ベイビー!マイプリンス

GARAM

文字の大きさ
3 / 7
ずるいよ御影くん

2人きり

しおりを挟む
 チャイムの音と同時にクラスメイト達は解散する。下校時刻、俺が向かうのは図書室。別に、本が読みたい訳ではない。ただ図書委員だから、なんて簡単な理由で放課後そこに入り浸っているだけで。特に家に帰る理由もなければいい暇潰しの材料だった。

──ガチャ

 図書室の鍵を開いて中へと入る。いつもの如く流れ作業で荷物を適当な位置に下ろし、次に換気をしようと窓を開けた。ふわりと春先の優しい風が室内に舞い込んできて心地がいい。風に揺らされた少し長い黒の前髪が鼻先を擽って、思わず小鼻を指で擦った。

「ぇくっしゅん…!」

 堪らず込み上げたくしゃみを素直に吐き出す。花粉症にでもなったか?と頭で独り言を呟いていれば、校庭に見覚えのある人影を見つけて凝視した。

「あっ、御影くん……」

 帰宅部の彼がまだ校庭に残っている。俺は何だか運がいいような気がして、少し心が弾むような思いだった。御影くんは同じクラスのサッカー部の子と仲が良くて、その子と一緒に帰る為にこうして校庭で待ってあげていることがある。

 窓枠に頬杖をついて彼を見下ろした。
 俺なら帰っちゃうけど……、なんて、どこかそっぽを向くような自分の思惑に眉を顰める。別に、残ろうが残るまいが彼の勝手だ。優しい所が好きな癖に、優しさを他者に振る舞う所は少し苦手。
 そんなだから俺みたいな面倒な奴に惚れられてしまうんだ。

 入学当初、貧血で倒れた俺を運んでくれたのは御影くんだった。放課後まで目覚めなかった自分の傍に着いていてくれて、嬉しかったのを今でも覚えている。保健室の窓から差し込む夕陽が、彼の顔色を薄らと染めて。

『遅ぇよ。っふふ、おはよ』

 確か、そう言った。

 冗談っぽく笑う表情や、よしよしと豪快に撫で付けてくれた大きな手がどうしようもなく暖かくて。セーターから香る洗剤の匂いに胸がざわついた。


 あれは紛れもなく、一目惚れだった。


 物思いに耽っていると、はっとして我に返る。視線の先にいた御影くんはどこか宙を見上げていて、どこを見てるんだろう……とその目線を辿ろうとするも、俺はあることに気付いた。

「…………」

 あ……れ……
 見られてる……?

「園崎」
「へっ……?」

 御影くんは此方を見つめながらハッキリと俺の名を呼んだ。校庭と図書室の窓という、何とも言えない距離感でもどかしくもあるが、俺の心はしっかりと早鐘を打つ。勘違いなんかじゃない、本当に、御影くんが俺を相手にして声を掛けている。
 突然の事に俺はじんわりと掌に汗を滲ませながら、おどおどと動揺を隠せないまま応答した。

「ど、どうしたの?」
「何してんの?」

 御影くんは至って普段と変わらない様子でそう問い掛けてくる。

 ゴクリ生唾を飲めば、俺も負けじと平常心を装いながら

「図書委員……だから」

 と。
 返事をした。たったこれだけの事なのに緊張して声が裏返りそうになるのが情けない。

 御影くんは、ふーん、と適当な相槌を打つと退屈そうに一度その場を彷徨いて。

「暇だからそっち行くわ」

 そう言って、俺の言葉もない内に校舎へ歩を向けた。その瞬間、ぶわっと桜の散る突風が室内に吹き抜ける。俺はカクカクとブリキの人形のように固まりながら、脳内に彼の言葉を響かせていた。

『そっち行くわ』

 突如、全身の毛が逆立つ。

「はっ、み、御影くんが来る!?」

 なんで、なんで。
 今までこんな事、1度もなかったのに。

 俺は平常心平常心、と心で何度も唱えながら風で乱れた髪や襟元を直す。とりあえず図書委員らしい事をしておけばいいか、と咄嗟に考えついて、長机に放置されていた本を手に取り整理に徹した。
 いつ御影くんが訪れてもいいように、深呼吸をして。

 でも……

 バクバクと心臓の音が忙しなくて、落ち着こうとすればするほど余計に意識してしまった。ただでさえあがり症だと言うのにこのザマだ。

「はぁ……俺のバカ……」

 とほほ、と自分に呆れながら本を棚に戻すと、図書室のドアが開く音が聞こえた。

 き、来た……!

 胸のざわめきを必死に抑えつつ本棚の隙間から彼の姿を確認する。我ながらストーカーじみた行為だ。だけど、俺は俺なりに精一杯恋をしている訳で。

「園崎ー?」
「……御影くん、あの」

 図書室に入り俺の姿を探す御影くん。そんな彼の前に、勇気をだして一歩踏み出た。こうやって面と向かって話すのでさえ、中々無いことなのに。

 どうしよう……
 緊張、する。

「あ、いたいた。ふは、何?もしかして隠れてた?」

 御影くんは首を傾けながら軽く笑みを零す。微風に揺られる色素の薄い茶髪が、漂う彼の爽やかな匂いが、優しそうに細くなる双眸が。彼の全部が俺の中にある感情を掻き立てて止まない。

 あぁ……好きだ……

「隠れてなんか、ないよ……えっと、本……読む?あっ、あの、オススメとかボードに宣伝してあるから……その……見てみて、ね」

 彼を前にして一生懸命言葉を紡いだつもりが、ぎこちなくて何だか悔しい。こんな奴に好意を寄せられて……やっぱり、迷惑、だろうな。

「ありがとう。でも、本もいいけど今は園崎と話したいな。って、さすがに図書室じゃダメか」

 くしゃりと悪戯にはにかむ御影くんを前に、俺は思わず視線を泳がせた。

 なんで、そんな事急に……

「いっ……いいけど。ここ、あんま人来ないし……御影くんが、俺でいいなら」

 チャンスだと思った。もっと仲良くなれるかもしれないと、淡い期待を抱いてチラリと彼を一瞥する。御影くんは、ぱちぱちと意外そうに瞬きをしてみせた後。

「よっしゃ」

 と。
 とても嬉しそうに、笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

告白ごっこ

みなみ ゆうき
BL
ある事情から極力目立たず地味にひっそりと学園生活を送っていた瑠衣(るい)。 ある日偶然に自分をターゲットに告白という名の罰ゲームが行われることを知ってしまう。それを実行することになったのは学園の人気者で同級生の昴流(すばる)。 更に1ヶ月以内に昴流が瑠衣を口説き落とし好きだと言わせることが出来るかということを新しい賭けにしようとしている事に憤りを覚えた瑠衣は一計を案じ、自分の方から先に告白をし、その直後に全てを知っていると種明かしをすることで、早々に馬鹿げたゲームに決着をつけてやろうと考える。しかし、この告白が原因で事態は瑠衣の想定とは違った方向に動きだし……。 テンプレの罰ゲーム告白ものです。 表紙イラストは、かさしま様より描いていただきました! ムーンライトノベルズでも同時公開。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

処理中です...