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第一章「迷宮都市フェーベル編」
第十話「精霊狩りと契約者」
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父と合流した瞬間、三人の精霊狩りが姿を消した。家の前には父が冒険者から買い取った幌馬車がある。荷台には堅焼きパンや巨大な乾燥肉などの日持ちする食料、調理器具や衣類、二人分の寝具などが載っている。
「すぐに村を出た方が良い。途中まで送ろう」
「分かったよ」
俺はマナポーションを荷台に積み、母と抱き合ってから御者台に飛び乗った。
「レオン。精霊を守りながら暮らしなさい。くれぐれも精霊狩りに殺されない様に……」
「大丈夫だよ。俺はエミリアと共に強くなる」
「ええ、最高の精霊魔術師になったら帰ってきなさい」
母が涙を流して見送ってくれると、俺達は村の南口から森に入り、エミリアとの待ち合わせ場所に向かった。既に日が暮れており、迷いの森方面に進むに従って魔物の放つ強い魔力を肌に感じる。
エミリアはこんなに恐ろしい森で暮らしているんだ。たった一人で、人間に歓迎される事も無く、精霊狩りから逃げる様に、魔物の襲撃に怯えながら古代の遺跡で暮らしている。そんな生活はもう終わりだ。
俺がエミリアに外の世界を見せる。俺も旅を望んでいたんだ。十五歳になったら旅に出ると決めていた。三週間後、俺は十五歳の誕生日を迎える。
エミリアは自分の誕生日は知らないらしい。精霊は人間の様に年齢を数える習慣が無い。年齢は分からないが、外見から判断する限りでは俺とほぼ同じくらいだろう。
「レオン、精霊の加護を持つ者は十万人に一人と言われている。微精霊を遥かに上回る魔法能力を持つ精霊は、自分の人生を託す価値があると判断した者にしか加護を与えない。レオンは精霊から認められたのだ。くれぐれも精霊を死なせない様に、生涯守り抜いて暮らすのだぞ」
「分かってるよ」
「既にレオンは精霊狩りの連中に目を付けられている。俺もすぐに家に戻って母さんを守らなければならない。男なら自分の力で愛する者と精霊を守ってみろ。お前にはその力がある。剣を学び始めてから五年が経ったな。魔法が使えないお前は毎日俺の稽古に耐え、遂に加護を授かった。剣技と魔法を使いこなせる精霊魔術師になれ」
「ああ、そうするつもりだよ。今日まで育ててくれてありがとう」
「冒険の旅に疲れたらいつでも帰ってくると良い……」
エミリアとの待ち合わせ場所に着くと、俺と父は無言で強く抱き合った。俺が九歳の頃から剣を教えてくれ、冒険者としての知識を授けてくれた。偉大な父との別れの時が遂に訪れたのだ。
父は馬車から飛び降りると、颯爽と迷いの森を後にした。剣一振りさえあれば何日も森で生き抜く事が出来る熟練の冒険者である父には、迷いの森を抜けてシュルツ村に戻る事は容易い。
それでも父はグレートゴブリンには絶対に勝負を挑まなかった。この森にはグレートゴブリン以外にも幻獣クラスの魔物であるアラクネが生息している。アラクネは精霊狩りや魔族に力を貸し、人間を殺めて喰らう悪質な魔物。
森でアラクネと遭遇して生還出来る確率は極めて低い。アラクネに殺された人間や微精霊も多い。せめて旅に出るまでの間、アラクネに見つからずに過ごしたいものだ……。
「レオンさん……!」
エミリアが満面の笑みを浮かべながら近付いてくると、馬車を見て目を輝かせた。これからの旅で長時間乗る事になる幌馬車をゆっくりと眺めてから御者台に乗り、俺の隣に腰を下ろした。
隣にエミリアが居る事に喜びを感じながらも、すぐに遺跡に向かって馬車を走らせた。幌馬車を牽くのは魔獣クラスのウィンドホースという風属性の魔物。体高は百六十センチを超えており、体重は一トン近くある。スライムやゴブリン程度の魔物なら軽々と蹴散らす事が出来る魔物だ。
俺は以前からこのウィンドホースが欲しかったのだ。初めて馬を持つならウィンドホースにすると決めていた。父は俺の言葉を覚えていたのか、最高の馬を用意してくれた。性格は温厚だが、人間を守るためなら魔物をも恐れず突き進む精神力がある。飼い主に忠実で好奇心旺盛。自ら戦闘に参加する事もある貴重な魔物だ。
軍馬としても活躍出来る、力の強いウィンドホースはまさに冒険者の憧れの的なのだ。毛は栗色で、筋肉は大きく盛り上がっており、規則正しく動く発達した筋肉を眺めているだけでも楽しくなる。
幌馬車も随分立派な物で、荷台にはファイアリザードという火属性の魔物の革が張られており、雨風を凌ぎ、弱い火の魔法なら打ち消す効果がある。冒険者生活を支える最高の幌馬車である事は間違いない。
この幌馬車とウィンドホースは父の剣術の師匠であるアレクサンダーさんの物だ。かつては大陸中を旅した冒険者であり、幼い頃から俺の家に何度も遊びに来てくれた父の師匠。父がどうやってアレクサンダーさんを説得して馬車と馬を買い取ったのかは分からない。
自分の命の次に大切だと言っていたウィンドホースの名前はハンナ。俺は何度もハンナの背中に乗り、森を駆けた事があった。エミリアは荷台に積まれた食料や寝具を見て目を輝かせた。
「随分立派な馬車ですね! 早く旅に出たいです。レオンさんと一緒に……」
「そうだね。最高の馬車だよ。俺も今すぐ旅に出たいとは思うけど、まずは魔法を練習したいんだ。十五歳の誕生日を迎えるまでは遺跡で暮らそう」
「はい! ずっと一人で暮らしていたので、レオンさんとの生活が本当に楽しみです。もう一人じゃないんですね……。やっと契約者さんと一緒に暮らせるんです。この日を待ち続けていました……」
「これからは契約者である俺がエミリアを守るよ。俺はまだ弱いけど、魔法を学んで強くなるから。二人で旅をしながら暮らそう」
「はい。ふつつか者ですが、よろしくお願いします、レオンさん」
エミリアが丁寧に頭を下げると、俺は改めて精霊を守りながら生きる覚悟を決めた。背後からは再び精霊狩りの殺気を感じた。俺達に対する殺意を隠そうともせず、禍々しい魔力が近付いてくるのだ。
降りかかる火の粉は振り払わなければならない。エミリアの生活を脅かす輩はこの剣で仕留める。幸い、まだ敵は本格的に俺達を襲おうとはしていない。敵が攻撃を始めるまでの時間に、少しでも魔法の訓練を積み、精霊狩りを討伐出来る力を身に着けなくてはならない……。
「すぐに村を出た方が良い。途中まで送ろう」
「分かったよ」
俺はマナポーションを荷台に積み、母と抱き合ってから御者台に飛び乗った。
「レオン。精霊を守りながら暮らしなさい。くれぐれも精霊狩りに殺されない様に……」
「大丈夫だよ。俺はエミリアと共に強くなる」
「ええ、最高の精霊魔術師になったら帰ってきなさい」
母が涙を流して見送ってくれると、俺達は村の南口から森に入り、エミリアとの待ち合わせ場所に向かった。既に日が暮れており、迷いの森方面に進むに従って魔物の放つ強い魔力を肌に感じる。
エミリアはこんなに恐ろしい森で暮らしているんだ。たった一人で、人間に歓迎される事も無く、精霊狩りから逃げる様に、魔物の襲撃に怯えながら古代の遺跡で暮らしている。そんな生活はもう終わりだ。
俺がエミリアに外の世界を見せる。俺も旅を望んでいたんだ。十五歳になったら旅に出ると決めていた。三週間後、俺は十五歳の誕生日を迎える。
エミリアは自分の誕生日は知らないらしい。精霊は人間の様に年齢を数える習慣が無い。年齢は分からないが、外見から判断する限りでは俺とほぼ同じくらいだろう。
「レオン、精霊の加護を持つ者は十万人に一人と言われている。微精霊を遥かに上回る魔法能力を持つ精霊は、自分の人生を託す価値があると判断した者にしか加護を与えない。レオンは精霊から認められたのだ。くれぐれも精霊を死なせない様に、生涯守り抜いて暮らすのだぞ」
「分かってるよ」
「既にレオンは精霊狩りの連中に目を付けられている。俺もすぐに家に戻って母さんを守らなければならない。男なら自分の力で愛する者と精霊を守ってみろ。お前にはその力がある。剣を学び始めてから五年が経ったな。魔法が使えないお前は毎日俺の稽古に耐え、遂に加護を授かった。剣技と魔法を使いこなせる精霊魔術師になれ」
「ああ、そうするつもりだよ。今日まで育ててくれてありがとう」
「冒険の旅に疲れたらいつでも帰ってくると良い……」
エミリアとの待ち合わせ場所に着くと、俺と父は無言で強く抱き合った。俺が九歳の頃から剣を教えてくれ、冒険者としての知識を授けてくれた。偉大な父との別れの時が遂に訪れたのだ。
父は馬車から飛び降りると、颯爽と迷いの森を後にした。剣一振りさえあれば何日も森で生き抜く事が出来る熟練の冒険者である父には、迷いの森を抜けてシュルツ村に戻る事は容易い。
それでも父はグレートゴブリンには絶対に勝負を挑まなかった。この森にはグレートゴブリン以外にも幻獣クラスの魔物であるアラクネが生息している。アラクネは精霊狩りや魔族に力を貸し、人間を殺めて喰らう悪質な魔物。
森でアラクネと遭遇して生還出来る確率は極めて低い。アラクネに殺された人間や微精霊も多い。せめて旅に出るまでの間、アラクネに見つからずに過ごしたいものだ……。
「レオンさん……!」
エミリアが満面の笑みを浮かべながら近付いてくると、馬車を見て目を輝かせた。これからの旅で長時間乗る事になる幌馬車をゆっくりと眺めてから御者台に乗り、俺の隣に腰を下ろした。
隣にエミリアが居る事に喜びを感じながらも、すぐに遺跡に向かって馬車を走らせた。幌馬車を牽くのは魔獣クラスのウィンドホースという風属性の魔物。体高は百六十センチを超えており、体重は一トン近くある。スライムやゴブリン程度の魔物なら軽々と蹴散らす事が出来る魔物だ。
俺は以前からこのウィンドホースが欲しかったのだ。初めて馬を持つならウィンドホースにすると決めていた。父は俺の言葉を覚えていたのか、最高の馬を用意してくれた。性格は温厚だが、人間を守るためなら魔物をも恐れず突き進む精神力がある。飼い主に忠実で好奇心旺盛。自ら戦闘に参加する事もある貴重な魔物だ。
軍馬としても活躍出来る、力の強いウィンドホースはまさに冒険者の憧れの的なのだ。毛は栗色で、筋肉は大きく盛り上がっており、規則正しく動く発達した筋肉を眺めているだけでも楽しくなる。
幌馬車も随分立派な物で、荷台にはファイアリザードという火属性の魔物の革が張られており、雨風を凌ぎ、弱い火の魔法なら打ち消す効果がある。冒険者生活を支える最高の幌馬車である事は間違いない。
この幌馬車とウィンドホースは父の剣術の師匠であるアレクサンダーさんの物だ。かつては大陸中を旅した冒険者であり、幼い頃から俺の家に何度も遊びに来てくれた父の師匠。父がどうやってアレクサンダーさんを説得して馬車と馬を買い取ったのかは分からない。
自分の命の次に大切だと言っていたウィンドホースの名前はハンナ。俺は何度もハンナの背中に乗り、森を駆けた事があった。エミリアは荷台に積まれた食料や寝具を見て目を輝かせた。
「随分立派な馬車ですね! 早く旅に出たいです。レオンさんと一緒に……」
「そうだね。最高の馬車だよ。俺も今すぐ旅に出たいとは思うけど、まずは魔法を練習したいんだ。十五歳の誕生日を迎えるまでは遺跡で暮らそう」
「はい! ずっと一人で暮らしていたので、レオンさんとの生活が本当に楽しみです。もう一人じゃないんですね……。やっと契約者さんと一緒に暮らせるんです。この日を待ち続けていました……」
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「はい。ふつつか者ですが、よろしくお願いします、レオンさん」
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