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第二章「王都イスターツ編」
第四十八話「授業開始」
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それから俺達は三時間程語り合い、俺はヘンリエッテを自宅まで送り届けた。彼女の家は俺の屋敷から十分程の位置にあった。すっかり酔いが回ったヘンリエッテは「今日は楽しかった」と何度も喜んだ。
「それじゃヘンリエッテ、また明日」
「はい。おやすみなさい、マスター!」
ヘンリエッテが屋敷に入るまで見届けてから自宅に戻ると、ボリスとイリスは既に自室に戻っており、ロビンは後片付けをし、フランツとエドガーは談話室の隅で武器を磨いていた。
ララはソファで眠っており、ヴィクトリアは心地良さそうに眠るララを撫でながら、天使の様な笑みを浮かべている。
「ユリウス、今日は一緒に居ても良い?」
「うん、良いよ」
俺はララを抱き上げて彼女の部屋に運んだ。ララの部屋は俺の部屋のすぐ隣にあり、部屋にはガーゴイル人形やゴブリンの生首、スケルトン人形などが置いてある。それからエレオノーレ様が着ていたワンピースが一着だけ窓際に置かれている。
幼いララはエレオノーレ様と会いたくて仕方がないのだろう。ララのためにも早くエレオノーレ様を復活させたい。まずは十二月の魔法祭で優勝しなければならないのだ。
ヴィクトリアと共に自室に入ると、天井付近に浮かぶ魔石の光が彼女の黒に近い紫色の髪を照らした。彼女の髪は何度見ても美しく、ゆっくりと頭を撫でると、ヴィクトリアは俺に抱き着いた。
ベッドに腰を掛けてからヴィクトリアを強く抱き寄せ、彼女の唇に唇を重ねる。何度もキスをしてきたが、キスをする度に彼女の愛を感じ、俺もまた彼女を心から愛していると実感する。
ゆっくりとヴィクトリアを押し倒し、強く抱き合いながら時間を忘れてキスをする。唇の隙間からヴィクトリアの舌が入ってくると、驚く程柔らかな舌を貪る様に味わった。
舌を絡め合いながら彼女の胸に触れると、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。抱き合うと彼女の豊かな胸が俺の胸板に当たり、あまりにも柔らかく、弾力のある胸の感触に興奮と嬉しさを覚える。
お互いの愛を確認し合う様に強く抱き合い、時間を忘れてキスをする。付き合い始めてもお互いの愛は冷める事もなく、日に日に彼女を好きになっている自分に気が付く。彼女もまた次第に大胆になり、俺と二人で居られる時は俺から離れようとしない。
少なくとも週に三日は会っているが、それでも俺達には足りない。出来る事なら全ての時間をヴィクトリアと共に過ごしたい。彼女の長いまつ毛も、手入れされた透き通る様な白い肌も、紫色の澄んだ瞳も全て好きだ。
ドレスの胸の部分がはだけ、ピンクのブラジャーが見えると、俺は彼女の胸に顔を埋めた。柔らかい豊かな谷間が俺の精神を高ぶらせる。俺はヴィクトリアの肉体も、すぐに嫉妬する性格も、彼女の優しさも大好きだ。
ヴィクトリアもまた俺の肉体が好きで、何度も俺の胸や腕の筋肉に触れ、俺の首にキスをする。俺もヴィクトリアの細い首に何度もキスをし、出来る事なら彼女の体中に接吻の雨を降らせたいとも思うが、まだ俺達は一線を越えた事はない。
そうしてヴィクトリアとの濃厚な時間を過ごし、彼女が眠ると、俺は大広間に降りた。興奮を静めるために永遠と封魔剣舞を踊る。一日六時間の封魔剣舞を終えると、朝まで雷光閃を放ち続け、肉体を限界まで追い込む。
俺がどんな魔物にも負けないのは、徹底的に自分を追い込んで力を求めているからだ。エレオノーレ様は俺よりも遥かに強かったが、それでもSランクのヒュドラには敵わなかった。国民を襲ったヒュドラは行方をくらましたが、いつ王都を襲うか分からない。
将来、ヒュドラが王都を襲撃した時、俺が封魔石宝流剣術で仕留めると決めているのだ。そのために俺は鍛錬の生活を続ける。どんなギルドマスターよりも強くなり、国王陛下が勲章を授けた事が正しかったと思える冒険者になってみせる。
体が少しも動かなくなるまで肉体を追い込むと、イリスが起きてきて朝食を作ってくれた。今日は魔法学校で初めての授業を受ける。肉体はぼろ雑巾の様だが魔力は充実している。
石宝刀を振り続ける生活を続けているからか、上半身の筋肉が爆発的に成長している。前腕も以前とは比較にならない程大きい。肉体の充実と共に、精神的にも成長している自分自身に気が付く。
談話室でヴィクトリア達の起床を待ちながら、イリスが用意してくれた朝食を食べ、庭でとれたシュルスクの果実からマナポーションを作った。ポーションを作るにはシュルスクの果実をマナポーション製造機に入れるだけなので、暇さえあればマナポーションを量産する事にしている。
ヴィクトリア、ララ、ボリスが起きてくると、ヘンリエッテが朝から嬉しそうに屋敷を訪ねてきた。それからララとイリスが俺達四人を見送ってくれると、俺達は魔法学校に入り、防御魔法の授業が行われる教室に向かった。
座学は各クラスの教室で行うが、魔法を使う授業は各教科の教室で行う。一階には攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、召喚魔法、魔物育成学の教室がある。入学式で使用した闘技場は実戦魔法の教室を兼ねているらしい。
今日からは二年と三年も登校している。大広間には大勢の上級生がおり、新入生を品定めする様に見つめている。二年、三年の中にはヴィクトリアに恋心を抱いている者も居るのだろう。
金色の髪を長く伸ばした、いかにも金持ちそうな男が俺達の前に立ちはだかり、ヴィクトリアを口説き始めた。腰には金から出来た悪趣味な杖を提げており、指にはダイヤが嵌った指環をいくつも付けている。
ヴィクトリアは丁寧に相手の申し出を断るが、時々強引に彼女の体に触れたり、連れ去ろうとする輩が居る。魔法学校で魔法を学び、強さを身に着けて勘違いをしているのか、悪趣味な成金男が無理やりヴィクトリアの手を掴むと、俺は男の腕を捻り上げた。
毎日石宝刀を振り続け、肉体を限界まで鍛え込んでいるからか、体すら鍛えた事がない貧弱な魔術師は、こうして腕を捻り上げるだけで涙を流す。
「先輩、ヴィクトリアが嫌がってますので勘弁してくれませんか? これ以上近付くなら、ヴィクトリア王女の守護者であるこのユリウス・シュタインが相手しましょう」
「お前……! 俺様を誰だと思っている!? 俺は魔法祭二年連続優勝のカルロス・フロイデンベルグだぞ!」
「そうですか。それでは今年は俺が優勝させて頂きます」
「一年の癖に生意気な奴だな……! このフロイデンベルグ様に歯向かった事を後悔させてやる!」
フロイデンベルグはベルトに挟んでいた杖を瞬時に引き抜き、火属性の魔力を放出させた。流石に二年間も連続で魔法祭で優勝しているだけの事はある。今までヴィクトリアを襲った暴漢とは異なる強さを持っている様だが、殺意のない攻撃では俺の心が乱れる事もない。
「ファイアボール!」
フロイデンベルグが直径一メートルを超える炎の球を飛ばすと、ヴィクトリアは笑みを浮かべながら俺を見つめ、ボリスは退屈そうにあくびをした。ヘンリエッテはワクワクした表情を浮かべて俺を見つめ、丁度居合わせたレベッカとレーネは楽し気に俺を応援した。
フロイデンベルグのファイアボールに対し、拳を握り締めて全力で殴り抜く。爆発的な炎が拳の一撃に耐えきれずに消滅すると、まさか攻撃魔法を拳で打ち消されると思わなかったのだろう、フロイデンベルグは力なく座り込んだ。
「嘘だ……! 何かの間違いだ……! レベルの60の俺が放ったファイアボールを拳で掻き消すなんて!」
大広間では大勢の上級生達が俺達のやりとりを見ており、1-Aの担任であるカレン先生も生徒達の間から一部始終を見ていた事に気が付いた。カレン先生は手に杖を握っており、フロイデンベルグの魔法を止めるために水属性の魔力を杖の先端に溜めていた。
仲間達は誰一人として俺が負けるとは考えなかったのだろう、ボリスはブロードソードの柄にすら触れていないし、ヴィクトリアは腕を組みながら満足げにフロイデンベルグを見下ろしている。
「丁度良いのでこの場ではっきり申し上げます。私はヴィクトリア・フォン・ファルケンハイン王女の守護者、冒険者ギルド・ファルケンハインのギルドマスター、レベル87、封魔師のユリウス・シュタインです。ヴィクトリア王女に言い寄るのは結構ですが、彼女に指一歩でも触れる事はこの私が許しません」
上級生が大勢集まる中で、「ヴィクトリアを口説きたければ俺を倒せ」と言いたかったが、それではあまりにも挑発的なので、俺は彼女を守る存在が常に傍に居る事を上級生達に証明した。
野次馬の中の誰かが拍手を上げると、大広間は熱狂的な歓声と拍手で包まれた。カレン先生までもが杖を仕舞って拍手を送ってくれている。
「ファイアボールを拳で消滅させるとは……! 今年はフロイデンベルグの優勝を見ずに済みそうだ!」
「ああ! あんな男が毎年優勝するのは正直ムカついてたからな。ユリウス・シュタイン! 今年はお前が優勝しろよ!」
「レッドドラゴン討伐の英雄に敵う訳ないだろう! 出直してこい! フロイデンベルグ!」
魔法祭を二年連続で優勝したフロイデンベルグという三年は余程校内で嫌われているのか、次々と彼を非難する声が上がった。カレン先生が野次馬に解散する様にと言うと、俺達は防御魔法の授業が行われる教室に入った。
カレン先生は俺とフロイデンベルグの戦いを誰よりも楽しんだのか、目を輝かせて俺の手を握った。
「ユリウス君! 今年の魔法祭は1-Aが必ず優勝しましょう!」
「はい! カレン先生!」
三十人のクラスメートが集まる教室は自宅の大広間よりも遥かに広く、椅子すら置かれていない空間には、木製の人形が三十体並んでいた。
「皆さんおはようございます! 昨日から入寮した方は良く眠れたでしょうか? 早速今日から防御魔法の授業を始めようと思いますが、授業の前にユリウス君が私の授業内容を全否定する様な力技を披露してくれました」
1-Aの皆も大広間で俺とフロイデンベルグのやり取りを見ていたのだろう、皆も興奮した面持ちで俺を見つめている。
「ユリウス君は全身に巡る魔力を拳一点に集中させ、球状の攻撃魔法であるファイアボールに対し、正面から正確に拳を打ち込みました。これは防御魔法ではなく、攻撃魔法を使用して相手の攻撃を掻き消すという荒業です。魔力が大幅に離れた相手の攻撃ならば、先ほどのユリウス君の様に相手の攻撃魔法を掻き消す事が出来ますが、この授業では防御魔法を使用して相手の魔法攻撃や物理攻撃を無効化して頂きます」
カレン先生が木製の人形の前に立つと、人形が杖を持っている事に気が付いた。おそらくこの人形は魔法道具なのだろう。体内に強い魔力を秘めている事が分かる。
「せっかくなので、先ほどのユリウス君とフロイデンベルグさんの勝負を再現してみましょうか。勿論、私は防御魔法に特化した魔術師なので、ユリウス君の様な荒業は使えません。あれはレベル60のファイアボールを受けられるだけの、常識では考えられない筋肉と、校長先生をも上回るレベル87の魔力が成し遂げた奇跡の防御手段です。決して真似をしない様にお願いします」
カレン先生が木製の人形の前に立つと、人形が杖を構えた。カレン先生は右手で杖を構えると、杖の先端に水属性の魔力が集まった。木製の人形が杖から火の魔力を炸裂させ、小さな炎の球を飛ばすと、カレン先生は杖を突き出して魔力を放出した。
「ウォーターシールド!」
瞬間、直径二メートルを超える巨大な水の盾が発生し、人形が放ったファイアボールを消火した。先生の力強い防御魔法にクラスは一気に盛り上がり、俺は先生に拍手を送った。
茶色の髪にウェーブが掛かった上品なカレン先生は、クラスメートを見つめ、恥ずかしそうに微笑んだ。ボリスはカレン先生を凝視しており、レベッカはそんなボリスを不満げに見つめている。一体この三人はどうなるのだろうか。先生はボリスと付き合う意思があるのだろうか。
「今日の授業は、このウッドマンとペアになり、ウッドマンが放つ攻撃魔法を受ける練習をします。勿論、初めからファイアボールの様な攻撃力が高い魔法を受けたりしては危険ですから、まずはファイアの魔法を受ける練習をしましょう。防御魔法が使用出来ない方はこちらに来て下さい。魔石と魔法契約書を配ります」
基本的な属性魔法である、ファイア、ウォーター、ウィンド、アース、ストーン、アイス、サンダー、ホーリー、ダークの九種類から派生した防御魔法、火属性ならファイアウォール、水属性ならウォーターウォールといった具合に、全ての属性にウォール系の防御魔法が存在する。
中でも防御力が高いのがストーンウォール。その次がアイスウォール。俺は昨日ファイアウォールの魔法を契約しているので、今日はファイアウォールの魔法でファイアの魔法を受ける事にした。
ヴィクトリアは聖属性のホーリーウォールを、ボリスはウィンドウォール、サンダーウォールを契約した。レベッカはアースウォールとストーンウォール、レーネはウォーターウォールとホーリーウォールを契約した。
地属性の使い手であるケットシー族は防御魔法に優れている様で、レベッカはいとも簡単に石の壁でウッドマンのファイアを受けた。ボリスも俺も普段は攻撃魔法を武器で受けているので、防御魔法で相手の攻撃を受ける事がなかなか難しい。
早速ウッドマン相手に練習を始める事にした。
「それじゃヘンリエッテ、また明日」
「はい。おやすみなさい、マスター!」
ヘンリエッテが屋敷に入るまで見届けてから自宅に戻ると、ボリスとイリスは既に自室に戻っており、ロビンは後片付けをし、フランツとエドガーは談話室の隅で武器を磨いていた。
ララはソファで眠っており、ヴィクトリアは心地良さそうに眠るララを撫でながら、天使の様な笑みを浮かべている。
「ユリウス、今日は一緒に居ても良い?」
「うん、良いよ」
俺はララを抱き上げて彼女の部屋に運んだ。ララの部屋は俺の部屋のすぐ隣にあり、部屋にはガーゴイル人形やゴブリンの生首、スケルトン人形などが置いてある。それからエレオノーレ様が着ていたワンピースが一着だけ窓際に置かれている。
幼いララはエレオノーレ様と会いたくて仕方がないのだろう。ララのためにも早くエレオノーレ様を復活させたい。まずは十二月の魔法祭で優勝しなければならないのだ。
ヴィクトリアと共に自室に入ると、天井付近に浮かぶ魔石の光が彼女の黒に近い紫色の髪を照らした。彼女の髪は何度見ても美しく、ゆっくりと頭を撫でると、ヴィクトリアは俺に抱き着いた。
ベッドに腰を掛けてからヴィクトリアを強く抱き寄せ、彼女の唇に唇を重ねる。何度もキスをしてきたが、キスをする度に彼女の愛を感じ、俺もまた彼女を心から愛していると実感する。
ゆっくりとヴィクトリアを押し倒し、強く抱き合いながら時間を忘れてキスをする。唇の隙間からヴィクトリアの舌が入ってくると、驚く程柔らかな舌を貪る様に味わった。
舌を絡め合いながら彼女の胸に触れると、彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。抱き合うと彼女の豊かな胸が俺の胸板に当たり、あまりにも柔らかく、弾力のある胸の感触に興奮と嬉しさを覚える。
お互いの愛を確認し合う様に強く抱き合い、時間を忘れてキスをする。付き合い始めてもお互いの愛は冷める事もなく、日に日に彼女を好きになっている自分に気が付く。彼女もまた次第に大胆になり、俺と二人で居られる時は俺から離れようとしない。
少なくとも週に三日は会っているが、それでも俺達には足りない。出来る事なら全ての時間をヴィクトリアと共に過ごしたい。彼女の長いまつ毛も、手入れされた透き通る様な白い肌も、紫色の澄んだ瞳も全て好きだ。
ドレスの胸の部分がはだけ、ピンクのブラジャーが見えると、俺は彼女の胸に顔を埋めた。柔らかい豊かな谷間が俺の精神を高ぶらせる。俺はヴィクトリアの肉体も、すぐに嫉妬する性格も、彼女の優しさも大好きだ。
ヴィクトリアもまた俺の肉体が好きで、何度も俺の胸や腕の筋肉に触れ、俺の首にキスをする。俺もヴィクトリアの細い首に何度もキスをし、出来る事なら彼女の体中に接吻の雨を降らせたいとも思うが、まだ俺達は一線を越えた事はない。
そうしてヴィクトリアとの濃厚な時間を過ごし、彼女が眠ると、俺は大広間に降りた。興奮を静めるために永遠と封魔剣舞を踊る。一日六時間の封魔剣舞を終えると、朝まで雷光閃を放ち続け、肉体を限界まで追い込む。
俺がどんな魔物にも負けないのは、徹底的に自分を追い込んで力を求めているからだ。エレオノーレ様は俺よりも遥かに強かったが、それでもSランクのヒュドラには敵わなかった。国民を襲ったヒュドラは行方をくらましたが、いつ王都を襲うか分からない。
将来、ヒュドラが王都を襲撃した時、俺が封魔石宝流剣術で仕留めると決めているのだ。そのために俺は鍛錬の生活を続ける。どんなギルドマスターよりも強くなり、国王陛下が勲章を授けた事が正しかったと思える冒険者になってみせる。
体が少しも動かなくなるまで肉体を追い込むと、イリスが起きてきて朝食を作ってくれた。今日は魔法学校で初めての授業を受ける。肉体はぼろ雑巾の様だが魔力は充実している。
石宝刀を振り続ける生活を続けているからか、上半身の筋肉が爆発的に成長している。前腕も以前とは比較にならない程大きい。肉体の充実と共に、精神的にも成長している自分自身に気が付く。
談話室でヴィクトリア達の起床を待ちながら、イリスが用意してくれた朝食を食べ、庭でとれたシュルスクの果実からマナポーションを作った。ポーションを作るにはシュルスクの果実をマナポーション製造機に入れるだけなので、暇さえあればマナポーションを量産する事にしている。
ヴィクトリア、ララ、ボリスが起きてくると、ヘンリエッテが朝から嬉しそうに屋敷を訪ねてきた。それからララとイリスが俺達四人を見送ってくれると、俺達は魔法学校に入り、防御魔法の授業が行われる教室に向かった。
座学は各クラスの教室で行うが、魔法を使う授業は各教科の教室で行う。一階には攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、召喚魔法、魔物育成学の教室がある。入学式で使用した闘技場は実戦魔法の教室を兼ねているらしい。
今日からは二年と三年も登校している。大広間には大勢の上級生がおり、新入生を品定めする様に見つめている。二年、三年の中にはヴィクトリアに恋心を抱いている者も居るのだろう。
金色の髪を長く伸ばした、いかにも金持ちそうな男が俺達の前に立ちはだかり、ヴィクトリアを口説き始めた。腰には金から出来た悪趣味な杖を提げており、指にはダイヤが嵌った指環をいくつも付けている。
ヴィクトリアは丁寧に相手の申し出を断るが、時々強引に彼女の体に触れたり、連れ去ろうとする輩が居る。魔法学校で魔法を学び、強さを身に着けて勘違いをしているのか、悪趣味な成金男が無理やりヴィクトリアの手を掴むと、俺は男の腕を捻り上げた。
毎日石宝刀を振り続け、肉体を限界まで鍛え込んでいるからか、体すら鍛えた事がない貧弱な魔術師は、こうして腕を捻り上げるだけで涙を流す。
「先輩、ヴィクトリアが嫌がってますので勘弁してくれませんか? これ以上近付くなら、ヴィクトリア王女の守護者であるこのユリウス・シュタインが相手しましょう」
「お前……! 俺様を誰だと思っている!? 俺は魔法祭二年連続優勝のカルロス・フロイデンベルグだぞ!」
「そうですか。それでは今年は俺が優勝させて頂きます」
「一年の癖に生意気な奴だな……! このフロイデンベルグ様に歯向かった事を後悔させてやる!」
フロイデンベルグはベルトに挟んでいた杖を瞬時に引き抜き、火属性の魔力を放出させた。流石に二年間も連続で魔法祭で優勝しているだけの事はある。今までヴィクトリアを襲った暴漢とは異なる強さを持っている様だが、殺意のない攻撃では俺の心が乱れる事もない。
「ファイアボール!」
フロイデンベルグが直径一メートルを超える炎の球を飛ばすと、ヴィクトリアは笑みを浮かべながら俺を見つめ、ボリスは退屈そうにあくびをした。ヘンリエッテはワクワクした表情を浮かべて俺を見つめ、丁度居合わせたレベッカとレーネは楽し気に俺を応援した。
フロイデンベルグのファイアボールに対し、拳を握り締めて全力で殴り抜く。爆発的な炎が拳の一撃に耐えきれずに消滅すると、まさか攻撃魔法を拳で打ち消されると思わなかったのだろう、フロイデンベルグは力なく座り込んだ。
「嘘だ……! 何かの間違いだ……! レベルの60の俺が放ったファイアボールを拳で掻き消すなんて!」
大広間では大勢の上級生達が俺達のやりとりを見ており、1-Aの担任であるカレン先生も生徒達の間から一部始終を見ていた事に気が付いた。カレン先生は手に杖を握っており、フロイデンベルグの魔法を止めるために水属性の魔力を杖の先端に溜めていた。
仲間達は誰一人として俺が負けるとは考えなかったのだろう、ボリスはブロードソードの柄にすら触れていないし、ヴィクトリアは腕を組みながら満足げにフロイデンベルグを見下ろしている。
「丁度良いのでこの場ではっきり申し上げます。私はヴィクトリア・フォン・ファルケンハイン王女の守護者、冒険者ギルド・ファルケンハインのギルドマスター、レベル87、封魔師のユリウス・シュタインです。ヴィクトリア王女に言い寄るのは結構ですが、彼女に指一歩でも触れる事はこの私が許しません」
上級生が大勢集まる中で、「ヴィクトリアを口説きたければ俺を倒せ」と言いたかったが、それではあまりにも挑発的なので、俺は彼女を守る存在が常に傍に居る事を上級生達に証明した。
野次馬の中の誰かが拍手を上げると、大広間は熱狂的な歓声と拍手で包まれた。カレン先生までもが杖を仕舞って拍手を送ってくれている。
「ファイアボールを拳で消滅させるとは……! 今年はフロイデンベルグの優勝を見ずに済みそうだ!」
「ああ! あんな男が毎年優勝するのは正直ムカついてたからな。ユリウス・シュタイン! 今年はお前が優勝しろよ!」
「レッドドラゴン討伐の英雄に敵う訳ないだろう! 出直してこい! フロイデンベルグ!」
魔法祭を二年連続で優勝したフロイデンベルグという三年は余程校内で嫌われているのか、次々と彼を非難する声が上がった。カレン先生が野次馬に解散する様にと言うと、俺達は防御魔法の授業が行われる教室に入った。
カレン先生は俺とフロイデンベルグの戦いを誰よりも楽しんだのか、目を輝かせて俺の手を握った。
「ユリウス君! 今年の魔法祭は1-Aが必ず優勝しましょう!」
「はい! カレン先生!」
三十人のクラスメートが集まる教室は自宅の大広間よりも遥かに広く、椅子すら置かれていない空間には、木製の人形が三十体並んでいた。
「皆さんおはようございます! 昨日から入寮した方は良く眠れたでしょうか? 早速今日から防御魔法の授業を始めようと思いますが、授業の前にユリウス君が私の授業内容を全否定する様な力技を披露してくれました」
1-Aの皆も大広間で俺とフロイデンベルグのやり取りを見ていたのだろう、皆も興奮した面持ちで俺を見つめている。
「ユリウス君は全身に巡る魔力を拳一点に集中させ、球状の攻撃魔法であるファイアボールに対し、正面から正確に拳を打ち込みました。これは防御魔法ではなく、攻撃魔法を使用して相手の攻撃を掻き消すという荒業です。魔力が大幅に離れた相手の攻撃ならば、先ほどのユリウス君の様に相手の攻撃魔法を掻き消す事が出来ますが、この授業では防御魔法を使用して相手の魔法攻撃や物理攻撃を無効化して頂きます」
カレン先生が木製の人形の前に立つと、人形が杖を持っている事に気が付いた。おそらくこの人形は魔法道具なのだろう。体内に強い魔力を秘めている事が分かる。
「せっかくなので、先ほどのユリウス君とフロイデンベルグさんの勝負を再現してみましょうか。勿論、私は防御魔法に特化した魔術師なので、ユリウス君の様な荒業は使えません。あれはレベル60のファイアボールを受けられるだけの、常識では考えられない筋肉と、校長先生をも上回るレベル87の魔力が成し遂げた奇跡の防御手段です。決して真似をしない様にお願いします」
カレン先生が木製の人形の前に立つと、人形が杖を構えた。カレン先生は右手で杖を構えると、杖の先端に水属性の魔力が集まった。木製の人形が杖から火の魔力を炸裂させ、小さな炎の球を飛ばすと、カレン先生は杖を突き出して魔力を放出した。
「ウォーターシールド!」
瞬間、直径二メートルを超える巨大な水の盾が発生し、人形が放ったファイアボールを消火した。先生の力強い防御魔法にクラスは一気に盛り上がり、俺は先生に拍手を送った。
茶色の髪にウェーブが掛かった上品なカレン先生は、クラスメートを見つめ、恥ずかしそうに微笑んだ。ボリスはカレン先生を凝視しており、レベッカはそんなボリスを不満げに見つめている。一体この三人はどうなるのだろうか。先生はボリスと付き合う意思があるのだろうか。
「今日の授業は、このウッドマンとペアになり、ウッドマンが放つ攻撃魔法を受ける練習をします。勿論、初めからファイアボールの様な攻撃力が高い魔法を受けたりしては危険ですから、まずはファイアの魔法を受ける練習をしましょう。防御魔法が使用出来ない方はこちらに来て下さい。魔石と魔法契約書を配ります」
基本的な属性魔法である、ファイア、ウォーター、ウィンド、アース、ストーン、アイス、サンダー、ホーリー、ダークの九種類から派生した防御魔法、火属性ならファイアウォール、水属性ならウォーターウォールといった具合に、全ての属性にウォール系の防御魔法が存在する。
中でも防御力が高いのがストーンウォール。その次がアイスウォール。俺は昨日ファイアウォールの魔法を契約しているので、今日はファイアウォールの魔法でファイアの魔法を受ける事にした。
ヴィクトリアは聖属性のホーリーウォールを、ボリスはウィンドウォール、サンダーウォールを契約した。レベッカはアースウォールとストーンウォール、レーネはウォーターウォールとホーリーウォールを契約した。
地属性の使い手であるケットシー族は防御魔法に優れている様で、レベッカはいとも簡単に石の壁でウッドマンのファイアを受けた。ボリスも俺も普段は攻撃魔法を武器で受けているので、防御魔法で相手の攻撃を受ける事がなかなか難しい。
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ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
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