レッドストーン - 魔王から頂いた加護が最強過ぎるので、冒険者になって無双してもいいだろうか -

花京院 光

文字の大きさ
18 / 64
第一章「王国編」

第十八話「姫と魔王」

しおりを挟む
 ミノタウロスの召喚石を左手に持って魔力を込めた。衛兵長が大げさに騒いだからか、辺りには三十人以上の冒険者が集まっている。ミノタウロスを披露する良い機会だ。幻魔獣と幻獣を従える冒険者が町に居ると知れば、ブラッドソードの連中も警戒するだろうからな。

『ミノタウロス・召喚!』

 右手を地面に向けて魔法を唱えると、召喚石は強い光を放ち、次の瞬間、巨大な斧を手にしたタウロスが現れた。

「ラインハルト、俺の出番という訳か?」

 タウロスが現れると、周囲からは熱狂的な拍手が沸き起こった。フェンリルをシルバーウルフと見間違える可能性はあるだろうが、ミノタウロスに容姿が近い魔物は存在しない。タウロスは巨大な斧を担ぐと、静かに衛兵長を睨みつけた。

「お前が今日の獲物か? 闇属性を持つ人間よ……」

 衛兵長は恐怖のあまり、涙を流しながら逃げ出した。衛兵長は闇属性を持っているのか。全属性の中で、最も攻撃魔法の種類が多く、対象を錯乱させたり、毒を操る事が出来る属性だ。

「ラインハルト。実は我々、冒険者ギルド・ダーインスレイヴもブラッドソードを追っているのです。去年、私の母を毒殺した暗殺者がブラッドソードと繋がっている可能性もあるので」
「え? 王妃様を毒殺した犯人がブラッドソードと関係があるのですか?」
「私はその可能性もあると考えています。これから少しお時間を頂いても宜しいですか?」

 俺は姫殿下に連れられて近くの酒場に入ると、姫殿下はシュルスクから作られた果実酒を注文した。王妃様が最後に口にした果実酒。赤い果実から作られたお酒がゴブレットに注がれると、姫殿下はゴブレットを持ち上げた。

「我々の出会いに乾杯をしませんか。一杯だけ付き合って下さい」
「はい、俺で良ければ」

 俺はシュルスクの果実酒を一口飲むと、体が徐々に温まり始めた。爽やかな甘味の後に、弱いアルコールを感じる。これは飲みやすいお酒だな。今日は夜警をするためにギルドを出たのだが、まさかアイゼンシュタインの第一王女と共にお酒を飲む事になるとは。

「ラインハルト。貴方は不思議な人ですね……誰もが恐れるシュルスクの果実酒を飲むのですから」
「果実に罪はありませんよ。たとえ犯罪に使われた果実だとしても」
「それはそうですね。実は先程のビスマルクという衛兵長は、私の母が毒殺された時、城で警備をしていたのです。犯人は暗殺者の様な服装をした三十代の男性。犯人は魔法道具を使用し、姿を隠した状態で母の部屋に侵入し、果実酒が入ったゴブレットに毒を入れた。母は毒に気が付かずに果実酒を飲んで命を落としたという訳です」
「そうだったんですね……」
「ええ。ビスマルクは犯人が母を殺した後、すぐに異変に気が付き、部屋の窓から逃亡を図った犯人を捕まえたのです」
「意外と有能なんですね、ビスマルク衛兵長は」
「どうかしら……私はどうもあの男は信用出来ません。ラインハルトの召喚獣であるミノタウロスも、ビスマルクに警戒していましたし」
「そうですね。タウロスが敵として認識した人間は初めてです、余程悪質な魔力を感じたのでしょう」

 姫殿下は果実酒を飲みながら、思い詰めた様な表情で俺を見た。フローラの様な美しい銀色の髪を綺麗に結び。腰にはロングソードを差している。年齢はヘンリエッテさんと同じくらいだろうか。今まで見た女性の中で最も美しい。肌は白く、細い指には金色の美しい指環を嵌めている。

「それから、ビスマルクに続いてお父様が母の部屋に駆けつけました。その時、犯人が大声でビスマルクの名を叫ぶと、ビスマルクは犯人の心臓に剣を突き立てた……」
「素人考えですが、犯人を殺害する必要はあったのでしょうか」
「私は犯人を殺す必要は無かったと思っています。犯人が侵入した経路も分からず、何者かが犯人に手を貸した可能性が大いにある状況でしたから。ビスマルクの話によると、興奮して犯人を殺めてしまったと言っているのですが。どうも腑に落ちないのです」
「もしかして、衛兵長が犯行に関与している可能性があるとお考えですか?」
「はい。私はその可能性が高いと思っています。これは父と私以外は知らない事実ですので、くれぐれも他人に話さないようにお願いします」
「分かりました。姫殿下」
「ラインハルト、私の事はエレオノーレと呼んで頂戴。今はあなたと同じ冒険者をしている訳ですからね。暗い話はこれくらいにして、せっかく知り合えたのだから、あなたの話を聞かせてくれる?」

 姫殿下は優しく微笑むと、酒場に居る客は姫殿下に色目を使った。きっとこの方がアイゼンシュタインの第一王女だと気が付いていないのだろう。

「ところでエレオノーレ様。護衛等を付けなくても大丈夫なのですか?」
「様を付けるのは禁止にしましょう。ラインハルト」
「はい、エレオノーレさん」
「城の者は必ず護衛を付けろと言うのだけど、私は今、アイゼンシュタインの民に貢献するためにこの町で暮らしているの。市民と同様の暮らしをし、自分で仕事をしてお金を稼いでいる。王位継承の事は知っているわね?」
「はい。確か、最も国民に貢献できた方が、次期国王に指名されるんでしたよね」
「そうよ。国民に貢献しようとする者が、市民の税金で働く兵士を護衛として付けて暮らすのはおかしいと思うの。私の妹、第二王女のヘルガは、護衛を付けながら冒険者として暮らしているみたいだけど」
「エレオノーレさん。この町にはブラッドソードの様な者も徘徊していますので、どうか気をつけて下さいね」
「ありがとう。だけど大丈夫よ。私はブラッドソードと遭遇したくて、わざと夜の時間に町に出ているの」

 どうやらエレオノーレさんも俺と同じ考えを持っているらしく、自ら夜の町に出てブラッドソードに関する情報を集めているのだとか。やはり冒険者の考える事は同じなのだろう。一人でブラッドソードを探しに出るのは危険だと思ったが、エレオノーレさんはレベル48を超える力を持ってるらしい。属性は聖属性。闇属性を持つ暗殺者相手には、属性的に有利に戦え、万が一の時は、城の兵士を転移の魔法で呼び出す事が出来るのだとか。

「ラインハルトはどうして冒険者になったの?」
「そうですね。実は父が過去に人様に迷惑を掛けて生きていたので、父の罪を少しでも償えたらなと思いまして」
「罪は本人以外に償えないわ。家族が犯した罪を償うために生きるのは止めた方が良いわよ」
「それもそうですね」
「だけど、まだ若いのに幻魔獣や幻獣を従えてしまうなんて……戦い方は誰から教わったの」
「それも父から教わりました。俺は人生の大半を父と共に過ごしていたので、剣の使い方も、魔物の扱いも、全て父から教えて貰ったんです」
「ラインハルトのお父様は強い方なのね。お父様はご存命?」
「いいえ、少し前にこの世から去ってしまいました」

 この世から去ったと言えば、自殺した様に聞こえるかもしれないが、父が俺に魔王の加護を授け、自分の命を終わらせたと説明する事は出来ない。魔王の加護を次期魔王に授けるのは、イェーガー家の決まりでもある。勿論、俺は将来子供を持ったとしても、魔王の加護は授けないだろう。

「ラインハルト。私は冒険者ギルド・ダーインスレイヴに居るから、いつでも遊びに来て頂戴。ブラッドソードに関する情報を手に入れたら、私にも教えてくれるかしら」
「分かりました。実は近い内に、ブラッドソードを誘き出すために動き出そうと思っています。作戦を始める時にはエレオノーレさんに伝えますね」
「ええ、そうしてくれると助かるわ。それじゃラインハルト。今日は会えて嬉しかったわ。また会いましょう」
「はい、エレオノーレさん。くれぐれもお気をつけて」
「ありがとう」

 エレオノーレさんは会計を済ませ、俺に手を振ると、颯爽と店を出て行った。これは現実なのだろうか? 大陸で最も栄えている王国の第一王女からお酒をご馳走して貰った。今度何かお礼をしなければならないな。

 店の外に出ると、タウロスは冒険者に囲まれており、冒険者達はタウロスにブラッドソードの話をしていたみたいだ。タウロスは『俺が暗殺者を仕留める』と言って俺の肩に手を置いた。巨大な手からは強力な魔力が流れてくる。まるで父の様な力を持っているのだな。

「さて、夜警に行こうか」
「ラインハルトよ、美しい女性と二人で酒を飲むとは……ヘンリエッテはどうするんだ? もう付き合っているんだろう?」
「え? なんだって?」
「ヘンリエッテはラインハルトの事が好きなのではないのか?」
「それは分からないけど、エレオノーレさんとは情報交換していただけだよ」
「本当か? 彼女は随分嬉しそうに店から出てきたが……」

 タウロスが『仕事が終わったら酒を飲みたい』と言ったので、俺は夜警が終わったら好きなだけお酒をご馳走すると約束した。それから俺はヴォルフとタウロスを連れて商業区を回った。今日はブラッドソードの連中は町に居ないのだろう。夜警を朝まで続け、レッドストーンに戻ると、ヘンリエッテさんが出迎えてくれた……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...