THE NEW GATE

風波しのぎ

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14巻

14-2

「こちらです。どうぞ中へ」

 硬い声に促され、シンたちは会場に入る。会場はシンが思っていたよりも広く、部屋の中心に査問を受ける者が立つと思われる場所がある。
 そこを見下ろすような数段高い位置に、委員と思われる男女が座っていた。
 円形の壁に沿うように委員が配置される中、中央にいる肥満体型の40代くらいの男性と白髪をきっちりとオールバックにした60代くらいの男性だけ、さらに位置が高い。
 壇の正面に位置しているので、この2人がメインになって進めるのだろう。見た目は贅沢三昧ぜいたくざんまいの浪費貴族と気品あふれる老貴族だ。
 シンの予想通り、ヒラミーとルクスリアは中央の壇上へ行くように言われ、それに従う。シンはその後ろで待機すればいいようだ。

「では、これよりヒラミー・ヒラサト殿、及びルクスリア殿の審議を行う」

 中央に座っていた2人のうち、老貴族が査問会の開始を告げた。低く響く声だ。

「現在、ヒラミー殿には罪源の悪魔の1柱、色欲という厄災やくさいを国内に招き入れ、長期にわたってそれを隠蔽いんぺいしていた疑い。さらに強欲までもを、エルクントへ招き入れようとしている疑いがある」

 老貴族は鋭い眼光を2人に向け、淡々と話す。

「ゼーア卿。疑いではなく、事実ではないのですかな?」

 ゼーア卿と呼ばれた老貴族に、隣に座った肥満体型の男が話しかけた。

「コバル卿。審議の途中で個人的な発言は控えていただきたい。これらの疑いは、まだ事実と判断されてはいないのだから」
「審議など無駄であろう。本当にあの女が罪源の悪魔だというのなら、我らはとうに支配下に置かれている」
「それは卿が判断することではない」

 ヒラミーたちそっちのけで話を進めようとするコバル卿と、がんとして譲らないゼーア卿。その様子を見て、シンはコバル卿を敵認定する。
 少し間が空いて審議が再開されると、最初に挙がったのはルクスリアの件だった。

「聞けば、ルクスリア殿は強欲とは敵対しており、かの悪魔を撃退するのに協力を申し出ているとか。事実かね?」
「ゼーア卿!? 悪魔などと話しては精神を乗っ取られますぞ!?」
「そういったことはありませんから、ご安心を。彼女はすでにある人物の支配下にありますので」
「どういうことかね?」

 慌てるコバル卿を手で制し、ゼーア卿がヒラミーに問う。

「彼女の首に取り付けられた首輪。これが彼女の行動を制限し、人に対して精神スキルを使用したり、危害を加えたりできないようにしています」
「国を滅ぼすような悪魔が何者か支配下にあるだと? 馬鹿なことを」
「事実です。そして後ろにいる冒険者、シン殿が彼女の主人になります」

 ヒラミーが告げると、会場中の視線がシンに集まった。


「ご紹介いただきました、冒険者のシンと申します」
「その腰の武器。もしや、うわさになっている斬鎚ざんついの?」
「そのように呼ばれることもあります」

 シンはあえて『禍紅羅かくら』を装備していた。名前と武器が揃えば、気づく者は気づくと思ったのだ。
 誰も気づかなければ、自分で『斬鎚のシン』だと名乗るつもりだった。

「バルメルの戦いで名を上げ、一足飛びにAランクになった新星か。では問うが、ヒラミー殿が言ったことは、事実かね? 本当に悪魔を支配下においていると?」
「はい。私は悪魔を狩ることを生業なりわいとしてきた一族の末裔。悪魔についてならば、誰よりも詳しいと自負しております」
「証拠はあるのかね? 君が彼女に操られ、そう思わされているだけなのでは?」

 ヒラミーの話を鵜呑うのみにするはずもなく、ゼーア卿はシンに問う。

「当然の疑問ですね。しかし、悪魔を狩ることを生業としている者が、それに対して何の対策もしていないとお思いですか?」
「何らかの対策はしておるだろう。だが、相手は罪源の悪魔。そのあたりにいるモンスターとは格が違う。当然、持っている力も桁違けたちがいだ。ならば、我々がそれを気にするのは不思議ではあるまい?」
「お言葉はごもっとも。すでにご存知かと思いますが、私は選定者です。我が一族はもともと精神スキルに対して強い抵抗力を持っています。このアイテムがその抵抗力をさらに高めています。よって、過去悪魔と戦った者で操られた者はいません。口幅くちはばったいことながら、私の能力は祖先以上と言われていますので、操られることはないと断言できます」
「ほう?」

 抵抗力を高めるアイテムというのは、シンが身につけている『神代のイヤリング』のことだ。実際は抵抗力を高めるどころか、よほどの相手でなければ無効化する。
 目を細めて言葉の真偽を見抜こうとするゼーア卿の視線を、シンは真っ向から受け止めた。
 精神スキルがほぼ効かないというのは、悪魔に対して非常に有効なアドバンテージだ。悪魔と戦う上で一番厄介なのは、味方が次々と敵に回ることなのだから。

「しかし、悪魔を狩る一族がなぜこうも都合よくここにいる? タイミングがよすぎるのではないか? そもそも、そんな一族の存在なぞ聞いたことがない。我々の追及をかわすために、でっち上げたのではないかね?」

 ゼーア卿の言葉が途切れると、コバル卿が口を開いた。その問いは、ついさっきヒラミーを独断で罪人扱いしようとしたとは思えないほど、まっとうなものだ。

「私は悪魔を追って行動しているのですから、悪魔がいる場所、狙っている場所に現れるのはむしろ当然です。今回は強欲に動きがあったことを察知してこちらに来たまで。悪魔狩りの一族の存在が秘されているのは、敵に察知されないようにというのもありますが、民を不安におとしいれないためというのが一番の理由です。我らがいるところに悪魔の影ありとなれば、頼もしさよりも不安を感じることでしょう。それは悪魔にとって付け入る隙となる」
「ならば、その悪魔を操っていることについてはどうだ? 本当は、お前たちが黒幕なのではないか? 悪魔が操れるならば、それを利用して名声を得ることも簡単であろう」
「冒険者の中にはモンスターを飼い慣らす調教師テイマーがいます。極論すれば、悪魔とてモンスターの一種に過ぎません。ならば従えることも可能でしょう。ただし、本来はここまで従順にはできません。せいぜい暴れるのを防ぐぐらいです。もともとは周囲に被害を出さないようにするか、出したとしてもそれが少なくなるようにするための技術です。こうして会話が可能なのは、心から私に降っているあかしといえます。そして、悪魔を己が欲のために利用するのは一族において禁忌きんき中の禁忌。それだけはありえぬと断言させていただく」

 ゲームの設定では、罪源の悪魔を配下にするなど不可能。
 だが、この世界はゲームだった頃の制限が緩んでいるところがある。神獣であるカゲロウがティエラと契約できたのもそのせいだ。
 だからこそ、本来不可能である悪魔を支配下におくということも完全には否定できない。
 ただ、それを利用して悪巧みをするという指摘はもっともだったので、破れば死ぬという制約があると告げておく。

「これは一族から裏切り者が出ないようにするためのもの。選定者であっても、解くことはできません。万が一操られるようなことになったら制約が効果を発揮するようになっています」
「敵が敵だけに、そういった対策は必須か」
「はい。悪魔を狩る者が悪に堕ちれば、被害はただ悪魔が暴れるよりも多くなってしまいますので」

 ゼーア卿のつぶやきに、シンは淡々と答えていく。
 こういう質問が来るだろうと事前にヒラミーやルクスリアと打ち合わせをしておいたおかげで、口ごもることなく答えることができた。

「悪魔を従える。にわかには信じがたいが、事実ならば強欲対策として十分機能するか。確認するが、その悪魔が精神スキルを使うことはないのだな?」
「はい。私が保証します」
「ならば、最初にした質問に答えてもらえるか。レディ」
「あら、意外。この国の民でもない相手を信じるの?」
「こちらもいろいろと情報を集めていてね。君が周囲に危害を加えたりしていないのは知っていたのだよ」

 シンとヒラミーがつながっていることや、トレーニング・ダンジョンのことも知っているらしい。
 しかし、それでも悪魔に正面から語りかけるのは度胸のいることなのだろう。
 隣に座っているコバル卿や他の委員たちは、顔を強張らせて成り行きを見守っている。

「あら、武闘派と聞いていたけれど、さすがは公爵と言うべきなのかしら」
「戦いにおいて、情報を多く得ることはとても重要だ。研究者としても優秀な君ならば、理解しているのだろう?」

 微笑むルクスリアに、ゼーア卿も笑みを浮かべている。なごやかに見えるが、一歩離れて見ているシンには、どちらも油断をしていないことがわかる。

「さすがにわかってるわね。では答えましょう。強欲の目的はあたしを吸収して完全体に近づくこと。でも、あたしはそんなものにひと欠片かけらの興味もない。悪魔が何を言うのかと思うでしょうけれど、あたしは今の生活が気に入ってるの。でも、強欲はそんなことを言っても納得なんてしないし、力ずくでことをなそうとするのは間違いない。あいつに消えてほしいのはあたしも一緒なの。それなら、協力したほうが効率的だわ」
「悪魔が同族の悪魔を殺してほしいだと? ゼーア卿、私はすでに悪魔の術中にあるのだろうか?」
「気をしっかり持て、コバル卿。この者、どうやら嘘は言っていないようだぞ」

 困惑するコバル卿を、ゼーア卿が叱咤する。確信があるのか、ゼーア卿はルクスリアの言葉を疑っていないようだ。

「あら、そんなに簡単に悪魔の言葉を信じるの?」
「我らとて悪魔の言葉をそのまま鵜呑みにするほど愚かではない。だがヒラミー殿やシン殿の言う通り、ルクスリア殿が我らと会話する際に、スキルのたぐいを使っていないのはわかっている。それに――」

 ゼーア卿が一旦言葉を切って、シンへと視線を向けた。

「悪魔よりよほど恐ろしい存在が味方についてくれるのなら、こちらも安心できるというもの」

 ゼーア卿の言葉も視線も、シンのほうがルクスリアより強いことをわかっていると示している。
 外にいるやつらが関係しているのだろうか。シンは会場の外から伝わってくる選定者と思われる気配のことを考えて、動揺を紛らわせようとした。顔に出ていませんようにと祈りながら、ゼーア卿の視線を受け止める。

「ふむ、ではそろそろ結論を出すとしよう。ルクスリア殿を討伐するか、利用するか。討伐ならば挙手を、利用ならば不動を示されよ」

 ゼーア卿が周囲に目を走らせた後、そう発言する。利用すると言ったのは、協力だと難色を示す者もいるからだろう。
 周囲の反応は様々で、落ち着いた様子の者、微笑を浮かべている者、顔をしかめている者、動揺している者など、意見が一致しているようには見えない。
 しかし、誰一人挙手をする者はいなかった。
 結論だけ言えば、全会一致でルクスリアを利用することが決まったことになる。

「では、ルクスリア殿を強欲対策のひとつとすることを決定する。ヒラミー殿の処遇は、ルクスリア殿の成果によって後日判断するものとする。以上、これにて閉会」

 ゼーア卿が査問会の閉会を告げると、委員たちは座席の両端にある扉から退出していった。
 残されたシン、ヒラミー、ルクスリアも、入ってきた扉が開いて兵士に出るように促される。

「――お疲れ様でした」
「ああ、まあ、うん」

 待っていたシュニーに返答するシンは、少し困惑していた。
 周囲に兵士がいるので口には出さないが、目指した結果だったとはいえ、査問会の内容が予想していたものとはかなり違っていたからだ。
 査問会はほとんどゼーア卿の独壇場どくだんじょうだった上に、ヒラミーが警戒していた討伐派からは、ほとんど反発はなかった。その代表格と思われていたコバル卿も、最初の発言以外、ほとんどが出て当たり前の質問ばかり。警戒していたのが馬鹿らしくなってしまう。

「ん? 方向が違うんじゃないか?」

 査問会の内容に不審なところがなかったか考えていたシンは、少しして、案内する兵士の向かう先が王城の奥であることに気づいた。

「いえ、こちらで間違いありません。この先の部屋で、さるお方がお待ちになっています」
「さるお方、ねぇ」
「ここは、黙ってついていったほうがいいみたいですね」

 ヒラミーも誰が待っているのか知らないようだ。ここで騒いで査問会の結果をくつがえされたら困るので、シンたちは案内役の兵士に続いて通路を歩く。
 もし討伐派が油断させて一網打尽になどと考えていたとしても、シンたちならば食い破れる。
 しかし、シンたちの思惑とは裏腹に、案内された部屋にはこれといった罠の類はなかった。質の良いソファーやテーブルがあるので、応接室だろうと当たりを付ける。
 部屋の中にいたのはゼーア卿だ。査問会では見なかったステッキを右手に持っている以外、相変わらずの紳士ルックである。

「案内ご苦労。下がってよいぞ」

 兵士を下がらせると、ゼーア卿はシンたちに向き直った。

「まずはこちらの都合で呼びつけたことを詫びよう。どうしても話をしておきたくてな」
「あ、いえ、それは何の問題もないのですが」

 シンに肘でこづかれたヒラミーがはっとして返答する。代表者はヒラミーということになっているのだ。

「査問会のことが気になるかね?」
「……はい。我々としては、もっともめると思っていましたので」
「悪魔討伐派だな。あの者たちの言うこともわからなくはない。ルクスリア殿への不信感も理解できる。だが、それならばわざわざ3年も人に紛れて働く必要などない。能力を使えば簡単に人を操れるのだからな。そもそも、討伐しようにも対抗できる者がほとんどおらん。我が国の最高戦力ならば倒すことができるやも知れぬが、どれだけ被害が出るかわからん。それは強欲に付け入られる隙となる。戦力的にも戦略的にも、不用意に敵対するのは下策なのだよ」

 あの場で討伐派が静かだったのは、すでに根回しがされていたかららしい。ヒラミーたちが知らなかったのは、秘密裏に行われていたからだろう。

「それと、コバル卿は討伐派に紛れ込ませた、我々側の人間だ」
「なるほど」

 爵位としては2人とも同格の公爵。しかし、表面上はゼーア卿のほうが優位という風に見せているという。

「そんな重要なことを我々に話してしまっていいのですか?」
「君にはあまり隠し事をしないほうがいいと思ったのでね。悪魔狩りの一族の末裔などというのは嘘なのだろう?」

 質問したシンに、ゼーア卿は真剣な表情で問い返してくる。その目は、今口にした言葉が真実だと確信しているようにシンには感じられた。
 シンはヒラミーに視線を送る。それを察して視線を合わせたヒラミーは、小さくうなずいた。

「……ご明察です。確かに私は、いえ、取りつくろうのはやめましょう。俺は悪魔殺しの一族などではありません。ただしルクスリアが暴れれば、討伐できるのは本当です」
「ああ、貴公の強さは耳にしている。こちらでも調べさせてもらった。そして今日、実際に貴公の姿をこの目で見て確信した。見ただけで手が震えたのは、かつてハイヒューマンの配下であったシュバイド殿を目にしたとき以来だ」

 意外なところで出てきた名前に、シンは軽く眉を上げた。
 ゼーア卿のレベルは255。選定者か一般人かは不明だが、限界までレベルを上げるのは、どちらにしろ楽なことではない。
 それを達成しているゼーア卿は、やはり見た目通りの老貴族などではないのだろう。手にしているステッキにも、内側に刃が仕込んであるのをシンは見抜いていた。

「同じ選定者でも持っている力は大きく違う。中でも、元プレイヤーと呼ばれている者たちは、その知識もあって同じステータス同士の相手と戦っても勝ちを拾うものが多い。ヒラミー殿やマサカド殿と同じく、君もそうなのではないかね?」
「ご存知だったのですか?」
「これでも若い頃は世界を渡り歩いたものだ。おかげで、国に留まるよりも多くの知識を得ることができた」

 元プレイヤー。ゼーア卿の言葉に反応したのはヒラミーだ。
 その言葉自体は、隠されているわけでもないので貴族の情報網をもってすればすぐに引っかかるだろう。元プレイヤーの中には、ゲームの知識を生かして成功している者もいるからだ。

「だとしたら、どうするのです?」

 ヒラミーの反応で、シンも元プレイヤーだとばれた。なので、シンはそれを聞いてくる理由を尋ねた。

「元プレイヤーだということを知られたくないと、情報を出し惜しむ者もいる。だが、現在、我が国には余裕がない。強欲だけならばお主たちでもどうにかできるかもしれん。知っていると思うが、我が国周辺のモンスターの分布に変化が起きている。強力なモンスターが増えていると報告が上がってきた。強欲はモンスターを配下にできるのであろう? もしそれらの強力なモンスターたちが群れを成して迫ってきたとき、果たして撃退できるかどうか。できたとして、どれほどの被害が出るか。我が国には選定者が少ない。バルメルのように、常に危険にさらされているわけではないから、兵の質もそれらの国と比べると1段、2段下がるだろう」

 エルクントの国の規模を考えると、けっして兵士の数や質は低くはないと、シンはヒラミーから聞いている。だが、それはあくまで周囲に敵対国がなく、モンスターもさほど強力なものが出ないから。強欲のような災害級モンスターを相手にするには力不足だった。
 今マサカドがいないのも、ただの冒険者では手に負えないモンスターが出て、討伐に向かっているからだとヒラミーに確認してある。

「我が国のため、民のため。力を貸してほしい」

 そう言って、ゼーア卿は頭を下げた。
 公爵の地位を持つ者が、Aランクとはいえ無位の者に頭を下げるなど、貴族社会ではありえないことだ。シンもそのくらいは理解できる。
 シンたちの協力は必須。そう判断できるだけの情報を得ているのだろう。同時に、頭を下げることに躊躇ちゅうちょを覚えないほど危機感を募らせているのだ。

「俺としても、ここで抜ける気はありません。強欲を仕留めるつもりなので。あ、一応言っておきますが、俺たちがドロップアイテムを手に入れたときは、譲る気はありませんよ?」
「ふっ、すでに倒したあとの算段か。いや、ルクスリア殿が素直に従っている時点で、そう言えるだけの何かがあるのだろうな」

 気が早すぎると言われるかと思ったが、予想に反して、ゼーア卿は苦笑を浮かべるだけだった。
 ルクスリアは悪魔だとわかっているはずだが、査問会のときからずっと敬称をつけて呼んでいる。

「あたしが言うのもなんだけど、ご主人様と強欲が戦えば、ほぼ間違いなくご主人様が勝つわ。悪魔のあたしが保証しちゃう」
「さすがに、何もさせずに被害ゼロとはいかないけどな。ところで、もうその呼び方はしなくていいから」

 ルクスリアがシンをご主人様と呼んでいたのは、ルクスリアがシンの支配下にあると周囲に知らしめるためだった。シンが悪魔狩りの一族でないとばれた以上、もうその呼び方をする必要はない。
 だというのに、ルクスリアはシンの呼び方を変えなかった。

「男の人ってこういうの好きでしょ? ご奉仕してあげましょうか?」
「空気を読んでくれ」

 顔を覗き込んでくるルクスリアに、シンは手で顔を覆いながら言った。

「ううむ、やはり我々の伝承にある悪魔とは随分違うようだ」
「あの頃は本能で動いてただけだもの。獣と変わらないわ。今のあたしや他の悪魔にはあなたたちに負けない知性がある。こうして、人と共存できているのもそのおかげね。でも知性があるからこそ力押し以外の方法も取ってくる」

 配下をルクスリアのところへ送り、ダンジョンに眷族けんぞくを放つ。それは、ゲーム時代にはなかったことだ。

「人の中にも、悪魔に魅入られ協力する者が出るか」
「たぶん、もう入り込んでいると思うわ。強欲は人の持つ欲望を刺激するから、商人なんかはとくに危ないわね。あたしたちが何もしなくても、勝手にいろいろとやってるんじゃない?」
「否定できんのがつらいな。いつの時代も、金と権力は人を惑わせる」

 思い当たる節があるのか、ゼーア卿は眉根を寄せていた。

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