ベイビー!マイプリンス

GARAM

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ずるいよ御影くん

また明日も。

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「じゃあ、園崎は毎日放課後はここにいるんだな」
「うん……」

 図書室で御影くんと2人きり。

 神様、どうか心臓をもうひとつください……

 長机に並ぶ椅子、向かい合わせになって座るといつもより御影くんの顔が見える。いつもは背中だけなのに、なんて意識すればするほど彼の顔が見られなくて視線を落としてしまう。
 本を読むより俺と話がしたいと言ってくれた御影くん。未だにこれは全て自分の妄想で、ついに幻覚まで見始めたんじゃないかと錯覚しそうになる。長机の下でギュッと手の甲を抓ってみては1人で気付かれないようにため息をついた。

 現、実だ……

 こんな事があっていいのだろうか。
 入学当初からずっと好きだった人が、今目の前で俺と会話している。今までまともに話した事すらないのに……
 あがり症の俺は必死に冷静を保とうと、時折時計の針を確認してみたり、意味もなく頭で素数を数えてみたり。

 その時、

「園崎、いつも俺の事見てるよな?」

 そんな言葉が不意に耳に入って、俺は思考を停止させた。

「ぁ……っ、あ……」

 突然の事に口をアワアワと動かしたまま動けずにいると目の前の御影くんは可笑しそうにカラカラと笑う。たったそれだけの事なのに俺の頭には色んな情報が入ってきた。
 例えば、笑った顔が無邪気で可愛いとか、歯並びが綺麗とか、よく通る笑い声の中にたまに入る掠れた声音が心地良い、とか……俺は本当にバカだ。

「あんなに見られてたらさすがに気付くよ。人見知りみたいだし、俺から声を掛けた方がいいとは思ってたけど……中々タイミングなくてさ」
「え、そんな!あの……ご、ごめん」

 どこか申し訳なさそうな彼の表情にガタッと椅子を揺らして焦りを顕にする。そんな顔、させるつもりじゃなかったのに。俺はただ、ひっそりとどこかで御影くんを見ていられればそれで良くて。御影くんだってこんな俺を気色悪いと思っているはずで。

 それなのに……この人は、まだ俺の事を心配してくれるんだ。

「なんで謝ってるの?……ふ、大丈夫だよ。俺も園崎の事気になってたし。今日は話すきっかけが出来て良かった」

 当たり前のようにそんな事を言ってのける御影くんが、俺には少し眩しかった。

「あの、ありがとう」

 振り絞るように言った俺の言葉に御影くんは柔く微笑む。何だかこの図書室の中だけ時間がとてもゆっくり進んでいるようで、胸がドキドキして苦しかった。

 なんでこんなになるまで、好きになってしまったんだろう。

 そう考えてもやっぱり理由なんて見つからなくて、俺は俯いたまま軽く首を横に振った。
 ふと、御影くんは椅子を引いて少し前屈みに立ち上がる。不意に伸ばされた彼の大きな手は俺の頭をくしゃりと撫で付けた。
 よしよし、と。
 それはまるで、あの日のようで。

 俺の胸はどうしようもなく、疼いた。

「御影ー!こんなとこに居たのかよ。探したぞ。帰ろうぜ」
「おう!」

 あっ……サッカー部の……

 図書室の扉からひょっこりと顔を出すクラスメイトの姿を見て御影くんは立ち上がる。もう少し、一緒に話してみたかった。そんな思いが口に出せる訳もなく俺はただ口を噤んだ。
 彼はそのまま鞄を肩にかけて出口へ向かうと、

「じゃ、また明日」

 と、振り向きざまにそれだけ言って片手を振った。

「う、うん」

 満足に挨拶もままならない俺はハッキリとしない返事をして、さも気にしていない素振りで本棚の整理に戻る振りをする。
 2人分の足音が遠ざかるのを確認して、本棚を背にその場にへたり込んだ。

「は……話しちゃった……」

 半ば放心状態の俺は頭の中に先程までの光景を思い描く。真正面から視界に捉えた御影くんの眩しい笑顔が、俺の中から消えてくれない。

──このままだと、本当にどうにかなってしまう……

 ゆっくりと立ち上がって最後の1冊を本棚にしまうと俺はまた窓際に立った。
 もしかしたら、御影くんと目が合ってまた手を振ってくれるかも……そんな思いで。
 意を決して校庭を見下ろす。

「……いない、か」

 だけど視界に広がる景色のどこにも彼はいなくて。自然と肩を下げながらもどこかほっとしたようなため息を吐いた。


 また明日……

 次に話す時は何の話をしよう。

 そうだなぁ。

 御影くんの、好きな物が知りたいです。


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