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迅
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気分はまだ、惚けたままで。
けれど偽りはひとつもなく。
だからこそ、画面を見つめ。
答えを口には出さないまま。
その代わりにコンコン、と。
静かに、2回、壁を叩いた。
その瞬間ガタガタと慌ただしく音が鳴り、足音を共にして、すぐに扉は──開かれる。
「──……、」
ゆっくりと振り返る。
そこには、君が居た。僕が壁越しにしか知らなかった君が、現実として存在していた。僕は初めて君を視た。自らの視界で君を認知した。まだなにも知らぬまま、まだなにも分からぬまま、それでも君を、理解した。
「──」
「──」
言葉もなく見つめ合う。
言葉もなく交わし合う。
けれどここですることなどただひとつだ。それをお互いは既に分かっている。壁で隔たれ、分かたれていたからこそ保たれていた境目を、君は破ってこの狭間へとやってきたのだから。
君は部屋へ押し入り、そして座ったままの僕を、そのまま壁へと押し付ける。
「ッぁ、」
漏れ出る声に、君はまっすぐ僕を視る。
「……声」
「……、」
声。
「……お前の声が、俺は、好きなんだ」
「っ──、」
声。
僕が初めて聴く。
……君の、声。
「ぁ……ンッ!」
鼓膜に鳴る痺れるほどの甘い音色に、君が唇を押し付ける。僕が先程行った産まれて初めてのキスを塗り潰す2度目のキス。君の身体が僕に乗り、君の重みが僕を襲う。他人だ。男だ。雄だ。もうひとりだ。僕の。僕が。産まれて初めてセックスをする。僕を正しい雌にする。隣に住む。その。相手だ。
「ぁッ、ぉ゛、お゛ッ♡」
キスからすぐ手が伸びて、僕の下半身を的確に弄り始める。それはどうしようもなく『君』だと分かる動きで、僕はそれに抗えない。
「んぅ゛ッ♡ふッ♡ぉ゛♡ぁ゛♡」
舌が絡む。スウェットを脱がされて、下着を脱がされて、ペニスが露わになる。君もズボンを脱ぎ、急くようにペニスを取り出して、ずりゅ、ずりゅ、と僕のアナルへ何度もペニスを擦り付ける。
「ぉ゛♡ぁ゛ッ♡お゛♡んぉ゛ッ♡」
ぬちぬちと淫猥な水音にカリがアナルへと引っ掛かる。そのたびに声が漏れる。ペニスと会陰の間をしつこくしつこく君のペニスが擦り上げて、それだけで快感がせり上がる。く、とアナルへペニスを押し込むように動く腰。
ぁ♡あッ♡うぁ♡ちんぽ♡ちんぽッ♡君の、ちんぽッ♡はい、挿入る、挿入る、挿入るッ♡ちんぽ♡ずっと欲しかった、ちんぽッ♡ぁ♡あ゛ッ♡する♡しちゃう♡セックス♡セックス♡セックスッ♡はじめてのッ♡セックス……ッ!♡♡♡
「んぉ゛♡ぉ゛♡んおぉ゛……ッ!♡♡♡」
波打つ感情に逆らえず、ペニスが挿入る前に、僕はそのまま絶頂した。ペニスから精液が吐き出され、僕は仰け反りながら迸るような刺激に声を上げる。ほ♡ほぉ゛ッ♡ま♡またッ♡またイったッ♡きたい♡期待、だけでッ♡ちんぽのっ♡セックスの期待、だけでッ♡ぉ゛♡んお゛♡んぉぉ゛……ッ♡♡♡
「んぉ゛♡ぉ゛♡ほぉ゛……ッ、ン゛!♡」
セックスへ届かない未完成な余韻に浸れば、乱暴に顔を掴まれる。僕と同じように興奮した表情を固めた君が、まっすぐに僕を、覗き込む。
「ッ、名前、」
「っ?な、まえ゛……ッ?♡」
「ああそうだ。教えてくれ。お前の、名前を」
「──、」
荒い呼吸と真剣な瞳に、僕は快感から『君』へと引き戻される。
知りたいのか。君は。僕を。君も。ああそうか。君も。その欲求を持っていたのか。そうか。ならばそれなら知るべきだ。理解をした。認知をした。それならまだなにも知らない僕という存在の名を、君は確かに知るべきだろう。知ることから世界は始まる。ここから僕らは初めて始まる。終点で始点で過程のセックスを行い、そしてようやく僕らの物語がここから始まる。それなら教えてやろう。僕の名前を。
「ぅあ゛♡僕はっ♡はざま、連……ッ♡」
「ッ──狭間連ッ!?」
明らかな驚愕へ裏返る声色に思わず笑う。
そうだな。そうだろう。
そんな反応をすると、僕も、予想していたよ。
「ッあんたがっ、狭間、連……ッ、あ゛ッ!」
そうだ。
僕は狭間連。
君の知っている、作家の、狭間連だ。
だから君には僕の片翼を担って貰う。僕を雌にする責任を負って貰う。君は僕を知っている。恐らく、僕以上に。それならば「僕」の言うことなど、きっと君は既に──お見通しなのだろう?
「僕にも教えてくれ。……君の名前は?」
けれど偽りはひとつもなく。
だからこそ、画面を見つめ。
答えを口には出さないまま。
その代わりにコンコン、と。
静かに、2回、壁を叩いた。
その瞬間ガタガタと慌ただしく音が鳴り、足音を共にして、すぐに扉は──開かれる。
「──……、」
ゆっくりと振り返る。
そこには、君が居た。僕が壁越しにしか知らなかった君が、現実として存在していた。僕は初めて君を視た。自らの視界で君を認知した。まだなにも知らぬまま、まだなにも分からぬまま、それでも君を、理解した。
「──」
「──」
言葉もなく見つめ合う。
言葉もなく交わし合う。
けれどここですることなどただひとつだ。それをお互いは既に分かっている。壁で隔たれ、分かたれていたからこそ保たれていた境目を、君は破ってこの狭間へとやってきたのだから。
君は部屋へ押し入り、そして座ったままの僕を、そのまま壁へと押し付ける。
「ッぁ、」
漏れ出る声に、君はまっすぐ僕を視る。
「……声」
「……、」
声。
「……お前の声が、俺は、好きなんだ」
「っ──、」
声。
僕が初めて聴く。
……君の、声。
「ぁ……ンッ!」
鼓膜に鳴る痺れるほどの甘い音色に、君が唇を押し付ける。僕が先程行った産まれて初めてのキスを塗り潰す2度目のキス。君の身体が僕に乗り、君の重みが僕を襲う。他人だ。男だ。雄だ。もうひとりだ。僕の。僕が。産まれて初めてセックスをする。僕を正しい雌にする。隣に住む。その。相手だ。
「ぁッ、ぉ゛、お゛ッ♡」
キスからすぐ手が伸びて、僕の下半身を的確に弄り始める。それはどうしようもなく『君』だと分かる動きで、僕はそれに抗えない。
「んぅ゛ッ♡ふッ♡ぉ゛♡ぁ゛♡」
舌が絡む。スウェットを脱がされて、下着を脱がされて、ペニスが露わになる。君もズボンを脱ぎ、急くようにペニスを取り出して、ずりゅ、ずりゅ、と僕のアナルへ何度もペニスを擦り付ける。
「ぉ゛♡ぁ゛ッ♡お゛♡んぉ゛ッ♡」
ぬちぬちと淫猥な水音にカリがアナルへと引っ掛かる。そのたびに声が漏れる。ペニスと会陰の間をしつこくしつこく君のペニスが擦り上げて、それだけで快感がせり上がる。く、とアナルへペニスを押し込むように動く腰。
ぁ♡あッ♡うぁ♡ちんぽ♡ちんぽッ♡君の、ちんぽッ♡はい、挿入る、挿入る、挿入るッ♡ちんぽ♡ずっと欲しかった、ちんぽッ♡ぁ♡あ゛ッ♡する♡しちゃう♡セックス♡セックス♡セックスッ♡はじめてのッ♡セックス……ッ!♡♡♡
「んぉ゛♡ぉ゛♡んおぉ゛……ッ!♡♡♡」
波打つ感情に逆らえず、ペニスが挿入る前に、僕はそのまま絶頂した。ペニスから精液が吐き出され、僕は仰け反りながら迸るような刺激に声を上げる。ほ♡ほぉ゛ッ♡ま♡またッ♡またイったッ♡きたい♡期待、だけでッ♡ちんぽのっ♡セックスの期待、だけでッ♡ぉ゛♡んお゛♡んぉぉ゛……ッ♡♡♡
「んぉ゛♡ぉ゛♡ほぉ゛……ッ、ン゛!♡」
セックスへ届かない未完成な余韻に浸れば、乱暴に顔を掴まれる。僕と同じように興奮した表情を固めた君が、まっすぐに僕を、覗き込む。
「ッ、名前、」
「っ?な、まえ゛……ッ?♡」
「ああそうだ。教えてくれ。お前の、名前を」
「──、」
荒い呼吸と真剣な瞳に、僕は快感から『君』へと引き戻される。
知りたいのか。君は。僕を。君も。ああそうか。君も。その欲求を持っていたのか。そうか。ならばそれなら知るべきだ。理解をした。認知をした。それならまだなにも知らない僕という存在の名を、君は確かに知るべきだろう。知ることから世界は始まる。ここから僕らは初めて始まる。終点で始点で過程のセックスを行い、そしてようやく僕らの物語がここから始まる。それなら教えてやろう。僕の名前を。
「ぅあ゛♡僕はっ♡はざま、連……ッ♡」
「ッ──狭間連ッ!?」
明らかな驚愕へ裏返る声色に思わず笑う。
そうだな。そうだろう。
そんな反応をすると、僕も、予想していたよ。
「ッあんたがっ、狭間、連……ッ、あ゛ッ!」
そうだ。
僕は狭間連。
君の知っている、作家の、狭間連だ。
だから君には僕の片翼を担って貰う。僕を雌にする責任を負って貰う。君は僕を知っている。恐らく、僕以上に。それならば「僕」の言うことなど、きっと君は既に──お見通しなのだろう?
「僕にも教えてくれ。……君の名前は?」
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