THE NEW GATE

風波しのぎ

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9巻

9-3

 疑わしげな視線を向けてくるティエラに、シンは必死で弁明した。
 ティエラの横には、「そんなことはありませんよね?」と視線で訴えてくるシュニーがいる。シンにはむしろそっちのほうがこたえた。

「これも『黒の鍛冶師』の為せるわざかしら?」
「かもしれんな。質が上がるという意味では、あながち無関係でもあるまい」

 騒ぐシンたちをよそに、フィルマとシュバイドが納得顔でうなずき合い、ユズハと恒次が感心する。

「くぅ、シン、すごい」
「確かにすごい。予想以上じゃの」
「とにかく! これで強化は完了です! 明日は朝からダンジョンアタックだ。さっさと休むぞ」

 強引に話を打ち切ってシンは叫ぶ。
 あまり追及する気もなかったのか、ティエラはあっさり引き下がり、シュニーも安心したように息を吐いていた。

「そうだな。シンの言うことももっともだ」
「でもやっぱり、納得いかない」
「くく、光世は少々成長不良だからのう」
「……何か言ったかしら?」
「ほっほ、いや怖い怖い」

 恒次に対して殺気がだだ漏れの光世。
 まだ不満げだったが、本来の目的は忘れていなかった。今日は無理をしてダンジョンに潜らないとわかっていたからこそ、あそこまで反応したのだ。

「では明日」
「ああ、しっかり準備しておく」


 宗近たちを見送った後、シンはフィルマとシュバイドに声をかける。
 他のメンバーには先に休んでもらうつもりだったが、気になるということでティエラやユズハも残った。
 シュニーだけは事情を察したようで、夕食の準備に向かった。

「まだ何かやるの?」
「シュニーにはもうやってもらったんだけどな。これを見てくれ」

 シンはアイテムボックスから折れてしまった『真月しんげつ』を取り出し、2人に見せる。

「『真月』が折れるって、いったい何と戦ったのよ」

『真月』を見たフィルマが、目を見開いて驚きを示す。その強度を知っているだけに、刀身が折れているのが信じられないようだ。

「それはもしや」
「シュバイドは予想できると思う。これはジラートと戦ったときに、『崩月ほうづき』と思い切り打ち合ってさ。その時に壊れたんだ」

 シンは何度か元に戻そうとしたことや、シュニーが魔力を込めたことで何かのピースが埋まった感じがしたことなどを説明した。

「シュニーに我らとなると、配下の数か?」

 残り3つと聞き、シュバイドが言った。
 足りないとシンが漠然ばくぜんと感じている数と、『真月』に魔力を込めていないサポートキャラの人数が同じなのだ。

「たぶんな。シュニーが魔力を込めてくれたときにそう感じたんだ。これでサポートキャラ関係じゃなかったら、他には見当がつかないな」
「魔力を込める、か。なら、ささっとやっちゃいましょう」

 話を聞いていたフィルマはシンから『真月』を受け取り、集中すべく目を閉じる。すると、フィルマの手に握られた『真月』が、紫がかった赤色に発光した。
 赤い光が『真月』に吸い込まれると、フィルマはふっと息を吐く。

「これであたしの分は終わりね。結構持っていかれるわ」
「ならば、次はわれだな」

 今度は、フィルマから『真月』を受け取ったシュバイドが意識を集中させた。『真月』が黒の混じった銀色に発光する。
 フィルマのときよりも少し長く発光していた光が消えると、シュバイドも小さく息を吐いた。

「フィルマのようにはいかんな。だが、魔力はしっかりこもった。あとは、あやつだけか」
「他に誰かいるんですか?」

 シュバイドの言葉にティエラが疑問を投げかける。
 シュニーをはじめ、フィルマにシュバイド、さらにはジラートと、これだけ強力なメンバーがいて、さらにまだ仲間がいることに驚いているのだ。

「パーティは6人編成だから。シンのサポートキャラは5人いるのよ。で、その最後の1人がセティっていう子なの。私たちより少し後に生まれたから、妹分みたいなものね。確か、今は連絡が取れないのよね?」

 フィルマの言ったセティとは、シンの配下の最後の1人。サポートキャラクターナンバー5、ハイピクシーのセティ・ルミエールのことだ。
 近接型のフィルマやジラート、壁役のシュバイド、万能型のシュニーと違い、魔術をメインに鍛えている後衛タイプだった。

「ああ、ものの見事に行方不明だ。手がかりもない」

 お手上げというポーズをとって、シンは答える。
 フィルマと同じく気ままに行動していたというセティ。シュニーやシュバイドのように有名になることはなく、現在どこにいるのかはまったくわからなかった。

「シュニーやシュバイドとも、連絡を取ってなかったの?」
「そうだ。といっても、その点はお前も同じだがな」

 若干呆れの混ざった視線をシュバイドはフィルマに向ける。

「それはしかたないでしょ」

 フィルマと同じく助けが必要かもしれないので、黄金商会にはべレットを通じて、すでに捜索依頼を出している。
 ちなみにメッセージカードによる連絡も試みたが、返信はなかった。

「フィルマみたいに動けなくなってるか、後は反応する気がないか」
「そうねぇ……あ、それなら、寝てるって可能性もあるんじゃない?」

 返事が来ない理由を考えていたシンに、フィルマが付け足した。

「寝てる? ああ、そうか」

 ピクシーやエルフといった長命種は、数十年単位で眠りに就くことがある。ゲーム上の設定のひとつだ。NPCのピクシーを起こしに行くクエストも存在したので、あり得ない話ではない。

「でも、そうなると合流は難しそうね」
「だな。フィルマだって、見つけられたのは偶然だからな。セティはせいぜい、妖精郷にいるかもしれないってことくらいか」

 ピクシーたちの拠点である妖精郷はいくつか存在する。外の世界と交流をするタイプとしないタイプがあるが、後者にいた場合は探しに行くことすら難しい。
 妖精郷を覆っている結界は、シンでもかなり近づかないと発見できないのだ。

「外と交流しているところにいるならば多少は情報が入ってくるだろう。だが、眠りに就いている者たちの居場所は地位の高い者しか知らないはずだ。我らが直接出向いて、確かめるしかないな」
「どちらにしろべレットからの情報待ちだな。もし今回の件が片づいてもわからなければ、先にガーデンに行くつもりだ」

 シュバイドに返答するシン。ジラートとの再会からずっと騒動続きで時間がなかったが、そろそろ解放したほうがいいとは思っていたのだ。
 中にいるはずなのは『赤の錬金術師』ヘカテーの配下で、オキシジェンとハイドロというハイピクシーとハイロードの男女コンビである。
 研究にのめり込むと年単位で外に出てこない研究馬鹿で、興味関心の落差が激しいなどなど、ヘカテーに2人の設定を聞いたときは、何でそんな風にしたんだと首をひねったものだ。

「あの2人のことだ。これ幸いと、研究に没頭してそうだけどな。遠目に確認したかぎりだと、ガーデン自体はこれといった損傷もないって話だし」
「シンのセリフを否定したいところだけど、できないのよね」
「心配してしかるべき、というのはわかっているのだがな」

 シンの言葉には不安を紛らわすための冗談も含まれていたが、フィルマとシュバイドはそう受け取らなかった。
 ガーデンにいるオキシジェンとハイドロが、窮地きゅうちに陥っている様子が思い浮かばないらしい。
 シンが知っているのはあくまでゲーム時代の2人で、現実となってからの人となりはわからない。しかし、フィルマとシュバイドの反応を見てなんとなく想像がついた。
 ゲームのころと変わっていないのならば、今もひたすら研究に打ち込んでいて、『英華の落日』にも気づかなかった、と本気で言いそうだ。
 豊富な食料、十分な研究材料と施設、加えてギルドハウスという堅固な居住区。2人が引きこもる要因が揃っているので、シンも大げさには心配していなかった。
 ガーデンの中にあるアイテムを使えば、周囲を覆う強力な毒にすら対応可能なのだ。出てこようと思えば出てこれるんじゃないかとも思う。

「まあ、ここで話してても仕方がない。まずは天下五剣を片づけてしまおう」

 相手は強さだけならシュニーたちに匹敵ひってきする猛者もさ
 数も質もこちらが上である以上、負けることはないだろうが、すでにゲームにはなかった状況だ。万が一を考えて、寝る前にアイテムや装備を見直しておくことにした。

「じゃあ、後はご飯を食べて英気を養いましょう。シュニーの料理ならとっても期待できるわ」

 シュニーの料理の腕はここにいる誰もが知っている。
 シンたちがダイニングに着くと、すでにテーブルの上に料理は完成しており、配膳している途中だった。

「って、なんでいるんだ?」
「カグツチがこっちで食事がしたいって言うから。一応、あのハイエルフに許可はもらってるわ」

 シンの問いに、ねたような口調で光世が答えた。
 その視線の先、テーブルの中央にはヒヨコカグツチが座っている。

「ぴぃ!」
「我に食事を献上する栄誉を与えよう、って言ってる」
「ヒヨコ姿で踏ん反りながら言われてもな」

 本来の姿ならその発言に違和感はないのだが、もこもことしたヒヨコ姿では威厳もへったくれもない。とはいえ、追い出す理由もないので光世の分も用意して夕食となった。

「ぴぃ!」
「非常に美味である。褒めてつかわす、って言ってる」
「ふふ、光栄です」

 鳴きながらも夢中で料理をつついているカグツチに、シュニーが微笑む。
 料理に夢中なのはカグツチばかりではない。カグツチの付き添いとしてしぶしぶ席についた光世も、食事が始まってからは無言ではしを動かしていた。
 笑みの形になっている口元を見れば、感想は聞くまでもない。
 思わぬ珍客とともに夕食は進み、食事を終えると、カグツチと光世は祠へと戻っていった。
 夕食後はそれぞれの部屋へと向かい、明日に備えることとなった。


         †


「……くぅ」

 皆が眠りに落ちた頃、ユズハはベッドの上で小さく鳴いた。
 思い出すのは、フィルマとシュバイドが『真月』に魔力を込める姿。
 シンはあと3つだと言い、フィルマとシュバイドによって残りはひとつとなった。
 この時点の折れた状態ですら、『真月』の能力は古代エンシェント級上位クラスだ。残りひとつに限らず、さらに魔力が込められれば、既存の武器の常識を超えるだろう。
 知識に制約があるとはいえ、エレメントテイルであるユズハにはそれがわかった。
 ユズハにとって気がかりなのは、自分も魔力を込められるキャパシティが『真月』にあるか、というところだ。
 パートナーなのだから、ユズハもシンの力になりたいと思っている。だが、『真月』に余裕がなければ、さしものユズハも手の出しようがない。

「くぅ!」

 強くなろう。ユズハはそう思った。
 完全に力を取り戻し、自身の封じられた知識を総動員すれば、何かできるかもしれない。
 そんな思いがユズハの中に生まれていた。


         †


 時を同じくして、ティエラもまた眠れずにいた。
 ユズハと似た気持ちで、フィルマとシュバイドのことを考えている。

「……はぁ」

 出てくるのはため息ばかり。
 自分は確かに強くなった。しかし、シュニーたちの足下にも及ばない。仮に同じように魔力を込めたとしても、『真月』の強化は本当に微々たるものだろう。

「それは……やだなぁ」

 思いが声になってティエラの口から漏れた。
 ティエラ自身、今のメンバーで一番力がないことは自覚している。
 しかし、それでもシンの役に立ちたいと思ってしまう。
 その思いがのろいを解いてもらった恩から来るのか、形になりつつある、ある気持ちから来るのか、ティエラにはまだ判断がつかない。
 ただ、何もできないのは嫌だった。
 力の無さを自覚してなお、思う。

「強く、なりたいなぁ……」

 お荷物でいたくない。
 気遣ってほしくない。
 傲慢ごうまんな願いだとわかっていても、対等でいたい。
 隣に――立ちたい。

「……はぁ」

 思いは強い。しかし、現実は甘くない。
 力の差は圧倒的で、どうすればいいのかもわからない。
 それでも、思いは消えない。

「うぅ……」

 眠りにつくには、もう少し時間がかかりそうだった。




「なあ、ティエラ。なんか顔色悪いけど大丈夫か?」
「寝つきが悪かっただけだから大丈夫よ。睡眠は十分に取っているわ」

 翌朝、たまたま部屋から出てくるところに居合わせたシンは、いつもよりわずかに精彩を欠いたティエラに声をかけた。
 返ってきたのは、これまたいつもより少し元気のない声。
 体調を崩しているのかと思ったが、足元にいるカゲロウはとくに心配している様子がない。
分析アナライズ】では細かな体調の変化はわからないが、ティエラが無理をしていればカゲロウが何かしらの反応を見せるはずなので、シンは追及しないことにした。
 朝食の前に洗面所へと足を向けたティエラ。戻ってくるころには、いつもの様子になっていた。

「で、朝もいるのな」
「ぴぃ!」

 そう言ったシンの視線の先には、もこもことした赤い毛玉、ヒヨコカグツチがいた。目の前の皿には焼き立ての魚が鎮座している。
 シンたちが食べ始めると、ヒヨコカグツチも焼き魚をついばみ始めた。
 体の大きさから考えれば食べきれる量ではないのだが、ヒヨコカグツチは骨になるまで綺麗に食べ尽くした。
 若干丸くなったヒヨコカグツチは、腹と思われる部分をぺしぺし叩きながら一声鳴いた。

「非常に美味である、だそうよ」

 カグツチの鳴き声を光世が通訳する。こちらは行儀ぎょうぎよく、ゆっくりと箸を動かしていた。

「くぅ、毛玉、えらそう」
「ぴよっ!?」

 カグツチの態度が気に入らなかったのか、子狐モードのユズハがヒヨコカグツチをムギュッと押しつぶそうとする。
 驚きつつも、それをすんでのところでかわしたヒヨコカグツチが、威嚇するように小さな翼を広げて身構えた。

「ぴぃ!」
「くぅ!」

 テーブルの上で、謎のバトルが勃発ぼっぱつしていた。

「なにやってるんだ? あれ」
「さあ? 地脈に関係する者同士、じゃれあいたいんじゃない?」

 ぴぃくぅと鳴いている2匹を横目で見つつ、食事を続ける面々。
 ユズハとヒヨコカグツチの対決は、シュニーの雷が落ちて終束した。


「そういえば、光世ってカグツチの世話係なのか?」
「違うって言いたいけど、おおむねそんなところね。一応、私も含めて宗近と恒次の持ち回りなんだけど。というか、いきなり名前を呼び捨てとは馴れ馴れしいわね。頼みごとをしてるのはこっちだけど、下に見られるのはしゃくさわるわ」
「あ……悪い。昔、仲間内で強さの検証をしてるときも、呼び捨てだったから、つい」

 達人の動きをプログラミングされているだけあって、天下五剣の剣術は、素人や多少かじったことがある程度のプレイヤーには対処のしようがないレベルだった。しかし、プログラムだからこそ、熟練の動きの中にも攻撃のパターンというものが存在した。
 それを研究してぎりぎりで勝利をもぎ取ったのが、当時のシンなのだ。幾度となく立ち会ったせいか、こうして話をしているとつい馴れ馴れしくしてしまう。

「見た目も他の2人より若いし、親近感が湧くんじゃない?」
「こらフィルマ」

 容姿を気にしていたように思えたので、シンはフィルマを注意した。しかし、光世はさほど気にした様子もない。

「……まあいいわ。私もあんたのことは思い出したし、呼び方くらい好きにさせてあげる。私も呼び捨てにするけど、かまわないわよね?」
「ああ、気軽に呼んでくれ」
「そういえばひとつ確認したいことがあるんだけど。いいかしら」
「ん? なんだ?」
「昨日宗近にやったあれ、他の五剣でもできるの?」

 光世が言っているのは、シンの所持しているほうの『三日月宗近』を強化したことだろう。

「強化自体はできるぞ。ただ、『数珠丸恒次』だけは入手経路が少し違うから、同じように意識を移せるかは俺にはわからないな」
「そう。できるならいいわ」

 それだけ言って、光世は口を閉ざした。強化した『大典太光世』を貸してほしい、もしくは自分もついていくといった内容が続くと思っていたシンは、少し拍子抜けする。
 朝食を終えてシンたちは祠に向かう。祠の入り口では、すでに宗近と恒次が待機していた。

「悪い、待たせたか」
「いや、こちらも今来たところだ。では、さっそくダンジョンに挑むとしよう。入り口に案内する。ついてこい」

 宗近に続いて、シンたちは祠の中に入る。
 結晶化したカグツチの正面までくると、宗近が振り返った。

「ダンジョンにはここから転移する。準備はいいか?」
「問題なしだ。いつでもやってくれ」

 最後の確認をしてきた宗近に、シンたちは大きくうなずく。
 ダンジョンの情報は少ないので、ピンポイントで対応することはできない。しかし、シンのアイテムボックスの中には、ほとんどの状況に対応できるだけの備えが入っていた。
 回復アイテムに関しては、各メンバーのアイテムボックスに十分な数が配布されている。
 ティエラはアイテムボックスが使えないので、腰につけたポーチにカード化したものを入れていた。

「頼むぞ」
「ぴぃ!」
「カグツチも武運を祈るって言ってるわ。無事に帰ってきなさいよね」

 祠の守りのために残る恒次と光世、自分では戦えないヒヨコカグツチに、宗近がよく通る声で応じた。

「任せておけ」

 その声音からは、微塵も不安を感じさせない。

「くぅ……」
「悪いな、ユズハ。地脈に関しちゃ、今は頼れるのがお前だけなんだ」

 シンたちが突入することで、『童子切どうじぎり安綱』を呑み込んだ瘴気が、ダンジョン内で地脈にどんな影響を与えるかはまったくわからない。
 なので、カグツチ同様地脈に干渉できるエレメントテイルのユズハが残ることになったのだ。
 干渉自体はダンジョン内でも可能だが、変貌しているだろうダンジョンよりも、カグツチのいる祠からのほうが安全に強い干渉が可能という理由もある。
 不満そうなユズハに戻ってきたらブラッシングをするという約束をして、シンは宗近のもとへと歩みを進めた。

「では、転移する」

 宗近の言葉とともに、シンたちの視界がにじむ。
 結晶石を使ったときやベイルリヒトでの転移とは違い、わずかな酩酊感めいていかんを感じた直後に移動が完了していた。


「暑いな」

 転移直後から、サウナのような熱気がシンたちを襲っていた。何もしなくても、ジワリと汗がにじんでくる。
 天然の洞窟といった造りのダンジョンにしては、空間が非常に広い。無理をしなくとも、2パーティは同時に展開できるだろう。
 広さがあるおかげで、岩の壁や天井からときおり噴出している蒸気に必要以上の注意をしなくてもよさそうだった。
 とはいえ、蒸し暑い洞窟内でも白い蒸気が上がっている以上、温度がかなり高いのは間違いない。床から出てこないとも限らないので、油断は禁物と気を引き締める。
 シンも強力な防具に守られているとはいえ、直撃すればどうなるかは試したくなかった。

「うぅ、気持ち悪い……」

 暑さと蒸気に辟易へきえきしているシンとは違い、ティエラが口元を押さえてうずくまっていた。
 シンはほんのわずかしか感じなかった酩酊感だが、ティエラはかなり影響を受けたようだ。額に浮かぶ汗は、暑さによるものだけではない。
 ティエラに寄り添って、カゲロウが心配そうに鳴いていた。
 顔色の悪いティエラの背を、シュニーが【ヒール】をかけながら撫でている。
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