氷姫 - 精霊から頂いた加護が最強すぎるので、魔術師になって無双しようと思う -

花京院 光

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第一章「迷宮都市フェーベル編」

第三話「レオンの覚悟」

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 緑色の皮膚に、顔は人間に良く似ているが非常に醜く、耳は尖っており、爪は汚らしく伸び切っている。体にはボロの布を纏い、手には人間を殺めて奪ったのであろう、ダガーを握り締めている。

 ゴブリンが単体なら加護を持たない俺でも対処出来るが、集団になれば一気に強さを増す。四体ものゴブリンを一度に相手するのは初めてだ。ヒールポーションによって肩の傷は癒えたが、血を多く流したから気分は優れない。

 それに、最後の一撃で全ての魔力を使い切って仕舞ったからか、剣に纏っていた冷気も消えている。普段は一対一でしか戦う事のないゴブリンを、精霊を守りながら四体も同時に相手にしなければならない。

 俺に加護を授けてくれた精霊は決して死なせない。十四年間、どんな微精霊も俺に加護を授けてくれなかった。初めて俺を認めてくれたのが微精霊を上回る精霊というのは奇跡の様な事なんだ。何が何でも俺が彼女を守り抜いてみせる……。

 以前、氷の精霊・エミリアはシュルツ村で暮らしていた事があったが、加護を得ようと言い寄る人間があまりにも多く、すぐに村を去って森で暮らし始めた。俺は彼女の姿を見た事も無かったが、まさかこんなに人間に近い容姿をしているとは知らなかった。

 精霊狩りから追い回され、遂には人間を氷漬けにした氷の精霊。シュルツ村では「氷の精霊には決して近付いていけない」という決まりになっている。一度精霊狩りを殺しただけで、人間を殺める危険な精霊と認知されているのだ。

 森で氷の精霊と出会っても決して関わってはいけない。これがシュルツ村の決まりだが、俺はそんな決まりを守るつもりはない。やっと俺に加護を授けてくれる精霊が現れたのだ。俺は契約者として彼女を守り、必ず幸せに暮らせる環境を作ってみる。

 まずは目の前に居る忌々しい魔物を仕留めなければならないな……。

「かかってこい……!」

 震えながら剣を握り締め、ゴブリンを睨みつける。幻獣のグレートゴブリンを奇跡的に討伐したと思ったら、再び死の危機にさらされるとは思ってもみなかったが、これは俺が乗り越えなければならない試練。エミリアを守ると誓ったのだ。どんな魔物が襲い掛かってこようが、俺がエミリアを守り抜いてみせる。

 四体のゴブリンが俺達を取り囲むと、一斉に攻撃を仕掛けてきた。俺の前に立つゴブリンがダガーで突きを放ってきたが、俺はラウンドシールドで攻撃を受け、敵の脳天にショートソードを振り下ろした。

 瞬間、背中に焼ける様な痛みを感じた。背後に回っていたゴブリンが俺の背中にダガーを突き立てたのだ。激痛を感じながらも、俺の頭には一気に血が上り、戦闘に興奮して心臓は大きく高鳴り、震える手で剣を握り締めながら、振り返りざまに水平切りを放った。

 切っ先がゴブリンの首を切り裂くと、ゴブリンの首からは大量の血が流れ、力なく地面に倒れた。これで二体目だ。背後から攻撃を受けてしまったが、ゴブリンはエミリアを標的にはしてない。いつもの自分よりも冷静に戦えているのは、守るべき精霊を得たからだろうか。

 二体のゴブリンは静かに見つめ合い、交互に攻撃を仕掛けてきた。日常的に集団で人間を殺しているのだろう。シュルツ村ではゴブリンに殺される村人も随分多い。冒険者が村の周囲の森に入り、定期的にゴブリンを討伐しているが、ゴブリンは繁殖力が高く、森の深い場所に巣を作っているので、全てのゴブリンを狩り尽くす事は不可能。

 森にはゴブリン以外にも更に悪質な魔物が多く生息しているのだ。ゴブリンを追って森に入り、グレートゴブリンやアラクネ様な強い力を持つ幻獣に殺される人間も多い。

 二体のゴブリンの攻撃をなんとか防ぐと、木製の盾が砕け、俺は遂に防御手段を失った。ショートソード一本で敵の攻撃を防ぐ事は厳しいだろう。

 僅かだが魔力が回復したのか、俺は再び剣に冷気を纏わせ、全力で水平斬りを放った。背の低いゴブリンが俺の攻撃を受け止めたが、ダガーでは攻撃を防ぎきれなかったのか、ゴブリンのダガーが遥か彼方まで吹き飛び、剣がゴブリンの首を捉えた。

 胴体から首が離れ、ゴブリンの頭部が宙を舞うと、ゴブリンの死骸が一瞬で凍りついた。仲間を失ったゴブリンは恐怖を抱いたのか、ゆっくりと後退を始めた。

 背中からは大量の血が流れ、既に立っている事すらままならない。頭の回転は非常に遅く、全身に気だるさと吐き気を感じ、人生で感じた事も無い、焼ける様な痛みが全身を駆け巡り、体中から脂汗が吹き出す。

 時間の経過と共に血液が失われ、恐怖のあまり顔が引きつる。剣を持つ手は震えているが、敵に悟られない様に強く握りしめる。両足は震え、痛みのあまり意識が呆然とし、敵の姿を見つめているだけでも精神を集中しなければならない。

 既に虚勢を張る力もなく、一歩も動けずにゴブリンを睨みつける。もう次の攻撃を仕掛ける力は残っていないだろう。今すぐ命を落としてもおかしくはない状況なのだ。

 ゴブリンは俺が既に限界を迎えている事に気がついたのか、気味の悪い笑みを浮かべると、仲間が落としたダガーを拾い上げ、二本のダガーを構えて襲いかかってきた。

「殺せるなら殺してみろ……。俺はやっと加護を授かったんだ……! 何が何でも生き延びてみせる……。俺を認めてくれたエミリアのために!」

 ゴブリンが一気に距離を詰めると、俺は防御する力もなく、敵の攻撃を腹部に受けた。二本のダガーが腹を切り裂き、大量の血が吹き出したが、ゴブリンが不用意に接近してくれた事は俺にとって都合が良い。

 この一撃に全てを賭ける。ショートソードを頭上高く振り上げ、全ての力を注いで振り下ろす。剣が敵の脳天に直撃すると、武器の耐久性が限界を迎えたのが、剣が粉々に砕け、ゴブリンは一撃で命を落とした。

 俺は遂に四体もの忌々しい魔物を狩り尽くしたのだ。すっかり体力を使い果たすと、俺は力なく地面に倒れた。

 腹部と背中に耐え難い痛みを感じながらも、地面を這いつくばってエミリアに近づく。木の葉や土が傷口に触れる度に猛烈な痛みを感じるが、それでもエミリアの近くに居たい。

「エミリアは俺を認めてくれたんだ……! 誰も俺に加護を授けてくれなかった……。俺がこの子を守るんだ……!」

 この最悪な状況を他の魔物に目撃されたら、エミリアは確実に命を落とすだろう。せめて彼女を隠すためにと、俺は小さなエミリアの体を覆いかぶさると、徐々に意識が遠のいた……。
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