます! 仲間も増えてパーティーも充実してきましたね!」
「おはようございます、グラウスさん。お陰様でパーティーとして満足に狩りを行える様になりました」
「本日はどの様なご用件でしょうか?」
「今日もスライム討伐のクエストを受けようと思うのですが」
「かしこまりました。それではギルドカードの提示をお願いします」
俺は小さな銀色のカードをグラウスさん渡すと、彼女はカウンターの上にある石版にギルドカードをかざした。これでスライムの討伐クエストの受注は完了した。あとはスライムを討伐すれば、ギルドカードには自動的に討伐数が表示されるので、クエストを終えてギルドに戻ってくれば良い。
「実は昨晩の事なのですが、廃村で体の大きな紫色のモンスターの生息が確認されました。私の予想では、魔獣クラスのレッサーミノタウロスだと思うのですが、基本的に人間を襲う事はないので、特に注意する必要は無いと思います」
「レッサーミノタウロスですか。ミノタウロスといえば幻獣クラスのモンスターですよね」
「はい。ミノタウロスは非常に獰猛で、赤い体毛に包まれた巨体のモンスターですが、レッサーミノタウロスは紫色の体毛に包まれています。まるで人間と牛の中間種の様な見た目をしているので、すぐに判別出来ると思います。レッサーミノタウロスは人間に害の無い雷属性のモンスターですが、人間から攻撃を仕掛ければ、容赦なく襲い掛かってきますので、決して挑発や攻撃等をしない様にお願いします」
「わかりました」
レッサーミノタウロスに関して十分に注意を受けてから、俺達はギルドを出てスライム討伐に向かう事にした。ギルドの入り口には二人の冒険者が立っており、俺達三人を服装を舐める様に見ている。片方は長身の男。鋼鉄製だろうか、丈夫そうな鎧を身に着けており、背中にはロングソードを背負っている。
もう片方は背の低い魔術師風の女性だ。手には美しい装飾が施された杖を持っており、いかにも高級そうなティアラを頭に乗せている。装備だけ見ても裕福な冒険者の様だが、俺の木刀とウッドシールドに目をやると、気味の悪い笑みを浮かべて俺を見た。
「おいおい、ユグドラシルはいつからスライム駆除業者を雇ったんだい?」
周囲から笑いが起こると、シャルロッテは露骨に機嫌を悪くし、長身の男を見上げた。ローラは男を無視して何度も新しい服を触り、楽しそうに微笑んでいる。やはり都会には雰囲気の悪い人間が居るのだな……。俺は好きでスライムを狩っている訳ではない。俺の実力で狩れるモンスターがスライムとスケルトンしか居ないからだ。
「それは木刀か? まぁスライムを狩るだけなら木刀で十分だろうな。せいぜいユグドラシルの品格を落とさない様に気をつけるんだな」
「そうよ、あんた達みたいな雑魚が所属して良いギルドじゃないんだからね」
女は長身の男の背後に隠れながら、シャルロッテを睨みつけ、罵声を浴びせた。シャルロッテは怒りを我慢出来なくなったのか、両手に風の魔力を溜めると、女が杖を構えた。
「やれるものならやってみなさいよ。人間ですら無いケットシー風情が」
「なんですって……? もう許さないわ」
シャルロッテが両手を女に向けた瞬間、女は瞬時に杖の先端から魔力を放出した。火属性の魔法だろうか、強烈な炎の塊が生まれると、俺は咄嗟にシャルロッテを抱きしめ、背中で魔法を受けた。
爆発的な炎が俺の背中を焼くと、耐え難い激痛に襲われた。気を抜くと意識を失ってしまいそうだ。瞬時にローラが回復魔法を唱えると、シャルロッテは大粒の涙を浮かべた。
「大丈夫かい? シャルロッテ……」
「ギルベルト……。背中が……」
「俺は大丈夫さ。これくらいの魔法では死なないよ。俺はシャルロッテとローラを守る冒険者だからな」
「馬鹿……。どうして私のために……!」
突然の出来事にギルド内は静まり返り、受付のグラウスさんが駆け付けてきた。それからグラウスさんは鬼の様な形相を浮かべ、女の頬を叩いた。女の体は軽々と吹き飛び、ギルドの壁に激突すると、長身の男が剣の柄に手を掛けた。
「もし剣を仲間に向けるなら、その時は俺が相手しよう」
「ほう。木刀で俺の相手が出来ると言うのか?」
「無論」
「面白い! 外に出ろ! 決着を付けてやる!」
男が吠えると女は慌てて立ち上がり、ギルドから出た。とんでもない事になって仕舞ったな。お互いの意思が激突した時、剣によって決闘をする事があると父から聞いた事がある。俺は木刀を使って、自分よりも明らかに高レベルの冒険者と剣を交えなければならないのだ。
ギルド内に居た冒険者達は楽しそうにギルドから出てくると、俺と長身の男を取り囲んだ。シャルロッテは涙を流しながらグラウスさんに決闘をやめる様にと言うと、グラウスさんは自分には決闘を止める権利はないと言った。
双方の合意の元に行われる決闘なのだから、誰も俺達の決闘を止める権利はない。田舎から出てきて、都会の裕福な冒険者に舐めれるのは御免だ。たとえ俺が弱かったとしても、因縁を付けてきた相手を許すつもりはない。勝負には負けるだろうが、それでも俺は男の顔面に強烈な木刀の一撃をお見舞いする事は出来るだろう。
男がゆっくりと剣を抜くと、銀色に輝く刃が朝日を浴びて光を反射した。とてもではないが、木刀で受けられるような剣ではない。たちまち俺の木刀は真っ二つに折れてしまうだろう。
ローラは不安げな表情を浮かべて俺の背後に立つと、俺は木刀とウッドシールドを握り締めた。
『ああ、ギルベルトとも今日でお別れか。もっと一緒に居たかったよ』
脳内にガチャの声が響くと、男がロングソードを両手で握り締め、一瞬で距離を詰めてきた。俺が防御の構えをする暇もなく、男の剣が俺の左肩を貫いた。全身に激痛が走り、体中から脂汗が流れ出した。まさか、俺はここで死ぬのだろうか?
瞬間、ローラの神聖な魔力が全身を包み込んだ。痛みは瞬く間に消え、肩の傷が一瞬で完治した。男がローラの強力な回復魔法に狼狽した瞬間、俺は左手に持ったウッドシールドで男の顔面を殴りつけた。男の歯が何本か宙を舞うと、男は口から血を流し、怒り狂ってロングソードを振り上げた。俺は男の剣を木刀で受けると、木刀は一瞬で切り裂かれ、男の剣が俺の右肩を捉えた。
焼ける様な痛みが肩から全身に回り、意識が朦朧としてきた。再びローラがヒールの魔法を唱えると、痛みは嘘の様に消え、活力が体内にみなぎった。俺は右手で男の剣を握り締め、左手に持ったウッドシールドで男の顔面を殴りつけた。
男の体が吹き飛ぶと、俺は肩から男の剣を抜いて右手で構えた。恐怖のあまり顔をひきつらせる男に対して剣を向けると、傍観していた女が俺に杖を向けた。流石にこの状況で女が攻撃魔法を使えば、今の俺では防ぎ切る事は出来ない……。ついに俺の命が終わる時が来たのか……。
「一体何をしておるのだ!」
聞き覚えのある高い声が響くと、群衆をかき分けて背の低い少女が現れた。金髪のツインテール、深紅色のドレスを着ており、背後には赤髪の執事が控えている。公爵家令嬢のヴェロニカ様だ。
「自分よりも低レベルの冒険者に剣を向けるとは、どういう事だ? フェスカよ」
「フロイデンベルグ様! これは正式な決闘です!」
「何が正式な決闘だ! 確かお前のレベルは30だったな。それで、この者のレベルはいくつだ?」
「マスターフロイデンベルグ。カーティス様のレベルは6です」
「ありがとう、ブリギッテ。それで、自分よりもレベルが24も離れた相手と決闘をしていたという訳か? どこからどう見ても駆け出しの冒険者だろうが! 装備を見て分からんのか! この者は私が目を掛けた冒険者なのだ! 何人たりともこの者を傷つける事は許さん!」
ヴェロニカ様が俺の前に立ち、無様に倒れる男に向かって叫ぶと、俺は少女の背中が大きく見えた。まるで父に守られている様な安心感だ。これが貴族の威風なのだろうか。俺は男の剣を投げ捨てると、男は怯えながら深々と頭を下げて消えた……。
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