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「はー……」
まだまだ夏真っ盛り。
夢みたいなセックスから1ヶ月。俺はもう二度と会えない気がする待ち人を、今日もいつもの角打ちで待っていた。彼との日々を思い出すようであれから例の酒は手を付けられずじまいで、本日もビール。ぼんやりつまむモツ煮は、ぼんやりしてるせいかあんま味が感じられない。
どうせ待ってても来ない。そんなこたぁわかってる。それでも眩しい陽射しがやけに彼を想像させて、ふと、あの味が恋しくなった。久しぶりに飲んでみるか。そう思って顔を上げる。息を吸って。口を開いて……、
「いつもの……」
「──ふたつ!」
「──、え」
絶妙に重なる声に、開けっ放しの入口を見やる。そこには毎晩夢に見てた男の姿。満面の笑みを浮かべたそいつは、俺を見た途端にパッと顔を輝かせて、俺にまっすぐ向かってくる。
「麦さーーーーーーーーーん!!!!」
「うおぉッ!?!?」
「やっと解放されたよーーー!!!!大変だったぁーーーーーー!!!!!」
俺にガッチリ抱きついて、店内だってのにギャーギャー騒ぐ翠くんを俺はなんとか押し留める。いや、翠くん。翠くん?翠くん……翠くん、だよな?
「み……翠くん?」
「ハイッ!緑ですっ!」
「な……なんで?」
「なんで?」
「だって、もう、会えねえって」
「ああ!それね、しばらく、仕事、忙しくなるから!だから会えないなーって!」
「はぁ!?今生の別れじゃねぇの!?」
「根性?おっ!俺、根性はありますよー!!」
根性!と力こぶポーズを作る翠くんに、ああこのバカは翠くんだ、と確信する。その事実に、やっと会えた感慨に、いろんなもんのぜんぶに、なんだかヘナヘナと膝から崩れ落ちそうになる。でも俺の身体は当たり前に翠くんに支えられて、テーブルには空気も読まずに例の酒が、ジョッキでふたつ、ドカンと置かれる。
「……ま。とにかく。先に、ね?」
「っ……ハハッ。まぁ。そうだな」
酒の前じゃ奇跡の再会だって後回し。でもそれでいい。酒飲み同士のルールなんて、角打ちで出会ったやつらの合図なんて、その程度のモンでいい。お互いに目を合わせて、同じタイミングで、ジョッキを手に取る。
夢じゃなかった。嘘じゃなかった。
きれいな翠の色がキラキラと煌めいて、それは彼の瞳に反射して、唯一無二の光を描く。
それは俺が出逢えた色。そしてこれからも出逢ってく色。
もしも。また。ここで会えたら。
彼と本気で恋びとになれるなんて、正直、思えちゃいないけど。
それでも、もし、彼が、あの約束を覚えていたら──。
「……麦さん」
「ん?」
「これからはさ。いっぱい。青春みたいな思い出、作ろうね?」
「……、」
もし、約束を、覚えていたら。
きっとその時。
その時は──。
「「──乾杯!」」
まだまだ夏真っ盛り。
夢みたいなセックスから1ヶ月。俺はもう二度と会えない気がする待ち人を、今日もいつもの角打ちで待っていた。彼との日々を思い出すようであれから例の酒は手を付けられずじまいで、本日もビール。ぼんやりつまむモツ煮は、ぼんやりしてるせいかあんま味が感じられない。
どうせ待ってても来ない。そんなこたぁわかってる。それでも眩しい陽射しがやけに彼を想像させて、ふと、あの味が恋しくなった。久しぶりに飲んでみるか。そう思って顔を上げる。息を吸って。口を開いて……、
「いつもの……」
「──ふたつ!」
「──、え」
絶妙に重なる声に、開けっ放しの入口を見やる。そこには毎晩夢に見てた男の姿。満面の笑みを浮かべたそいつは、俺を見た途端にパッと顔を輝かせて、俺にまっすぐ向かってくる。
「麦さーーーーーーーーーん!!!!」
「うおぉッ!?!?」
「やっと解放されたよーーー!!!!大変だったぁーーーーーー!!!!!」
俺にガッチリ抱きついて、店内だってのにギャーギャー騒ぐ翠くんを俺はなんとか押し留める。いや、翠くん。翠くん?翠くん……翠くん、だよな?
「み……翠くん?」
「ハイッ!緑ですっ!」
「な……なんで?」
「なんで?」
「だって、もう、会えねえって」
「ああ!それね、しばらく、仕事、忙しくなるから!だから会えないなーって!」
「はぁ!?今生の別れじゃねぇの!?」
「根性?おっ!俺、根性はありますよー!!」
根性!と力こぶポーズを作る翠くんに、ああこのバカは翠くんだ、と確信する。その事実に、やっと会えた感慨に、いろんなもんのぜんぶに、なんだかヘナヘナと膝から崩れ落ちそうになる。でも俺の身体は当たり前に翠くんに支えられて、テーブルには空気も読まずに例の酒が、ジョッキでふたつ、ドカンと置かれる。
「……ま。とにかく。先に、ね?」
「っ……ハハッ。まぁ。そうだな」
酒の前じゃ奇跡の再会だって後回し。でもそれでいい。酒飲み同士のルールなんて、角打ちで出会ったやつらの合図なんて、その程度のモンでいい。お互いに目を合わせて、同じタイミングで、ジョッキを手に取る。
夢じゃなかった。嘘じゃなかった。
きれいな翠の色がキラキラと煌めいて、それは彼の瞳に反射して、唯一無二の光を描く。
それは俺が出逢えた色。そしてこれからも出逢ってく色。
もしも。また。ここで会えたら。
彼と本気で恋びとになれるなんて、正直、思えちゃいないけど。
それでも、もし、彼が、あの約束を覚えていたら──。
「……麦さん」
「ん?」
「これからはさ。いっぱい。青春みたいな思い出、作ろうね?」
「……、」
もし、約束を、覚えていたら。
きっとその時。
その時は──。
「「──乾杯!」」
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