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80.マルクス邸
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とぼとぼと前を歩くマルクスが、段々小さくなって行くように見えるのは気のせいだろうか。
私の横では健太以外全員が、気の毒な顔でマルクスの背中を見つめていた。
その原因を思い出す・・・。
「命令だ、こいつをお前の屋敷に住まわせろ」
あの後ゲル様がマルクスを部屋に入れて、鶴の一声で私の住む場所が決まった。
多分この時、マルクスの景色は灰色になったはずだ。何故なら、目が死んだ魚のようになっていたからだ。
王宮の廊下を背中を丸めて歩くマルクスが、否応なしに転勤を命じられた、現代社会のサラリーマンに見えた。
馬車に乗り込み取りあえず私等はラムス邸へ・・・。
そしてマルクスは、私の受け入れの準備があるからと、蚊の鳴くような声で違う馬車で帰って行った。
私等がラムス邸に着くと、常識人のホルスさんはもう居なく、代わりにピュアな天使がおった。
「母上――――!」
そう言って、私にダイブする赤毛の天使ことヒューズ。
『わっ、ヒューズ・・・おっと・・と、・・よう来たな』
「私はこの数日間、一日千秋の思いでおりました!!」
『////・・・ご、5歳と思えん言葉やな・・。意味分かってるか?』
「はい!父上がいつも女性に言っている言葉です。父上にお聞きしたら、女性にこの言葉を言うとすごく喜ばれるので、覚えておくようにと言われておりました!」
『・・・』
子供に何を教えんとんねんって、横に居た赤毛を睨むと、学校で教えない事を教えねぇとなって、笑いながら言いよった。
こいつからこの天使を離さんと第二の赤毛が出来ると思って、じーっとヒューズを見る。すると?顔でこてっと顔を傾けた。
あっ!と思い、正直な声が出てしもた。
『グラン!ヒューズを養子にしてくれ!!』
グランは突然の事で意味が分からず、こてっと顔を傾ける。
その横で赤毛の天使もこてっとしたままだ。2人のその姿は鼻血ものである!あぁ・・たまらん!
「おい、おい嬢ちゃん、人の愛息を勝手に養子に出すなよ。何でそういう方向になるんだ?!」
『お前がヒューズを育てたら、第二のお前が出来そうや。常識人の私から見て、家庭人として立派なグランに育てて貰った方がいい思ってな。どや、ええ案やろ?』
どや顔で赤毛に答えを返すと、
「ほんじゃ、その常識人とやらの嬢ちゃんが育てれば問題ないじゃねぇか。嬢ちゃん、仕事探してんだろ?ちょうど俺んとこ住み込みで子守探してんだ。仕事と住む家が出来て、尚且つヒューズも育てられる。どうだ、いい案だろ!」
と、今度は赤毛のどや顔が返ってきた。
『ん?・・ん?!・・マジか――!』
さっきの落胆したマルクスを考えると、これは棚から牡丹餅やとばかりに飛びついた。
だが間髪入れず、そこに居た全員に反対される。
「「却下だ!!」」
そして青タンを作ったガントが赤毛に物申す。
「上の部屋の猛獣よりも、てめぇの下の猛獣が一番危ねぇんだよ!」
その下半身の猛獣で思い出した私は、赤毛に物申す。
『せや、お前のせいで私はいらん恥をかいたぞ!!竜人の股間は空気で大きなるんとちゃうやん!!』
「「「「・・・」」」」
全員が一瞬黙り込む。そして、一番この言葉の意味が分かる赤毛が声を出した。
「あー…嬢ちゃんは、またそういう状況になったという事か?」
『あ゛っ!』
いらん事を言ってしまい後悔する。
仕方なくゲル様が少し盛りが出たと報告すると、ベルさんとポポが眉間に皺を寄せた。
ガントが痛い顔をして、私に突っ込む。
「あのなぁ…、普通に考えてアレが空気で膨らむんなら、子種は塵かそれとも溜まったガスか?しかもお前…、針でやれば抜けるどころか、破裂じゃねぇかよ…」
目をぱちくりして、なるほどって顔したら番候補達に言葉を投げた。
「こんなの相手で、お前等救われねぇな・・。」
そして、冷静なグランが話を戻す。
「そうなると王城もゲル様がいる以上安全ではないということか・・・。ゲル様もそういう意味もあって、最も安全なマルクスに白羽の矢を立てたんだな。その話を聞いた以上、マルクスには胃に穴が開こうが、血反吐が出ようが耐えてもらうしかないぞ」
私の立ち位置に今疑問が出る。血反吐が出るぐらいの私は問題児なのだろうか。
自分では普通に下宿をお願いしているだけなのだが…。
眉間に皺を寄せながら考えていると、赤毛の天使が私のドレスを引っ張った。
「母上は・・、私達と一緒に暮らせないのですか?」
『あ・・・ヒューズ、それはな・・・』
どう答えようか迷っていると赤毛が、私の代わりに答える。
「う~んヒューズ、この母上な…残念なことに母親の前に女であることをどっかに置き忘れてんだよ」
「置き忘れてるとは・・・記憶が無いということですか?」
「まっ、そんなもんだ」
『・・・』
酷い言い方ではあるが、色々と否定は出来ない私。仕方なくその言葉に便乗して、ピュアなヒューズには謝っておいた。
そして、屋敷の主人が今だ人の言語を解さない猛獣の為、フレドリックさんを呼んで今後の事を伝える。
「左様でございますか…明日とはまた急な事で。きっと正気に戻られたら、落ち込まれることでしょう……」
そう言って、ラムスのおっさんが居る上の階を見上げたフレドリックさん。
『私も皆と離れるんはほんま残念なんやけど、今のおっさんの状態見たら、そうも言うてられんしな・・・。///因みにおっさんから例の物取り上げられたか?』
「麻酔の吹き矢で、眠らせ取り上げておきました。ですが///もうあれは・・・穿けないかと・・・」
『///いや、全くもって穿く気ないしっ!!逆に捨ててもらった方が助かる』
「捨てるなら、俺が・・いでっ!」
私とフレドリックさんの会話に、変態な赤毛が入りかけて蹴りを入れる。
そしてグラン達は、マルクスに迷惑だろうからと、ここラムス邸にそのまま居候となった。
***
翌日、マルクスの屋敷から迎えの馬車が来た。
ラムス邸の全員が何度も何度も寂しくなると言いながら、見送ってくれる。
本日の警護人は、ベルさんただ1人だ。しっかり者のポポは薬店を出していて、平日はそうそう来れない。
「トーカ、マルクスの屋敷まで送るぞ?」
そう言って来たグランに断りを入れる。
『ラムスのおっさんが、そろそろ麻酔が切れる頃やろ。目が覚めて、俺のマタタビがない言うて暴れるやろうし、フレドリックさん達についててあげてくれるか。特に赤毛、死ぬ気でやれよ!!ヒューズの事は気にすんな。お前が死んだら私が面倒見たる。心残りなく死んで来い』
「・・・それ笑えねぇ冗談だな」
「・・・俺は、出来れば何も無い事を祈りたいっ!!」
ガントや警備主任達もこれから起こる暴走に身震いしてた。
そして私等は、馬車に乗ってマルクスの屋敷に向かう。
馬車内でベルさんに質問する。
『なぁ、マルクスの屋敷って大きんか?』
「普通だと思うが・・・」
『でも100人ぐらいメイドさん達は居るんやろ?』
「……そんなにはいない。マルクスの家は商家だ、居ても…多分10…15人ぐらい…か」
顎に手をやり、人数を思い出す仕草をするベルさんに、速攻突っ込む。
『少なっ!!しかもマルクスって、貴族とちゃうんか?!』
「何故、貴族と思った?」
『えっ、だってベルさんと幼馴染って聞いたら、平民と宰相の息子って結びつかんやろ。貴族は貴族同士、下々とは・・みたいな?!』
「マルクスの所は手広く貿易商をしていて、そこらの男爵よりも裕福層だ。それに、商家だろうが農家の息子だろうが私には関係ない。気が合ったから、友になっただけだ」
『・・じゃ、マルクスは商家の跡取りっていう事か』
「上の長男が跡を継いでいるから、あいつは出て行く身だ」
そこで今更な事を聞いてみる。
『なぁ・・そんな出て行く身な人の所に行って、迷惑とちゃうやろか?』
「あそこは本邸と別邸がある。本邸には、長男夫婦と両親そしてさっき言った数倍の数の召使が住んでいる。マルクスは、別邸で優雅に一人暮らしだ。それにマルクスの家族は気さくな人達で、トーカ殿も気に入ると思う。実の所私も居心地が良すぎて、よくマルクスの家に泊まっている口だ」
そう言って、少し笑った。その言葉にホッとした私。
そんな話をしている間にマルクスの屋敷に着いた。
ドアが開いて、マルクスの屋敷を見るとこじんまりとまではいかないが、そこそこ大きい屋敷に見えた。
そして玄関口に、マルクスとその家族が出迎えに立っていた。
ベルさんの言う通り気さくな人達だった。
たわいのない会話をし、夕飯も一緒にとった。ベルさんの小さい時の話が出て、ベルさんとの付き合いの長さも分かった。
「楽しすぎて、長居をしてしまった。慣れない場所で緊張もされているのに申し訳ない・・・。愚息はあまり気が利かない。もしマルクスが至らなければ、お友達の健太殿も此処に住んでおられる故、ご相談ください。頼みますよ健太殿」
「任せるッス」
偉そうに言う健太。
こいつこっちに帰って来て、ラムス邸に来んと即行マルクスの所に転がり込んだ。
何でそっちに厄介になんねんって聞いたら、墓場まで持って行く秘め事を共有してる運命共同体だから~、と意味の分からない事を言っていた。
秘め事と聞いて深くも突っ込めず、マルクスがいいんであればと思いそのままだった。
マルクスの家族を玄関口まで見送る。
「おやすみなさい」
『おやすみなさい。///それと家族団欒みたいな体験が出来て嬉しかった…デス…』
「!、トーカちゃん…。この屋敷に居る以上、私達は家族ですよ。敬語もなしにしましょうね」
私の生い立ちを少し話したせいか、マルクスのお母さんが涙目で手を握り言ってくれた。
マルクスのお母さん達が居なくなっても、ニヤニヤ顔が収まらない私の頭をマルクスがぐしゃりと撫でた。
「まっ、よく考えれば、ここにお前を隔離しとけば、こうやって平穏無事な一日が送れるってことだな。自立はともかくも、これから宜しくなトーカちゃん!」
笑ってそう言ったマルクス。
少し浮かれてる自分が恥ずかしなって、疲れたし自室で休むと言ってその場を逃げた。健太もそんじゃ俺もと言って私と一緒に部屋を出た。
***
「あいつが自立に拘る理由分かった気がするわ。母親と自分の2人暮らしの中で、分担があったんだろうな…。子供なのに甘えが言えず、いつの間にか人に頼らずに育っちまったって感じか…。俺にしたら普通の食事でも、あいつに取ったらあれが家族団欒になるんだな……」
「・・・」
「なぁ…ベルナール。もしお前があいつの番になったら、一杯子供作ってやれよ。そんで、家族団欒っていうもん味わらせてやれ」
「あぁ…いつも笑いがある食卓にする」
リビングの時計が、ボーン・・ボーンと鳴る。
「もう10時か…」
俺がそう言うと、ベルナールが
「あぁ。」と一言返した。眉間に皺を寄せて・・・
「明日も仕事だぞ?」
「あぁ…」
より一層眉間に皺がよった。
その顔には"泊まりたい"と書いてあった。
小さい頃は、この眉間の皺の意味が分からずいつも不機嫌な奴という印象を持っていたが、長く友をしていると、この皺の意味が分かるようになってきた。いつも健太やトーカに苛められてるせいで、ムクムクと嗜虐心が湧いて来た。
「玄関まで送るわ」
「あぁ・・っ」
おっ、眉間がピクピクしてる。
"泊まりたい!"今度は強調マーク付きで顔に出た。
俺は椅子から立って、リビングのドアを開け先に退出する。後ろに着いてくるベルナールから、ヒシヒシと訴える視線が来てた。分かっていてわざとそれを無視する。やられる方は、堪ったもんじゃないが、やる方は確かに面白れぇ・・・。思わず笑いを堪えるのに肩が震えた。
玄関まで来て、後ろに着いて来たベルナールを見ると、"と・ま・り・た・い!!!"と、大きく顔に書いていた。それでもこいつは、言葉に出さない。素直に言えば言いのに、昔からこうだ。
そう言う所は、バカ猿に少し似ていると思う。我慢するタイプ――――。
玄関の扉を開け、ベルナールを見送る。
「じゃ、また明日な」
「あ・・ぁ。」
眉間に皺はよったまま、口が少しへの字になった。
結局泊まりたいくせに、自分から言えずに肩を落として帰る友。
仕方ねぇな・・・
「おい、ベルナール!」
何だ?と言わずに即行振り返って、"泊まりたい!!泊まりたい!!"を醸し出したのを見て、またムクムクと嗜虐心が出る。
「おやすみ」
「・・・」
眉間の皺がすげぇ数になる。笑いそうだ。
意地悪はここまでにして誘ってやる。
「泊まってけ」
眉間の皺がなくなり、「あぁ。」と一言溜息のように吐いた。閉めかけたドアを開け、中に入れてやると顔に"嬉しい"と書いてあった。
メイドに指示し、ベルナールの部屋を用意させる。
そしてこの行動が、平穏無事に終わろうとしていた1日をぶち壊す事となる。
"ここにお前を隔離しとけば、こうやって平穏無事な一日が送れるってことだな"
メスを隔離した所に、発情したオスを入れてしまった事に気づかないマルクスであった・・・・・
私の横では健太以外全員が、気の毒な顔でマルクスの背中を見つめていた。
その原因を思い出す・・・。
「命令だ、こいつをお前の屋敷に住まわせろ」
あの後ゲル様がマルクスを部屋に入れて、鶴の一声で私の住む場所が決まった。
多分この時、マルクスの景色は灰色になったはずだ。何故なら、目が死んだ魚のようになっていたからだ。
王宮の廊下を背中を丸めて歩くマルクスが、否応なしに転勤を命じられた、現代社会のサラリーマンに見えた。
馬車に乗り込み取りあえず私等はラムス邸へ・・・。
そしてマルクスは、私の受け入れの準備があるからと、蚊の鳴くような声で違う馬車で帰って行った。
私等がラムス邸に着くと、常識人のホルスさんはもう居なく、代わりにピュアな天使がおった。
「母上――――!」
そう言って、私にダイブする赤毛の天使ことヒューズ。
『わっ、ヒューズ・・・おっと・・と、・・よう来たな』
「私はこの数日間、一日千秋の思いでおりました!!」
『////・・・ご、5歳と思えん言葉やな・・。意味分かってるか?』
「はい!父上がいつも女性に言っている言葉です。父上にお聞きしたら、女性にこの言葉を言うとすごく喜ばれるので、覚えておくようにと言われておりました!」
『・・・』
子供に何を教えんとんねんって、横に居た赤毛を睨むと、学校で教えない事を教えねぇとなって、笑いながら言いよった。
こいつからこの天使を離さんと第二の赤毛が出来ると思って、じーっとヒューズを見る。すると?顔でこてっと顔を傾けた。
あっ!と思い、正直な声が出てしもた。
『グラン!ヒューズを養子にしてくれ!!』
グランは突然の事で意味が分からず、こてっと顔を傾ける。
その横で赤毛の天使もこてっとしたままだ。2人のその姿は鼻血ものである!あぁ・・たまらん!
「おい、おい嬢ちゃん、人の愛息を勝手に養子に出すなよ。何でそういう方向になるんだ?!」
『お前がヒューズを育てたら、第二のお前が出来そうや。常識人の私から見て、家庭人として立派なグランに育てて貰った方がいい思ってな。どや、ええ案やろ?』
どや顔で赤毛に答えを返すと、
「ほんじゃ、その常識人とやらの嬢ちゃんが育てれば問題ないじゃねぇか。嬢ちゃん、仕事探してんだろ?ちょうど俺んとこ住み込みで子守探してんだ。仕事と住む家が出来て、尚且つヒューズも育てられる。どうだ、いい案だろ!」
と、今度は赤毛のどや顔が返ってきた。
『ん?・・ん?!・・マジか――!』
さっきの落胆したマルクスを考えると、これは棚から牡丹餅やとばかりに飛びついた。
だが間髪入れず、そこに居た全員に反対される。
「「却下だ!!」」
そして青タンを作ったガントが赤毛に物申す。
「上の部屋の猛獣よりも、てめぇの下の猛獣が一番危ねぇんだよ!」
その下半身の猛獣で思い出した私は、赤毛に物申す。
『せや、お前のせいで私はいらん恥をかいたぞ!!竜人の股間は空気で大きなるんとちゃうやん!!』
「「「「・・・」」」」
全員が一瞬黙り込む。そして、一番この言葉の意味が分かる赤毛が声を出した。
「あー…嬢ちゃんは、またそういう状況になったという事か?」
『あ゛っ!』
いらん事を言ってしまい後悔する。
仕方なくゲル様が少し盛りが出たと報告すると、ベルさんとポポが眉間に皺を寄せた。
ガントが痛い顔をして、私に突っ込む。
「あのなぁ…、普通に考えてアレが空気で膨らむんなら、子種は塵かそれとも溜まったガスか?しかもお前…、針でやれば抜けるどころか、破裂じゃねぇかよ…」
目をぱちくりして、なるほどって顔したら番候補達に言葉を投げた。
「こんなの相手で、お前等救われねぇな・・。」
そして、冷静なグランが話を戻す。
「そうなると王城もゲル様がいる以上安全ではないということか・・・。ゲル様もそういう意味もあって、最も安全なマルクスに白羽の矢を立てたんだな。その話を聞いた以上、マルクスには胃に穴が開こうが、血反吐が出ようが耐えてもらうしかないぞ」
私の立ち位置に今疑問が出る。血反吐が出るぐらいの私は問題児なのだろうか。
自分では普通に下宿をお願いしているだけなのだが…。
眉間に皺を寄せながら考えていると、赤毛の天使が私のドレスを引っ張った。
「母上は・・、私達と一緒に暮らせないのですか?」
『あ・・・ヒューズ、それはな・・・』
どう答えようか迷っていると赤毛が、私の代わりに答える。
「う~んヒューズ、この母上な…残念なことに母親の前に女であることをどっかに置き忘れてんだよ」
「置き忘れてるとは・・・記憶が無いということですか?」
「まっ、そんなもんだ」
『・・・』
酷い言い方ではあるが、色々と否定は出来ない私。仕方なくその言葉に便乗して、ピュアなヒューズには謝っておいた。
そして、屋敷の主人が今だ人の言語を解さない猛獣の為、フレドリックさんを呼んで今後の事を伝える。
「左様でございますか…明日とはまた急な事で。きっと正気に戻られたら、落ち込まれることでしょう……」
そう言って、ラムスのおっさんが居る上の階を見上げたフレドリックさん。
『私も皆と離れるんはほんま残念なんやけど、今のおっさんの状態見たら、そうも言うてられんしな・・・。///因みにおっさんから例の物取り上げられたか?』
「麻酔の吹き矢で、眠らせ取り上げておきました。ですが///もうあれは・・・穿けないかと・・・」
『///いや、全くもって穿く気ないしっ!!逆に捨ててもらった方が助かる』
「捨てるなら、俺が・・いでっ!」
私とフレドリックさんの会話に、変態な赤毛が入りかけて蹴りを入れる。
そしてグラン達は、マルクスに迷惑だろうからと、ここラムス邸にそのまま居候となった。
***
翌日、マルクスの屋敷から迎えの馬車が来た。
ラムス邸の全員が何度も何度も寂しくなると言いながら、見送ってくれる。
本日の警護人は、ベルさんただ1人だ。しっかり者のポポは薬店を出していて、平日はそうそう来れない。
「トーカ、マルクスの屋敷まで送るぞ?」
そう言って来たグランに断りを入れる。
『ラムスのおっさんが、そろそろ麻酔が切れる頃やろ。目が覚めて、俺のマタタビがない言うて暴れるやろうし、フレドリックさん達についててあげてくれるか。特に赤毛、死ぬ気でやれよ!!ヒューズの事は気にすんな。お前が死んだら私が面倒見たる。心残りなく死んで来い』
「・・・それ笑えねぇ冗談だな」
「・・・俺は、出来れば何も無い事を祈りたいっ!!」
ガントや警備主任達もこれから起こる暴走に身震いしてた。
そして私等は、馬車に乗ってマルクスの屋敷に向かう。
馬車内でベルさんに質問する。
『なぁ、マルクスの屋敷って大きんか?』
「普通だと思うが・・・」
『でも100人ぐらいメイドさん達は居るんやろ?』
「……そんなにはいない。マルクスの家は商家だ、居ても…多分10…15人ぐらい…か」
顎に手をやり、人数を思い出す仕草をするベルさんに、速攻突っ込む。
『少なっ!!しかもマルクスって、貴族とちゃうんか?!』
「何故、貴族と思った?」
『えっ、だってベルさんと幼馴染って聞いたら、平民と宰相の息子って結びつかんやろ。貴族は貴族同士、下々とは・・みたいな?!』
「マルクスの所は手広く貿易商をしていて、そこらの男爵よりも裕福層だ。それに、商家だろうが農家の息子だろうが私には関係ない。気が合ったから、友になっただけだ」
『・・じゃ、マルクスは商家の跡取りっていう事か』
「上の長男が跡を継いでいるから、あいつは出て行く身だ」
そこで今更な事を聞いてみる。
『なぁ・・そんな出て行く身な人の所に行って、迷惑とちゃうやろか?』
「あそこは本邸と別邸がある。本邸には、長男夫婦と両親そしてさっき言った数倍の数の召使が住んでいる。マルクスは、別邸で優雅に一人暮らしだ。それにマルクスの家族は気さくな人達で、トーカ殿も気に入ると思う。実の所私も居心地が良すぎて、よくマルクスの家に泊まっている口だ」
そう言って、少し笑った。その言葉にホッとした私。
そんな話をしている間にマルクスの屋敷に着いた。
ドアが開いて、マルクスの屋敷を見るとこじんまりとまではいかないが、そこそこ大きい屋敷に見えた。
そして玄関口に、マルクスとその家族が出迎えに立っていた。
ベルさんの言う通り気さくな人達だった。
たわいのない会話をし、夕飯も一緒にとった。ベルさんの小さい時の話が出て、ベルさんとの付き合いの長さも分かった。
「楽しすぎて、長居をしてしまった。慣れない場所で緊張もされているのに申し訳ない・・・。愚息はあまり気が利かない。もしマルクスが至らなければ、お友達の健太殿も此処に住んでおられる故、ご相談ください。頼みますよ健太殿」
「任せるッス」
偉そうに言う健太。
こいつこっちに帰って来て、ラムス邸に来んと即行マルクスの所に転がり込んだ。
何でそっちに厄介になんねんって聞いたら、墓場まで持って行く秘め事を共有してる運命共同体だから~、と意味の分からない事を言っていた。
秘め事と聞いて深くも突っ込めず、マルクスがいいんであればと思いそのままだった。
マルクスの家族を玄関口まで見送る。
「おやすみなさい」
『おやすみなさい。///それと家族団欒みたいな体験が出来て嬉しかった…デス…』
「!、トーカちゃん…。この屋敷に居る以上、私達は家族ですよ。敬語もなしにしましょうね」
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マルクスのお母さん達が居なくなっても、ニヤニヤ顔が収まらない私の頭をマルクスがぐしゃりと撫でた。
「まっ、よく考えれば、ここにお前を隔離しとけば、こうやって平穏無事な一日が送れるってことだな。自立はともかくも、これから宜しくなトーカちゃん!」
笑ってそう言ったマルクス。
少し浮かれてる自分が恥ずかしなって、疲れたし自室で休むと言ってその場を逃げた。健太もそんじゃ俺もと言って私と一緒に部屋を出た。
***
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「・・・」
「なぁ…ベルナール。もしお前があいつの番になったら、一杯子供作ってやれよ。そんで、家族団欒っていうもん味わらせてやれ」
「あぁ…いつも笑いがある食卓にする」
リビングの時計が、ボーン・・ボーンと鳴る。
「もう10時か…」
俺がそう言うと、ベルナールが
「あぁ。」と一言返した。眉間に皺を寄せて・・・
「明日も仕事だぞ?」
「あぁ…」
より一層眉間に皺がよった。
その顔には"泊まりたい"と書いてあった。
小さい頃は、この眉間の皺の意味が分からずいつも不機嫌な奴という印象を持っていたが、長く友をしていると、この皺の意味が分かるようになってきた。いつも健太やトーカに苛められてるせいで、ムクムクと嗜虐心が湧いて来た。
「玄関まで送るわ」
「あぁ・・っ」
おっ、眉間がピクピクしてる。
"泊まりたい!"今度は強調マーク付きで顔に出た。
俺は椅子から立って、リビングのドアを開け先に退出する。後ろに着いてくるベルナールから、ヒシヒシと訴える視線が来てた。分かっていてわざとそれを無視する。やられる方は、堪ったもんじゃないが、やる方は確かに面白れぇ・・・。思わず笑いを堪えるのに肩が震えた。
玄関まで来て、後ろに着いて来たベルナールを見ると、"と・ま・り・た・い!!!"と、大きく顔に書いていた。それでもこいつは、言葉に出さない。素直に言えば言いのに、昔からこうだ。
そう言う所は、バカ猿に少し似ていると思う。我慢するタイプ――――。
玄関の扉を開け、ベルナールを見送る。
「じゃ、また明日な」
「あ・・ぁ。」
眉間に皺はよったまま、口が少しへの字になった。
結局泊まりたいくせに、自分から言えずに肩を落として帰る友。
仕方ねぇな・・・
「おい、ベルナール!」
何だ?と言わずに即行振り返って、"泊まりたい!!泊まりたい!!"を醸し出したのを見て、またムクムクと嗜虐心が出る。
「おやすみ」
「・・・」
眉間の皺がすげぇ数になる。笑いそうだ。
意地悪はここまでにして誘ってやる。
「泊まってけ」
眉間の皺がなくなり、「あぁ。」と一言溜息のように吐いた。閉めかけたドアを開け、中に入れてやると顔に"嬉しい"と書いてあった。
メイドに指示し、ベルナールの部屋を用意させる。
そしてこの行動が、平穏無事に終わろうとしていた1日をぶち壊す事となる。
"ここにお前を隔離しとけば、こうやって平穏無事な一日が送れるってことだな"
メスを隔離した所に、発情したオスを入れてしまった事に気づかないマルクスであった・・・・・
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