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14巻
14-3
「悲観しても仕方ありません。今後のことについて話を進めましょう。あ、でも先にひとつだけ伝えることがあります」
「なにかね?」
「ルクスリアは確かに戦力になりますが、強欲と直接戦わせるのはお勧めしません。罪源の悪魔は、同じ悪魔を倒すと相手の力を吸収して成長します。これはルクスリアにも当てはまります。ないとは思いますが、相手は悪魔。我々の予想しない手段を使うかもしれません。なので、ルクスリアには囮役になってもらって、強欲が接触してきても防御主体で戦ってもらおうと考えています」
「ふむ、なるほどな。ルクスリア殿が強くなりすぎては、今回の騒動が治まった後、別の騒動を引き起こしかねんか」
「下手に力を取り込むと、人格に変調をきたす可能性もあるのよ。強欲とか、絶対に相性悪いもの。だから、とどめはあたし以外でお願いね」
ルクスリアが肩を竦めながら言う。今のルクスリアからすれば、好戦的な悪魔はすべて相性が悪い。
「ならばそれも含めて、裁可を仰がねばな」
そう言って、ゼーア卿は部屋の一角を見た。そこには壁しかないように見える。
しかしシンの目には、壁の向こう側に立っている人の姿が見えていた。
煌びやかな服装に王冠を被った、いかにも王様という風体の男と、まだ幼さの残る少年。そして、鎧をまとった男が3人に女が1人。
――――ファガル・エント レベル213 聖騎士
――――シーリーン・ラガス レベル238 聖騎士
鎧をまとっている者のうち、シンが気になったのは2人。鎧を着た男たちの中で最も若い青年と、紅一点の女性だ。
青年がファガル、女性がシーリーンというらしい。
ファガルの背丈はおおよそ170セメルくらい。手入れの行き届いた金髪と、意思の強そうな碧眼が印象的だった。
シーリーンのほうは、ファガルと同じか少し高いくらいの背丈で、これまた手入れされた黒髪を、頭の左側でまとめてサイドテールにしていた。
顔立ちは整っており、姿勢の良さも相まって、着ているのが鎧でなければモデルのようである。
目つきが鋭いせいか冷たい印象も受けるが、少し緊張気味のファガルと違い、余計な力が入っているようには見えない。
壁が開き、向こう側にいた面々が入ってくる。ファガルとシーリーンは王の両隣に立ち、いざというときは、王と王子らしき少年を守れるようにしていた。
「エルクント王国国王、クルンジード・フォウ・エルクントである。話は隣の部屋で聞いていた。ここからは私も参加させてもらうぞ」
シンの予想通り、王冠の男はエルクントの国王だった。金髪碧眼で細身だが、目力がある。
王の隣にいる王子は、扉を抜けてきた直後にシュニーを見て、半ば放心状態だった。
シンたちが紹介されても、視線がシュニーから離れない。ゼーア卿が声をかけると、はっと我に返って自己紹介を始めた。
「ハウギレア・フォウ・エルクントといいます。若輩者ですが、よろしくお願いします」
「メンバーを代表してご挨拶させていただきます。ヒラミー・ヒラサトと申します。微力ながら、王国のために働かせていただきます」
ヒラミーが礼をすると、王がうなずく。ハウギレア王子はまだシュニーを見ていた。
ゼーア卿が残りのメンバーを紹介していくが、鎧を着た者のうち、紹介されたのはファガルとシーリーンのみで、残りの2人はとくに紹介されなかった。
一緒に入ってきたものの、彼らは壁際から動こうとしない。
そして、それよりも気になる情報がゼーア卿からもたらされた。それは、ファガルとシーリーンが勇者の称号を持っているというものだ。
勇者――それはかつて、孤児院の少女ミリーを拉致し、生贄にしようとしたエイラインと同じ称号だ。称号自体に罪はないが、過去の経験から、どうしても勇者というものに微妙な印象を抱いてしまう。
「ふむ、そなたが色欲の悪魔か。なるほど、美しいのは当然として、なんとも言えぬ色香をまとっておるな。スキルなど使わずとも、人を骨抜きにできよう」
「あら、お上手。なら、ご自身で試されます?」
シンが自分の心の整理をつけているうちに、早くも問題のありそうな会話が発生していた。
ルクスリアの誘いをクルンジード王はさらりと流す。
「魅力的な提案だが、遠慮させてもらおう。妻が嫉妬してしまうのでな」
王と悪魔のフランクな遣り取りに、ゼーア卿だけでなくシーリーンも頭を抱えていた。
シンも同じ気持ちだ。
「ルクスリア、ここは真面目にいこうぜ」
「噂の王様なら、これくらいは冗談で済ませてくれると思ったのよね」
「私としては、その噂とやらが気になるな。だが、あまり冗談ばかりも言ってられんか。お主らは強欲に対してどのように対抗するつもりなのだ?」
シンたちの会話に、クルンジード王がスッと入り込んでくる。その瞬間、気さくに話していた様子が一変し、威圧感が部屋を満たした。
それは戦闘時に人が放つ殺意や重圧ではなく、膝を折りたくなる威厳に近い。
「強欲本体はルクスリアが感知できますから、近づいてくればわかります。感知したらすぐに俺に連絡できるように道具も用意してあります。本体が来るまでは俺とユキで、エルクント周辺の調査を行うつもりです。出現するモンスターが明らかに変化しているので、何か仕掛けがあるはずですし。それを潰し、強欲の手駒をひとつでも減らすことができれば被害も少なくなるでしょう」
「城壁内はどうする? 人の中にも、悪魔に協力する者がいると聞くぞ」
「こちらは、兵士の皆さんに頑張ってもらうしかありません。操られているのではなく本人の意思で協力しているとなると、ここに来て日の浅い俺たちに、不自然な動きを察知するのは難しいですから」
さすがのシンも、一から十まで何でもござれとはいかない。
モンスターは倒せば終わりだが、人が相手だと必ずしもそれで片付くとは限らないのだ。一歩間違うと、シンのほうが犯罪者にされかねない。
「そなたの言う通りだな。この国は我らの国。すべてを他人任せにしては、王のいる意味などなくなってしまう。ゼーア卿、城内の引き締めは任せるぞ」
「我々は遊撃として独自に動きます。軍に入れられても、連携が乱れるだけなので」
「仕方あるまい。選定者とそうでない者とでは能力に差がありすぎるからな」
話はシンが思っていた以上にすんなりと決まっていく。
もともと選定者は選定者だけでまとめて運用するのが基本だ。これはどの国でもほぼ同じで、選定者の戦いに一般兵を巻き込まないための処置でもあった。
強欲が来ると判明した時点で軍は周辺の警戒を密にし、訓練を開始しているらしい。あくまで時間稼ぎに徹し、勇者がこれを討ち取る作戦だったようだ。
作戦としては強欲討伐隊にシンとシュニーが加わる以外はあまり大きな変更はない。なので、綿密な作戦会議は必要なかった。
連絡手段の確保やシンからのアイテムの提供などを終え、打ち合わせも終わりという雰囲気になったところで、壁際に待機していた騎士の1人がゼーア卿に何かを耳打ちする。
ゼーア卿はうなずくと、騎士に通すよう言った。
「誰か来たんですか?」
「使えん貴族共の相手をさせていた近衛騎士の隊長が到着したのだ。王とともに戦場を駆けたこともある忠臣だな。称号こそないが、その強さは勇者をも凌ぐ」
「それはまた」
なかなかの人材が揃っているなとシンは感心した。勇者が2人いるだけでも周辺国は警戒するだろうに、さらにその上がいることを隠していないらしい。
学院があるので、強い選定者がいることは、危機感よりも安心や安全につながっているようだ。
クルンジード王たちが入ってきた扉が開くと、鉛色の武骨な鎧を着た男が姿を現した。
灰色の髪を首の後ろで縛り、シャープなデザインの眼鏡の奥の黒眼を眠たげに細めた姿は、あまり騎士らしくない陰気な雰囲気だった。
とくに眼の下に隈のように生えた鱗が、その印象を強くしていた。
「お待たせして申し訳ありません。この者たちが?」
「うむ、悪魔を狩れると豪語しておる。頼もしいことだ。紹介しよう。ナムサール・アルガインだ。見た目は暗いが実力は保証する」
「暗いのは事実ですが余計です。それよりも、いくら勇者たちやゼーア卿がいるとはいえ、王自らが悪魔の前に出るなんて何を考えているのですか」
紹介されたナムサールは、クルンジード王が相手でも全く遠慮しない。言葉にこそしていないが、顔つきは「お前何やってんの?」と言っている。
シンたちを見る目も、胡散臭そうだ。
「悪魔狩りの一族だとか。そのような方々がいたとは初耳です。とりあえず、魅了はされていないようで安心しましたよ」
「アルガイン卿。勇者たちも傍にいるのだ。信頼してはどうかね?」
「信頼はしています。しかし近衛の長として、こういった場には、私も最初から同席させていただかねば困ります。不測の事態はいつ何時起こるかわかりませんので」
ナムサールの視線はルクスリアに向いている。シンが従わせているという情報を知っているのかいないのか、警戒心は解いていないようだ。
「それについてはあとで話そう。今は強欲対策について話すのが先だ」
ゼーア卿がこれまでの話をまとめて伝える。もともとの作戦は大きく変更せず、シンたちを遊撃として組み込むと聞いて、ナムサールは小さくうなずいた。
「なるほど、私が口を挟む必要はなさそうですね。冒険者をいきなり軍に入れても連携が乱れるだけですし。気になるところがあるとすれば、そちらの方々が本当に役に立つのか、というところですか」
その一言で、場の空気が変わった。ヒラミーはむっとした顔でナムサールを睨みつけ、ルクスリアは感心した表情を浮かべている。
シンとしては、そりゃ気になるよなと納得である。
シンの活躍――バルメルでモンスターを大量に倒したことを知っていたとしても、罪源の悪魔は比べ物にならないほど強い。
ルクスリアが精神系スキルを使っておらず、普通に会話しているところからある程度は評価しているようだが、それとシンたちの実力があるかは別問題として捉えているようだ。
そんな中、シュニーだけは外見上何の変化もない。
(不機嫌になってるな……)
クルンジード王たちやヒラミー、ルクスリアも気づいていないようだったが、シンはシュニーの機嫌が急降下しているのがわかった。
不機嫌オーラを放っているわけでも、シュニーの表情に変化があったわけでもない。それでもシンは間違いないと断言できた。
「ナムサール、言葉を慎め。貴公は何も感じぬのか?」
「実力があるのはわかります。しかし、私やゼーア卿にしかわからないのです。それでは納得しない者もおりましょう」
注意したゼーア卿に、ナムサールが表情ひとつ変えず答える。言っていることを理解できなくはないので、シンは反論しない。
「すまぬな、シン殿。こやつは近衛の長ゆえ、今回の件も気が進まんようでな」
「いえ、悪魔を倒せるというのをすぐに信じろというのは難しいと思いますので、気にしていません。ですが、こちらとしてはまったく信用していただけないのも困ります。何か実力を証明するようなことをしたほうがいいですか?」
「ならば、そこのファガルと試合をしていただきましょう」
自分で確かめると言うかと思ったシンだったが、指名されたのは勇者の片割れであるファガルだった。
「何で俺……いえ、私がシン殿の相手をしなければならないんですか。気にしているのはナムサール殿なんですから、ご自分で確かめればよいのでは?」
「あなたは日ごろから、十分な打ち合いができないとぼやいていたではありませんか。言葉通りの実力があるならば、相手にとって不足はありますまい。むしろあなたの方が圧倒されるのではないでしょうかね?」
面倒くさいと言いたげなファガルに、ナムサールは淡々と言う。ただ、負けると思われていることが癇に障ったのか、ファガルの表情がピクリと動いた。
「私が負けると?」
「私がそう感じているだけですよ。我が国の危機に際し、肝心の悪魔を根無し草の冒険者に任せる。仕方のないこととはいえ、それでは国を守護する者として、あまりに情けないではありませんか。我が国に勇者ありと、シン殿にしっかり示してください」
それらしいことを言っているが、つまりははっきりしないシンの実力を確かめてこい、ということだ。
「……はぁ、わかりましたよ。シン殿。申し訳ないが、一手付き合ってもらえないだろうか」
ファガルはため息をつきつつシンに問う。しかし、視線から伝わってくるのは申し訳なさと好奇心が半々だった。
日ごろの訓練に満足できずに鬱憤が溜まっているというのも嘘ではないらしい。シンが話通りの実力者ならば、存分に戦えると思っているのだろう。
ナムサールがファガルを指名したのは、ガス抜きの意味もあるのかもしれない。
「わかりました。すぐにやりますか?」
話し合いはすでにほぼ終わっている。あとは現場の顔合わせや担当者による細かい打ち合わせがメインになるので、すぐに手合わせに移っても問題ない。
「こちらはかまわないが――」
ファガルはクルンジード王へ視線を向ける。
「かまわぬ。私も自身の目で確認しておきたかったところだ。軍の訓練場の使用を許可する。盛大にやるがよい」
「盛大に、ですか?」
「シン殿の強さを勇者たちが語ったところで納得しない者もいよう。しかし、実際に見た兵士が大勢いれば、信じざるを得まい。それだけの強さがあれば悪魔の相手として重用されるのも当然と、知らしめてもらわねばな」
「なるほど、承知しました」
悪魔の相手はエルクント最高戦力である勇者の務め。悪魔のことを知っている者ならば当然そう考える。それを変更するとなれば、相応の理由が必要ということなのだろう。
シンの名前や功績を、まだ知らない者もいる。それを周知する意味でも、必要なことなのだ。
ただ、ナムサールの態度を見ていると目立たせて囮になれば儲けもの、くらいのことは考えているのではと邪推してしまうが。
「すこし、派手にやるか」
もう戦闘力を隠す意味もあまりないしと、シンの口から考えていたことが漏れた。
派手に暴れたことはどうしようもないくらい広まっているので、もう自重しなくていいよなと開き直り、シンは兵士やクルンジード王たちに続いて部屋を出る。
そのつぶやきを聞いていたヒラミーは勇者が死ぬんじゃないかと心配していたのだが、そのことにはまったく気づかなかった。
†
クルンジード王や勇者たちの後に続いて歩いていくと、多くの兵たちが木でできた剣や盾を使って模擬戦をしている場所に出た。
ここが訓練場なのだろう。広さはおおよそ200メル四方といったところだ。
「こ、国王様!?」
たまたま入口近くにいた兵士が、クルンジード王を見て声を上げた。それを聞いた周囲の兵士が訓練の手を止め、即座に佇まいを正して敬礼する。
「この場の責任者に話がある。誰か呼んできてもらえないか?」
「は! しばしお待ちを!」
「他の者は訓練を再開してくれ! 王が見ているからと張り切りすぎるなよ!」
いまだに敬礼をしたままの兵に、ファガルが言い放った。しかし再開された訓練が、シンたちが入ってきたときより激しさを増しているのは、気のせいではないだろう。
「まったく、王がいないときもこれくらいやってほしいものだ。さて、シン殿。得物はいかがしようか。訓練用の木剣では、打ち合うのも難しいだろう」
「俺たちが訓練で使ってるやつを貸しますよ。全力で打ち付けても、ダメージがほとんどない代物です」
「そんなものが。一度見せてもらってもよろしいか?」
「どうぞ」
ファガルのメイン装備が、刀身の真っ直ぐなタイプの双剣だと聞いて、シンは『スポンジブレード』より刀身の短い『スポンジダガー』を2本渡す。刃に相当する部分の長さはファガルの得物に合わせた。
「これはすごい。本当に力を込めてもダメージがない」
試しにと『スポンジダガー』を訓練場の壁に叩きつけたファガルが、まったく傷ついていない壁を見て感心したように言った。
「これなら相手に傷を負わせることもないので、今後の行動にも支障はないでしょう。補足すると、不殺効果は魔術にも適用されます。刀身部分でなら魔術も弾けますよ」
「訓練用のアイテムとは思えない性能だ。だがまあ、おかげで思い切り打ち合えると思えば悪くない」
ファガルは言いながら、軽く型のような動きをする。流れるような優美な動きは舞にも見えた。
それは、身体能力頼みの選定者とは一線を画する動きだった。
「お2人とも、あまり時間は取れないので早くこちらへ」
シンとファガルが話をしているうちに、ナムサールが訓練場の責任者と話を進めていた。
どうやら訓練場の中央で手合わせをするらしい。全員が見ることになるが、目的を考えればむしろ当然だろう。
国王に近衛隊長、さらには勇者までいるとあって、これから何が始まるのかと、誰も彼もが注目している。ついさっきまで、掛け声や叫び声が飛び交っていたのが嘘のようだ。
「シンさん。くれぐれも、くれぐれも気をつけてくださいね!」
「お前は何を心配してるんだ。武器はスポンジシリーズだし、間違っても即死させることはないって」
「だってシンさんですし。『スポンジブレード』でもやれそうな気がして」
「いやそれ、洒落にならないから。やれたとしてもやらないから」
【制限】を取り払えばできる気がしないでもないシンだったが、今回の手合わせは実力を確かめるためのもの。殺し合いなどもっての外だ。
というよりも、勇者を殺したなんてことになったら、戦力的にも今後の活動にもマイナスがでかすぎる。
「なんだか、俺が負けるのが当然って会話してるな」
ヒラミーの発言にげんなりしていたシンの耳に、ファガルのつぶやきが届く。小声でこそこそと話しているわけではないので、シンの聴覚なら聞き取れるのだ。
相手が同じ勇者のシーリーンだからか、口調が少しフランクになっていた。
「むしろやりすぎないように注意しているようだ。ヒラミー殿はファガルの実力を知っているはず。その上であの反応なのだとすれば、相応の実力があるということなのだろう。私としても、シン殿の力は底が知れない。ファガル、ここは全力で戦ってみてはどうだろうか」
格下に見られたくらいで冷静さを欠くことはないが、あまりいい気はしない。そう思っているらしいファガルに、シーリーンが提案した。
クルンジード王やゼーア卿のこともあり表立って発言しないが、シーリーン本人はシンとシュニーへの警戒をなくしてはいなかった。
多くの戦いを経て培ってきたシーリーンの勘はシンが強者だと告げている。従者であるユキもそうだ。ルクスリアは悪魔なので強いのは当然だが、感じる強さがシンと他の2人では明らかに違っていた。
「せっかくだから、悪魔をも超える力とやらを見せてもらうつもりだよ。この武器なら全力でも問題なさそうだからな。シーリーンはシン殿をどう見る?」
「……わからない、な。だが、私の勘は間違いなく、ルクスリア殿よりもシン殿に対して警告音を鳴らしているよ」
「シーリーンがそう言うってことは、相当な使い手だな。俺は、シン殿とユキ殿が同じような感じだよ。どちらかと言えば、シン殿のほうが魔力の漏れが多い分、ユキ殿のほうが強いのかと思っていた」
だいぶ魔力の扱いに習熟してきたシンだが、制御能力はシュニーのほうが数段上だ。
こればかりは経験と、試行錯誤してきた時間が物を言う。
ただし保有している魔力、MPの総量はシンのほうが圧倒的に上なので、扱いにくさという点ではシュニーを上回っている。もし通常のプレイヤーと同じくらいのMP量ならば、ファガルには同じように見えていただろう。
「両者とも、王はあまり時間が取れないのです。そろそろ始めたいのですが?」
「準備はできています」
「こっちもだ」
ナムサールの催促に、シンとファガルが訓練場の中央に進む。と、そこでシンは一旦足を止め、シュニーを振り返った。
「ユキ、結界を頼む」
「承知しました」
2人が試合をすることはすぐに周知され、訓練をしていた兵たちはすでに壁際に退避していた。
そんな兵たちの目の前に、半透明の薄い青色の壁が出現する。
壁は訓練場の壁に沿って出現し、シンとファガルだけが中に取り残される形になった。
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