素直くんは、素直になれるよ。

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【なれない。】

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「──クソがッ!勝手なことばっか言いやがって……ッ!!」

 突然久慈から告げられた『配信中断』命令に、俺は大声を上げてクッションを壁に叩きつける。こっちがちょっと甘い所見せたらあの態度。なにが家の手伝いだ。なにが用事だ。俺との配信より大事なのかよ、そんなもんが。金大好きなくせに。金のことばっか言ってるくせに。それにさっきは金がなくても、配信楽しいとか、言ってたくせに……ッ!!

「は……ハッ。とか言って、どうせすぐ顔出しに来るんだろ?俺の顔見ないと気が済まねぇもんな、あいつ」

 だが……言っちゃなんだが、久慈は俺に甘い。ゲロ甘い。俺のご機嫌を取ることに関しちゃウザいくらい天才的で、それは出会った時からなにひとつ変わらなかった。その態度にムカついて。イラついて。でも、次第にそれを、俺も心地良いと思うようになって……。
 だからあんなことをほざいても、久慈はきちんと俺に構うと思っていた。あいつにとっちゃ、俺は都合のいい金ヅルだ。俺があいつを、都合のいい生ディルドと思ってんのと同じ。だから……今日だって俺のために、しっかり顔を出して、ちゃんとちんぽハメに来ると思ってた。
 思ってたのに……。

「──オイッ!?なんでだよッ!?」

 ……でも俺の確信とは裏腹に、久慈は現れなかった。完全に一切まったく音沙汰がなかった。こっちから連絡取んのも癪で俺からはリアクション起こしてねぇから、あっちがどういう状況かは不明なままだ。けど本当に緊急だったら向こうからなんか言ってくるだろうし……そもそもあんな一方的な態度取っといて、連絡寄越さねぇっつのもどういう了見だよ?そこはもっと懇切丁寧に「ごめんね、明日は絶対行くからね」とか俺に断り入れとくべきだろうが。

「クソっ……!俺からは絶対連絡しねぇからな……ッ!」

 なんの通知もない、来る気配もないスマホを割れる勢いで握り締めて、俺はそれをベッドへと放り投げる。あっちがその気なら俺だってホイホイ媚びるつもりはねぇ。点けたままにしてたPCに向き直って、いくつか編集ソフトを立ち上げる。

「ふ……フッ。たかが1日だろ?動画の編集作業だって溜まってたんだ。毎日毎日久慈がベタベタしてくるせいで全然進まなかったからな、丁度いいぜ。この機会にまとめてストック大量に作っとくか……ハッ……ハハッ……」

 そう、俺は紛れもない配信トップランカー。あいつに語った通り、日々動画をUPして人気を繋ぎ止めなきゃいけねぇ宿命だ。そのためにやるべきことは山程あって、それを疎かにしたらすぐに注目度なんか下がっちまう。それなら動画にSNSに生配信に、あらゆる手段でその地位にしがみつかなきゃならねぇんだ。
 久慈が言ってたみたいに見知った常連だけとキャッキャするなんて……承認欲求のバケモンに成り果てた俺が、今更それっぽっちで満足できるはずもねぇ。そんなぬるま湯みたいな、のほほんとした、平和で平穏な、甘々の配信だけ、なんて……。

「……。」
「──。」
「…………。」

 それでも俺は自分から放り投げたスマホをその手に戻して何度も何度も通知が来ないかを確認しながら、昔気まぐれで配信した、スケベもなんもねぇ久慈とのなんでもない雑談を見返して。もうすっかり名前も性格も知っちまった常連リスナー共と和やかにやり取りしてる過去の動画を、まるで──羨望のように、追っていた。
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