氷姫 - 精霊から頂いた加護が最強すぎるので、魔術師になって無双しようと思う -

花京院 光

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第一章「迷宮都市フェーベル編」

第十七話「訓練の生活」

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〈レオン視点〉

 エミリアを失ってから十日が経過した。迷宮都市に向けて馬車を走らせながら、俺は全ての時間を魔法の訓練に注いだ。馬車の手綱をティナに任せ、荷台で永遠と魔法を使用する。エミリアが魔法を使用する時の様子を思い出しながら、彼女の動きや魔法の使い方を徹底的に再現する。

 右手に持ったブロードソードにエンチャントを掛けたまま左手で氷の塊を作り、様々な形に造形する。小さなエミリアの人形を作り上げたり、両親の胸像を作ってみたりするのだ。細かい造形が出来る様になれば攻撃魔法の完成度も上がるとエミリアが言っていた。

 まずは魔法を制御する感覚を覚える。左右の手に別々の魔法を使用して魔力の消費速度を上げ、体内の魔力を全て使い果たせばマナポーションを飲んで回復させる。疲労のあまり意識が朦朧としても、エミリアの居る生活を想像して頬を叩いた。

 今回の事件は俺の弱さが招いたのだ。俺が異変に気が付いていれば、俺があの時眠らずにエミリアを守っていたら良かったんだ。猛烈な睡魔に襲われて二時間だけ仮眠をとった瞬間、精霊狩りを連れた魔族が遺跡を襲撃した。

 決してエミリアとの出会いに浮かれていた訳ではなかった。エミリアと暮らしていた三週間の毎日の睡眠時間は二時間。魔法が使える事に興奮し、少しでもエミリアに見合う男に近づこうと努力していた。それでも俺はエミリアを守れなかったのだ。

 強くなるには時間が必要なのだろう。生まれた時から魔法が使えたエミリアでさえ、魔族を退ける事は出来なかった。ティナの説明だと、エミリアは魔族が放った魔法を防御したが、精霊狩りがエミリアに催眠の魔法を掛けたのだとか。

 流石のエミリアも四人同時に相手する事は出来なかったらしい。それでもエミリアは傷一つ負っておらず、昏睡状態で連れ去られた。彼女が怪我をしていたら、俺はどんな顔でエミリアに会えば良いのだろうか。

 エミリアが居る生活を取り戻すために俺は死に物狂いで努力した。早朝に起きて剣と魔法の訓練をし、魔物が巣食う森で徹底的に戦闘訓練を積んだ。限られた僅かな時間で実戦を多く積み、戦いの勘を身に付ける。

 襲い掛かるゴブリンやスケルトンを狩り続け、体力が尽きて敵の攻撃を全身に浴びる事もあった。それでも俺は強さを求めて戦い続けた。一度幻獣のアラクネが俺達を襲撃した事があった。体長三メートルを超える大型の魔物。下半身は黒い体毛に包まれた蜘蛛の体で、上半身は成人の女性に近い容姿をしている。

 闇属性の幻獣相手に、俺はどこまで強くなったのか試したのだ。ウィンドホースのハンナの背中に飛び乗り、森を高速で駆けながら、エミリア直伝のアイスショットの魔法を飛ばし続けた。

 アラクネが使用する武器は巨大なフレイルで、長い鎖の先端にスパイクが付いた武器は木々を軽々となぎ倒す力があり、高速で俺達を追いながらフレイルを振り回すアラクネの姿に、俺は震え上がりながらも、ひたすら魔法を連発した。

 ティナはアラクネの頭上からファイアボールを落とし続けて着実にダメージを与え、俺とティナの連撃にアラクネは遂に倒れた。それでも俺達はアラクネにとどめを刺す事は出来なかった。瀕死になったアラクネは口から黒い霧を吐いて俺達の視界を奪い、逃亡を図ったのだ。

 俺はティナと協力すれば幻獣クラスの魔物にも通用する魔法を身に着けた事を実感した。氷属性の中でも基本的な攻撃魔法であるアイスショット、それから氷の盾を作り上げるアイスシールド。精霊魔法であるアイスゴーレムの生成。単純な魔法を永遠と繰り返し、最高の攻撃魔法と防御魔法に昇華させた。

 人生で最も過酷な十日を乗り越えた俺は、心身共に疲れ果てながら、迷宮都市フェーベルに到着した……。


 馬車の御者台にティナと共に座りながら正門に進む。鎧を着込んだ二人の衛兵が俺を静止すると、荷台を覗き込んでからティナを見つめた。やはりガーゴイルを手懐けている人間は少ないのだろう。

 衛兵がティナにビスケットを渡すと、ティナは可愛らしく頭を下げてから嬉しそうに食べ始めた。

「ガーゴイルと旅をする冒険者とは珍しいな。フェーベルにはどういう用件で来たんだ?」
「死霊の精霊に会いに来ました」
「精霊に会いに? 討伐に挑戦しに来たのではないのか?」
「はい、会いに来たんです。加護を貰えたら良いなと思いました」
「悪い事は言わない、死霊の精霊には近づくな。あれは人間に心を開く様な精霊ではない。精霊は人間を守る神聖な生物だが、あの精霊だけは他の精霊とは全く異なる存在なのだ。それに、半年前から死霊の精霊に挑む者はギルドで許可証を得なければならない事が決まった。あまりにも死霊の精霊に挑んで命を落とす者が多いからだ」
「許可証ですか?」
「そうだ。どのギルドでも良い。一定以上の力があると証明し、死霊の精霊に挑戦するための許可を得る必要がある。まぁ、そんな事には挑戦しないで、フェーベル産のエールとスペアリブでも食って旅の疲れを癒やすんだ。あんな精霊に近づくのは自殺行為だからな」

 俺は二人の衛兵からこの町のエールがいかに美味しいか、甘ダレで煮込んだ豚のスペアリブの美味しさを力説されてからやっと開放された。きっと二人共俺を本気で心配していたのだろう。久しぶりに鏡を見たら、村を出た頃よりも遥かに老け込んでいた自分に驚いた。

 俺はきっと思い詰めた表情をしていたのだろう。エミリアを奪われてから、俺は毎日悲しくて堪らなかった。体を動かす事によって、自分を極限まで追い込む事によってエミリアに対する気持ちを抑えていた。

 二人の衛兵が俺の肩を力強く叩きながら、フェーベル産のエールの味を本気で語るものだから、俺は今夜にでもエールを飲みに行く事した。十五歳で成人を迎えた俺は遂に飲酒が出来るのだ。

 流石に体を酷使しすぎた。睡眠時間が惜しくて魔法を徹底的に使い込んでいたが、今の体の状態では死霊の精霊が俺を認め、加護を与える事は決して無いだろう。精霊は自分自身の加護を有効に活用出来る者を精選する。奥手なエミリアは三年も俺を監視していた。

 俺に残された時間は二十日間だけだ。この二十日間で死霊の精霊の心を開き、人間嫌いを克服させ、死霊の精霊と共に魔族の砦を落とさなければならない……。
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