氷姫 - 精霊から頂いた加護が最強すぎるので、魔術師になって無双しようと思う -

花京院 光

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第一章「迷宮都市フェーベル編」

第十八話「迷宮都市フェーベル」

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 雰囲気の良い衛兵達に見送られながら馬車をゆっくりと走らせる。ティナは初めて見るフェーベルに興奮しているのか、俺の肩の上に両足を乗せて、楽しげに街を見渡している。まずは宿を決めて死霊の精霊に関する情報を集めよう。

 死霊の精霊が都市の地下にある死のダンジョンで暮らしている事は分かっているが、具体的な居場所は分からない。広いダンジョンを隅々まで探索する時間はないだろう。一日でも早くエミリアを取り戻したいが、久しぶりにゆっくり休みたい気もする。

「レオン、今日は訓練を休むんだ。君は頑張り過ぎだよ」
「そうだね、流石に体力の限界かもしれない……」
「僕にスペアリブを食べさせてくれるんだろう? 一度食べてみたかったんだ。宿を決めたら食事に行こうよ!」
「そうしようか。今日は久しぶりに休もう。体を酷使しすぎた……」

 それから俺はティナと共に宿を決めた。一階が酒場になっている三階建の木造の宿には多くの冒険者が滞在しているのか、酒場では防具を身に付けた男達が美味しそうにエールを飲んでいる。

 馬車から貴重品を下ろして受付に進み、六月一日までの宿泊費を払って部屋を借りた。宿代は一泊四千ゴールド。グレートゴブリンの討伐で大金を得たからか、暫くはお金に困る事はないだろう。

 それに、遺跡での生活で俺とエミリアとティナは協力して魔石を集めた。ゴブリン、スライム、スケルトンの魔石を大量に集める事が出来たのだ。情報収集を兼ねて、魔石を冒険者ギルドに持ち込もう。

 安宿にはミスリル製の武具を身に着けている冒険者は居ないからか、冒険者達が一斉に俺の武具を見つめた。全身にミスリル製の防具を身に着けていれば、ローゼンハインの騎士の様にも見えるだろう。それに、やはりガーゴイルを手懐けている冒険者は一人も居ない。俺に尊敬の眼差しを向ける者も多い。

 ティナと共に三階の部屋に入る。狭い室内の天井には火の魔力を秘めた魔石が浮かんでおり、エミリアと共に過ごした遺跡の天井を思い出し、不意に寂しさを感じた。いつエミリアがいつ戻って来ても一緒に暮らせる様に、ツインベッドの部屋を借りた。

 エミリアが使う予定のベッドに彼女の服を乗せる。彼女が眠る時に着ていたピンク色のパジャマを手に取ると、目には自然と涙が浮かび、ゆっくりと彼女の匂いを嗅いだ。懐かしいエミリアの香りに疲れきった心が震え、エミリアと共に暮らした時間を思い出し、嬉しさの後に悲しさがこみ上げてきた。彼女の笑顔を思い出すだけで気分が高揚するが、エミリアを守れなかった自分に怒りを感じる。

 弱い自分を変えるために、間違いなく誰よりも努力してきた。幻獣のアラクネだって退けられる力を得た。あとは死霊の精霊さえ説得すれば良いんだ。

「冒険者ギルドに行こうか。魔石を買い取って貰ってから、死霊の精霊に関する情報を提供して貰おう。それに、許可証も貰わなければ死霊の精霊に会う事も出来ないんだ」
「精霊に会いに行くのに許可が要るなんて、人間の社会は面倒だね」
「俺もそう思うよ。別に精霊を殺しに行く訳でもないのに……」
「だけど、レオン。本当に殺されてしまうかもしれないよ。普通の人間は死霊の精霊・ギレーヌを手懐けようとなんてしない。殺して精霊石を得て大金を稼ぐためにダンジョンに潜るんだ。だから死霊の精霊はレオンの事を精霊狩りだと思うだろう」
「精霊狩りだと思われない格好をして死霊の精霊に会いに行くよ。花束でも抱えて彼女の前に立てば、流石に話しくらいは聞いてくれると思うんだ」
「精霊に花束を? まさそれはいい考えかもしれないね。くれぐれも殺されない様に。エミリアを助けるためにレオンが死んだら、僕は誰のために生きれば良いのか分からなくなるからね」

 俺はティナの小さな頭を撫でると、彼女は嬉しそうに目を瞑ってから俺の肩に飛び乗った。ティナは両足を俺の肩の上に乗せて、後ろから俺の頭を抱く様な姿勢で密着するのが好きなのだ。食事の時は俺の膝の上に乗るし、普段は肩の上に乗っている。

 エミリアが俺の前から消えた時、ティナは落ち込んでいた俺を毎日励ましてくれた。時には魔法の訓練にも付き合ってくれたのだ。間違いなくティナは俺にとって最高の仲間だ。もう一年以上の付き合いになるが、彼女と過ごす時間は俺にとっての癒やしになりつつある。

 ティナと共に宿を出て町を歩く。安宿が並ぶ区画には露店も多くあり、肉料理を提供している店が立ち並ぶ夕方の露店街はシュルツ村とは比較にならない程賑やかだ。仕事を終えた冒険者が武具を装備したまま露店で酒を飲み、肉を食べ、一日の仕事について仲間と語り合っている。まさに冒険者の姿は俺の理想の人生だ。エミリアともこの場所に来たかった。

「レオン、僕も肉を食べたいよ」
「それじゃ少しだけ食べようか。情報収集の前に腹ごしらえをしよう」
「やった!」

 俺はティナと共に串焼きの店に来た。四十代程の男性が魔物の肉を串に刺し、火の魔法で豪快に加熱して俺達に渡してくれると、ティナは小さな手で人間の様の大きな串焼きを持ち、嬉しそうに食べ始めた。

「お客さん、ガーゴイルなんて珍しいな。火属性の魔術師なのか?」
「いいえ、俺は氷の魔法しか使えません」
「氷属性の持ち主がガーゴイルの飼い主とはな。全く異なる属性の魔物に好かれる人間は少ない。微精霊も氷属性なのか?」
「実は、微精霊は持っていないんです」
「というと……、まさか、精霊の加護を持っているのか?」
「はい。氷の精霊の加護を持っています」
「これは驚いた。こんなに若いのに精霊の加護を授かっているとは! それに、ガーゴイルも随分懐いているみたいだし、お客さんは火属性に適性があるんだろう」
「え? 俺が火属性に適正ですか?」
「そうだ。ガーゴイル程の炎の使い手が懐いているんだ。お客さんが火属性に適性が無ければ、ガーゴイルは近づく事もないだろう」

 店主は火の微精霊を俺に見せてくれると、小さな火の魔力から出来た精霊が俺の手に触れた。体内には心地の良い魔力が流れてきた。基本的に微精霊が俺に懐く事は少ない。勿論、両親の微精霊は家族の様なものだからよく懐いている。

「やっぱりな。俺の微精霊もお客さんの才能に気が付いている。お客さん、死のダンジョンの一階層で微精霊を探してみな。きっと加護を授けてくれる筈だよ」
「一階層には火の微精霊が居るんですね」
「そうだ。死霊の精霊の領域である五階層までは火の魔物が多く生息している。魔物が暮らす場所から離れた位置に精霊達が暮らす空間がある。五階層からは闇属性の魔物も多い。一般の冒険者の立ち入りは禁止されている」
「禁止というと、誰かが五階層に続く階段を見張っているとか、そういう事ですか?」
「いいや、魔法陣があるんだ。許可証があれば魔法陣を抜けて五階層に進む事が出来る。勿論、五階層より先に進む事は自殺行為だからお勧めはしない」
「色々教えてくれてありがとうございます! 俺はシュルツ村から来たレオン・シュタイナーと申します。情報のお礼に肉をお代わりさせて下さい」
「なんだって? レオン・シュタイナー!? と言うと、十四歳で幻獣のグレートゴブリンを討伐した天才魔術師か!?」
「天才ではありませんが、確かに討伐しましたよ」
「まさか! 俺の店に幻獣討伐の魔術師が来てくれたのか!」

 店主が歓喜の声を上げると、露店街に居た冒険者達が続々と集まってきた。それから自分のギルドに是非加入してくれと声を掛けてくれる人が多かった。俺は店主の弟である、冒険者ギルドのマスターを紹介して貰い、詳しく死霊の精霊について情報を教えて貰う事した……。
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