THE NEW GATE

風波しのぎ

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18巻

18-2


「さて、まずはモンスターがどうなったかと、ゲルゲンガーの言っていた内容について軍の責任者に報告だな」

 ゲルゲンガーは部下を先触れに出し、自分はその場で待機しているらしい。
 シンたちはシュバイド、セティと合流後、転移で壁の近くまで移動していた。ゲルゲンガーはシンたちが転移を使えることはすでに知っていたので、隠さずに使っている。

「あの話、本当なのかな?」
「そうねぇ。ちょっと急展開すぎる気もするわね」

 ゲルゲンガーとの会話中は静かだったセティとフィルマ。合流してからはシュバイドも含めて積極的に意見を交換している。

「本当に行くの? イシュカーのときみたいに、隔離されたら実は敵だったって場合にあたしたちじゃ手が出せないわよ?」

 グリフォンは使ってこなかったが、イシュカーはシュニーをはじめとしたサポートキャラクターの移動を制限する、特殊な結界のようなものを展開していた。
 それを知るセティは、罠だった場合のことを考えて話をしている。

「あれは完全に俺たちの知らない技術、というか力だ。ぶっちゃけ知ってたからって戦いになったらどうにもならない。それに、守護者が聖地から動けないって話も嘘じゃないとしても全員がそうってわけでもないだろうな。ゲルゲンガーは自分の知るかぎりとしか言ってない。例の結界というか、壁というか、とにかくあのよくわからんやつを使ってきたイシュカーなんて、出てきたのは特殊な状況だったとはいえダンジョンだ。少なくとも、守護者が聖地の外で力を行使できるのは間違いない」

 イシュカーがいたのは、深海古城と海底神殿のふたつのダンジョンが重なっていた場所の奥地。
 イシュカー自体は守護者にのっとられていたような状態だったとはいえ、その力は間違いなく本物。ゲルゲンガーの話をすべて鵜呑うのみにはできない。
 ただ、ゲルゲンガーは自身に与えられている情報には制限があるとはっきり口にしていた。
 ゲルゲンガーの意思で言ったのか、それも伝えるように言われていたのかはわからないが、あの場で与えられた情報には穴があると気づけるようヒントをくれたようにも思える。

「向こうはこっちを敵だと思ってる。こっちが避けていても、いつか襲ってくる可能性はぬぐえない。まだ味方とは言えないけど、立ち位置の違うやつと話をするのは悪いことじゃないと思う。あとはそうだな。敵の本拠地なら、いくら本気で暴れても気にしなくていいっていうのもあるか」

 初めて戦った守護者のグリフォン、海底で戦ったイシュカー。そのどちらも、方向性は違うが強かったことは間違いない。
 グリフォンの異様な再生能力は、よくわからない力が働かなければいつまで倒し続ければいいかわからなかったし、イシュカーは戦闘力そのものが、グリフォンとは比べ物にならないくらい高かった。
 そんな相手と戦うとなれば、周囲のことを気にする余裕はあまりないだろう。
 グリフォンのときは一緒にいたのが選定者のリオンだったからこそ、ある程度戦闘に集中できたのだ。ただの一般人だったなら、行動に大きな支障が出ていた。

「もしあの壁をつかってきたら、我が助けに行こう」

 4メルほどの体躯たいくでシンの隣を歩いていたユズハが、おもむろに言った。
 真面目な話の最中なので、ユズハも本来のしゃべり方になっている。子狐モードの子供っぽさは演技かと思ったシンだが、あの状態ではあえて知能を下げているらしい。

「あの時と同じなら、私も力になれるかな?」
「何か条件があるっぽいんだよな。ユズハとティエラに共通する何かか」

 それらしいものならば挙げられるが、サンプルが少なすぎて検証のしようもない。シュニーたちが壁を抜けられなかったことも、サポートキャラクターだからと安易に考えていいのかもわからないのだ。

「わからないことだらけね」
「だが、本来はそういうものだろう」

 辟易へきえきした様子のセティに、シュバイドは落ち着いた口調で言う。

「我らはまだ世界のことを知っているほうだが、それでも知識としてはほんの一部。ましてや今まで存在も知らなかった相手のことなど、わからないのは当たり前だ。我らの知り得た情報も、元を辿たどれば誰かが危険をおかして得たものは多い。結局のところ、本当に得たいものを得るには危険に身をさらさぬわけにはいかんのだろうよ」
「んー、でも前みたいなことはできないんだし、もうちょっと楽でもよくない?」
「お主……」

 ぶーぶーと文句を言うセティに、シュバイドは呆れ顔だ。
 武人気質であり、シンがいなくなったあとも様々なものと戦ってきたシュバイドである。欲しいものは戦って勝ち取る。時には危険に飛び込むことも必要といった考えはそこまで違和感のあるものではないのだろう。
 そんなシュバイドに対して、セティはそこまで戦いに積極的ではない。
 戦いを忌避きひするような性格ではないし、相手が明確な敵、瘴魔デーモンや悪魔などなら容赦なく殲滅せんめつする。ただ、自ら危険に飛び込んでいくような性格でもない。
 加えて、ゲームだったころのように、死に戻りを前提とした検証はできないことを暗に言っている。
 シュバイドの意見とセティの意見。方向性は違えども、どちらも正しい。

「大人しくしてれば見逃してくれるって言うなら、それでもいいっちゃいいんだけどな」

 認めては欲しいが、関わらないでいてくれるなら無理に守護者同士の争いに首を突っ込もうとも思わない。しかし、そう簡単な話ではないだろうとシンは思う。
 戦っていないはずのゲルゲンガーの主が自分を知っていた。守護者間で情報共有がされている可能性は高い。襲われたからという理由があれども、すでに2体の守護者を倒してしまってもいる。静かに暮らしていれば大丈夫という保証はどこにもない。

「シンがいくと決めたなら、私もついていくだけです。次は、突破してみせます」

 壁の話が出たからか、シュニーが静かに燃えていた。絶対に突破してやるという決意と気迫が、隣を歩いているシンにはビシバシ伝わってくる。

「そこについては、あたしもシュニーと同意見ね」
「うむ、何度も同じ手で対処できるなどと思わせてはおけん」

 壁に手も足もでなかったのを悔しく思っていたのはフィルマやシュバイドも同じようで、シュニーに勝るとも劣らない気迫が放たれていた。
 サポートキャラの面々は、ティエラも含めていた時間で手合わせをしているので、もしかすると自分も知らない技でも編み出しているんじゃないかと思うシンである。

「3人とも少し落ち着こう。ほら、セティは落ち着いて……ないな」

 セティはとくに気迫や闘志のようなものを発してはいなかったので冷静なのかと思いきや、代わりに魔力がだだ漏れだった。
 シュニーたちと種類は違うが、る気に満ちているのは間違いない。妙に透明感のある微笑を浮かべながらも、目だけは『絶対ぶち抜く』と雄弁に語っている。

「とりあえず、皇国軍と合流するまでには抑えてくれよ? 絶対びびるぞ」

 すでにティエラが額から汗を流しながら、少し涙目でをシンに助けを求めている。
 シュニーたち4人が出す闘志や魔力が合わさって、常人なら近づいただけで気絶するほどの威圧感が生じていた。


         †


「モンスター側から接触があった、か。にわかには信じがたい。しかし、シン殿たちが嘘を言う理由もないか」

 軍と合流したシンたちは、早速総指揮官であるレイグに報告があると告げ、ゲルゲンガーからもたらされた情報を開示した。レイグもさすがに驚いたようで、次の行動を決めかねている。

「聖地のモンスターかぁ。調査隊に参加したことがあるけど、そんなモンスターは見た覚えがないなぁ」

 シンが武器を強化したことでより立ち位置が上がったらしいミルトが、首をひねりながら言う。腕を組んでいるので、非常に大きなものが持ち上げられ存在感が増していた。
 ミルトが調査で遭遇したモンスターは、小型もしくは中型がほとんどで、どれも既知きちのモンスターだったという。

「ミルトなら気づいたことがあるかと思ったけど、そう簡単な話でもないのか」

 シンはグリフォンが出た聖地で起こった、引っ張られるような感覚がなかったかと心話で確認したが、それもなかったと返答が来る。

「聖地に行くんだよね? だったら、僕も一緒に行っちゃだめかな?」
「少し確認したいこともあったから、むしろこっちから頼むつもりだった。けど、戦団のほうはいいのか?」

 ミルトは元プレイヤー。もともとこの世界にいた住民とは違う。
 加えて、この世界に来た経緯がシンと異なるので、可能なら、守護者がミルトにどう反応するか見たかった。
 しかし危険も伴うので、あまりにもあっさり承諾されると少し拍子抜けしてしまう。

「今回の騒動の原因に関わることだからね。大丈夫大丈夫」

 教会戦団が派遣された目的は、聖地からもれる魔力によって生じたモンスターからの被害を食い止めること。ゲルゲンガーの話が本当なら、皇国だけでなく援軍を出す教会や他国にとってもメリットがある。
 装備とステータスの上昇でゲーム時代よりも強くなった今のミルトならば、戦力面で見ても足手まといにはならない。

「こちらからも人員を派遣したいところだが、シン殿たちについていけるほどの強さを持つ者はこの場にはおらんからな」

 ゲルゲンガーの主はもしシンが協力し、他の聖地を制圧できれば皇国との交渉も可能だろうと言っているらしいので、皇国からも同行者を出したいようだ。

「状況しだいではありますが、場合によっては先ほどの『氾濫』以上の場所に突っ込むことになるので、選定者でも厳しいところですね」

 向かう場所はシンにとっても未知の場所。軽々しく守ってやるとは言えない。壁を発生させるアイテムの護衛部隊やもともと前線にいた部隊の選定者などが候補に上がったが、戦闘力を聞いてそう結論を出した。
 シンたちのパーティではミルトとティエラが戦闘力の面で一段落ちるが、それでも装備込みならば神獣とも戦える。
 装備ならシンが提供するという手もなくはないのだが、身のたけにあわない装備は装備者の判断を狂わせることもあるので進言はしなかった。

「すぐに交渉が可能というわけでもありませんし、まずはこちらで様子を見てきます。向こうの要求を呑むかについても、話してみないことには判断がつきませんから」
「そうだな。向こうには向こうの思惑があるだろう。我らが割って入れる話でもなし。どうするかはシン殿らの判断に任せよう」

 指名されたのはシンだ。自分たちは口を出せる立場ではないとレイグは締めくくった。ただ、「大地を壁で遮るのではなく活用できれば、それに越したことはないのだがなぁ」と独り言のようにつぶやいたあたり、期待はしているようだ。

「それで、すぐ行くの?」
「一応2日後って言ってあるから、まだ時間はあるぞ。さすがに報告だけしてじゃあいってきますってわけにはいかないだろうと思ってたから」
「でも思っていた以上にさらっと任されてしまったと」
「そうなんだよ。もっとこう、誰々を同行させて欲しいとか、モンスターを信用できるのかとか、意見が出てくるもんだと思ってたんだよ」

 ほとんどお任せ状態なので、これはこれでどうなんだろうと思わなくもないシンである。

「シュバイドさんは元竜王だから、皇国に不利益になるようなことをするとは思ってないんじゃない? シュニーさんも国際的な信用を得てる人だし、なんていうか大使扱いでもおかしくない、みたいな?」
「まあ、確かに今までの言動を考えればおかしくはないか。それに、さっきのついていけるやつがいないっていうのも間違いじゃないし」
「本当についていくってなったら、今の竜王様か直属の親衛隊でも連れてこないと無理だろうね」

 装備も含めた個人の強さとしては、竜王が頂点にいるらしい。シュバイドとともに戦ったなんて話もあるあたり、かなりの使い手なのだろう。

「あやつならば、ついてくることは可能だろう。それくらいの強さはある。我も多くの人を見てきたが、あれほどの選定者はなかなかいない。親衛隊も隊長か副隊長ならばシンが装備を貸し出せば問題なくついてくるだろうな」

 ミルトの発言に、シュバイドが補足を入れた。ヒノモトで出会った侍、藤堂貫九郎とうどうかんくろうほどではないにしろ、かなり高いステータスを持った人物がいるようだ。
 親衛隊といえば王城でレイグと会ったときは姿を見なかったなとシンが思っていると、それを察したシュバイドが部屋の外で警備をしていた者たちだと教えてくれた。

「なるほど、王がいる部屋の警護が一般兵なわけがないか」

 レベルは高かったなとシンは部屋に入るときに見た記憶を引っ張り出す。正確な数値は覚えていないが、200は超えていた。

「それで、結局空いた時間はどうするの? 正直やれることってほとんどないわよね?」
「一応戦いのあとだから、体を休めておいてくれ。俺は武器の整備と補充をしておく」

 シンたち側に被害はないとはいえ、大量のモンスターを相手に戦っていたのだ。休息は必要だとシンは休むように言う。
 レイグたちも同意見で、残りのアイテムを設置する作業には参加しないで英気を養って欲しいと言われている。

「シンは大丈夫なの?」
「ヒノモトのときみたいに武器の解析をするわけじゃないからな。負担はほとんどないから大丈夫だ。終わったら普通に休む」

 かつて行った古代エンシェント級の武器の解析に比べれば、好きに補修や作製、改造ができる作業はほとんど苦にならない。
 作業に何時間もかかるわけでもないので、無理はしていないと、シンは心配するティエラに告げた。
 シンたちは壁沿いに進み、魔術スキルによる【隠蔽ハイディング】を使用してから『月のほこら』を具現化した。
 シンたちが『月の祠』を使うのは何の問題もない。ただ、兵士たちが働いている中、目に見えるところで休むのもどうかと思ったのである。

「で、ほんとにいいのか? 別に見てて楽しいもんでもないぞ?」

『月の祠』の鍛冶かじ場に向かいながら、シンはミルトに確認する。シンが作業するところが見たいとミルトが言ったのは、装備の整備や補充をするとシンが告げたときだ。
 ミルトは鍛冶スキルを持っていないので、見たところで何が変わるというものでもないのだが、本人がそれでもいいと言うのでシンは同行させていた。

「いいからいいから。シンさんの作業の邪魔はしないからさ」

 何が楽しいのか。ミルトはニコニコしながらシンの隣を歩いている。
『月の祠』の中なので2人ともラフな格好だ。色やサイズが違うが、着ているのはTシャツとジーンズ風のズボンである。
 シンの服はカシミアの作で、見た目に反して伝説レジェンド級の防具並みの防御力があったりする。動きやすく、鍛冶作業をするにもなんら支障はない。
 ミルトのほうは、ズボンはゲーム時のもの。Tシャツはこちらの世界で仕立てたらしい。明らかにサイズの合っていない、だぼだぼTシャツだ。えりぐりが大きすぎて左肩だけオフショルダーのようになっている。

「それ、わざとか?」
「もちろん。サイズ自動調整機能がついてると体にぴったりのサイズになるでしょ? あれはあれで便利なんだけど、僕は少し窮屈に感じることがあるんだよね。だから、部屋着はゆったり系が多いかな。こっちじゃわざわざ部屋着に付与したりしないっていうのもあるけどね。あとこの服は違うけど、サイズ自動調整機能の落とし穴にはまらないようにあえてつけてないっていうのもあるかな」
「え、サイズ自動調整機能の落とし穴?」

 急に深刻な顔になったミルトに、シンは何か見落としがあったかと不安になった。

「あれは着るたびに大きさを自動で体に合わせてくれる。つまり、体のサイズが変わっても違和感がないんだ」
「……ん? いや、そりゃそういう機能だし」

 ミルトの発言のどこが問題なのか考えたシンだったが、どこにもおかしなところはないように思えた。

「それがダメなんだよ! いい? サイズが変わっても違和感がないってことは、太っても気づけないってことなんだよ!?」
「落とし穴ってそういうことかい!」

 つっこみを入れてから、シンはふうと息を吐く。もっと危険なことだと思っていたので、とんだ肩透かしであった。

「シンさんはわかってないなぁ。太ったことに気づけないのは女子には大問題なんだから」
「悪かったよ」

 女性の体重や体形について軽々しく扱ってはいけない。ミルトの発言で母や妹からも気をつけるように言われていたことを思い出し、シンは即座に謝った。かつて弟とともにこっぴどく怒られたことがあるのだ。

「あ、でもブラにはつけて欲しいからあとでよろしく」
「待てこら。何でそんな話になる」

 いきなり下着の話になったので、少し嫌な予感がしてシンはミルトから数歩距離をとった。

「こっちじゃあんまり普及してないんだよ。だからなかなか売ってないし、サイズもないし。こればっかりはほんとに困ってるんだ。服ならまだしぶしぶ付与してくれる人もいるけど、下着になると職人が怒るから」

 サイズ自動調整機能は戦う者たちを助けるためのもの。そういうイメージが定着しているらしい。
 ゲーム時代とはスキルに対する意識が違うのはシンもわかっていた。しかし、職人が怒り出すほどとは思っていなかった。

「ある程度生産系スキルを育てないと習得できないからかね」
「たぶんね。覚えられた人って、その道じゃ名の知れた人が多いから」

 それができることが、職人の誇りのようなものになっているのかもしれない。

「おかげでこっちは一苦労だよ。戦うときははずしてるくらいだもん。今もだけど」
「それに関してはぶっちゃけよくわからないんだが、大丈夫なのか?」

 発言の後半部分に無視してはいけないような一言が混じっていたが、シンは言及を避けた。

「装備はぴったりのサイズだからきつくないし、激しく動くことを前提にしてるから普通の服みたいに大きく揺れないようになってるんだよ」

 防具が破損したらしゃれにならないだろと思うシンである。防具の性能的に、破損するような攻撃を受けるとミルトもただではすまないのだが。

「そういうわけだから、下着一式、何卒なにとぞお願いします。ちょっとぐらいなら見てもいいからさぁ」

 そう言ってむき出しだった左肩にシャツを引っ掛けると、少し前かがみになりながら首元の襟を引っ張った。
 首周りに余裕がありすぎて肩が出ていたほどだ。両肩が隠れるようにシャツを着て引っ張れば、深い谷間が丸見えである。

「やると思ったよ」

 ミルトの最近の言動もあって、シャツをいじりだした時点で予想できた。シンの視線はミルトが襟を引っ張る寸前に天井へ移している。

「読まれてた! でもその体勢でこれはかわせまい!」
「こら引っ付くな! 押し付けるな! 挟むな! わかった、やるから離せ!」

 腕にしがみつくミルトを引き剥がそうと肩を押すが、がっちりとホールドしたミルトは離れない。
 力ずくで引き剥がせなくもないが、この世界での力ずくは冗談ではすまない場合があるので少し躊躇ちゅうちょしてしまう。

「ふっふっふ、シンさんが大きな胸が好きなのはわかってるんだよ?」
「なぜそれを!?」
「サポートキャラクターを見れば、その辺の好みってばればれだよね」

 外見は好きにできるので、自分の好みを追求するのは珍しくない。結果、理想の女性像や男性像ができる。つまり、作り手の異性の好みがわかるのだとミルトは語った。

「いや、それを言ったらセティはどうなる」
「カモフラージュですね、わかります」
「く、言わなくてもわかるよって顔がむかつく」

 ニヨニヨとでも効果音のつきそうな笑みを浮かべながら、ミルトがうなずく。
 そんなやりとりをしながら2人は鍛冶場に向かって歩く。
 まるでゲームだったころのような言葉の応酬。この瞬間だけあのころに戻ったような懐かしさを、シンは感じた。
 そんな中、鍛冶場に近づくにつれて、ミルトの口数が少なくなっていくのにシンは気づく。
 鍛冶場の前まで来るころには、ぎゅっとしがみついていたのが嘘のように、そっと寄り添うだけになっていた。
 シンの腕を抱く力は弱く、振りほどこうと思えば簡単にできるだろう。
 鍛冶場の中でも騒ぐようなら本当に力ずくで引き剥がすつもりだったシンは、そんな様子に違和感を覚えて鍛冶場の扉に向けていた視線をミルトに移した。
 その顔を見て、はっとする。

「……なあ、ミルト。お前、大丈夫か?」
「え? 急にどうしたのさ」

 シンの言葉に、ミルトは何を言っているのかわからないという反応をする。
 本当にわかっていないのだろう。シンは無言でアイテムボックスからハンカチを取り出し、ミルトの頬に当てる。


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