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ずるいよ御影くん
広がる視界
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その日、いつもの如く友達が迎えに来るまで御影くんは図書室に居てくれた。先に帰った御影くんを見送って残った雪と俺は意味もなくだらだらとした会話を繰り広げている。
度々スイーツが食べたかった、と文句を言う雪だったが、そんなことを言っていながら一緒に残ってくれる辺りが優しい。放課後、暇になる図書室で一緒にいてくれる存在は俺にとって貴重だった。
かといって、雪も暇という訳ではないらしく。
「うわやっべ、もうこんな時間じゃん」
「うん。もう少ししたら戸締りして帰れるけど、用事?」
「あー……いや、用事って程でもないんだけど……」
「雪……?」
何か物ありげな表情で時計を見つめる雪に俺は目を向けた。そんな視線に気付いてか、雪は何でもないといったような調子でへらりと笑みを零す。
「んぁ、大丈夫大丈夫。へーきへーき」
心配する俺に手を伸ばして、雪はよしよしと宥めるように俺の頭を搔き撫でた。そんな仕草に御影くんの姿が重なり、俺は思わず顔を背ける。
「そ、そっか」
「おん!あそうだ、戸締り待っててやるからこの根暗っぽい髪切りに行こーぜ」
「根暗っぽいって……んん、まぁ……いっか……」
不満げに唇を尖らせた俺を他所に雪は相変わらず力の抜けた笑みを携えたままだ。でも確かに、雪の言う通り前髪が顔を隠して暗い印象ではある。だから俺は促されるまま渋々と頷いたのだった。
───
「超絶イケイケにしてやってよ!」
「ちょっ、普通でいいから!普通の高校生らしい感じでお願いします!」
美容院なんて滅多に来ることがなかった俺は無駄に緊張していたけれど、どうやらここは雪の行きつけらしい。ヘアスタイルの良い美容師が俺のことを鏡越しに見て髪型を模索しているところ、隣に座る雪がちょくちょく口を挟んでくる。
「まぁ任せといてくださいよ。南雲くんの専属美容師として頑張りますから」
美容師の彼は不敵に微笑んだ後チョキチョキとハサミを動かした。
「あの、派手にしないでください……」
俺のそんな言葉を聞いてか聞かずしてか美容師は思い描いたビジョンの通りに手際良く手を動かしていった。隣の椅子で携帯を片手にクルクルと回りながら雪は此方に声をかける。
「っぱ色も明るくした方がいいんかね~」
「い、色は出来ればこのままがいいかな」
「でも今までずっと黒でしょ。ほらイメチェンってもっとさぁ、ババーンとやったほうがよくね?俺の色はちょっと玲ちゃんには明るすぎるかもだからぁ……蒼ちゃんと同じにしたら?アレなんて言うんだっけ、アッシュブラウンってやつか!」
「みっ、御影くんと一緒の色なんかに出来るわけないだろー!!」
俺の焦った反応に雪はケラケラと笑い声を上げた。
色なんか一緒にしたら……益々意識してることがバレてしまう……
そんな風に考えると落ち込んだ顔色が鏡に写った。
「まあまあ。本人がこのままでいいって言ってるんだから、色は今日のところいいんじゃない?」
「ちぇ、つまんね」
美容師に諭されようやく折れたのか大人しく携帯ゲームを始める雪。
よかった……色は変えなくても良さそうだ。
それから1時間程経っただろうか。トリートメントや仕上げのセットまでしてもらって、俺の長く鬱陶しい前髪は綺麗に揃えられた。
「おぉ……視界が良くなった気がする……!」
鏡を見てスッキリした顔周りを確認する。たまには美容院もいいかもしれない、なんてことを思いながら待ちくたびれて眠りこけていた雪の腕を揺さぶる。
「雪!雪、終わったよ」
「んぁ……あ、ごめんごめん……って、何それめっちゃいいじゃん、似合ってる!」
「本当?その……変じゃない?」
「変なわけないっしょ!つか玲ちゃんやっぱアレだね。すんごい美人さんだわ。うん。あ~俺の目に狂いはなかったわけだぁ!」
「よかった……や、美人かどうかは知らないけど……連れてきてくれてありがとうね、雪」
「おん!」
にひひ、と得意げに歯を見せる彼に俺も目を細めた。
それから会計を済ませて折角だから、ということで適当なカフェに入り軽食を摂った。相変わらず雪は新しいお店のケーキが食べたかったみたいだけど、今日はカフェのシフォンケーキで手を打とう、と仕方なさそうにため息を吐いていた。例のごとく他愛もない話をしながら過ごす友人との放課後は、何だかいつもと違って居心地が良い。
外も暗くなってきたところで俺たちはカフェを後にし、帰宅することに。
明日、学校に行くのがちょっぴり楽しみだ。髪型を変えたくらいで何が変わるという訳でもないが、今までと少し印象の違った自分を御影くんに見てもらえると思うと心が弾む。どんな顔をして、何を言ってくれるだろうか。
別に、何も言ってもらえなくてもいいけれど……
少しでも、御影くんの目に止まればいいな。
そして……この広まった視界の中に。
少しでも御影くんが長く入ってくれたら。
度々スイーツが食べたかった、と文句を言う雪だったが、そんなことを言っていながら一緒に残ってくれる辺りが優しい。放課後、暇になる図書室で一緒にいてくれる存在は俺にとって貴重だった。
かといって、雪も暇という訳ではないらしく。
「うわやっべ、もうこんな時間じゃん」
「うん。もう少ししたら戸締りして帰れるけど、用事?」
「あー……いや、用事って程でもないんだけど……」
「雪……?」
何か物ありげな表情で時計を見つめる雪に俺は目を向けた。そんな視線に気付いてか、雪は何でもないといったような調子でへらりと笑みを零す。
「んぁ、大丈夫大丈夫。へーきへーき」
心配する俺に手を伸ばして、雪はよしよしと宥めるように俺の頭を搔き撫でた。そんな仕草に御影くんの姿が重なり、俺は思わず顔を背ける。
「そ、そっか」
「おん!あそうだ、戸締り待っててやるからこの根暗っぽい髪切りに行こーぜ」
「根暗っぽいって……んん、まぁ……いっか……」
不満げに唇を尖らせた俺を他所に雪は相変わらず力の抜けた笑みを携えたままだ。でも確かに、雪の言う通り前髪が顔を隠して暗い印象ではある。だから俺は促されるまま渋々と頷いたのだった。
───
「超絶イケイケにしてやってよ!」
「ちょっ、普通でいいから!普通の高校生らしい感じでお願いします!」
美容院なんて滅多に来ることがなかった俺は無駄に緊張していたけれど、どうやらここは雪の行きつけらしい。ヘアスタイルの良い美容師が俺のことを鏡越しに見て髪型を模索しているところ、隣に座る雪がちょくちょく口を挟んでくる。
「まぁ任せといてくださいよ。南雲くんの専属美容師として頑張りますから」
美容師の彼は不敵に微笑んだ後チョキチョキとハサミを動かした。
「あの、派手にしないでください……」
俺のそんな言葉を聞いてか聞かずしてか美容師は思い描いたビジョンの通りに手際良く手を動かしていった。隣の椅子で携帯を片手にクルクルと回りながら雪は此方に声をかける。
「っぱ色も明るくした方がいいんかね~」
「い、色は出来ればこのままがいいかな」
「でも今までずっと黒でしょ。ほらイメチェンってもっとさぁ、ババーンとやったほうがよくね?俺の色はちょっと玲ちゃんには明るすぎるかもだからぁ……蒼ちゃんと同じにしたら?アレなんて言うんだっけ、アッシュブラウンってやつか!」
「みっ、御影くんと一緒の色なんかに出来るわけないだろー!!」
俺の焦った反応に雪はケラケラと笑い声を上げた。
色なんか一緒にしたら……益々意識してることがバレてしまう……
そんな風に考えると落ち込んだ顔色が鏡に写った。
「まあまあ。本人がこのままでいいって言ってるんだから、色は今日のところいいんじゃない?」
「ちぇ、つまんね」
美容師に諭されようやく折れたのか大人しく携帯ゲームを始める雪。
よかった……色は変えなくても良さそうだ。
それから1時間程経っただろうか。トリートメントや仕上げのセットまでしてもらって、俺の長く鬱陶しい前髪は綺麗に揃えられた。
「おぉ……視界が良くなった気がする……!」
鏡を見てスッキリした顔周りを確認する。たまには美容院もいいかもしれない、なんてことを思いながら待ちくたびれて眠りこけていた雪の腕を揺さぶる。
「雪!雪、終わったよ」
「んぁ……あ、ごめんごめん……って、何それめっちゃいいじゃん、似合ってる!」
「本当?その……変じゃない?」
「変なわけないっしょ!つか玲ちゃんやっぱアレだね。すんごい美人さんだわ。うん。あ~俺の目に狂いはなかったわけだぁ!」
「よかった……や、美人かどうかは知らないけど……連れてきてくれてありがとうね、雪」
「おん!」
にひひ、と得意げに歯を見せる彼に俺も目を細めた。
それから会計を済ませて折角だから、ということで適当なカフェに入り軽食を摂った。相変わらず雪は新しいお店のケーキが食べたかったみたいだけど、今日はカフェのシフォンケーキで手を打とう、と仕方なさそうにため息を吐いていた。例のごとく他愛もない話をしながら過ごす友人との放課後は、何だかいつもと違って居心地が良い。
外も暗くなってきたところで俺たちはカフェを後にし、帰宅することに。
明日、学校に行くのがちょっぴり楽しみだ。髪型を変えたくらいで何が変わるという訳でもないが、今までと少し印象の違った自分を御影くんに見てもらえると思うと心が弾む。どんな顔をして、何を言ってくれるだろうか。
別に、何も言ってもらえなくてもいいけれど……
少しでも、御影くんの目に止まればいいな。
そして……この広まった視界の中に。
少しでも御影くんが長く入ってくれたら。
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