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7巻
7-1
誘拐された少女ミリーを奪い返すため、エルダードラゴンに乗って教会の総本山、ジグルスにやって来たシン一行。
そこで出会った教会の枢機卿リリシラから、シンは『頂の派閥』の狂信者ブルクの拘束を依頼される。
ブルクはミリーを攫っただけでなく、聖女と呼ばれる娘ハーミィを監禁してもいたのだ。
リリシラらと協力して行動を開始したシンたちは、教会本部となっているパルミラックを強襲し、無事にミリーとハーミィを救出することに成功したのだった――。
「……この後どうするか、ですか?」
「はい。ハーミィ様を助けることができたのは、あなた方のおかげです。この情報が伝われば、ブルクに煮え湯を飲まされていたほかの者たちも、お礼をしたいと言い出すでしょう」
助けられたハーミィがリリシラと再会して、30分ほどが経った。
もう夜もかなり更けた時間である。
護衛の騎士は各所に聖女が救出されたことを伝えに走り、ハーミィとミリーはヴィルヘルムの護衛の下、別室で休んでいる。
シンはティエラに、パルミラックに来るようメッセージを飛ばしていた。
ブルクの部屋に残っているだろう隷属アイテム――『隷属の首輪』は、シュバイドが案内の騎士を伴って回収に向かった。
シンとシュニー、リリシラは、リリシラに宛がわれている部屋で報酬について話し合っていた。
シンとしてはそんなものは要らず、謎の協力者のような扱いにしてほしかったのだが、リリシラは納得しない。自分以外の者も決して納得しないだろうと、強く主張した。
労力という点でいえば、日付も変わった今の時点で、今回の事件に費やした日数は都合3日。
かかった金は宿代くらいだ。請求するような額が発生しているわけでもない。
シンたちのやったことといえば、パルミラックに忍び込んでエイラインとブルクを潰したくらいである。
それこそがもっとも重要だと理解はしていても、シンにとっては容易なことだったので、リリシラと温度差が生じていた。
礼をもらうにしても、そこまで大仰にされても困ってしまうのだ。
ただでさえバルメル防衛戦の件で、シンの名が知れ渡りつつある。ここで教会に大々的に表彰などされれば、今までなかった厄介事が舞い込んで来かねない。
「目立ちたくない」などと今さら言う気はないとしても、回避できる面倒は回避しておきたいのが本音だった。
「できれば、名前は出さないでほしいんですけど」
「名前をですか? こういう場合、むしろ名を売る絶好の機会かと思いますが」
「いえ、そもそも俺たちはミリーを助けに来たのであって、聖女様を助けたのは……言い方は悪いですが、ついでなんです。それにブルクのやってることを知ったら、何ができるかは別として、誰だって損得とか考えずに動こうとするでしょう?」
まともな人間なら、ブルクの行為に嫌悪感を持つのが当たり前だ。
シンたちも例外ではなく、同時にシンたちにはブルクを止められる力があった。つまりはそれだけのことなのだ。
「せめて何か必要なものはありませんか? 私は、差し出せるものはいかようにも、と言って助力を求めました。ここまでしていただいて、何もなしに別れたとあっては、恩知らずのそしりを受けてしまいます」
「あーっと、一応何もいらないとか言う気はないので、落ち着いてください」
いささか距離が近いリリシラから1歩下がって、シンは苦笑いを浮かべた。
助けられた側からすれば、何の礼もできないのは心苦しいということくらい、シンも理解している。なので、シンは報酬としてあることを考えていた。
「何か、ご入用で?」
「はい。俺たちが要求することは3つです。まずひとつ目、ブルクの使っていた首輪が残っているなら、それを譲っていただきたい。誰かの手に渡る前に回収して、構造とか効力とか、なるべく詳しく調べたいんです。処分もこちらでしておきますし、もし無効化するアイテムが作製できたらリリシラさんにも提供しますよ」
相手を思いのままに操るなどという効果を持つアイテムを残しておくと、第2、第3のブルクが出かねない。聖職者でも欲望には勝てないことは、歴史が証明している。
加えて、シンの力以外でアイテムの効果を無効化する手段がないか、調べる必要があった。
首輪解除用アイテムを作って効果があるかどうか試すためにも、首輪の現物を手に入れておきたかった。
相手を問答無用で従わせるアイテムを寄こせというのは、リリシラたちにとっても難しい決断のはずで、シンは報酬として妥当じゃないかと思った。
「そうですね。我々とていつ欲に負けるかわかりませんから、シン様に預けるべきでしょう。これまでの行動を鑑みれば、ブルクのような行いはしないと断言できますから」
シンの予想とは裏腹に、リリシラはいとも簡単に要求を呑んだ。
リリシラによると、教会内にはブルクに協力していた者もいたようで、すでに第2、第3のブルク候補には事欠かないという。半端に手元に残すくらいなら、信頼できる相手に渡してしまおうということだった。
シンが考えているよりも、リリシラからの信頼度は高かったようだ。
「解除用アイテムの作製に成功した際は、ご連絡いただけると助かります」
「どうにかできるのが俺だけっていうのは、いろいろ問題がありますからね」
作製が可能か、時間がどれくらいかかるか。わからないことは多いので、効果が確認できたら連絡するということで落ち着いた。
「それで、ふたつ目というのは?」
「ふたつ目は情報です。聖地について、わかっていることを教えてほしいんです。できれば、今後新たにわかったことがあった場合も、教えてもらえると助かります」
まだ十分に調査できていない聖地だが、すでに判明していることがあるのなら、知っておきたいとシンは思っていた。教会の信徒は多く、それだけ総本山であるこのジグルスに集まってくる情報も多いと考えたのだ。
聖地の情報はギルドでも上位の者しか知らないし、内部調査はときに全員が命を落とすほどの危険が伴うという。報酬として要求するには、十分価値があった。
「それについては、まとめたものがあります。持ってこさせましょう。追加情報については、できる範囲でお教えいたします」
「ありがとうございます。3つ目は『頂の派閥』についてです。ブルクの言っていた儀式場について、探ってもらいたいんです。派閥の拠点とかがわかるといいんですけど、今は儀式が気になります。ブルク以外にも、生け贄を連れてくるやつがいるかもしれませんから」
行方不明のサポートキャラクター、フィルマのことも解決していないので、『頂の派閥』について調べるのはシンたちにとって最優先事項だ。
要求としては3つ目だが、優先順位は他よりも高い。
「俺が考える報酬は、こんなところですね」
「本当にその3つだけでよろしいのですか? 我々としてはそれで恩を返せたとはまだ思えないのですが」
「えっと、自分としてはそれなりに要求してるつもりなんですけど。あまり気負わなくていいんですよ?」
真面目だが、どこか余裕のないリリシラにシンは落ち着くよう促した。
「いえ、そういうわけにはいきません」
しかし、シンの言葉を受けたリリシラは、納得できないという表情を浮かべた。
「よろしいですか。今回の救出作戦は、シン様やご同行の方々の協力がなければ、万にひとつの成功もなかったのです。我々だけで臨めば、ほとんどの者は殺され、ハーミィ様たちは生け贄に、私を含めた女性たちは慰み者にされていたでしょう」
淡々と話すリリシラ。シンたちがいなかった場合、ほぼ確実に訪れていた未来の話なのは間違いない。
ヴィルヘルムも単独では、ブルクたちがこの街を出る前に、ジグルスに来ることはできなかった。
ケーニッヒやエイラインを抑えられる者がいないうえ、ハーミィたちに隷属アイテムの首輪がつけられたままの状況では、リリシラたちが勝つことは不可能だったのだ。
場合によっては、教会そのものがブルクたちに乗っ取られる可能性すらあった。
ゆえに、リリシラたちにとってシンが現れたことはまさしく奇跡であり、神の思し召しのように感じられていても不思議ではないのだ。
「いかようにも、の中に私自身すら含まれているのは、そういう可能性もあったからです」
「なるほど……いやでも」
「そのくらいの覚悟で言ったと、ご理解ください」
「あ、ああ、そういうことですか」
この身をあなたに捧げます、というようなセリフが出てきそうで焦ったシンだが、そうではなかったので安心する。
命を救われたのだから私はあなたのものです、といった流れは、一部のフィクション作品ではテンプレだ。
しかしシンは、そんな申し出を喜んで受け入れるような精神は持ち合わせていない。
「じゃあ、何かあった時に力を借りるということで。俺たちも万能ってわけじゃないですからね。ひとつ目はすぐにどうにかできそうですし、差し当たっては、『頂の派閥』の拠点やブルクの言っていた儀式場の場所を探すのを優先してもらえると助かります」
「承知しました。こちらでも情報を集めておきます。私たちの力が必要になった時は遠慮なくおっしゃってください」
張り切るリリシラに、シンは、何かわかった時は黄金商会に伝言を、と伝える。黄金商会とつながりがあることにリリシラは驚いていたが、すぐに表情を引き締めてうなずいた。
「とりあえず、こんなところですかね」
「なんでしたら、私を望んでいただいてもかまいませんが」
「えっと、なんでその話題が蒸し返されるんですかね……もちろん遠慮しますよ?」
回避したと思っていたセリフがリリシラの口から出てきて、シンの顔が引きつる。
「お連れの女性はエルフとハイエルフ。エルフの女はよほど気を許した方でないと、男性とはパーティを組みません。お2人ともシン様に気を許しているようですし、そういうご関係なのかと。エルフ、お好きなんですよね? 私もエルフですよ」
「それは誤解だぁぁああああああああああ!!」
シンの魂の叫びだった。
エルフの女性が男性とパーティを組むハードルの高さなどシンは知らない。事情を知っている者から見ると、エルフハーレムのように見えていたらしいと知って、少しショックだった。
「それに! 男ならシュバイドもいるじゃないですか! なんで俺と2人の組み合わせみたいに言ってるんですか」
「乙女の勘です。といってもユキ様の好意は、見ていればすぐわかりましたが」
にっこりと笑って断言するリリシラ。
いきなりキャラが変わったなとシンは頭を抱えた。報酬の話をこれ以上引っ張るのは迷惑になる、とリリシラも考えたのだろう。真面目な話は終わりということらしい。
「そ、そういうものですか……で、なんでユキは俺にくっついているんだ?」
「牽制です」
「さいですか……」
いつの間にかぴったりと寄り添っていたユキ――つまり変装したシュニーにシンが問うと、本気なのか冗談なのかわからない返答が戻ってきた。
「ふふっ、仲がよろしいんですね。うらやましいです」
微笑ましいものを見るような顔で話すリリシラ。
先ほどまでとは打って変わって、生温かい視線を向けるリリシラに、シンは居心地の悪さを覚えていた。
思ったことはただひとつ。「何この状況?」である。
†
シンたちが報酬について話し合っている部屋の隣で、ヴィルヘルムは隷属アイテムから解放されたケーニッヒとともにハーミィとミリーの警護に当たっていた。
ブルクは捕まったが、教会の危険人物はブルクだけではない。不正を働く者たちが、これに乗じて動かないとも限らないのだ。
「もう少しで、帰れますからね」
「ヴィルにぃとシンにぃがいるから、あんしん」
ハーミィに膝枕をしてもらい、頭を撫でられているミリーはご機嫌だ。
皆無事で、助けに来てくれた者の中には信頼を寄せる相手もいる。今もそのヴィルヘルムがそばにいることで、不安を感じていなかった。
「…………」
そんなミリーを、ヴィルヘルムは無言で見つめている。おかしなところはないかと、ミリーに気づかれないように気を使いながら観察していた。
なにせミリーはエイラインに操られて、ヴィルヘルムを刺したのだ。彼女の心の傷になってもおかしくはなかった。
ただ、本人にエイラインとヴィルヘルムが戦っているときのことを聞いてみると、幸いというべきか、戦いが始まったところから記憶が途切れているらしかった。
エイラインはいざという時に、すぐにミリーを操れるようにしていたのだろう。今回はそれがいい方向に作用した形だった。
「気になるか?」
「……まあな」
ヴィルヘルムに語りかけてきたのはケーニッヒだ。
シンによって首輪から解放されたことで、活動に支障はなくなっていた。なので、本来の職務であるハーミィの護衛に戻ったのだ。
シュバイドの攻撃で鎧は使い物にならなくなったが、愛剣である伝説級の魔剣『ハウファー』はその腰に収まっている。
ミリーがヴィルヘルムを刺したことをケーニッヒは知らないが、首輪をつけられていたことは知っている。自分のように操られ、何かあったのでは、と考えたようだ。
ヴィルヘルムが問い返す。
「そういや、あんたは記憶に変調はないのか? 見た感じ、操られている時の記憶の状態には個人差があるみてぇだが」
「記憶はしっかりしている。私はあまり首輪の力を使われることがなかったし、操られた際も夢を見るような、ぼんやりとした意識があった」
ブルクはハーミィをダシにして、ケーニッヒに言うことを聞かせることが多かったという。
首輪の力で従わせる場合、あまり細かい具体的な命令はできないのではないか、という予想をケーニッヒは口にした。
「なるほどな。自我がない分できることも単調になる、か」
「憶測でしかないがな。だが、それは戦闘ではひどく有効だ。全力の一撃を放て、などと命令すれば、それこそ腕が壊れるのもいとわない攻撃をする。シュバイド殿との戦いで俺は、自分ではめったに放てないだろう一撃をいとも簡単に放っていたからな。それに、命を顧みない捨て身の攻撃もできるだろう」
「何度聞いても、胸糞悪くなるアイテムだな」
顔をしかめながらヴィルヘルムは毒づく。
「あのアイテムはいくつか外に流れている。数が少ないのが救いだが、悪用される前にどうにか出来ればいいのだが」
「ひとつ気になったんだが、あれは装着者が死んだら他のやつに再度使えるのか?」
再利用が可能だと、悪い意味で首輪の有用性が上がってしまうので、ヴィルヘルムは情報を知る立場にあったケーニッヒに問うた。
「再利用できるという話は聞いたことがない。ただ、ブルクが手に入れた数と使用した数が合わない。おそらくだが、装着者が死んだ場合の再利用は可能なのだろう」
ケーニッヒの話では、ブルクが首輪を使ってはべらせていた女性の数のほうが、首輪の数より多いという。
ケーニッヒが首輪の数を知っているのは、ブルクが話しているのを聞いたかららしい。操っている相手ということで、油断があったようだ。
「どこまでもクソな男だな」
「そこは同意する。首輪で操られてさえいなければ、その場で叩き斬っていたところだ」
ケーニッヒは教会の教えである、弱者救済を信奉する騎士。
正義感の強い性格ゆえに、ブルクなどは嫌悪感を感じるどころか、存在すら認めたくない相手だったのだろう。
「だが、操られていたとはいえ、俺もまた罪もない人々を手にかけてしまった」
「……罪の意識か? そんなもんを気にしてたら、遠からず死ぬぞ」
悔いるようにつぶやいたケーニッヒに、ヴィルヘルムは淡々と告げた。
「気にするなとでも言うのか?」
「気にしたところで意味はねぇって言ったんだ」
語気を強めたケーニッヒ。しかし、それでもヴィルヘルムは落ち着いた様子で言葉を紡ぐ。
「いくら悔やんだところで、死人は蘇りはしねぇよ。結局は残されたやつの気の持ちようだ。それを気にしてお前が死ねば、守るべき人間も死ぬことになるぞ」
今回のように、ハーミィはその能力ゆえにまた狙われるかもしれない。その時に剣を鈍らせるような迷いがあれば、犠牲はケーニッヒだけでは済まないのだ。
手にかけた者の身内が復讐に来るかもしれない。糾弾されるかもしれない。
しかし、それは当然で、仕方のないことだ。
過ぎた時間は戻らない。消えた命は戻りはしない。
それが、この世界のルール。
死人を蘇らせる秘薬すら存在したと言われる『栄華の落日』以前の世界とは違うのだ。
(あいつなら…………いや、それは考えていいことじゃねぇな)
ヴィルヘルムの脳裏に、1人のハイヒューマンとそれに付き従う2人の従者の姿が浮かぶ。シンやシュニーたちであれば、秘薬を作る方法や秘薬そのものを持っているかもしれない。
だが、それを言葉にはしない。確証のない話であり、もしできたとしても、彼らがケーニッヒが手にかけた人を蘇らせるとも思えない。
死者の蘇生。それは、決して手を出してはいけない邪法だと、ヴィルヘルムの意識に強く焼き付いている。
それに手を出し、破滅した者たちをヴィルヘルムは知っているのだ。
だからこそ、考えるにとどめた。教会でも、今や死者蘇生の研究は禁忌中の禁忌。もはや完全に失われた奇跡なのだ。
ケーニッヒは沈黙の果てに口を開く。
「それは、困るな」
「なら、早く答えを出すこった。大抵のことは、本人の都合を無視して起きやがるからな」
「経験でもあるのか?」
「さてな」
ヴィルヘルムはケーニッヒの疑問をはぐらかし、それきり黙り込む。
その様子を訝しんだケーニッヒがヴィルヘルムの視線をたどると、静かな寝息を立てるミリーの姿があった。
「なるほど、これが『魔槍』と呼ばれた男か」
「ふん」
小さく鼻を鳴らすヴィルヘルム。その姿は騎士にも劣らぬ、守護者のようだった。
†
「ここがブルクの部屋か」
「はい。関係者以外は入れなかったので、内部がどうなっているかはわかりませんが」
先導していた騎士の答えを聞き、シュバイドは閉ざされた扉に目を向けた。
司祭クラスとなると個人用の私室が与えられる。隠れて何かするにはもってこいなのだ。
不在の間に忍び込むことができそうだが、この場がパルミラック内だということが仇になる。
キメラダイトに囲まれた部屋は、壁をすり抜けたり、扉を解錠したりといったことが非常に難しい。
そのため、選定者であっても迂闊に室内に侵入することができず、ブルクの秘密を暴くことができなかったのだ。
「開けるぞ」
シュバイドが扉に手をかけた。
シンから各部屋の解錠許可を受けたシュバイドは、一定時間内ならパルミラック内のほぼすべての部屋に入ることができる。
シュバイドが力を込めると、ほとんど抵抗もなく扉が開いた。
「む! 皆下がれ!」
身を乗り出して、シュバイドは騎士たちの前に立つ。
開いた扉の向こうから、濃い瘴気が漂ってきていた。
「こ、これは……」
「近寄るな。正気をなくす」
顔色を悪くする騎士たちを下がらせ、シュバイドが室内に踏み入る。
今のシュバイドは本来の装備である巨大なハルバード『凪月』を装備していた。その刃から発せられる光が、室内から漏れ出る瘴気を根こそぎ浄化していく。
シンによるバージョンアップを経て、シンのサポートキャラが持つ武器は瘴気の浄化能力も手に入れていた。
「これで浄化は終わりだ。皆、入ってよいぞ」
シュバイドの声を受けて、騎士たちが恐る恐る室内に入ってくる。神殿騎士とはいえ、瘴気に対して高い耐性を持っているわけではない。
部屋から漂ってきた瘴気は、見ただけで危険と本能が警告するような濃度。たとえ上級選定者ですら、耐えられるとは限らないレベルだ。
訓練を受けた騎士でも、耐えられるものではない。
「この濃度の瘴気を、ブルクは常時浴びていたのか? それにしては精神的破綻を起こしているようには見えなかったが」
シュバイドの脳裏に、ひとつの疑問が浮かんだ。
これだけの瘴気。どう考えても狂気に蝕まれるのは間違いない。だというのに、瘴気に侵された者特有の症状がブルクには見られなかった。
それはいったいどういうことなのか。
「奥にも部屋があるな」
この部屋は騎士たちに任せ、シュバイドは奥の部屋へと足を向けた。そこには乱雑に散らばった魔術書、アイテム、儀礼用の装飾が施された武器などが置かれている。
長期間瘴気にさらされていたらしく、一部が腐食しているもの、呪いを受けているものばかりで、まともなものがひとつもない。
そんな部屋の一角に、厳重に施錠された金属製の箱があった。
シュバイドの鑑定スキルがその箱にかけられた罠を看破する。
「【猛毒】に【錯乱】か。ろくでもない仕掛けをするものだ」
ため息を吐いてシュバイドは箱に手をかけた。
仕掛けられていた罠が発動し、強力な状態異常がシュバイドの体を侵そうと迫る。しかし、状態異常無効のアイテムを装備しているシュバイドには何の痛痒もない。
罠のおまけとしか言えない鍵を引きちぎり、箱を開ける。箱の中には、黒い首輪が4つ納められていた。
「足りんな」
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