ハメカフェ[メスイキ希望・目白の場合]

文字の大きさ
4 / 4

入店

しおりを挟む
 カラン、と鈴のついたドアを開ける。
 純喫茶風の店構えは、一見じゃ誰もそういう店だなんて思わないだろう。
 でも、ここは男専用の出会い系カフェ、『喫茶ハチメ』。
 通称、『ハメカフェ』。
 男相手にエッチなコトがしたい奴らが集まる、欲望がムンムンに渦巻く場所だ。

「おはよーございまーす」
「あっ、目白くんおはよぉ♡補充のチェックと外の掃除おねがぁ~い」

 ドアを開けると、ふわふわ茶髪の「アイ」が顔を合わせるなり仕事を押しつけてくる。かわいい顔してこいつは人使いが荒い。オマケに年上。人は見かけによらない、その1。

「はいはい、了解。あっヒロさん、おはようございます」
「おはよう、目白くん♡今日もよろしくねっ♡」

 カウンターの中ではヒロさんがテキパキと動いている。おっとりして天然な性格のわりに、ヒロさんはめちゃくちゃ仕事ができる。人は見かけによらない、その2。店にはその3その4も居るけど……今日はシフトじゃないからそこは割愛。
 裏へ行って、ロッカーに荷物を入れてエプロンを身に着ける。えっと、補充のチェックと外の掃除だっけ。そうだ、今日は上野くん来るかな。来るならヤりたいけど、どうだろ。
 連絡先を交換した上野くんとのセフレのような友達のようなゆるくて心地いい関係は、今もまったり継続中だ。ここで会ったら話をしたりエッチをしたり、居なかったら他の相手とエッチなことをしたり。お互い、好きに過ごしている。
 だからまぁ、来なかったら他に相手を探してもいいかもしれない。最近キツめの尿道責め、興味あるし……♡(あ、俺はあれからバッチリバイ堕ちしてネコ堕ちした。人生、転ぶ方に転んだって感じだけどわりと楽しい)

「補充は、だいじょぶ……」

 裏の倉庫とついでに冷蔵庫も見て、チェック表に記入する。OK……っと。
 ホウキを持って表へ戻ると、すっかり準備を終えたヒロさんが俺を見るなり小さなカップを差し出してくる。

「目白くん、これ、試作のエスプレッソ♡飲んでみてくれるかなぁ?♡」
「あ、ありがとーございますっ」
「うぇ~、エスプレッソって苦いんだよねぇ?アイにはムリぃ~」
「そんなアイちゃんには練乳ミルク♡」
「わぁッ♡ひろっち、だいすきぃ~♡」

 吐き気がしそうなくらい甘々な会話を横目に、エスプレッソを飲む。ビリっと舌に残る苦味は、まだ少しだけ残ってた眠気を一発で醒ましてくれるみたいだ。ヒロさんのおかげで俺はコーヒーを美味しいと思うようになった。棚からぼた餅だ。感謝してる。

「うん、美味しいです。量もちょうどいいかな」
「そぉ?よかったぁ♡じゃあこれでオーナーに相談してみようかな♡」
「じゃ、俺、外掃いてきますねー」
「はぁい♡よろしくねぇ~♡」

 カップをヒロさんに託して、ホウキを片手に外へ出る。
 まだジメッとしてるけど、夏はすぐそこって感じの日差しに俺は目を細める。今日は暑くなりそうだ。忙しくなるかな。どうだろう。もうすぐ夏休みだし、いろいろ予定も立てたいな。まぁ、まずは今日一日を乗り切るところから──。

「おはよう。お店、もうやってる?」
「ぁ……」

 掛かった声に顔を上げると、そこにはすらりとした長身のサラリーマンが立っている。爽やかで落ち着いた雰囲気と、店と俺とを見比べて、鋭く品定めをするような視線。それは「店員」も完全に範疇に入れてるって感じの代物だ。

「っ……♡」

 そそられた。
 俺の嗅覚はもう十分ここで通用するようになっていて、この臭いは、俺も大好きな部類だって自分でもわかっている。だから俺はその視線をすくい取るように、ためらいもなく媚びた瞳を送る。俺もちゃんと、「指名対象」ですよって教えるように。

「はい♡あと5分で開店です♡」
「そっか。じゃあ……君を、指名してもいい?♡」
「ッ──♡」

 そっと屈まれて耳元で囁かれる声に、俺はゾクッとカラダを震わせる。
 ああ、やっぱり……ッ♡
 この人ならきっと、今日俺の望むプレイを、好きなだけしてくれるに違いない。こんな朝からたくさんたくさんいじめられて、ドロドロにさせられちゃう。その期待に、胸が高鳴るのは当然だ。上野くんはあんなこと言ってたけど、こんなお誘いが来るからこの仕事はクセになる。だから俺は、このバイトが大好きだ。
 俺はサラリーマンさんの問いかけに、ゆっくりと、こくんと頷く。
 晴天。
 10時すこし前。
 ここは男専用の出会い系カフェ、『喫茶ハチメ』。
 通称、『ハメカフェ』。
 男相手にエッチなコトがしたい奴らが集まる、欲望がムンムンに渦巻く場所。
 そして俺がいま働いている──どんな男も大胆にさせる、魔法みたいに、不思議な場所だ。
 
「はい……喜んで♡ハメカフェへのご来店、誠にありがとうございます♡」
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

仕方なく配信してただけなのに恋人にお仕置される話

カイン
BL
ドSなお仕置をされる配信者のお話

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

神父様に捧げるセレナーデ

石月煤子
BL
「ところで、そろそろ厳重に閉じられたその足を開いてくれるか」 「足を開くのですか?」 「股開かないと始められないだろうが」 「そ、そうですね、その通りです」 「魔物狩りの報酬はお前自身、そうだろう?」 「…………」 ■俺様最強旅人×健気美人♂神父■

淫らに育った男は映像に残されながら甘く壊される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...