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6巻
6-1
城砦都市バルメルに押し寄せたモンスターの大群を撃滅し、その勝利を祝うパーティが開かれてから数日。
シンたちはまだバルメルにいた。『大氾濫』の後始末を手伝うためである。
シュニーの魔術スキル【ブルー・ジャッジ】や、シンたちの【灰燼掌】で消し炭になったモンスターも多いが、それ以外の亡骸は平原に散乱していた。
祝勝パーティの前から片付けは始まっていたが、何分その数が尋常でなく、ここまで時間がかかったのだ。
「にしてもすげぇよな。ここに広がってたモンスターの死体、全部レッドってやつがやったんだろ?」
「ああ、俺は城壁の上にいたからな。ばっちり見たぜ。他にも見たやつは大勢いる。黒い波みたいな群れを、たった1人で倒しちまったんだ。ほんとすげぇよ」
シンの耳にそんな会話が届く。
死体の片付けを終え門に向かう集団のうち、何人かが謎の人物『レッド』について話していた。
城内でも様々な噂が飛び交い、その正体について意見が交わされている。「近い」といえるものから「なんだそれは」というものまで、その内容は多種多様だ。
曰く、ハイヒューマンの配下の1人である。
曰く、この世界に残った英雄の1人である。
曰く、炎神イーラスーラの化身である……など。
実際、シンのサポートキャラであるシュニーやシュバイドならできなくもないので、1つ目の「ハイヒューマン配下説」が有力らしい。
3つ目の説は、赤い鎧の色から、神話に登場する炎神イーラスーラが降りてきたと思われたそうだ。戦いの神の1柱で、これも意外と信じられている。
(神が降りてくる、か。ゲームの世界だと、イーラスーラはボスモンスターだしな)
ゲーム内では試練という名目で、その現身と戦うこともできた。そのせいかどうかはわからないが、この世界の人々にも知られる存在のようだ。
加えて言うなら、ボスモンスターとしての姿は長大な炎剣を持った人型だった。件のレッド――シンの使った大鎌とそこそこ近いかもしれない。
「でも、なんでレッドなんて名前なんだ?」
「赤いからじゃね?」
「それは安直すぎるだろ。偽名にしたって、もうちょっといいのがあったんじゃないのか?」
ぐふっ!
シンは地味にダメージを受けた。適当にあの場で考えた名前だが、そんなにセンスがないだろうか。
(レッド、へん?)
頭上のユズハが聞いてくる。
(変じゃない、と思うんだけどなぁ)
変ではないはずだ、安直と言われれば反論しようもないが。
ちなみに、レッドもパーティに招こうという話もあったらしいが、連絡が取れるはずもない。シュニーにも問い合わせが来たようだが、居場所までは知らないということにしてもらった。
シンは連日共に作業をして仲良くなった中年冒険者、ラル・ラットと軽口をかわす。
「それにしても、戦うより片付ける方が大変っていうのがな」
「いやいや、そりゃ贅沢な悩みってもんだぜ。あんだけの戦いで死人が出てねぇんだ。これ以上何か言ったら罰が当たっちまう」
「それはそうだけどさ。こうも多いと気が滅入るだろ。てか、おやっさんはほとんど戦ってないだろうが。何のためにいたのかわからなかった、って言ってたやつもいたぞ」
「ばれたか。はっはっはっ!」
最初はシンも敬語だったのだが、気に食わないと言われてからは砕けた口調で話している。
ラルは冒険者ランクがBなので、「選定者」という言葉は知らない。前線で戦っていたのは上級クラスの冒険者だと思っているようだ。
シンの言うとおり、遊撃の冒険者にはほとんど出番がなかった。
騎士団のように連携が取れるわけでもないので、モンスターの群れにおいそれと突撃はできない。
その上、戦場での配置が、モンスターがシュニーとガイルの魔術で一網打尽にされる、まさに目の前だったのだ。
突撃しようものなら巻き添えで吹き飛ぶだけである。一応、ガイルたちの護衛をしたようだが、結局ほとんど戦いと呼べるようなものはなかった。
「いやしかし、ほんとにシュニー・ライザーってのはすげぇな。俺たちじゃ逆立ちしたってまねできねぇぜ」
「一般人から見たら化け物だからな。やろうと思えば国だって消せる。おやっさんは怖いって思うかい?」
「そりゃ相手にはしたくねぇわな。つっても、あんな別嬪さんならやられてもいいかと思っちまうけどよ!」
「……まあ、気持ちはわからなくもない」
「だろう? 以前は女神だ聖女だって言ってたやつらを、何を大げさな……って思ってたもんだが、実物を見たらうなずくしかねぇわ。若ぇやつらなんて、魂が抜けたような顔してやがったからな。開戦直後の大規模魔術を見て、別の意味でも魂が抜けたが」
見ものだったぜと喉を鳴らして笑うラル。騎士団の面々も呆けていたのだから、若手冒険者が言葉を失うのも無理はない。
そして、シュニーはシンの知らないところで何やらファンを増やしていた。これが強面の大男なら恐れられたのだろうが、シュニーだと強さもむしろ魅力の1つになる。
「それに、強さだけじゃ人の価値は測れねェ。この歳までいろんな奴を見てきたが、持ってる力と中身次第で、そいつは英雄にもクソ野郎にもなれる。強いか弱いかだけでそいつのすべてを理解したとは言えねぇな。それによ、力があっても必ずしもいいことばかりじゃないってのを、俺は知ってるからな」
年齢に見合う経験を重ねてきたのだろう。ラルの言葉はありきたりではあったが、同時にしっかりとした重みがあった。
「そんなことを聞くってこたぁ、知り合いに同じような奴でもいるのか?」
「まあ、そんなとこ」
「そうか。なら、あまり怖がらねぇでやれよ。俺はそれで失敗しちまったからな」
陽気なラルにしては珍しく、少ししんみりした顔で言う。
「肝に銘じておくよ」
「おう、そうしとけ。さて、そろそろ門だな」
モンスターの死体を載せた台車を門の横に止め、報酬をもらうためにギルドへ向かう。
ギルドは片付け作業を円滑に進めるため、それを冒険者に依頼として発注していた。
報酬を受け取ったシンは、仲間と待ち合わせているというラルと別れ、軽く周囲を見回す。
シュニーやティエラは別の作業場を担当しているが、終わる時間はシンと同じくらいだったので、ここで合流することにしていたのだ。
時間を潰そうとギルド内に併設された酒場の隅で果実水を飲んでいたシンに、ギルドの受付嬢エリザが話しかけてきた。
「申し訳ありません。シン様、これから少々お時間をいただけませんでしょうか?」
「はい? あーっと、連れが来るまでならいいですけど。ユズハも一緒で大丈夫ですか?」
「ええ。暴れたりしないことは、ここ数日でよくわかっていますから」
『氾濫』が終息し、バルメルは平時と変わらぬ状態に戻っている。シンには呼び出しを受けるような理由は思い当たらなかった。
「無理を言って申し訳ありません。お連れ様は、着きしだい職員が対応させていただきますので」
こちらです、と促すエリザの後を追う。
多少注目を集めていたが、今さらなので気にしないことにした。選定者として前線に出たことで、一部の冒険者にはシンの名が知れ渡りつつあるのだ。
エリザが向かった先は、ギルド長の部屋だった。中に入ると、ギルドマスターのバレンとベイルリヒト王国の王女リオンが待っていた。
「急に呼び出して申し訳ない。君に指名依頼が来ているんだが、あまり人前で話すわけにはいかなくてね」
横にいるのがリオンの時点で、内容が予測できてしまうシンである。
「……もしかしてなんですが、リオン様の護衛ですか?」
「ああ、そうだ。そう言えば、君はリオン様と親しいんだったね。依頼の内容は、リオン様のベイルリヒトまでの護衛だ」
パーティ以降会う機会もなく、『氾濫』が終わりしばらく経つのだから、リオンはすでにバルメルを出たと思っていたのだが、予想が外れた。
「シンにはカルキアに転移させられてから、いろいろと助けてもらったからな。報酬も用意させるぞ」
ついでに先日の礼もするということらしい。
現段階ではリオンからシンに渡せるものがほとんどないので、護衛の報酬と合わせて、になる。
「あー……すみません。その依頼、受けられません」
「王族の依頼を断るというのかね?」
「ギルドの規定では、指名依頼を受けるかどうかの判断は冒険者に委ねられると聞いていますが?」
ギルドには、依頼を特定の冒険者に受けてもらうための指名制度がある。
しかし、これは受ける側である冒険者に応否を判断する権利があった。もちろん、断ってもギルドからペナルティが科せられることはない。
以前は、指名依頼は半ば強制だったらしい。しかし、これを悪用して特定の冒険者を罠にはめるといった事件が発生した。金で雇った刺客を依頼先に潜ませ、モンスターに襲われたように見せかけて殺すという悪辣なものだった。
だが、刺客を返り討ちにした冒険者がギルドに報告したことで事件が明るみに出る。
調査によって過去にも同じような事件があったことがわかり、指名依頼を断ることもできるようになったのだ。
ただ、指名する側が貴族や大商人といった、冒険者個人では逆らいにくい相手の場合もあるので、そういう時はギルドが間に入ることになっている。
「ダメなのか?」
「そう言われましても、俺にもやることがあるんですよ」
「どうしてもか?」
「その上目遣いとポーズ、誰に習ったんですか……」
リオンのキャラじゃないだろ、と若干の呆れを混ぜてシンは言った。
するとバレンが念を押してくる。
「確かに断ることができないわけではないが、いいのかね? 王族からの指名など、普通は高位の冒険者しか受けられないのだが」
「構いません。むしろ下手に親しくしすぎると、周りからのやっかみが怖いですし。それに、俺たちはこれからキルモントへ向かうんです。方向が正反対ですよ。もう準備もしてますし」
「むむむ、シンには父に会ってほしかったのだが」
「会いませんよ? そのまま我が国に仕えよ、とか言われそうですから会いませんよ?」
「むぅ」
「むくれてもダメです」
シンはベイルリヒト上層部から上級選定者と目されているが、必ずしもシンを歓迎する者ばかりとは限らない。
リオンは王族であり、周りにいるのは貴族だ。特権階級の人間は、時に国の利益よりも自らの保身のために動くのである。
……というのはシンの勝手な妄想だが、早く竜皇国キルモントに向かい、シュバイドと合流して聖地カルキアの調査をしたいというはっきりとした目的もあった。
それに、シンが護衛を断ったとしてもベイルリヒトから迎えが来るなり、他の冒険者に依頼が行くなりするだろう。さすがに一国の姫を1人で帰すことはないはずだ。
加えて言うなら、リオンに護衛が必要とは正直思えなかった。
「なんというか……仲が良いようだね」
「私とシンの仲だからな!」
「周囲の目が怖いですよ……」
苦笑するバレンから視線をそらして、シンはそう繰り返した。
「残念だが仕方ない。無理強いするつもりはないからな。だが、またベイルリヒトに来たときは私を訪ねて来い」
「……善処します」
リオンの態度から考えるに、依頼は最初から、受けてくれたらラッキーくらいの気持ちだったようだ。
シンとしてはしつこく迫られると困るので助かった。邪険にするつもりはないが、優先すべき目的がある。
「こちらの用件はこれで終わりだ。時間を取らせて悪かったね」
「いえ、こっちも時間が空いていましたから。では、失礼します」
部屋の隅で待機していたエリザを伴い、ギルド長の部屋を出てホールに戻る。
シンがホールに着くと、酒場の一角に以前も見たような人だかりが出来ていた。
「……またか」
人だかりの中心は、考えるまでもなく変装したシュニー……つまりユキと、ティエラだ。気配でわかる。
毎度のことなので、シンも慌てることはない。なぜこんなにも人が集まるのか、理由はすでにエリザに聞いていた。
当たり前といえば当たり前だが、冒険者はその多くが男性だ。
女性もいるにはいるのだが、シュニーたちのように美人でスタイルがよく、おまけに実力もあるという者はほとんどいない。
いたとしても、そういう者たちは大抵女性だけで固まるか、貴族の目に留まって召し抱えられるというパターンが多く、お近づきになれることはまずないのだそうだ。
なので、2人で行動することが多いシュニーとティエラをパーティに誘う冒険者や、自分の館に招こうとする貴族の使いが群がる事態になっていた。
「今日はまた、一段とすごいな」
「お2人は、バルメルではかなり名前と容姿が知られましたからね。仕方がないかと」
「で、仲間の男である俺に殺意と嫉妬が集まる、と」
「……仕方が、ないかと」
さしものエリザもフォローのしようがない。
「というか、そちらで人払いしてくれるって話では?」
「はい、職員を待機させておくように伝えてあったのですが……」
エリザは周囲を見渡すが、受付にすら職員の姿がなかった。
「おかしいですね。受付には最低1人、待機する決まりなのですが」
「……いや、どうやら仕事をしようとはしてくれたみたいですよ」
溜め息をついてシンは人だかりに近づいていく。
男どもが群がっていてわかりにくかったが、集中して気配を探れば、シュニーとティエラの他にもう1人、別の女性の気配があった。
シンに気づいた男たちから、負の感情が込められた視線が飛んでくる。しかし今となっては慣れたもの。すべて無視して2人の名前を呼ぶ。
「おーい、ユキ! ティエラ! そろそろ行くぞ!」
少し間があってから、人だかりが割れる。金髪赤眼となったシュニーの後ろにティエラ、さらにその後ろにギルドの制服を着た女性がいた。
「お待たせしました」
「いや、むしろ俺が待たせた。先に着いてたんだが、ちょっとな。詳しいことは歩きながら話す。それで、その人は?」
シンに向けて笑顔を見せるシュニーに見惚れる者と、シンに嫉妬の視線を向ける者。そんな男たちを視界の外に追いやり、シンは2人の後ろで小さくなっている女性について問うた。
「え、ええと、わ、私は冒険者ギルドバルメル支部しょじょ、し、所属のフランと申します!」
慌ててかみかみだった。
かなり小柄な女性で、150セメルあるかないかといったところ。ボブカットにされた茶色の髪と、くりくりした同色の瞳が印象的だった。
外見的には中学生、ともすると小学生に見えなくもない。
「フラン、他の職員はどうしたのですか? 新人1人に受付を任せることはないはずですが」
「せ、先輩は、先ほど上級冒険者の方が来て、その対応に当たっています。他の方も手が離せず、私も頑張ったんです、けど……」
「詰めかけた方々が多すぎて、彼女1人では対応しきれなかったんです」
「……そう、なんです」
シュニーの言葉に、がっくりと肩を落としながら同意するフラン。
確かに、2人に群がる男たち全員の相手を新人にしろというのは酷だ。シンが同じ立場なら、正直に言ってあの集団には近づきたくもない。
経験のあるベテランならうまく処理するのだろうが、それは言っても詮無いことだろう。
「申し訳ありません。こちらの不手際でご迷惑をおかけしました。お詫びといってはなんですが、何かご要望があればお申し付けください。できる範囲で対応させていただきます」
「も、申し訳ありませんでした!」
「……えっと、別にいいよな、ユキ」
「はい、今回はタイミングが悪かっただけですし、実害を受けたわけでもありませんから気にしないでください」
シンの言葉にうなずきながらシュニーが応じる。
人だかりができるのはいつものことなので、半ば諦めているのだ。そのことでいちいちフランを責めようという気にはならなかった。
「そう言っていただけると、私どもとしても助かります」
それでも申し訳なさそうなエリザとフラン。
業務である以上、一度請け負っておきながらできませんでした、というのは信用に関わる。いくらシュニーたちが良いと言っても、忸怩たる思いがあるようだ。
頭を下げるエリザたちに再度気にしていない旨を伝え、シンたちはギルドを後にした。
「悪かったな。俺がすぐ合流すれば、あんなことにはならなかったんだが」
「何かあったんでしょ? 呼び出されてたみたいだし」
「そうですね。何かあったのですか?」
なんとなく察している風の2人に、シンは指名依頼の内容を話す。
それを聞いたシュニーは若干笑みを深め、ティエラはなるほどねと納得していた。
「普通に考えたら、シンを自分の国のものにしたいって考えるわよね。あの人は王族だし、シンの正体はともかく、実力を少しは知ってるんでしょ?」
「少しだけな。ま、俺も向こうの立場なら確保しておきたいって考えるだろうけどさ。なんつうか、頭じゃ理解してても俺の考え方とはやっぱ合わんわ」
そう言いつつも、リオンだけは他の王族とは違うかもしれない、とシンは心の中で付け足す。
そして、今回のような特殊な事態でなければ、ここまで好意は向けられなかっただろうと言ったシンに、シュニーが疑問を呈した。
「本当にそうでしょうか?」
「シュニー?」
「シンの考え方や態度は、この世界では珍しいものです。プレイヤーの方はともかく、やはり平民にとって王族とは天上人なのです。リオン様はあの性格ですので、気負うことなく接してくれて、背中を預けられるだけの力を持つ相手に惹かれるでしょう。シンはそのどちらも満たしてますから、今回の1件がなくても好かれた可能性はあると思いますよ」
「まあ、リオンじゃなきゃ、この無礼者! とかなりそうだけどな」
「そうですね、なんと言いますか。リオン様は王族よりも平民に近い思想を持っているように思います」
「そこは同感だ」
リオンの話では、王族よりも戦士としての教育が重視されていたというから、王族らしくないというのもある意味当然なのかもしれない。
「といっても、俺はリオンと婚約するつもりなんてないし、諦めてもらうしかないな」
「ハイヒューマンだと正体を明かしたら、むしろ押しかけてきそうですけどね」
「今までの言動を見ると、否定しきれないな」
友好のためとでも言って、強引にやってきそうだとシンは思った。ハイヒューマンを味方につけられるなら、国王も喜んで姫を差し出すだろう。
「とりあえず、今はシュバイドたちと合流するのを優先だ。リオンについて行ったら、そのまま王様と謁見するコースしか考えられん。バレンさんには悪いが、国とのあれこれはギルドに任せる」
どこまでやってくれるのかはわからないが、シンは一般人とは違う選定者ということになっている。それを考えれば、ギルドもそれなりに対応を頑張ってくれるだろうと思うことにした。
リオン本人と話したこともあり、これ以上無茶な要求はして来ないだろうという、他力本願的な気持ちもなくはない。
月の祠の紹介状もあるし……とそこまで考えて、シンは紹介状についてよく知らないことに気付いた。
アイテムボックスに放り込み、バルメルで使うまで半ば存在を忘れていたくらいだ。
ベイルリヒトで初めて効力を示した際にいろいろとイベントが発生したせいで、無意識に出すことをためらっていた。
シュニーと会うための手掛かりのはずだったのだが、使うまでもなく出会ってしまったというのもある。
シンとて【THE NEW GATE】内にあるアイテムをすべて知っているわけではなく、そういうアイテムもあるのか程度に考えていた。
なにせ、一定条件下で効果を発揮するアイテムなど、プレイヤー次第でいくらでも作れるからだ。
言い方は悪いが、「月の祠」という強力なネームバリューがなければ、ただの光る紙である。
「なあシュニー。今さらなんだが、例の紹介状ってどうやって作ってるんだ?」
紹介状のような効果を及ぼすアイテムを作る機能は、シンの知る限り月の祠に存在しない。となれば、シュニーのオリジナルということになるが。
「紹介状ですか? 月の祠で使っている、生成機から出てきた紙を使っています。あとは錬金術の応用ですね。発光のエンチャントです」
「生成機で作れる紙にそんな耐久力があったか? あれはエンチャントに使えるような、特殊な紙じゃなかったはずだが」
「私もシンがいなくなってだいぶ経ってから気づいたので、詳しくは……。確かにゲーム時代はただの紙でしたが品質は最高のものですし、この世界の変化に合わせて魔力が宿ったのだと思います。もちろん、悪いものではないことは確認済みです」
月の祠にある生成機。これは様々な素材を生産してくれるホーム、もしくはギルド用の設備の1つだ。
月の祠には紙以外にも、素材や金属といったアイテムを出す生成機がいくつかある。ただ、現在月の祠で起動しているのは紙を出すもののみ。デスゲーム時代、シンが最後に月の祠を出る際に、生成機の置いてあった部屋の扉を閉めていったのだ。
紙の生成機が使えたのは、設置場所が他の生成機と別だったので、忘れていただけである。
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